118 / 331
二対二
しおりを挟む
最初に動き出したのはシャルア、俊敏な動きで真っ先にユースティックへ斬りかかる。
対してユースティックはその速さを目で捉え、最初の横振りの一撃を両斧で防いだ。
「俺の相手はじゃじゃ馬娘か」
「若い女の子が相手で嬉しいでしょ、魔族のオジサン☆」
それぞれが挑発する言葉を発した直後、激しい攻防が繰り広げられる。両者共に大型の武器だというのに、それを感じさせないほど素早く振るっていた。
数回の打ち合いの後に鍔迫り合いとなり、たった一分にも満たない時間で辺りは斬撃が飛んで地面がボロボロの状態となっていた。
「うふふ、やるねオジサン☆」
「お前は……たしかに強いが、期待してたほどじゃないな。本当に勇者か?」
「えーひどーい☆」
ショックなど微塵も受けていない口ぶりで笑い、次の瞬間には加速してユースティックの視界から消えて彼の背後へと回っていた。
「勇者の一撃☆」
今までとは比較にならない速さで大剣を振るい、ギリギリで反応したユースティックが両斧で防ぐも武器ごと吹き飛ばされてしまう。
さらに彼がまだ地面へと落ちる前にシャルアは追撃し、反撃の隙を与えようとしなかった。
しかしユースティックも一方的にやられるだけでなく、彼女の攻撃に合わせて両斧をぶつけて自ら吹き飛んで距離を取る。
シャルアが再び攻撃を仕掛けようと前に出ると同時にユースティックも彼女に向かって行き、互いに距離を急速に詰めて再び打ち合う。
そんな彼らを横目にジークとアールも立ち止まっていた。
「凄いね、彼。魔族って魔法が得意ってだけのイメージだったけど、シャルア相手にあそこまで打ち合える魔族もいるなんて……もしかしてあなたもあれくらい強かったりするの?」
「いやはや、彼が特殊なだけですよ。あなたの言う通り、魔族は魔法が得意故に近接での戦闘を好みません。しかし全くの不得手というわけでもなければ彼のように鍛えてる者もいます。私は……今から確かめてみてはいかがでしょう」
まずは小手調べと言うかのようにジークはアールに向けて素早くナイフを投げた。
――カカンッ
アルミ缶に石でも投げて当てた時のような軽い音が二つ響き、ジークの投げたナイフはアールに届く前に弾き落とされていた。
「今の変な音……あぁ、そういうこと」
音に違和感を覚えたアールが背後を見ると、もう一つナイフが地面に落ちていた。
「どうやったかはわからないけど、正面以外からも攻撃を仕掛けてきてたんだね。まぁ、僕には関係ないけど」
「うーむ、ナイフが届かないところを見るに、周囲に結界を張っておられるのか。しかも死角からも届かないとなると全方位を守っているのですかな?」
お互いに動揺は見られず、冷静に状況を分析しようとする。
そしてアールはジークの考察にニヤリと笑みを浮かべた。
「惜しい、七十点かな。まぁ、仮に百点だとしても僕が優位であることに変わりはないけれどね」
「相当な自信をお持ちのようで。ですが優位であるだけで胡座を掻いていては足元をすくわれますよ」
ドッとアールは足元に衝撃を感じ、視線を向けると太ももにクナイと同じ形をした物が突き刺さっていた。
「ぐっ……!? これは――」
攻撃を食らったこと自体が予想外であるかのような反応をして自分の足に刺さったクナイを引き抜こうとするアール。しかしクナイはその前に勝手に抜けて宙を素早く移動してジークの手元に戻った。
よく見るとクナイの持ち手の部分に細い糸を絡ませていたのだった。
「やはり迷宮産は良い品ですね、こうも相手の虚を簡単に突いてくれる。効果は限定的ですが、かなり使いやすい。たとえあなたが『攻撃された箇所を限定的かつ集中的に結界を作ることで魔力の消費を抑えつつ強固な守りを作り上げる』魔術を使っていたとしても」
――「通しクナイ……結界などを無視して貫通する。所有者にもその能力が付与され、感知の結界などをすり抜けられる」
