上 下
60 / 324

変態のアマゾネス登場

しおりを挟む
 カウ・ホーンを倒すという話になってからアウタルというアマゾネスの女にアマゾネスの集落、その長のいるところへ案内されている途中なのだが……

「なんかめっさ見られてるな」

 正確には凝視に近い状態。
 ついさっきまで遠くから弓を構えていた奴らが俺たちの周囲に集まり、興味深そうに見てくるのだ。
 興味、そしてそれ以上の含みのある視線を向けてくる奴も多い。
 そんな中でルルアは犬のように唸って警戒し、ジルは震えて怯えた様子で二人とも俺の腕に絡んでくっ付いてきていた。二人とも「見られてる」以上の何かを感じているのだろう。

「そうね、あたしたちをというかあんたら男を見てるんでしょうね」

 そう、彼女らアマゾネスの視線は余すことなく俺、もしくはジルへと向けられていた。

「アマゾネスにとって男重要。人間は獣人アマゾネス嫌う、でもアマゾネス人間嫌ってない」

 そう言うアウタルに連れられてアマゾネスの集落に来てわかったのだが、ここには男が一人もいない。
 一見男や少年に見える者もいるが、そういう風に見えるだけの女性だというのがわかる。
 アウタル曰く「アマゾネスは女しか産めない種族」とのこと。
 しかし子供がいるということは男もいるんじゃ?と踏み込んだ質問をすると、侵入してきた無害そうな男を捕まえてくるのだそうだ。
 「それじゃあ捕まえた男は?」と現状を聞くと、眉をひそめた顔で俺の方を少し見て「みんな逃げた」とだけ言った。
 何をして逃げられたのか気になるところではあるが、それ以上は何も聞かないことにした。

「ここに長いる」

 するといくつかある大きめなテントキャンプの一つの前でアウタルが立ち止まってそう言う。
 テントは人が数十人入れるくらい大きさがあり、その中にはたしかに一つだけ気配を感じた。
 そして同時になぜかそのテントから遠ざかるようにアマゾネスたちが距離を置いていた。
 そのことに疑問はあまり抱かず、すぐに中へ入るかと思ってアウタルの後ろについて行こうとすると彼女の動きが止まる。

「……長、自分たちみたいなアマゾネスと違う。一応アマゾネスで長、でも変なことをされて怒ったとしても仕方ない」

「えっと……つまり何が言いたい?」

 要領を得られずに聞き返してみると、アウタルが俺たちの方を向く。

「やり過ぎなければ殴ってもいい」

「「えぇ……」」

 まさかの自分たちの上司に対して暴力の許可が出てしまった。
 それほど酷い人物なのだろうか……?

「『殴っていい』なんて、ずいぶん酷いことを言うじゃないかアウタル?」

 テントの中からその長らしき独特な声が聞こえてくる。
 アウタルはその声を聞いて溜息を零し、渋々といった感じでテントの幕をめくって中に入っていく。

「後ろの人たちも入って来ていいヨ」

 その女性らしき声に俺たちも呼ばれたので中に入る。
 そこにいたのはヴェルネよりも少し幼く見える小柄な黒髪の少女だった。
 長い後ろ髪を三つ編みにしてまとめており、露出して見えている褐色肌は筋肉が引き締められて、一見少年にも見える少女である。
 ……それに瞳も星型のような不思議な模様をしているように見える。

「まぁ、少年っぽいというのは否定できないけど、これでも胸はそこそこ育ってるんだゾ?」

「ん?」

 突然そんなことを言い出した少女に俺たち全員が困惑する。今のは誰に話しかけたんだ?

「そんなの君に決まってる、僕のことを『少年のような少女』だと思った……そうだろ?クン?」

 俺の考えたこととフルネームを言い当てられてゾワリとする。今考えたことが……いや、それもだが俺の本名を……?

「そして君はヴェルネちゃん、僕たちが何をしてるのかって言っても至って普通の会話をしてるだけゾ」

「ッ!?」

「ルルアちゃんか……君は本当にお兄ちゃんのことが好きなんだね?まぁ、すぐにどうこうするってことはないから今は安心してくれていいゾ」

「むぅ……!」

「ジルクンは……たしかに彼に寄り添っていれば安全かもしれないけど、それだと君自身は強くなれないかもしれないヨ?」

「な、なんで俺の考えてることが……?」

 俺以外ともまるで会話をしているかのように彼女は話し、恐らくここにいる全員とは面識がないのにも関わらず名前を当てていた。
 多分だがジルの疑問は俺の想像している通り――

「そう、僕は君たちの考えてることが聞こえるし、その人が持ってる記憶の表層とかも少しは読み取れるんダ。だからアマゾネスの族長であるこの僕、フウリに下手な隠し事はできないってことは理解してネ」

 自己紹介を混ぜつついきなり能力を明かしてきたフウリ。
 心を読む……俺の世界にある読心術とは違って考えていることを的確に当ててきているが、それも超術か?

「多分ネ。僕らアマゾネスはコレを神の力だなんで仰々しく言ってるけど、君たちの言う超術と同じ括りだと思ってル」

 またもや心を読まれたようだ。
 向こうでも胡散臭い感じに心を読んでくる輩はいたが、ここまで当たり前のように言い当ててこられたのは初めてだった。

「ということは僕が初めての相手だったってことだネ。初体験はどうだったかナ?」

 フーリがそう言いながらプププと笑う。
 ……なるほど、これはウザい。
 一々相手が口に出してないことに答えてきて、さらに変な絡み方をしてくる性格。
 ウザいし腹が立つし一発ぶん殴って黙らせた方がいいんじゃないかってレベル。

「……んはぁっ!」

 するとまた突然声を上げたかと思うと、恍惚な表情で自分の体を抱き締めるような仕草をするフウリ。
 えっ、何……どうしたの急に?

