上 下
113 / 324

仕事させるなら給料を

しおりを挟む
「うぅ……」

 目の前の男が呻き声を漏らして目を覚ます。
 豪鬼と呼ばれたユースティックを雇い、シェリルを捉えたアンガルドだった。

「ここは……?」

「よう、目が覚めたか?」

 目を半開きで寝ぼけた様子のアンガルドに声をかける。
 奴が俺の顔を認識すると目がはっきりと開かれた。そして同時に体が椅子に縛り付けられて動けなくされている自分の置かれた状況にも目が入る。

「な……なぜ私がこのような姿に⁉ 私はたしか首に何か刺されて……殺されたのでは?」

 自分がこうなる経緯を思い出そうとするアンガルド。

「殺されたんじゃなく、眠らされたのさ。もっとも、これから殺された方がマシだったと思うかもしれんがね」

 そこにもう一人が現れる。
 二メートルを超える屈強な巨漢の三つ目魔族、ユースティックだった。

「ユースティック⁉ お前、死んだんじゃ……」

「死んださ、傭兵としてな」

 ユースティックの言葉に目を丸くするアンガルド。

「言っただろ、『合わせてやる』って」

 そう、屁理屈になるが、敵だったユースティックを俺個人が一時的なものではなく毎月給料を払う契約で私兵として彼を雇い、傭兵として殺したというわけだ。言い方は紛らわしかったが、本人を殺したとは言ってないしな。
 このことを知っているのはその場にいたジークとマヤルのみ。
 そして彼らに相談し、アンガルドをすぐには殺さずに捉えることとなった。目的はコイツとつるんでいる腐った奴の洗い出し。
 それを芋づる式にやっていけば一掃できるという魂胆である。別に依頼されたわけじゃないが、こういう掃除は進んでやる性格なもんでね。

「クソッ、この裏切り者が!」

「傭兵は金を積まれれば簡単に寝返る奴が多いんだよ。まぁ、これからはその傭兵業は廃業だがな」

 ユースティックはアンガルドの罵倒も気にせずに笑い、横目で視線を俺に送ってくる。
 元々ユースティックが優秀と言っても必要な時以外には雇われないし、そんな不安定な生活にも嫌気が差していたらしいので、俺の提案はちょうどよかったようだ。

「殺すならさっさと殺せ!お前らに情報を売るくらいなら死んだ方がマシだ!」

「だから言ってるだろ、殺された方がマシだったと思わせるって。安心しろ、こう見えて俺は人体にそこそこの知識があるんだ。どうやれば人が簡単に死んでどうすれば死なないか……早く情報を渡して、今すぐにでも殺してくれって懇願するまで絶対に死なせないからな」

 アンガルドの肩を掴んで笑みを浮かべてそう言ってやると、その体が震え始める。絶望し、後悔し、涙すら浮かべて失禁してしまっているが、もう遅い。

「……俺もここにいなきゃダメか?」

 ユースティックもここから逃げ出したいと言いたげに苦笑いをして言うが、もちろんダメだ。

「お前には俺に雇われる上でどんな人間かってのを知っておいてくれ」

 浮かべていた笑みを消し、圧を混じえんがらそう言い、アンガルドの顔面が歪むほど片手で強めに掴む。

「この世にはクソみたいな人間はいくらでもいるが、その中でもお前らにとって最悪な部類だってな」

――――
―――
――


 時間はすでに夜中の三時を回り、俺とユースティックはそんな深夜の森を出歩いていた。

「あんな恐ろしいもの、今までの傭兵稼業で……いや、人生全体で初めての体験だったよ……」

「よかったな、初体験を済ませられて……って、男同士でこの会話はアウトか?」

 周りに人がいないからそこまで気にしなくていいけど、それでも言った俺自身がちょっと気持ち悪いと思った。

「それで雇うと言ったが、俺は基本何をしていればいいんだ?」

 ユースティックはさっきまで見ていた光景を少しでも忘れようと、話題を変えようとする。

「あー、そうだな……」

「俺は基本用心棒として何かが起きる時にしか雇われないから、こんな感じで長期的に雇われたのは初めてなんだ。敵を倒す追い払う以外で何かすることがあるか?」

 とりあえずユースティックという達人の人材が貴重だったから雇うって形にしただけで、何をさせるかまでは考えてなかった。
 でも少なくとも一つは決まっているので、それを伝えることにする。

