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二人でオサレ

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「たしかに背中を押したのはあたしよ、それは認める。でもね……まさかこんな大事になるとは思わなかったわよ」

 吸血鬼たちとの戦いがあった次の日、屋敷に戻って庭でゆっくりしていた俺の横にヴェルネが深い溜め息を吐きながら来てそう言い、何か色々なものが書かれた新聞のようなものを見せてくる。
 どうせならリラックスできる場所も欲しいということで敷地内の庭に長椅子を一つ置いたのだ。

【山頂が無くなる!? 謎の土砂崩れ、魔物の仕業か?】

 そこには大々的に書かれており、白黒の写真らしき絵に文字通り山の頭が不自然な形になっていたのが映って乗っていた。
 これはたしかに俺が吸血鬼と戦ってる時にやらかした山だ。
 記事の一文には「奇跡的に死傷者はゼロ」とも書かれていたのでホッとする。

「……これ、本当にあんたがやったのよね?」

「まぁ、な……」

「はぁ、人間一人にこんな力があるなんて……そんなこと知られたらどうなるのかしらね……」

 ヴェルネが頬杖しながら憂鬱そうに新聞を見る。
 俺の存在が他にバレたら……

「ま、戦力として欲しがるとこは出てくるだろうな」

「他人事……というか経験があるみたいな言い方ね?」

「あるさ。元の世界だったら俺の家族全員が相当の力の持ち主だったんだ。それをお偉いさんが囲おうとしてくる話はわんさかあったからな」

「うぇ……あんたみたいな奴が家族ぐるみでいるとか寒気が走るわ」

 かなり失礼なことを言われてしまった気がするが、あまり気にせず目の前の光景に視線を戻す。

「……なぁ、それよりも聞きたいことがあるんだけど」

「何?」

「なんでアイツら、今にも取っ組み合いに発展しそうなほどいがみ合ってんの?」

 俺たちの正面ではルルアとジルがお互いに歯と敵意を剥き出しにして睨み合ってた。
 何か言い合ってるわけでもなく、顔を合わせて鬼の形相に十分ほどあの状態が続いている。

「まぁ、わかってたけどやっぱ知らなかったのね。獣人同士の魔狼族と吸血鬼だけど、アイツらなぜか妙に反りが合わなくて喧嘩ばっかしてんのよ。ルルアたちだって何か言い合ったわけじゃないのにあんな状態になったんでしょ?もう遺伝子レベルでわかり合えないようできてるんじゃないかって説まで出てきてる始末よ」

「それは酷いな」

 軽く笑いながらルルアたちの様子を観察する。
 するとようやくルルアが口を開く。

「……ねぇ、あなた何なの?なんでルルアたちのお家に汚い犬がいるの?」

 今まで聞いたことがないくらいの不機嫌そうな声でジルを罵る。しかも女の子がしちゃいけない顔もしてるし、もう「うわぁ……」としか言葉が出ない。

「お前こそ誰だよ?羽根はボロボロで変な形で気持ち悪いし」

「あなただってボサボサの毛をどうにかしたら?伸ばしてるクセにロクにケアをしてないせいで不潔に見えるわ」

「う、うるさい!俺は兄貴の弟子にしてもらうためにここにいるんだ、女はどっか行けよ!」

「女かどうかなんて関係ないでしょ!お兄ちゃんに技を教えてもらってるって話ならルルアはもう弟子だもん!」

「え……」

 言い合いの最中さなか、ジルが本当かどうか確認するように俺の方を見てくる。

「うんまぁ、技を教えたっちゃ教えたが……」

「ほら!」

「くっ、なぜコイツには良くて俺はダメなんだ……?」

 嬉しそうにするルルアと悔しそうに呟くジル。教えたって言ってもまだ基本中の基本しか教えてないんだがな……
 そもそもルルアにはその場の勢い的な感じで師弟関係っぽくなったってだけで、正式な弟子かと言われると……でもこれ言うとルルアが拗ねそうだから黙っとく。すまんな、ジル。

「だってそもそもルルアはお兄ちゃんの妹なんだもん、あなたより優先されて当然でしょ?」

 と、これはこれでマウントを取り始めるルルア。
 ジルはというと、俺とルルアを交互に見て「兄妹……?」と困惑してる様子だった。
 そりゃ種族が違うのにお兄ちゃん呼びしてたら混乱するよな。

「……いや、兄妹とかの方が関係ないじゃんか!兄貴に強くしてもらいたいのは俺も一緒なんだから!」

「でもルルアの方が先なんですー!妹になったのもお兄ちゃんから色々教えてもらったのもルルアが先なんだからルルアが優先されるんだもんねー!」

「だ、だったら勝負だ!」

 漫画とかではよくある話だけど、言い争いの末に勝負を持ちかける奴初めて見た気がする。話し合いでは解決しないと判断した往生際の悪い奴の最終手段。

「俺と戦って俺が勝ったら――」

 しかしジルが最後まで言う前にルルアは地面を殴り、大きな音を立てて陥没させて遮る。

「『戦って勝ったら』……何?」

 ルルアが放つ威圧に圧倒されたジルは、顔が青ざめ体は震え始め黙り込んでしまう。
 ルルアはといえば圧倒的な力量差を見せ付けた上に片手の指を曲げて骨をメキメキと音を鳴らす。戦う前から心を折る気だ、アレ……

