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やり過ぎると一周回って変態扱いされる

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「でもどうするの?」

 いざ教えるとなるとどうすればいいかわからないルルア。
 むしろその言葉は俺が言わなきゃならないセリフなんだが……と言ってもわかっててルルアを人選したのは俺なのだからそんなことは言えないな。

「何でもいいさ。ルルアが魔法を使った時にどんなことを感じたのか、素直な感覚を教えてくれればいい」

 教え方を教えるって斬新な状況なんですけど。

「うーん……《敵を切り裂く太古の超剣――レーヴァテイン》」

 ルルアは昨日の感覚を思い出すために呪文を唱えて剣の形をした炎を手に出現させる。

「なんだかね、お胸のところがギュルギュルって熱くなって、それがギューンって手のところまで移動していくんだ……そしたらドーンッていつの間にか出てたの」

 擬音のオンパレード説明である。でも全くわからないわけじゃない。
 呪文を口にすれば魔法が発動し、天才は頭に呪文が勝手に浮かび上がるんだったな。
 それらと今まで聞いてきたことを合わせつつ別の考え方をしてみよう。
 まずヴェルネは呪文の詠唱を省いて魔法を放つことができる。つまり呪文は必ずしも必要ではないということ。
 ジークフリートは空気中にある魔素が体の中で魔力に変換されて魔法になると言った。
 そしてルルアは胸が熱くなって、それが腕から手にかけて移動していたと……
 それらをまとめて自分なりに考えるとしたら――

「魔素を吸収してすぐに魔力へ、そして魔法に変換っていう手順になるわけか。だがいくら理論を立てたところで肉体的なものならまだしも魔力なんて曖昧なものを実行できるわけがないしな……」

 進んだようで行き詰まっているのには変わらない現状。
 ……そういえば魔道具に魔力を注げてるんだよな、俺。
 だとしたらその工程はもうクリアしてね?
 勝手に空気中の魔素を取り込んで魔力にして、その魔力を無意識に使ってるわけだ。
 あとはそれを魔法として放出することができれば……
 手から魔法を……例えば火を出すイメージ――

 ――ボッ

「おっ?」

「あっ!」

 一瞬だけだったが……今手からライターくらいの火が出た気がする。
 いや、ルルアも気付いて声を出してたから気のせいじゃないだろう。
 ようやく俺もお前も魔法が使えた……使えることが証明できたんだ。
 ならもっと強くイメージすれば……!

 ――ボッ、ボッ……ボウッ!

 ……出た。
 花火のように放出した火が空へと打ち上がり、盛大に弾け飛ぶ。
 と言っても弾け飛んだ後はすぐに霧散むさんして消えてしまったので周囲の草木に燃え移る心配はない。
 あれ、できちゃった?俺やれちゃった?
 もしかしてもしかして擬音で理解できちゃう系男子でした?

「凄い凄い!詠唱もしてないのに炎を出したよ!カズ兄様はやっぱり凄いよ!」

 今一番喜ぶべき困惑している俺よりもルルアがピョンピョンと跳ねて心から喜んでいた。
 当人よりも喜ぶとか……兄ちゃん嬉し過ぎてもう一回別の意味で炎が出てきそうよ?

「ありがとうルルア、お前のおかげでこの先も楽しくなりそうだ!」

「わっ!?」

 俺もようやく実感が湧いてきて思わず彼女を抱き上げてしまい、グルグルと振り回す感じで回り始める。
 最初は驚いていたルルアも笑顔になって笑い始めた。

「アハハハハハハハッ、グルグルグルグル……お兄様と一緒に踊るって楽しい!もっともっと踊りましょう!」

 ルルアも嬉しそうに、そして楽しそうに笑って羽根を大きく広げて羽ばたかせて俺ごと空へ飛んだ。
 そして踊ると言うよりはただ手を掴まれて振り回わされている状態だが、それさえも楽しく感じていた。
 そんな時、下で何やら騒いでいるのが聞こえてきた。

「カズゥゥゥッ!あんた一体何したの!っていうかどこにいんの!?」

 ヴェルネだった。
 ジークフリートとマヤルも連れて俺を探しているようだった。

「あっ、お姉様だわ!」

 ルルアも彼女たちに気付き、「お姉様ー!」と叫んで呼ぶ。
 何やら可愛らしく憤った様子のヴェルネが「降りてきなさーい!」と大声を出しているのが聞こえる。

「……降りるか」

「はーい♪」

 俺は水を差されたように落ち着いていたが、ルルアはまだ楽しそうにしていた。
 ルルアにはその場で手を離してもらい、ヴェルネのいる下まで高速落下する。

「ちょ――」

 何か言葉にしようとしたヴェルネの目前に勢いよく着地。普通なら骨が折れてるか死ぬ高さから落ちたが、俺はそれほどヤワじゃない。
 周囲の地面が小さく窪み、砂煙が舞い上がってしまう中で立ち上がり、ヴェルネと目を合わせる。

