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素直になる難しいさ

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☆★☆★☆★
~カズ視点~

 出発して一時間ほど走ったところで俺たちは止まっていた。
 目的地である魔王のいる都市まであと半分といったところでヴェルネが死にそうになってしまっていたのだ。

「何よアレぇ……?馬車どころかぁ……魔物だってあんな速さ出さないわよぉ……?」

 疲労で木に寄りかかりながらオーナーみたいな話し方になってしまっている。

「だから言っただろ、今日中にでも着けるって。その分移動速度が速くなるなんて少し考えればわかるだろに?」

「いや、アレはあんたを困らせるために冗談で言っただけなんだけど……ホント、どんな身体の構造してんのよあんたは!」

 疲労感も薄れてきたのか、乱れていた息も整えて強気な態度で俺に向き合ってくるヴェルネ。

「鍛えたからな。それよりもう大丈夫そうなら一度また走るか?」

 半分は走ったのだからもう半分走ればすぐに到着する……しかしヴェルネは相当嫌な経験として認識してしまったらしく、女として酷い歪んだ顔をしていた。

「今日はもういいわ……これ以上は体が耐えられなくてバラバラなりそうだし。この辺りにもたしか町か村があったはず……あんたに渡した地図は持ってきてるわよね?」

 ヴェルネの言う通り、道に迷わないように念の為地図を持ってきているので彼女に見せる。
 だが彼女の顔は困った顔で地図を睨むだけで自分たちがどこにいるのか理解できていないように見えた。
 ここは現代と違ってわかりやすい目印がない。
 ロクに舗装されてない道と木々が立ち並んでいるだけで、わかりやすい標識などがあるわけでもない。
 しかも木の配置や人が通りそうな道さえ地図に書かれているわけでもなく、描かれているのは山や谷、町や村の配置くらいだ。
 だから自分たちの位置を理解しつつ目的地の方向を探すのは中々難しい。
 またここからジャンプして目印になりそうな町村があるか探すか……?
 と、そこでふと気付く。
 スマホで……なんとかならないか?と。
 ありえないと思う反面ポケットからスマホ取り出して電源を付ける。
 インターネットが繋がってないこの世界で使えるはずがない。そもそもこの世界の地理が記録されてるわけがないだろうし……
 なのに期待して「マップ」と書かれたアプリを指で押して立ち上げる。

「……嘘だろ?」

 そこに映し出された画面を見て驚愕して思わず声を出してしまった。
 本来ならネットが繋がってないというだけで何も表示されず「インターネットに接続されていません」とか出てくるだけのはずなのに、それどころかこの世界の地形らしきものが表示されていたのだ。
 その証拠にヴェルネが住んでる町の名前「リントヴルグ」としっかりと表示されているのだから間違いない。
 そして丁寧なことに俺が今いる位置と向いている方向さえ表示してくれている。

「何よ、まさかそのスマホで正確な地図まで書いてあったりするの?」

「……みたいだ。しかも俺たちが今いる位置と方角までしっかり」

「……嘘でしょ?って、なんであんたまで驚いてんのよ」

 俺と同じリアクションをしたヴェルネがツッコミを入れてくる。

「この機能は俺も予想外だったからだ。前も言った通り、このスマホは本来の機能がいくらか制限されてる……はずだった。なのに俺が知ってるその制限を越えて使えてるんだから驚くに決まってるだろ……」

 今考えると、このスマホはすでにおかしくなっていた。
 だって充電をしてないのに電池が全く減ってないんだからおかしいだろ?むしろずっと充電マークがついてるし。
 でも電波のところは圏外って表示されてるままなのに使える理由がわからない。
 ……スマホがファンタジー世界に順応して電波以外の力で動いているとか?わからん。
 ともかく見知らぬ土地でマップが使えることがわかったのは大きい。
 もしかしたら他にも使える機能があるかもしれないから、次の機会にでも試してみよう。

「それじゃあ、この近くの村にでも泊めさせてもらうとしようか」

 俺の持つスマホを覗き込んで「もう何でもありじゃない……どこまでコイツは馬鹿げてるのよ……」と呟くヴェルネにそう言う。
 するとヴェルネはハッと正気に戻って咳払いをする。

「そうね。予定より早く着きそうだからゆっくりしてもいいし、あ……あんたのおかげで馬車代も浮いたから野宿なんて考えなくていいしね」

 ヴェルネは少し恥ずかしそうにしながらお礼っぽい感じを含んだ言葉を口にする。遠回しの感謝とか本当にツンデレなのな、コイツ……

「それじゃあ行こうか、お姫様?」

「ヴぇッ!?」

 俺はからかい半分でヴェルネをお姫様抱っこで抱き上げるとヴェルネから変な声が出た。

「ちょっ、いや、なん……!?」

「実際走らなくても疲れただろ?一応村までは距離が少しあるみたいだからこうやって運んでやるよ。もちろん着く前にはちゃんと降ろしてやるから」

 突然のことで困惑気味なヴェルネにクスリと笑い、気遣いのつもりでそう言ってやる。
 ヴェルネのことだから文句の一つでも出てくるかと思って待っていたが、彼女は俺の腕の中で顔を赤くしながらも無抵抗でジッとしていた。
 おやぁ……?

