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2021 クリスマス

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 世間はクリスマスである。
 何をするかと思えば恋人と一緒に甘い時間を過ごしたり、家族でいつもより豪華な食事を用意したり、一人でゲームをしたり……
 まぁ、ちょっとだけ特別感のある日というだけでいつもと何も変わらない日々を過ごしている者も多くいることだろう。
 そんな日に俺は何をしてるのかというと……

「ジングルべ~ルジングルべ~すっずが~鳴る~♪」

「ぐぉ~!!」

「すっずの~リズッムに~光の輪が舞う、へいっ!」

「ノォ~ッ!?」

 クリスマスの主題歌的な歌を口ずさみながら人を吹き飛ばしていた。
 えぇ、そうですとも。たとえ世間がクリスマスでも俺は特にやることもなく、家族と一緒に仕事を平常運転でこなしていくだけですとも。
 愛する恋人もいなければ騒ぎ合う友達もいない。
 怒りと殺意が取り巻く戦場が恋人と言える今この現状。
 別に今イチャついている恋人たちなんて爆発してしまえばいい、なんてことは思っていないが、もし今「え~、クリスマスなのに一緒に過ごす恋人もいないんですか~?」なんて煽られたら物理的に爆発物を投げ付けたいと思うくらいには理不尽さは感じている。

「何をそんなにイラついておるんじゃ、お主は?」

 そんな俺の心境を悟った祖父が俺と同じように人間を宙に投げ飛ばしながら聞いてくる。
 うちの家系は俺以外も相手の感情を読むことに長けてるから、こういう察しの良過ぎるところが若干面倒臭かったりする。

「いや別に?ただそうだな……この仕事が終わったらタンドリーチキンの一つくらいは食いたいなと思っただけだよ」

「クリスマス気分なら味わっとるじゃろ。ほら、その木とかクリスマスツリーっぽくなっとるし」

「人が木に引っかかってるだけじゃねえか、ただのホラーだよ。普段の行いが悪い俺たちのところには血濡れのサンタでもやってくるのか?」

「だとしたらワシがもうそうじゃろうな!ほれ、返り血まみれの爺さん」

 爺さんは返り血が大量に飛んだ自分の服を指差してゲラゲラと笑い、俺は笑うことができず「草」とだけ口にする。

「んじゃ、帰りにそのサンタからクリスマスプレゼントでも貰おうかね」

「お、珍しく何か欲しいものでもあるのか?お前は子供の頃から欲があまりなかったからな~……何が欲しい?」

 爺さんはしみじみと思い出したように言う。
 まぁたしかに。俺は子供の頃から変なものにしか興味を示さなかったから、普通の子供が欲しがりそうなオモチャを欲しがる物欲は持ってなかった。
 その変なものっていうのはトレーニング器具とかで、家族が使っていたダンベルやバーベルをオモチャ代わりにしていたのだ。我ながらおかしな子供時代だったと思う。
 とはいえ今もあまり変わってないのだけれど。

「ケン〇ッキー」

「……腹、減ったのか?」

 つい先ほどまでウキウキしていた爺さんが若干残念そうな感じで聞いてくる。あからさま過ぎてちょっと笑えてくるのだが。

「うちには金はあるんだから多少無茶なものでも買ってやれるんだぞ?自分だけの一軒家が欲しいって言えば買い与えてやれるくらいには」

「管理が面倒だろ……このご時世で便利なものも持ってるし、現状で満足してるからこれ以上欲しいものはないんだよな」

 変なことを言い出す爺さんに最近買った最新のスマホを見せて言う。
 すでにこれ一つで色んなことができる。ゲームの種類も増え、内容も家庭用ゲーム機なんて買わなくてもいいくらいに充実したものが無料でできるようになってしまっている。
 何かしてみたいっていう夢もなく、海外旅行なんて依頼という形で海外へ出かけるなんてザラだ。
 人並みの趣味や娯楽を持ってないから「欲しい物があったら言ってみろ」って質問には大抵「ない」って答えるか、適当なトレーニング器具を言うだけだった。それも大体父親の趣味ですでに家の中にあったりするけれど。
 結果、そういう質問には今みたいに「〇〇が食べたい」となるわけだ。安上がりと言えばそれまでだけど、しょうがないとしか言いようがない。
 それとちなみにだが、車は走った方が速いという理由で家族全員持っていない。家には車庫があるけれど、それも物置と化してしまっている状態だ。