「ルルア、多分あなたより強いよ。それでも戦うなら別にいいけど、勝っても負けても無事じゃ済まないよ……それでもいい?」

「ぐっ……そ、そんな脅しになんか負けるもんか!この……ムネナシッ!」

 ジルが放った一言にその場が凍り付いた気がした。
 というか気温が確実に下がった感じがする。特にルルアの方から……例えるならエアコンの強風並の強さで風が吹いてくるような寒気がするような……?

「今、なんて言ったの……?胸……無し……?」

 体を震わせて自分の胸を確認し、狂気が宿った目をジルに向ける。
 あまりの怖さに小さく悲鳴を上げるジル。ヴェルネですら引きつった笑みになってるぞ。

「ねぇ、なんで胸の話になったの?そんなに胸の大きさって大事かな?なんとか言ったらどうなの、ジル君?」

 キレ過ぎてついにはジルの胸ぐらを掴み、静かに重い声で問い詰めるルルア。

「うぅ……」

「戦わないで諦めさせようと思ったけどやめた、そんなに戦いたいなら殴ってわからせるわ……」

 そう言って強めに作った拳を大振りで構えるルルア。

「ルルアー」

「何ー?」

 キレてるように見えて普通に返事を返してくれるルルア。物事が判断できなくなるほど怒ってるわけじゃないらしい。

「キュッとするのと殺すのは禁止な」

「はーい!」

「ぶへぁっ!?」

 ルルアは元気のいい返事をすると同時にジルの腹を殴った。
 その後地面へ転がったジルに馬乗りして滅多打ちし始めたのを最後の光景に、後ろからは鈍い音とジルの悲鳴が聞こえるのを他所に俺とヴェルネはその場から離れる。
 自業自得ってやつだ、自分の言葉には責任を持てって成仏しろよジル……
 そしてルルアに胸の話はしない方がいいのだと、よく理解した瞬間でもあった。

「ああ、そうだ。ダイス様から言伝を預かってるわ」

「なんて?」

「『多分また呼ぶ』ですって」

 きっと仲良くなりたいからではなく、山を斬った件についてなんだろうなーと思ったり。
 でもせめてもう少しの間だけでもゆっくりしたいな……

「それともう一つ」

「ん?」

――――
―――
――


「それじゃ、今後こういう言い争いがないよう二人を正式な弟子として認める。ちなみにどっちが先だとか後だとかいう優劣も無しとする。いいな?」

「はーい♪」

「ふぁい……」

 ルルアの気が済んだらしく、二人揃って俺のところに来たのでそういう話になった。
 ルルアは元の天真爛漫な感じになっているが、隣のジルは相当殴られたせいで顔が腫れ上がってしまっている。もう全てを失って絶望してる人にしか見えない辺り、相当な恐怖を刻まれたのだとわかる。

「とりあえず本格的な鍛錬の前に少し野暮用がある。ジルはこのデク人形で遊んでてくれ」

 俺の横に立っているデク人形を指を差し、ルルアを手招きする。

「『アレ』、出来上がったらしいぞ」

「アレ?」

 何のことか思い出せずにいるルルアを連れて町へと赴く。
 俺が向かっていたのは前にアクセサリーの依頼をしたダートのところだった。
 アクセサリーが出来上がったという知らせをヴェルネから聞いたのだ。
 そしてそれを受け取り、早速ルルアが装着する。

「ねぇ、見て見てお兄ちゃん!どう?可愛い?」

 そう言って片耳に付けたアクセサリーを嬉しそうに見せてくるルルア。
 そう、彼女が頼んだアクセサリーの形はイヤリングだった。
 黒いしずく型となっており、それを付けただけでルルアがいつもより大人びて見えるのが不思議だ。

「ああ、可愛いよ」

「嬉しっ!それじゃあお兄ちゃんも付けてくれる?」

 そう言って同じイヤリングをもう一つ差し出してくるルルア。
 俺にも、か……?

「こういうのって男が付けていいもんなのか?」

「もちろん!それにお兄ちゃんだったら本当に似合うと思うよ?」

 そう言ってくれるルルアだが、こういう自分を着飾るのはしたことがないから受け取るのを躊躇してしまう。

「……あっ、そうだ。ルルアが付けてあげる!」

 そんな俺の気持ちを察したのか、ルルアが強引に付けようと近付いて来る。
 俺はルルアにされるがままとなり、彼女と同じアクセサリーを耳に付けられる。
 人生初のである。

「……うふふ、やっぱり。凄く似合ってるわ!それに……これでお揃いね♪」

 そう言って俺の頬に頬擦りをするルルア。
 ダートがそれを呆れたようにジト目で見てきていた。
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