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諦めるくらいなら

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「ヒック、うぅ……」

 その場にうずくまり泣きじゃくるミミィ。恐怖から開放された安心感で緊張の糸が切れたようだ。
 俺もアウタルも慰めるということはせず、ただ彼女が泣き止むのを待っていた。

「ごめんな……さい……ごめんなさい……!」

 何度も謝罪の言葉を口にし続けるミミィ。何を謝っているのかがわからないし、このまま何もしなければいつまでもこの状態で沼になりそうだな……

「何をそんなに謝ってるんだよ?」

「だ、だって……私たちからあなたの助けが欲しいって言ったのに怖がっちゃって……なのにちゃんと宝箱の中身を残してくれて……だけどそれもみんな奪われちゃって……」

 彼女が言葉を紡ぐにつれて流す涙も増え、まともに喋ることもできなくなっていた。
 幼い子供のように泣く彼女の姿に困惑してアウタルに助けを求める視線を送るが、肩をすくめて「自分にはどうすることもできない」と言いたげだった。
 マジかよ。ヴェルネやルルアならしてやれることはあるけど、さっき知り合った少女相手にどんなこと言えば慰められるんだよ?しかも仲間からも見捨てられた彼女を代わりに慰めさせる相手もいないし……

「はぁ……ま、俺のことは気にするな。化け物扱いされるのは慣れてるから。ただ仲間のことは……残念だったとしか言えないな」

「いえ、わかってるんです。力が弱い私たちはされるがままでも文句を言えないんだって……だから逃げたグラン君たちは何も悪くは……」

「正論だな。でも『助けてほしかった』んだろ?」

「っ……!」

 俺の指摘にミミィの体に力が入る。図星だな。
 世間論では正しくても、個人的な気持ちではやっぱり「そういう気持ち」を示してほしいと思うものだ。
 きっともうミミィと彼らの間には溝が作られ、今までのように接することは難しいだろう。
 そうなると彼女一人が今まで通りに冒険者を続けることも……最悪人間不信になって新しくパーティを組むこともできなくなってる可能性もある。
 このダンジョンを抜けるまでは面倒を見れるけど、その後はコイツ次第だ。
 それからほどなくしてミミィは自身の力で立ち上がり、俺たちと一緒に進むこととなった。
 俺たちが道中で出くわした機械の魔物を相手にしている間もミミィは生気を失った表情で離れたところで立ち尽くし、驚いたり怯えたりしている様子もなくただ立ち尽くしている。
 疲労感などで気力がないのだろう……放っておけば自殺まがいなことをしかねない。
 幸いついて来いと言えばついて来るから助けてもらう気はあるみたいだけど……

「お前、これからどうする気だ?」

「……私、ですか……?」

 ミミィが虚ろな目を俺に向けてくる。

「俺たちについて来てダンジョンを出て、その後は?」

「…………」

 沈黙。まだどうしようか決めてない感じだが……

「とりあえず冒険者を辞めようと思います……一人でできることなんて、ないと思いますので……」

 ミミィはうつむきながら卑屈にそう言う。

「もうパーティを組む気はないってことか?」

「……酷なことを聞きますね。盗賊まがいの人たちに襲われて、今まで仲が良いと思ってた人たちに見捨てられても誰かを信用しろと?」

 自虐的な笑みを浮かべて言うミミィ。自暴自棄になってるな。

「そこまでは言ってない。それにそもそも赤の他人をいきなり信用する方がおかしいんだよ、相手が信用するに足る人物を見極めないと……なっと!」

 ミミィの背後に現れた魔物を彼女越しに蹴り飛ばす。当人からすれば驚いてもおかしくない状況だったが、それでもミミィは動じなかった。

「そんなの、わからないわよっ……!」

 だが代わりに俺の言葉に怒りを覚えたようで、静かにそう言って俺を睨んできた。

「何十年も一緒にいた幼馴染が信用できなくなっちゃったのに……どうすればいいのよ!」

「強くなればいい」

 ヒステリックになってしまっていたミミィにアウタルがバッサリと答える。

「強くなればって、そんな簡単に……」

「知らん、簡単な道しか選びたくないなら好きにしろ。だがお前の話を聞いてるとお前らがそうなったのは弱さ故だ。肉体が強ければ負けることもないし、心が強ければ逃げることもなく戦かったはず。それをただ『弱さ』を言い訳に逃げてるだけ。今のお前らは本当の意味でただの弱者だ。むしろ殺されなかったのは運がいい」

 めちゃくちゃ言うやん。感情が死んでたコイツももう涙目じゃん。
 俺も似たようなことを思ってはいたけれど口に出すか迷ってたのに躊躇無く言うとか……流石強さに関して妥協はしないアマゾネスの性格。

「ま、結局は強くなければお前らのように何もできず奪われて逃げるだけになる。極論で言えば強くなれば解決する問題だってわけだ。お前の言う通り、言うほど簡単じゃないがな」

 そう言いながらスマホの画面を確認しつつ再び道を歩き始める。

「『自分一人でも強くなって冒険者を続けてやる』ってくらいの気概がないとな」

「……ならあなたが面倒を見てくれるんですか?」

「え……」

 ミミィが責める目つきで俺を睨む。
 しかしさっきまでのように無気力ではなくなったので、そこはひとまず安心する。

「強くなることが簡単じゃないことくらい、数年冒険者をやっててわかってるんです!でも強くなるにはどうしたらいいのか……」

「……あぁ、つまり冒険者を続けさせたいなら鍛えてくれ、と?」

 ミミィから返事はなかったが、睨むのとは違った強い覚悟を固めた目を向けてきていた。

「言っとくが俺の指導経験は浅いぞ。あとで『こんなことなら飲食店でバイトでもしてればよかった』って後悔しても知らないからな」

 そう言って嘲笑うように笑ってやると、ミミィも痩せ我慢に笑い返してくる。

「望むところよ……次にグラン君たちと会った時には驚かしてやるんだから!」

 こうして三人目の弟子が加わることとなった。
 面倒事は増えたけれど結果オーライ……か?
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