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好戦者たち

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 「呪術」――魔力を消費する魔法と違って「何か」を代償にして力を発揮する技。代償にするものは術者が決めることができるが、その対価によって発揮する力も変わってくる。
 服の端などを対価にすれば僅かに力を向上させ、肉体の一部を対価にすれば元の数倍の力を得ることができるのだが、「呪」というだけあって単なる等価交換ではなく術者の精神を汚染されてしまうのである。
 そしてそれを使用するのはこの世界で人間だけだった。

「僕が代償にしているのは『血』。目に見えるものじゃなくても、これも体の一部と言えるから、それなり力が出せるようになる」

「何かを代償にしてでも力を得たい……そこまで求めようとするのはやはり人族らしいですね」

「それを『愚か』と言って獣人やあなたたち魔族のみんなは頑なに使おうとしないもんね。誰にでも使える強い力なのに……」

 その力を使用したことでまた優位に立ったと感じたアールは薄っすらと笑いを浮かべ、彼の周囲にいくつもの魔法陣が瞬時に展開され、ジークは「ほぅ」と感心を示すように言葉を漏らした。
 無詠唱による同時展開……それはカズが普段何気無く行ってる技術ではあるが、この世界では言葉を口にせずに即時発動できる無詠唱は高等技術であり、さらに魔法を同時に放つのは至難の業とされていた。
 それを呪術により強制的に引き出しているのが今のアールの状態であった。

「『ハイリスクハイリターン』とはよく言ったもの。たしかに簡単に強大な力を発揮できるのは魅力の一つかもしれませんが、犠牲の上に成り立つ力は脆く崩れやすいので好みません」

「……あんたもしかして、努力は裏切らないとかいう脳筋理論を信じちゃう人?」

「努力が実を結ぶとは思っていますよ。その努力のみで現実離れした行動ばかり行う人物が身近にいますので」

「それが仮面の魔族?あんたより強いの?」

 ジークがフッと笑い、クナイを改めて構える。

「私程度に手間取っていたら、彼の足元にも及ばないとだけ。戦いを挑むのはやめておいた方がいいと警告させていただきます。まぁ、無駄でしょうけども」

 そう言うジークはアールたちより後ろで待機しているジンを一瞥する。彼の視線はちょうどシャルアたちを見ていて自分のことだとは気付いていない。

「だろうね。でもいいの、そんなに余裕で?仮にも僕は勇者だよ」

 アールのそれは警告としては遅く、すでに次の瞬間にはジークの周りに魔法陣が展開されてその場に爆発が起きてしまう。
 その爆発から逃れて後ろへ後退するジークだが、地面が鋭く尖りジークの胸を貫いた。

「驕ってたのはあなたの方でしたね。意地を張って必要な力が無いために……」

「ですがあり過ぎる力のせいで相手の生死の判断が遅れてしまうのも考えものではありませんかな?」

 勝ったと感じて笑みを浮かべたアールだが、その背後でたった今胸を貫かれたはずのジークが背中を合わせるように立っていた。

「なっ――」

 確実に胸を貫いたと思った相手が背後に立っていたことに驚いたアールが振り返るが、ジークの姿を目に捉える前にアールは首に肘打ちを食らって意識を失ってしまう。

「すいませんね、先程のはデコイです。暗殺者故に正々堂々とはならないのですが、それも良い経験となったでしょう」

「あら、アールやられちゃったの?」

 決着のついたジークに声をかけたのは、まだ戦ってる最中のシャルアだった。

「これで二体一になっちゃったわね☆」

「ほっほ、多勢に無勢をするつもりはありませんよ」

「なら次は俺とやるか?」

 不意に聞こえてきたジンの声と同時に彼がジークに殴りかかっていた。
 ジークはそれに反応して回避するとジンの拳から衝撃派が発生し、その威力が目に見えてわかる。

「いいのですか?カズ様と戦うための体力を温存しなくとも……」

「あんたを倒さなきゃ、そのカズって魔族には勝てないんだろ?だったらやるしかねーじゃん!」

 問答無用とでも言うかのようにジンは連続で攻撃を仕掛け、ジークはそれをひたすらに避け続けていた。

「逃げてばかりかよ……なぁ!?」

 と、突然方向を変えて何も無いところを殴るジン。
 するとドンッと拳が何かに当たった音が鳴って今までジンの攻撃を避けていたジークの姿が溶けるように消えてしまい、代わりにジンが殴った何も無いところからジークが彼の拳を受け止めた状態で姿を現した。

「何度も同じ手が通用すると思うなよ!」

「……なるほど、たしかにお強い。その虚実を見抜くシンプルな強さは超術によるものではなく直観ですかな?実に勇者らしい。ですがそれだけでは彼には遠く及びません」

「はぁ?防戦一方のお前がそんな偉そうなことが言えるのかよ!」

 ジークの挑発に乗り、さらに攻撃速度を上げるジン。
 しかし変わらず避けるだけで反撃をする様子がないジークにジンは攻撃の手をピタリと止める。

「クソッ、舐めてんのかお前!?」

「いえいえ、舐めてるなどとは……ただあなたの場合はカウンターを狙っているように感じたのでどう攻めようかと思っていたところです」

「ッ……!」

 ジンは図星を突かれたように表情をわずかに歪める。

「……だから今度は『彼女』にバトンタッチするとしましょう」

 ジークはそう言ってジンから目を逸らし、別の方向を見る。
 彼の言った「彼女」というのが気になったジンもつられて同じ方向へと視線を向けようとする。
 だがその前に――

「なんだか面白そうなことをしてるじゃないかナァ!」

「――ッ!?」

 ジンの横腹に凄まじい勢いの肘打ちが繰り出されて吹き飛んでしまう。
 どこからともなく突然現れたのは小柄な身長のアマゾネス、フーリだった。
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