「……あぁ、なんなら最近流行ってるネットで活動してる奴らにぶっこんでもいいかもしれないな。投げ銭とかスーパーチャットとか言うらしいけど、限界の値段をやれば面白いリアクションしてくれるみたいだし」

「お前は……唯一の趣味といえば人をからかうことくらいなんじゃないか?」

 呆れたように言う爺さん。たしかに今の俺の発言はかなり嫌味なものだったな……

「とはいえ、俺ができそうなことって言ったらそれくらいだろ。あとは単純な金の使い道っていうならどこかに寄付するくらいだけど、やりたいこととか欲しいものっていう話からズレてくるしな」

 人をからかうことくらいにしかやりたいことがないとか、自分でも悪趣味だとは思うもんな。

「しかしまぁ……クリスマスなのにクリスマスらしいことをしてないのは俺たちだけじゃないのは確かだよな」

「そりゃまぁのう。ワシらのとこに来るくらい暇なんだから相手の一人もいないんじゃろうよ」

 俺たちを囲う敵意剥き出しの奴ら。残念ながら相手が外国人のため今の日本語が理解できないのが大半だったが、日本語がわかるっぽい奴らには精神ダメージがあったっぽい表情をする。爺さんもえげつないことをサラッと言うな……これが血か。

――――
―――
――


「――なんてことがあってな」

「ふーん……っていうか、あんたのとこって結構祭りみたいな行事が多いのね」

 そして現在、俺が住んでいた地球とは全く違う世界に飛ばされた先にて、そんな話をヴェルネやルルアたちにしていた。

「でもなんていうか……ちょっと悲しい行事じゃない?」

 俺の話を聞いていたルルアが、成長したとはいえ未だに幼いその外見には似つかわしくない悟った意見を口にする。

「ルルア君、それは言っちゃダメよ……」

「え~?」

 ルルアは口を尖らせて頭の後ろに腕を回し「なんでかわからないな~」なんてニヤけながらわざとらしく言う。
 彼女たちにクリスマスが何たるかを俺の偏見で説明したせいでそんなイメージになってしまうのも無理はないが、それは言わない約束。実際に口にしてしまうと妬みと怒りで狂ってしまう連中が出てくるからな。

「それで、今回は何をさせたいの?」

 と、ヴェルネが「またなんかあるんでしょ?」といった感じで聞いてくる。わかってくれているようで何より。

「とりあえずクリスマスって言ったらケーキとプレゼントってのがお決まりだけど……なんか欲しいものはあるか?」

「それは何でも願いを叶えてくれる前提で言えばいいのですか?」

 俺たちの会話に興味を持ったジークが割り込んでくる。 するとマヤルもいつもの笑顔でジークの後ろから現れた。

「だったらあっちはボンッキュッボンッの最強美少女になりたいですね!」

「私は最近腰や足などに衰えを感じるので、若返りと健康ですかね」

「俺は一生何もしなくてもいい生活をしたい!」

 マヤル、ジーク、レトナがそれぞれ無茶な要求をしてきた。コイツら……

「人が叶えられる範疇を越えるものは叶えられない!あとレトナを養う気もないからお前の願いも叶えられない!せめて何かの魔道具とかダンジョンの武具にしてくれ……」

 俺がわざわざそう言わなくてもわかってる奴らは軽く笑う。レトナは割と残念そうにしているけれど知らんフリをしておく。

「じゃあ洗濯物と食器洗いでお願い」

 するとヴェルネがこのタイミングでいきなりそんなことを言い出す。
 ……ん?

「別にいいけど……まさか欲しいプレゼントのつもりで言ってる?」

「そうよ。だって欲しいものでしょ?これも『やって欲しいもの』に入るじゃない」

「なんで変な屁理屈言ってどうすんだよ、普通逆だろ」

 高価なものでも無茶なものでもなく、いつもやってる家事をお願いするとか……子供に肩叩きをお願いする母親かよ。

「洗い物や掃除なら俺がやりますよ?それもプレゼントになりますよね」

 そして話の流れをあまり理解してないジルがそう言って笑う。その純粋な笑みをコイツらに向けて浄化してやれ。

「はいはーい!じゃあルルアはお兄ちゃんとの子供が欲しいー!」

 ルルアに関しては親御さんに「弟か妹が欲しい」と言い出す子供みたいな爆弾発言をしやがった。その意味が理解できる大人組全員が困ってしまうからやめてほしい。
 彼女には「いつかな」とその場で誤魔化しておく。

「あぁ、でも一つだけさせたいことがあったわ」

「嫌な予感しないんだけど」

 俺の提案に何かを察するヴェルネ。そこまで酷いものじゃないはずなんだが……まぁ、人によっては嫌がるか。

「全員にはこの『服』を着てもらおうかなと」

 その場にいた人数分の服を取り出すと全員が頭を傾げるが、何の服かは聞かれず、とりあえずそれを着てくれることとなった。
 女性たちはその場で、俺たち男は別の部屋で着替えるために移動した。

「して、この服は?」

 着てから聞いてきたジーク。その服は冬の季節によく見る「サンタ」の格好だった。

「俺の世界には『サンタ』っていう良い子にプレゼントを配ろうとする奇特な爺さんが架空の人物として存在してるんだが、それと同じ格好だ。所謂コスプレってやつだな」

 そして俺とジルもそれを着る。

「こすぷれ、というのはわかりませんが……『何かの姿になる』というハロウィンと同じ感じですかな?」

「ハロウィンの仮装みたいな意味は無いんだけどな。今回のは盛り上げるためだけのただのパーティ衣装だよ」

 ついでに付け髭も付けてそれらしい格好になり、着替えを済ませた俺たちは元の部屋の扉の前まで戻った。
 もしかしたらまだ着替えてるかもということを考慮してノックをする。

「ちょっ、ちょっと待っ……何よこれっ⁉」

 部屋の中からヴェルネの悲鳴に似た戸惑いの声が聞こえてくる。
 何をしているのかと思いつつ部屋に入るのを戸惑っていると扉が普通に開かれ、その先で女性用のサンタ服を着たルルアとレトナがニヤニヤと挑発的な笑みを浮かべていた。

「なんだよ……どうかしたのか?」

「いや、そりゃこんな服を着させられたら叫ぶよなーって♪」

 レトナは自分が着たサンタ服を見せるようにクルリと一回転する。たしかに向こうの世界で見たことがあった女性用のサンタ服を元に作ったから、露出が多くなって若干エロく感じるのはしょうがない。
 それに普通の男物を渡してもよかったけれど、やっぱり男の子的に彼女たちに着た姿を見たかったという理由で女性用のサンタ服を渡したのである。
 そしてその服を着たヴェルネは体を隠そうと身を縮めながら赤面した顔で俺を睨んできていた。

「なんでこんなに露出が多いのよ……恥ずかしいじゃない!」

「「「「えっ……?」」」」

 ヴェルネの発言に俺とルルア、レトナとジンが声を揃えて驚きの声を漏らしてしまっていた。
 多分声を揃えた全員が同じことを考えていただろう。「普段から露出が多い服を着てるのに?」と。

「ヴェルネでも露出が多くて恥ずかしいと思うんだな」

「それ、普通は思ってても口に出さないよ、お兄ちゃん……」

 つい言葉に出してしまい、ルルアが呆れてヴェルネが「あ゛?」と軽くブチ切れる。また余計なこと言っちまったか……まぁでもヴェルネに露出癖がないのが確認できたから良しとしよう。

「……で?せっかくあんたの希望でこんな恥ずかしいものを着てあげたんだから、何か言うことはないの?」

 意外にもヴェルネから催促が促された。それにヴェルネだけじゃなくルルアやレトナも期待の眼差しを向けて来ていた。
 俺もそこまで鈍感系主人公じゃないので、彼女たちが言ってほしい言葉はわかる。というか、それを言う前提で着せたと言っても過言ではないんだけどね。

「おう、全員似合ってて可愛いぞ!」

「「「ッ!」」」

 親指を立ててグッドサインをしつつそう言って褒めると、全員頬を赤らめる。
 元々彼女たちの素材が良いためある程度の服は似合うと思っていたからあの服を渡して着せたわけだし、可愛くならない道理はないだろう。
 それに期待していた言葉を言われただけなのに赤らんでしまうところがまた愛らしい。多分無意識にからかってる感じもあると思う。
 何よりルルアとレトナはいつもノリ良くコスプレの服装とか着てくれるし、ヴェルネも文句を言いつつそこまで嫌がらないのでいつもちょっと過激な服を着せてもいいかな~なんて考えちまうんだよな……
 ま、とりあえず――

「タンドリーチキンでも作って食うか」

 ヴェルネたちの反応を一通り楽しんだので、その日はクリスマスっぽい料理を作って食事の方も楽しむことにしたのだった。
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