自慢するようにクナイを見つめながら言い、「正解ですか?」と聞きたげに苦悶の表情を浮かべるアールに視線を送る。
完全に言い当てられた上にその防御を崩されたアールは歯軋りをしてジークを睨む。
「なるほど、仮面の魔族が異様に強いとだけ聞いていましたが、どうやら警戒するのはその人だけではないみたいですね……」
「お眼鏡に適ったようで何より。それに私は元より暗殺者、やろうと思えばあなたが本気を出す前に仕留めることもできますが、子供相手にそんな大人げないことをしてしまえばカズ様に叱られてしまいますから……まだ勇者の本気はこのようなものではないでしょう?」
再びわかりやすく挑発するジーク。しかし今度は受け流すほどの余裕を持たないアールはその挑発に乗ってしまう。
「後悔、しないでくださいよ……!」
そう言って怒りの表情に混じえて笑みを浮かべるアールの体に模様が這うように広がる。
禍々しい模様に覆われたそんな彼を見てジークが溜め息を零す。
「呪術、ですか……」
対してユースティックはその速さを目で捉え、最初の横振りの一撃を両斧で防いだ。
「俺の相手はじゃじゃ馬娘か」
「若い女の子が相手で嬉しいでしょ、魔族のオジサン☆」
それぞれが挑発する言葉を発した直後、激しい攻防が繰り広げられる。両者共に大型の武器だというのに、それを感じさせないほど素早く振るっていた。
数回の打ち合いの後に鍔迫り合いとなり、たった一分にも満たない時間で辺りは斬撃が飛んで地面がボロボロの状態となっていた。
「うふふ、やるねオジサン☆」
「お前は……たしかに強いが、期待してたほどじゃないな。本当に勇者か?」
「えーひどーい☆」
ショックなど微塵も受けていない口ぶりで笑い、次の瞬間には加速してユースティックの視界から消えて彼の背後へと回っていた。
「勇者の一撃☆」
今までとは比較にならない速さで大剣を振るい、ギリギリで反応したユースティックが両斧で防ぐも武器ごと吹き飛ばされてしまう。
さらに彼がまだ地面へと落ちる前にシャルアは追撃し、反撃の隙を与えようとしなかった。
しかしユースティックも一方的にやられるだけでなく、彼女の攻撃に合わせて両斧をぶつけて自ら吹き飛んで距離を取る。
シャルアが再び攻撃を仕掛けようと前に出ると同時にユースティックも彼女に向かって行き、互いに距離を急速に詰めて再び打ち合う。
そんな彼らを横目にジークとアールも立ち止まっていた。
「凄いね、彼。魔族って魔法が得意ってだけのイメージだったけど、シャルア相手にあそこまで打ち合える魔族もいるなんて……もしかしてあなたもあれくらい強かったりするの?」
「いやはや、彼が特殊なだけですよ。あなたの言う通り、魔族は魔法が得意故に近接での戦闘を好みません。しかし全くの不得手というわけでもなければ彼のように鍛えてる者もいます。私は……今から確かめてみてはいかがでしょう」
まずは小手調べと言うかのようにジークはアールに向けて素早くナイフを投げた。
――カカンッ
アルミ缶に石でも投げて当てた時のような軽い音が二つ響き、ジークの投げたナイフはアールに届く前に弾き落とされていた。
「今の変な音……あぁ、そういうこと」
音に違和感を覚えたアールが背後を見ると、もう一つナイフが地面に落ちていた。
「どうやったかはわからないけど、正面以外からも攻撃を仕掛けてきてたんだね。まぁ、僕には関係ないけど」
「うーむ、ナイフが届かないところを見るに、周囲に結界を張っておられるのか。しかも死角からも届かないとなると全方位を守っているのですかな?」
お互いに動揺は見られず、冷静に状況を分析しようとする。
そしてアールはジークの考察にニヤリと笑みを浮かべた。
「惜しい、七十点かな。まぁ、仮に百点だとしても僕が優位であることに変わりはないけれどね」
