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第3章:七海の願いとリッカの夢

第22話:豊年祭(プーリィ)

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 夏の祭りが始まった。
 このお祭りは多分、オイラがいた世界の豊年祭プーリィと似たものなんだろう。
 豊年祭は、今年の収穫しゅうかく感謝かんしゃし、来夏世クナツユーの豊作を祈願きがんするお祭りだ。
 まあ、分かりやすく言えば、神様に「お米やお野菜ありがとう。来年もよろしくお願いします」って伝えるためのお祭りだな。
 オイラの島では、大綱引おおつなひきとか、弥勒ミルク様の行列があったな。

 イリキヤアマリ神に守られるヤイマ国の豊年祭は、オイラの島とは行事がちがう。
 行列は弥勒様じゃなくてイリキヤアマリ様、綱引きの代わりに魔術マジティーの大会が開催かいさいされるらしい。

「王族は大会には出られないが、祭りの最後に魔術を披露ひろうするんだ」

 光の魔術を使ってみせながら、リッカは七海に祭りのことを話している。
 真夜中の練習場。
 リッカの両手からキラキラ光るさまざまな色のつぶがあふれて、空中で花のように広がった。

「これが夜、祭りの最後に使う光の魔術だ」
「すごくキレイだね。ぼくの世界にある花火ににているよ」
「だろう? これはもともと王族の祖先が日本ヤマトの使者からもらった花火を見て、魔術で同じことができるか試したのが始まりだからな」
「ぼくはこっちの方が好き。さわってもヤケドしないから」
「オレがナナミといっしょにやりたいのは、この魔術だ。祭りの最後に、ふたりで共演しよう」
「うん! 楽しそう!」

 七海は空中でキラキラ光る粒に手をのばして、無邪気むじゃきに笑って言う。
 それを聞いて、リッカも満足そうにほほえんだ。

 ヤイマ国は外国との交流は少ないけれど、日本から使者が来ることはあるらしい。
 花火を貢物みつぎものに持って来た使者は、火薬の技術を自慢じまんしたかったのか?
 でも、火薬を使わずに同じようなものを作り出した王族に、逆にビックリしたかもしれない。


 祭りの1日目、七海とリッカは他の王族といっしょに御嶽オンへ供物を捧げ、五穀豊穣ごこくほうじょうを祈願した。
 みんな真新しい着物を着ているのは、豊年祭の着物プーリキンという家族全員に夏の着物を新調する風習だな。
 その風習は、オイラがいた島の一部地域にもあったから知っている。

 御嶽に供える盆の和え物ブンヌスーに使う神和え物カンズーは、オイラの島のと同じだ。
 イシャヌメー(いぼぐさ)、サフナ(ボタンニンジン)、インミズナ(みずひゆう)、イイシ(つのまた)、カーナ(おごのり)、マンジュマイ(パパイヤ)、マミナ(もやし)。
 和える味噌みそは、赤味噌、ニンニク、ゴマ、落花生、砂糖を合わせたもの。
 植物の葉で包んだ餅カサヌパームチや、神酒ミシィも供えられた。

「ここは、王家の祖、アカハチさまの妻、クイツバさまのお墓でもあるのだよ」

 ヤイマ国の王様、ナナミたちの父ちゃんが言う。
 七海に聞いたら、父ちゃんは七海のじいちゃんに少し似ているらしい。
 かみの毛は、にぃにぃたちと同じで赤い。

「クイツバさまは、後にアカハチさまの敵となるナアタウフシュの妹で、アカハチさまの暗殺を命じられても従わずに、アカハチさまを愛して共に島の自由のために戦い、生きることを選んだ方なの」

 王妃おうひさまが、そう言ってほほえむ。
 同じ女として、王妃さまは夫を愛して寄りい生きたクイツバをほこらしく思っているんだろう。

 オイラがいた世界では、クイツバは同じく愛を貫いたが、実家から裏切り者あつかいされて、アカハチといっしょに殺された。
 その墓は、実家の人たちに足蹴にされ続けたという。

 一方で、クイツバの姉のマイツバは、祈願によって琉球国りゅうきゅうこく貢献こうけんしたり、ベトナムアンナン国から良い種子をもらってきたりしたことから、墓所を御嶽とされてあがめられていた。

 アカハチが勝ったこの世界では、クイツバの墓が御嶽になっているんだな。
 じゃあ、この世界のマイツバは?

「ぼくの島では、御嶽になっているのはマイツバという人でした。その人のお墓はこの世界ではどうなったんですか?」

 同じことを思った七海が聞いたら、なんとなくオイラが予想したとおりの答えが返ってきた。

「マイツバとナアタウフシュは、琉球国に味方したのでイリキヤアマリ神の加護を得られず、アカハチさまに討伐とうばつされて、遺体は琉球国へ送られたよ。味方した親族は追放されて、琉球国へ移り住んでいる」

 王様が教えてくれた。
 どうやら、墓はこの国には無いようだ。
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