「まずは毎日、俺と手合わせをしてもらう」

「手合わせ……戦うのか?」

 眉をひそめて困惑した様子のユースティックに頷く。

「最近久しくお前レベルの奴と戦ってなかったから、俺にとっても鍛錬になるんだよ。あとは……まぁ、俺の弟子たちともやってもらうかな。お互いに強くなるための鍛錬相手になってもらうってことで」

「なんか……ずいぶん真っ当なことをやらせるんだな?いや、それでいいのかもしれないけど……」

 一体何をさせられると考えてたんだか……

「ま、ともかくこれからよろしくな……主様?」

 一応これから世話になる相手ということで呼び方に迷ったらしいユースティックだったが、そう呼ぶことに決めたようだ。
 主様……なんかむず痒い気がするけど、俺たちの関係の線引きとしてそう呼ばせた方がいいのかもしれない……と自分に言い聞かせることにしておいた。

「あ、そういや前金ってことで、先に渡しておくか」

「何をだ?」

 俺が「ほい」と拳にした手をユースティックに向かって突き出し、それを受取ろうとする彼の手に金貨を一枚落として渡した。

「えっ……多くないか?しかも貰うにしても早過ぎる!」

「いつもはどのくらい貰ってたんだ?」

「全部で多くて銀貨三十枚から五十枚だ。気前の良い客だって前金は銀貨十枚、二十枚しか渡してこないし、前金を貰うこと自体少ない。なのに前金でいきなり金貨を渡してくるなんて……」

 たしかにそれと比較すると多いと思う。だが……

「多くはないだろ。傭兵の時って多くてどれくらいの日数雇われてたんだ?」

「少ない時は一週間や二週間だったりしたが……」

「それで銀貨数十枚だってんなら、一か月丸々雇ってる俺から金貨一枚出すくらい妥当だと思うんだけど?なんならお前がこれから泊まる宿代や、装備を整えるための資金とかもこっちで出すしな」

「それは流石にやり過ぎじゃないか⁉」

 声を大にして驚くユースティック。しかし日本で生きてきた俺にとって、人を雇うというのはそれくらいするっていう認識があったりする。誰も好き好んでブラックな職場なんかに就きたくないもの。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

危険な森で目指せ快適異世界生活!

ハラーマル
ファンタジー
初めての彼氏との誕生日デート中、彼氏に裏切られた私は、貞操を守るため、展望台から飛び降りて・・・ 気がつくと、薄暗い洞窟の中で、よくわかんない種族に転生していました! 2人の子どもを助けて、一緒に森で生活することに・・・ だけどその森が、実は誰も生きて帰らないという危険な森で・・・ 出会った子ども達と、謎種族のスキルや魔法、持ち前の明るさと行動力で、危険な森で快適な生活を目指します!  ♢ ♢ ♢ 所謂、異世界転生ものです。 初めての投稿なので、色々不備もあると思いますが。軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 誤字や、読みにくいところは見つけ次第修正しています。 内容を大きく変更した場合には、お知らせ致しますので、確認していただけると嬉しいです。 「小説家になろう」様「カクヨム」様でも連載させていただいています。 ※7月10日、「カクヨム」様の投稿について、アカウントを作成し直しました。

異世界転生者のTSスローライフ

未羊
ファンタジー
主人公は地球で死んで転生してきた転生者。 転生で得た恵まれた能力を使って、転生先の世界でよみがえった魔王を打ち倒すも、その際に呪いを受けてしまう。 強力な呪いに生死の境をさまようが、さすがは異世界転生のチート主人公。どうにか無事に目を覚ます。 ところが、目が覚めて見えた自分の体が何かおかしい。 改めて確認すると、全身が毛むくじゃらの獣人となってしまっていた。 しかも、性別までも変わってしまっていた。 かくして、魔王を打ち倒した俺は死んだこととされ、獣人となった事で僻地へと追放されてしまう。 追放先はなんと、魔王が治めていた土地。 どん底な気分だった俺だが、新たな土地で一念発起する事にしたのだった。