「相当な自信をお持ちのようで。ですが優位であるだけで胡座を掻いていては足元をすくわれますよ」
ドッとアールは足元に衝撃を感じ、視線を向けると太ももにクナイと同じ形をした物が突き刺さっていた。
「ぐっ……!? これは――」
攻撃を食らったこと自体が予想外であるかのような反応をして自分の足に刺さったクナイを引き抜こうとするアール。しかしクナイはその前に勝手に抜けて宙を素早く移動してジークの手元に戻った。
よく見るとクナイの持ち手の部分に細い糸を絡ませていたのだった。
「やはり迷宮産は良い品ですね、こうも相手の虚を簡単に突いてくれる。効果は限定的ですが、かなり使いやすい。たとえあなたが『攻撃された箇所を限定的かつ集中的に結界を作ることで魔力の消費を抑えつつ強固な守りを作り上げる』魔術を使っていたとしても」
――「通しクナイ……結界などを無視して貫通する。所有者にもその能力が付与され、感知の結界などをすり抜けられる」
自慢するようにクナイを見つめながら言い、「正解ですか?」と聞きたげに苦悶の表情を浮かべるアールに視線を送る。
完全に言い当てられた上にその防御を崩されたアールは歯軋りをしてジークを睨む。
「なるほど、仮面の魔族が異様に強いとだけ聞いていましたが、どうやら警戒するのはその人だけではないみたいですね……」
「お眼鏡に適ったようで何より。それに私は元より暗殺者、やろうと思えばあなたが本気を出す前に仕留めることもできますが、子供相手にそんな大人げないことをしてしまえばカズ様に叱られてしまいますから……まだ勇者の本気はこのようなものではないでしょう?」
再びわかりやすく挑発するジーク。しかし今度は受け流すほどの余裕を持たないアールはその挑発に乗ってしまう。
「後悔、しないでくださいよ……!」
そう言って怒りの表情に混じえて笑みを浮かべるアールの体に模様が這うように広がる。
禍々しい模様に覆われたそんな彼を見てジークが溜め息を零す。
「呪術、ですか……」
0
お気に入りに追加
396
あなたにおすすめの小説
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
「君を愛せない」と言った旦那様の様子がおかしい
白羽鳥(扇つくも)
恋愛
「すまない、僕はもう君の事を愛してあげられないんだ」
初夜にそう言われた私はカッとなって旦那様を部屋から叩き出した。
そっちがその気なら、私だって嫌いになってやるわ! 家の事情で二年は離婚できないけれど、後からどれだけ謝って優しくしてくれたって許してあげないんだから!
そうして二年後に白い結婚が認められ、以前からアプローチしてくれた王子様と再婚した私だったが、まさかその後、旦那様と二度と会えなくなるなんて――
※「君を愛せない」系のアンチテーゼ。バッドエンドですがこういうケースもあり得るかなと。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
通称偽聖女は便利屋を始めました ~ただし国家存亡の危機は謹んでお断りします~
フルーツパフェ
ファンタジー
エレスト神聖国の聖女、ミカディラが没した。
前聖女の転生者としてセシル=エレスティーノがその任を引き継ぐも、政治家達の陰謀により、偽聖女の濡れ衣を着せられて生前でありながら聖女の座を剥奪されてしまう。
死罪を免れたセシルは辺境の村で便利屋を開業することに。
先代より受け継がれた魔力と叡智を使って、治療から未来予知、技術指導まで何でこなす第二の人生が始まった。
弱い立場の人々を救いながらも、彼女は言う。
――基本は何でもしますが、国家存亡の危機だけはお断りします。それは後任(本物の聖女)に任せますから
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる