上 下
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二対二

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 最初に動き出したのはシャルア、俊敏な動きで真っ先にユースティックへ斬りかかる。
 対してユースティックはその速さを目で捉え、最初の横振りの一撃を両斧で防いだ。

「俺の相手はじゃじゃ馬娘か」

「若い女の子が相手で嬉しいでしょ、魔族のオジサン☆」

 それぞれが挑発する言葉を発した直後、激しい攻防が繰り広げられる。両者共に大型の武器だというのに、それを感じさせないほど素早く振るっていた。
 数回の打ち合いの後に鍔迫り合いとなり、たった一分にも満たない時間で辺りは斬撃が飛んで地面がボロボロの状態となっていた。

「うふふ、やるねオジサン☆」

「お前は……たしかに強いが、期待してたほどじゃないな。本当に勇者か?」

「えーひどーい☆」

 ショックなど微塵も受けていない口ぶりで笑い、次の瞬間には加速してユースティックの視界から消えて彼の背後へと回っていた。

「勇者の一撃☆」

 今までとは比較にならない速さで大剣を振るい、ギリギリで反応したユースティックが両斧で防ぐも武器ごと吹き飛ばされてしまう。
 さらに彼がまだ地面へと落ちる前にシャルアは追撃し、反撃の隙を与えようとしなかった。
 しかしユースティックも一方的にやられるだけでなく、彼女の攻撃に合わせて両斧をぶつけて自ら吹き飛んで距離を取る。
 シャルアが再び攻撃を仕掛けようと前に出ると同時にユースティックも彼女に向かって行き、互いに距離を急速に詰めて再び打ち合う。
 そんな彼らを横目にジークとアールも立ち止まっていた。

「凄いね、彼。魔族って魔法が得意ってだけのイメージだったけど、シャルア相手にあそこまで打ち合える魔族もいるなんて……もしかしてあなたもあれくらい強かったりするの?」

「いやはや、彼が特殊なだけですよ。あなたの言う通り、魔族は魔法が得意故に近接での戦闘を好みません。しかし全くの不得手というわけでもなければ彼のように鍛えてる者もいます。私は……今から確かめてみてはいかがでしょう」

 まずは小手調べと言うかのようにジークはアールに向けて素早くナイフを投げた。

 ――カカンッ

 アルミ缶に石でも投げて当てた時のような軽い音が二つ響き、ジークの投げたナイフはアールに届く前に弾き落とされていた。

「今の変な音……あぁ、そういうこと」

 音に違和感を覚えたアールが背後を見ると、もう一つナイフが地面に落ちていた。

「どうやったかはわからないけど、正面以外からも攻撃を仕掛けてきてたんだね。まぁ、僕には関係ないけど」

「うーむ、ナイフが届かないところを見るに、周囲に結界を張っておられるのか。しかも死角からも届かないとなると全方位を守っているのですかな?」

 お互いに動揺は見られず、冷静に状況を分析しようとする。
 そしてアールはジークの考察にニヤリと笑みを浮かべた。

「惜しい、七十点かな。まぁ、仮に百点だとしても僕が優位であることに変わりはないけれどね」

「相当な自信をお持ちのようで。ですが優位であるだけで胡座を掻いていては足元をすくわれますよ」

 ドッとアールは足元に衝撃を感じ、視線を向けると太ももにクナイと同じ形をした物が突き刺さっていた。

「ぐっ……!? これは――」

 攻撃を食らったこと自体が予想外であるかのような反応をして自分の足に刺さったクナイを引き抜こうとするアール。しかしクナイはその前に勝手に抜けて宙を素早く移動してジークの手元に戻った。
 よく見るとクナイの持ち手の部分に細い糸を絡ませていたのだった。

「やはり迷宮産は良い品ですね、こうも相手の虚を簡単に突いてくれる。効果は限定的ですが、かなり使いやすい。たとえあなたが『攻撃された箇所を限定的かつ集中的に結界を作ることで魔力の消費を抑えつつ強固な守りを作り上げる』魔術を使っていたとしても」

 ――「通しクナイ……結界などを無視して貫通する。所有者にもその能力が付与され、感知の結界などをすり抜けられる」

 自慢するようにクナイを見つめながら言い、「正解ですか?」と聞きたげに苦悶の表情を浮かべるアールに視線を送る。
 完全に言い当てられた上にその防御を崩されたアールは歯軋りをしてジークを睨む。

「なるほど、仮面の魔族が異様に強いとだけ聞いていましたが、どうやら警戒するのはその人だけではないみたいですね……」

「お眼鏡に適ったようで何より。それに私は元より暗殺者、やろうと思えばあなたが本気を出す前に仕留めることもできますが、子供相手にそんな大人げないことをしてしまえばカズ様に叱られてしまいますから……まだ勇者の本気はこのようなものではないでしょう?」

 再びわかりやすく挑発するジーク。しかし今度は受け流すほどの余裕を持たないアールはその挑発に乗ってしまう。

「後悔、しないでくださいよ……!」

 そう言って怒りの表情に混じえて笑みを浮かべるアールの体に模様が這うように広がる。
 禍々しい模様に覆われたそんな彼を見てジークが溜め息を零す。

「呪術、ですか……」
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