冒険がしたい創造スキル持ちの転生者

Gai
ファンタジー
死因がわからないまま神様に異世界に転生させられた久我蒼谷。 転生した世界はファンタジー好きの者なら心が躍る剣や魔法、冒険者ギルドにドラゴンが存在する世界。 そんな世界を転生した主人公が存分に楽しんでいく物語です。 祝書籍化!! 今月の下旬にアルファポリス文庫さんから冒険がしたい創造スキル持ちの転生者が単行本になって発売されました! 本日家に実物が届きましたが・・・本当に嬉しくて涙が出そうになりました。 ゼルートやゲイル達をみことあけみ様が書いてくれました!! 是非彼らの活躍を読んで頂けると幸いです。

巻き込まれ召喚!? そして私は『神』でした??

まはぷる
ファンタジー
60歳になり、定年退職を迎えた斉木 拓未(さいき たくみ)は、ある日、自宅の居間から異世界の城に召喚される。魔王に脅かされる世界を救うため、同時に召喚された他の3人は、『勇者』『賢者』『聖女』。そしてタクミは『神』でした。しかし、ゲームもラノベもまったく知らないタクミは、訳がわからない。定年して老後の第二の人生を、若返って異世界で紡ぐことになるとは、思いもよらず。そんなお話です。

スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai
ファンタジー
人を助けた代わりにバイクに轢かれた男、工藤 英二 その魂は異世界へと送られ、第二の人生を送ることになった。 侯爵家の三男として生まれ、順風満帆な人生を過ごせる……とは限らない。 裕福な家庭に生まれたとしても、生きていいく中で面倒な壁とぶつかることはある。 そこで先天性スキル、糸を手に入れた。 だが、その糸はただの糸ではなく、英二が生きていく上で大いに役立つスキルとなる。 「おいおい、あんまり糸を嘗めるんじゃねぇぞ」 少々強気な性格を崩さず、英二は己が生きたい道を行く。

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

【書籍化決定】TSしたから隠れてダンジョンに潜ってた僕がアイドルたちに身バレして有名配信者になる話。

あずももも
大衆娯楽
「あれがヘッドショット系ロリなハルちゃんだ」「なんであの子視界外のモンスター一撃で倒せるの……?」「僕っ子かわいい」「見た目は幼女、話し方はショタ……これだ」「3年半趣味配信して今ごろバズるおかしな子」「なんであの子、保護者から何回も脱走してるの?」「野良猫ハルちゃん」」「百合百合してる」「ヤンヤンしてる」「やべー幼女」「1人でダンジョン壊滅させる幼女」「唯一の弱点は幼女だからすぐ眠くなることくらい」「ノーネームちゃんとか言う人外に好かれる幼女」「ミサイル2発食らってぴんぴんしてる幼女」(視聴者の声より) ◆1年前に金髪幼女になった僕。でも会社は信じてくれなくてクビになったから生計のためにダンジョンに潜る生活。ソロに向いてる隠れながらのスナイパー職で。◇今日も元気に姿を隠して1撃1殺しながら稼いでたところに救助要請。有名配信者って後で知ったアイドルの子をFOE的に出て来たボスからなんとか助けた。で、逃げた。だって幼女ってバレたらやばいもん。でも僕は捕捉されて女の子になったこととか含めて助けてもらって……なぜかちょっと僕に執着してるその子とかヘンタイお姉さんとかポニテ委員長さんとか、追加で髪の毛すんすんさんと実質的に暮らすことに。 いやいや僕、男だよ? 心はまだ……え、それで良いの? あ、うん、かわいいは正義だよね。でも僕は男だから女の子な君たちはお風呂とか入って来ないで……? 別に着替えさせるのは好きにすれば良いから……。 ◆TSロリが声出しまで&フェイクの顔出しでダンジョン配信するお話。ヒロインたちや一部の熱狂的ファンからは身バレしつつも、大多数からは金髪幼女として可愛がられたり恐れられたりやべー幼女扱いされます。そして7章でこの世界での伝説に…… ◆配信要素&掲示板要素あり。他小説サイト様でも投稿しています。 ◆フォローやブクマ、レビューや評価が励みになります! ◆130話、7章で一旦完結。8章が箸休めのTS当初な場面、9章から7章の続きです。 ◆Xアカウントにたどり着くと、TSネタ、ハルちゃんのイラストや告知が見られます。

処理中です...