「……何よ?」

「いや?」

 いつも余計なことを言ってるのだから、こんな時くらい何も言わないでおこうと思いこのままヴェルネを運ぶことにした。
 そして町に着く頃には彼女はその体勢のまま眠ってしまっていた。

「まだ昼だってのに……それくらい疲れてたのか?」

 彼女の寝顔を見て少し笑ってしまう。
 ……あれ、これヤバくね?
 よく考えると傍から見たら魔族を人質に取った人間の襲撃者に見えなくもないような……
 リントヴルムではもうある程度顔馴染みみたいになってるから出歩けるけど、この村だとまた騒がれるよなぁ……
 でもだからってヴェルネが起きるまでこのままにさせるわけにもいかないし。
 選択肢がないと思い、溜め息を吐きながらそのまま村へと向かってみた。

――――
―――
――


☆★☆★☆★
~ヴェルネ視点~

「ん……」

 不思議と心地の良い感触に包まれて起きるのも億劫おっくうになる気怠さを感じながらも上半身を起こす。
 そこは見覚えのない薄暗い部屋で窓からは外が夜であることが窺える。
 寝惚けた頭で直前のことを思い出し、たしかカズにお姫様抱っこされて……そう、そこで寝てしまったんだ。
 あたしは恥ずかしさで顔が熱くなり、膝を曲げてそこに顔を埋めた。
 たしかにここ最近疲れていたのかもしれない。でもいくらなんでもアイツの腕の中で寝ちゃうなんて……!

「っ~~~~……あ~~~~っ!」

 あたしはベッドの中で悶え叫んだ。

「えっ、何どしたの?」

 そこにカズが扉を開けて平然と入って来た。

「にゃーーー!? か、カズ!? あんた……ノックくらいしなさいよ!」

 色々と誤魔化すために枕を投げた。
 カズはその枕を避けることもなく顔面で受け止め、落ちるそれを手でキャッチする。

「それはすまん。変な声が聞こえたから一応心配したんだが……その必要はなかったみたいだな」

 カズはそう言うと優しく微笑む。
 またやってしまった。
 アイツが特別何かしたわけでもないのに過剰に怒鳴って当たってしまった。心配されて嬉しかったはずなのに。
 なのにカズはなんでもない様子で接してくれる。
 普通なら嫌な性格だって言って離れていくだろうに……なんでコイツはこんなにあたしに構うの?
 わからない……元々魔族を嫌ってない変な奴だとは思っていたけれど、ここまで変わった奴だったなんて思わなかったもの。

「当たり前でしょ?……それよりもあんたが村に入る時大丈夫だったの?」

 お礼の言葉は照れ臭くて言えず、代わりに別のことを心配してあげて誤魔化そうとする。
 前は1度だけお礼の言葉を口にしたけど、思ってたより恥ずかしく感じてしまったからか二度目の今も言うことはできなかった。
 昔から素直じゃないとはよく言われたけど、自分でもここまでとは思ってなかったわ……

「ああ、問題は……うん、あったっちゃあったけど解決した。だから宿を借りてお前を寝かせたわけなんだが」

 カズの話を聞くに、どうやらあたしたちが村に到着した時にここは盗賊の集団が占拠していたらしく、その全員を倒して村の全員を助けたとのこと。
 そして説明の途中でカズが意味ありげに窓近くに行って外を眺める。
 一瞬だけあたしの目を見て「お前も見てみろ」と言いたげに示してきたように感じ、倦怠感もいつの間にか消えていたので彼の横に行く。
 外では村の人々が何やら祭り騒ぎになっていた。

「……今日って何か祝い事があったのかしら?」

「村が助かった記念、だとよ。日常的な平和ってのはいざ危険に晒されなきゃ、そのありがたみがわからないからな」

「ふぅん……ねぇ、それってもしかしなくても主役ってあんたじゃないの?ほら、何人か誰かを探してるじゃない」

「嫌われ者の人間が主役なんて務まらねぇだろ。それに俺はいつだって裏で動くのが性に合ってるんだよ」

 そんなことを言いながら窓の外の様子を見下ろす彼の横顔に思わず魅入ってしまっていた。
 ……ああ、そうか。あたしがコイツに素直になれないのはただ恥ずかしいからじゃなく、認めたくなかったからか。
 その力に。
 その優しさに。
 その器量に。
 大き過ぎるほどの存在感にあたしはもう惚れていたんだ……

「ん?どうした?」

 あたしが見ていたことに気付いたカズがあたしの方を向く。
 その顔と目を合わせるだけで顔が熱くなる。

「っ……なんでもないわよ!」

 そしてあたしはまたそうやって正直になれずに誤魔化す。
 チョロいくせに面倒な性格よね、あたしって……
 そう思うと自然と口角が上がり笑ってしまっていた。

「……ばっかみたい」

 自分にしか聞こえないくらい小さく呟いた。
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