「いやなに、君たち全員から『気持ち悪い』とか『ウッザ』とか『一発ぶん殴って黙らせた方がいい』っていうのが同時に聞こえてきて……思わずゾクゾクしてしまっただけダ」

「え、ゾクゾクって……?」

 フーリの言葉の意味がわかっていないジル以外は、彼女の言っている意味が理解できてしまっていた。
 コイツ――

「それってただのマゾの変態ってことじゃない」

 言っちゃったよ。どうせ言わなくても伝わるのに。

「アッハ!やっぱり心を読むより直接言われた方がクるわぁ……☆」

 ほら、喜んじゃったよ。より変態性を増してる感出ちゃってるじゃん。

「そんなみんなして変態を連呼するなんて……どうしてそんなに僕を喜ばせるんだい?」

「そんなんで喜ぶお前が悪い。つーかこのままだと話が進まないからいいからさっさと用件に移るぞ」

「ああ、ゴメンゴメン。で、君たちがあの化け物を倒してくれるんだって?」

「え、えぇ……」

 ……ま、ある程度話が停滞していてもコイツ相手だったら余計な説明が省けて話が進みやすいという点については評価するところか。
 なんて思ってると、不思議そうに目を丸くしたフウリが俺を見てきていた。

「……君は僕みたいな心を読む力を恐れないのかい?」

「いや、十分気持ち悪いと思ってるが?」

「そうじゃないよ、普通自分の考えていることがバレるなんてことになったらみんな僕から離れようとするんだよ?誰しも知られたくない秘密なんていくらでも持ってるんだから」

 よくある話だな。
 でも俺の場合は余計な言葉を口に出そうとせず心の中に留めようとするだけだし、それを知ったフウリが変態な性格なおかげで知られたところで喧嘩になるどころか喜ばれるだけだし。
 少なくとも俺はそこまで嫌うようなものでもないと思ってる。ただの性格はルルアたちの教育に悪いと思ってるから苦手ではあるがな。

「……ははっ、もう心を読まれることに適応してくるなんて……あの魔物を倒すって知った時から思ってたけど、君って結構面白いんだネ」

 そう言ってウインクをしてくるフウリ。色々とキャラが濃いコイツに言われてもな……

「あ、そうダ。『面白い』と言えばもう一つ君に頼みがあるんだけど、いいかイ?」

「……?」

 何のことだと首を傾げると、フウリは両手の人差し指と親指で四角の形を作って見せる。

……っていうんだよネ?アレで僕を撮ってくれないかナ?」

「コレでか?」

 スマホを取り出して見せるとフウリが「そーそー!」と何度も頷く。

「僕と言えどやっぱり目新しい物や珍しい物に目がないからネ!それに絵よりも綺麗に写るらしいじゃないカ?」

 そんなワクワクしたフウリのおねだりを聞いて「まぁ、写真くらいなら」と承諾した。
 そしてフウリは何のことかわかっていないアウタルを引っ張ってくっ付いてウインクとピースする。
 アウタルもわかっていないままつられてピースをして不器用に笑う。

 ――カシャッ

「……ぷっ、これは酷いな」

 撮った写真をフウリに見せると苦笑する。
 俺もその写真を見てフッと笑う。
 題名「変態と不器用」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

決闘で死んだ俺が凶悪なロリ令嬢として転生してしまったので、二度と負けないために最強を目指して妖魔との戦いに身を投じることにした

呉万層
ファンタジー
 ライバルとの死闘の末、命を落とした武術家・山田剛太郎は、気が付くと異世界でロリな貴族令嬢ミオ・オスロンとなっていた。  当初こそ戸惑いはしたものの、男らしさには自信のある剛太郎は、ロリとなったことを素早く受け入れる。肉体的ハンデを武術の知識で補完しつつ、異世界を蝕む妖魔との戦いに身を投じることを決意するのだった。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊スキル持ちの低ランク冒険者の少年は、勇者パーティーから追い出される際に散々罵しった癖に能力が惜しくなって戻れって…頭は大丈夫か?

アノマロカリス
ファンタジー
少年テイトは特殊スキルの持ち主だった。 どんなスキルかというと…? 本人でも把握出来ない程に多いスキルなのだが、パーティーでは大して役には立たなかった。 パーティーで役立つスキルといえば、【獲得経験値数○倍】という物だった。 だが、このスキルには欠点が有り…テイトに経験値がほとんど入らない代わりに、メンバーには大量に作用するという物だった。 テイトの村で育った子供達で冒険者になり、パーティーを組んで活躍し、更にはリーダーが国王陛下に認められて勇者の称号を得た。 勇者パーティーは、活躍の場を広げて有名になる一方…レベルやランクがいつまでも低いテイトを疎ましく思っていた。 そしてリーダーは、テイトをパーティーから追い出した。 ところが…勇者パーティーはのちに後悔する事になる。 テイトのスキルの【獲得経験値数○倍】の本当の効果を… 8月5日0:30… HOTランキング3位に浮上しました。 8月5日5:00… HOTランキング2位になりました! 8月5日13:00… HOTランキング1位になりました(๑╹ω╹๑ ) 皆様の応援のおかげです(つД`)ノ

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

処理中です...