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勇者が現れた!……倒す?

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☆★☆★
~カズ視点~

「弱い者イジメは私が許さないよっ☆」

 軽いノリでそう言って突然斬りかかってきたのは身の丈より大きな大剣を持った黒髪の小柄な少女だった。
 独特な雰囲気とスカートや上の服など現代の女子学生風なデザインをしている気がする。
 「気がする」っていうのは似てるだけで、へそを出していたり若干露出のし過ぎじゃないかって部分は普通の服ではあるはずがない。
 それに瞳の形がフウリのように少し変わったハートの形をしている。
 しかしそこら辺を無視したとしてもまだ気になるところがある。
 アマゾネスのような奴らもいるから断定はできないが、コイツは……種族的に人間じゃないか?
 すると町の中に待機していた魔族の兵たちがこぞって出てきて少女を囲む。

「止まれ!なぜ人間がここにいるんだ!?」

 俺の予想は的中していたらしく、やはり彼女は人間だったようだ。彼女を囲む魔族たちから怒りや焦り、遠目で見ている女子供の魔族からは恐怖といった感情が鮮明に伝わってきた。
 俺が初めてこの町にやって来た時よりも強く感じる。あの時の俺はヴェルネが横に居たし、大きな魔物を引きずっていたから困惑も混ざっていたんだろうけど、単純に人間がここに来たっていうとここまでの敵意を向けられるんだな……
 そんなことを考えながら少女を見る。
 数の差で少しは臆したりすると思っていたがそんなこともなく、ニッと余裕の笑みを浮かべた。あっ、これは嫌な予感。

「そっか、やっぱりここはもう魔族領なんだ☆」

 そう口にした少女からも不穏な空気を感じる。彼女は大剣を上に掲げるように持ち上げ、その大剣が目をくらませるような強い光を宿す。
 光は大剣を二回りほど大きくしたような形となる。アレも魔法の一種か……?
 その彼女から大気が震えるほどの圧が放たれる。

「ッ……!」

「だったらどっちにしても殲滅しないとね☆」

 少女が掲げた大剣を斜めに下ろし振り回すようにすると、周りの魔族が風圧だけで薙ぎ払われて吹き飛ばされてしまった。

「吹き飛んじゃえ、有象無象共☆……お?」

 突然地面沿いに少女へ氷塊の波が襲いかかり、直前に察知した少女はその場から跳躍で飛び退いて避けた。
 視線を少しずらすと魔法を放ったらしきヴェルネの姿がある。

「カズ、ソイツを抑えて!」

 珍しくヴェルネからそんな指示が飛んできた。その次の言葉で全てではなくとも、理由がなんとなく理解できた。

「人間のとこの勇者よ、ソイツ!」

 勇者。
 ファンタジー物語でよく聞く魔王を倒す存在として有名で俺でも知ってる単語だ。
 そして勇者は魔王を倒すため当然普通より強いステータスを持っているというのが定番だが……

「あなたがここで指揮をする人かな?だったら先に潰せば攻略完了よね☆」

「ッ!?」

 ……んなわけないか。
 ヴェルネから離れた距離にいたの人間の少女が凄まじい速度で彼女に近付く。
 少女からは確実な殺意が彼女に向けられていたため、俺は先回りして二人の間に立つ。

「どーいて☆」

 少女は緊張感のない声でそう言って大剣を軽々振り回し、俺はソラギリで迎え打つ。

「やーだ☆」

 同じ緊張感のないセリフで返し、少女との鍔迫り合いで押し返し突き飛ばす。

「わっ、あなた力強いんだね☆私もそれなりに力には自信があったんだけど……」

 たしかに強い。前に戦った吸血鬼と良い勝負だ。
 ただ逆に言うとその程度でもある。
 ルルアの親父と戦った経験があるが、あの時もルルアにした仕打ちに対する怒りに混ざって「コイツはどれだけ戦えるんだろう」と期待していたりした。
 結果期待ハズレだったわけだけど……まぁ、そんな感じだ。
 しかし彼女にはまだ余裕があるように感じる。

「ここで一番強いのはあなた?あなたを倒せばここにいる魔族は全員大人しく死んでくれるかな☆」

「……バカか、お前は。他人がやられた程度で命を捨てるほど、ここにいる奴らは阿呆じゃない。少なくとも逃げるなり抵抗するなりするだろうよ」

 そう言うと少女が頬を膨らませてムッとする。

「バカじゃないし……バカって言った方が馬鹿なんだぞ☆」

 変なところで気に触る奴だなと思っていると、突然少女が動き始めてさっきまでとは段違いの速さで移動する。
 フウリのように魔法で強化したのか、不自然な動きの変化にそう感じた。
 大剣を振るう腕も速くなっており、さっきまで両腕だったのが片腕で振り回している。
 さっき鍔迫り合いをした時にも感じたが、彼女が振っている大剣は決して軽いものではない。むしろ人間が振るうには重い分類になるだろう。
 成人の男だって扱うのが難しい武器を軽々と振ってる時点で何か細工をしているのがわかる。
 少女の剣戟は激しく、年端もいかない外見とは裏腹に敵を殺すことに何の躊躇もない様子。
 とはいえ、受け止め切れないわけでもないので全て防いだり受け流したりするけれども。

「本当に強いんだね、あなた☆もしかして魔族の中でも結構……ううん、魔王だったりする?」

 どうやら少女は俺のことを魔族と勘違いしているようだ。仮面をしてるからか……

「残念、ハズレだ」

「ハズレかー……ま、なんでもいいんだけどね☆」

 少女が残念がったのも少しの間だけで、すぐにまた猛攻を仕掛けてくる。
 乱暴で単調な攻撃に見えてフェイントなどを混じえてくる上、たまに魔法まで撃ってくる。
 コイツ、さっきもそうだが見た目の割に戦い慣れてやがる。
 ただ天才肌というだけじゃなく、経験による活かされた動きが見れた。

「うーん……防戦一方?違う、力を見定めるためにわざと攻撃してこないの?」

 少女が独特な瞳でジッと見つめてくる。その目がフウリとは別の方向で見透かされているような気がして気味が悪い。

「……というか、いきなり斬りかかられても困るんだが。そもそもなんでお前と戦わにゃならんのだ?」

「え、だってあなたあの人たちをイジメてたんでしょ?勇者としては弱い者の味方をしなくっちゃ☆」

 アマゾネスたちを指差して言う少女。これは……なんか勘違いしてるな。

「別にイジメてたわけじゃない、アイツらとは試合をしてただけだ。そもそも力の強いアマゾネスが集団で来てる時点でイジメじゃないだろ」

「……そなの?」

 少女は首を傾げてアマゾネスたちの方を見る。

「……なーんだ、ただの勘違いだったんだね☆魔族が人間をイジメてるのかと思って思わず飛び出してきちゃったよ☆」

 「てへっ☆」と反省する色どころか舌を出してウィンクし、悪びれた様子すら見せない少女。この野郎☆
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