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人って落ちてるもんなんだね

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「エルダードワーフ?」

「そうです、別名『神の鍛冶師』と呼ばれる種族なのですが、彼らは鍛冶以外に酒造りにも精通しておりまして、そのお酒は嗜好と言われています。実際、あのお酒も偶然知り合った者からいただいたものでして、これまでの長い間少しずつ口にしていました……」

 「これまで」という言葉が妙に重く感じる。やっぱりまだその貴重な酒が無くなってしまった喪失感そうしつかんがあるようだ。
 だけどそうか、エルダードワーフに作ってもらった特別な酒か……

「また作ってもらうことはできないのか?」

 神妙な顔付きで首を横に振るジーク。

「そもそもドワーフという種族がかなり数の少なく、その中に稀に現れる先祖返りのような存在でして……しかも彼らは通常の種族のように群れで集落や町を作ってるのではなく、世界各地に散らばって過ごしているのです。私が出会ったのも偶然でして、運良くその方が持っていたお酒を分けてもらっただけですので……」

 ただ偶然エンカウントして幸運にも持っていた酒をソイツの気まぐれでその場で分けてもらったってことか。

「もう一度探して作ってもらったり……は難しいわけか」

「探すのもですが、ドワーフは少々気難しい性格をしているので、仮に探し出したとしても作ってもらえるかどうか……」

 ジークは本当に惜しそうにそう言う。なんというか……こりゃもうしばらくは尾を引きそうだな。
 しかしそうか……金で取引したわけじゃなければ、そりゃ価値は計り知れないわな。
 せめて会うことさえできればいいんだけど……
 そんなことを思いながらポケットにあるスマホに目を向ける。……数が少ないなら個人じゃなく種族で探せば見付かったりして?……まさかな。

「それならもし俺の方で見付けたらまた譲ってもらえるよう交渉しておくよ」

「ハハハッ、他の者なら期待せず待つのですが、あなたの言葉だと本当に希望を持てそうなのが不思議ですね……」

 そう言って笑うジークからはさっきまでの落ち込みは少し緩和しているように見えた。
 俺の言葉で少しでも気持ちが軽くなったのならいいのだが。

「ところで料理の方はもういいので?」

「ああ、仕込みは済ませたからあとはしばらく放置だ。その間に外の掃除にしに行く」

「かしこまりました」

 ジークは軽く頭を下げてその場から去って行った。そういえば今って結構早い時間だったと思うんだけど……もしかしてあれからずっと泣いてて寝てないとかないよな?

――――
―――
――


「…………」

 掃除をしようと外に出ると妙な光景があり、俺は困惑から沈黙してしまっていた。
 目の前には二人の少女がうつ伏せの状態で倒れている。
 しかもどちらも見覚えがある姿をしていた。
 片方は青い肌をした低身長の魔族少女。うつ伏せでもはみ出して見えてしまうほどの特徴的な大きな胸を持っている。
 もう片方は褐色肌をした同じく小柄な人物。長く黒い後ろ髪を三つ編みにし、面積の少ない服を着た身体は引き絞られて健康的な少年のようにも思える。
 見覚えがある。見覚えがあるはず。
 だけれどもまるで住処を無くした人のように身なりがボロボロになってしまっている。
 ソイツらが門があるところで倒れていた。
 俺はしばらくその倒れている人物たちを見つめ、二人を掴んで持ち上げて運び始める。

「あ……か、カズく――」

 ――ボスンッ

 褐色肌の方が声を出そうとしたが、最近外に設置しておいたゴミ箱の中へと放り込んで言葉を遮らせた。
 どちらも頭から突っ込ませたところで一息吐き、移動しようとする。

「……さて、今日はゴミが少そうだからさっさと終わらせて戻るか」

「待ってヨ!」

 ゴミ箱に入れられた褐色の少女が勢いよく起き上がる。アマゾネスの族長で少し特殊な喋り方をする少女、フウリだった。

「乙女をゴミ扱いって酷過ぎなイ!?」

「そりゃ他人の家の目の前でゴミみたいに落ちてたらゴミと勘違いしてゴミ箱に入れるだろ、普通」

「普通じゃなーいッッッ!」

 もう一人、俺の言葉にツッコミを入れてゴミ箱から脱出し、その大き過ぎるふくよかな胸を勢いよく揺らす青肌の少女、魔王ダイスの娘のレトナである。

「女のことをゴミ箱に入れるってどういう神経してんの!?」

「海底ケーブルくらい太い神経かな」

「それが何か知らないけど腹立つな……」

 レトナが俺をジト目で睨んできて溜め息を吐く。

「とりあえずお前らがなんでそんな汚い状態でここで倒れてたのか聞いてもいいか?」

 俺がその質問をするとレトナがビクッと肩を跳ね上がらせ、あからさまに後ろめたい理由がありそうな感じを漂わせていた。
 対してフウリは逆に含みのある笑みを浮かべている。こっちもこっちで嫌な予感しかしない。

「えっと……俺は家出だ……」

 先に答えたのはレトナだった。
 家出かぁ……

「ダイスと喧嘩したのか?」

「まぁ、簡単に言うと……」

 ハハハと笑って目を思いっ切り逸らすレトナ。何やら言いにくそうにしているが、彼女の事情は後で聞くとしよう。
 次はフウリだ。
 しかしその彼女の口からは予想外過ぎる言葉が出てきた。

「ボクのはシンプルな理由だよ。……君との子供が欲しイ!」

 フウリが放った言葉に俺とレトナは固まってしまう。
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