「待たせたな!」

「――じゃないわ!」

 直後にヴェルネがツッコミと同時に俺の顔面を横から殴ってきた。

「いきなり何をする?」

「いきなり殴られたのに平然としてる辺り流石ですね……」

 後ろで苦笑いをするマヤルを他所にヴェルネは怒りをぶつけてくる。

「『何をする』じゃないわよ!さっき変な爆発があったけどアレ絶対あんたの仕業でしょ!?」

「おう!」

「おう!じゃないっての!」

 再びビンタしてくるヴェルネ。だけどそれは……

「っ~~~~いったぁ!? なんで殴ってるあたしの方が痛いのよ!」

「そりゃ殴る方も殴り方が悪ければ拳を痛めるし、硬いものを叩けば自分が痛いだけだろ?」

「あんたの頭は岩か!」

 誰が石頭だ。
 全くコイツは……俺が少し非常識だからって好き勝手していいと勘違いしてないか?
 そう思いながら痛がっている彼女の手を取る。

「なっ、何!?」

「……こんなに柔らかい手で殴れば痛いに決まってるじゃねえか。武器を握ったことはおろか、人一人さえ叩いたことさえない綺麗な手なんだし」

 見てわかる率直な感想を口にするとヴェルネの顔が真っ赤になる。

「なっ、何言ってんの!? バカにしてんの!?」

「バカにはしてない。ただ普通に綺麗だと思っただけだ」

「だからっ、だからそれが……!ああもうっ!もういいから手を離しなさい!」

 もどかしさというのか、文句を言いたいけど何に対して言っていいのかわからなくなってしまっていた様子のヴェルネが手を引っ込ませる。

「ホホホ、ダメですよカズ様。あまりヴェルネ様をからかわれますと拗ねてしまわれますので」

「そうです、冗談でもとことんやりませんと!ちなみにあっち的には本気で告白とかしてくれますと面白いのでオネアシャッス!」

「あんたら……特にマヤルは覚えておきなさいよ!」

 ヴェルネの怒りにマヤルは「うひー」とそこまで驚いてない様子でおどけてみせる。
 ジークフリートたちもこの状況を中々楽しんでるな?

「んで、さっきの爆発なんだったのよ?」

 マヤルたちの態度はいつものことらしく、ヴェルネは諦めたように軽く溜め息を吐いて改めて聞いてきた。

「ああ、魔法を使ったんだ」

「魔法?ルルアが?」

「いや、俺が」

 そう答えるとヴェルネはしばらく俺を見たまま固まり、哀れんだ笑みを向けてくる。

「そう……あんた思い詰めて……」

「違うから、思い込みとか妄想じゃないから。だからそういう可哀想なものを見る目で見るのをやめなさい?」

 見下されたり軽蔑されたりすることはよくあることだが、そういう目で見られたのは初めてだ。
 意外と心にクるものがあるな……

「嘘とか妄想じゃなくて本当に使えるようになったんだよ。ほら……」

 証明するために火を、そしてそれ以外の水や風、雷に土と他の属性を玉の形にして周囲に浮かばせた。

「……えっ」

「なんと……!」

「マジですか……」

 魔法の発動を見たヴェルネたちが全員が驚く。
 一度感覚を掴んでしまえばこっちのものというやつで、他の属性のイメージも並行して思い浮かべて作り出しているわけだが……

「嘘でしょ……魔法を合成させたものならまだしも、無詠唱で同時発動なんて……そんなバカげた話あるの……?」

 「ありえない」と言いたげに驚くヴェルネの真意が理解できず、ジークフリートたちに視線を向ける。

「簡単に言いますと、物事の二つや三つのことを並行して同時に行動へ移そうとしているのと同じことです。あなたがやっていることを例えるなら……音楽を聴き口ずさみながら右手で料理をして左手で勉学などの書き物をし、片足で玉遊びをしている状態なのです」

「何そのカオスな状態」

「つまりそういうことです」

 俺がやったことがそんなにカオスな状態だと?だとしてももうちょっとマシな例えがあっただろうに……
 そうだな……俺の経験で言うなら四方八方から達人が攻撃してくるのを捌いた時と似た状態か?
 まぁ、いくつもの行動を同時にこなすっていうのは中々難しい話ではあるが、不可能ではないはずだ。
 ただそういう奴は大体良い意味で変態的だと言われるのを知ってる。
 だから多分、今酷く顔を歪めて俺を見てるヴェルネが思ってることは予想がつく。ついてしまう。

「もうそこまでいくと変態よね……」

 ……くそぅ。
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