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第2章:算数0点、魔術100点
第20話:命の恩人(ヌチヌウヤ)
しおりを挟むおいおい。
リッカお前「そんなしょっちゅう気絶してたまるか」って言ってたよな?
1日2回も気絶するのは「しょっちゅう」じゃないのか?
グッタリして七海に横だきにされたリッカを見て、オイラはそんなことを思っていた。
七海はといえば、あらかじめ言われていたから落ちついていて、リッカが気を失ったらすぐに帰還を使い、練習場から運び出していった。
練習場に残るのは、一面の雪景色。
まるでテレビで見た雪国のようだ。
ここ、南の島だよな?
『リッカったら、ナナミがついてるからって無茶をして……』
って言いながら、母ちゃんゆうれいがため息をついているぞ。
オイラはもう笑うしかない。
この大量の雪と氷、どうすんだ?
『なんでリッカは気絶するまで魔術を使ったんだ? 前の2回はウッカリだったけど、今のはわざとだよな?』
オイラは母ちゃんゆうれいに聞いてみた。
さっきのリッカは自分の腕輪が赤く光っているのを見たのに、大きな魔術を使った。
気絶したら部屋に運べ、って、ナナミに指示も出していたな。
『最大の魔力を増やすためね。魔力が尽きるまで魔術を使うと、回復しながら急成長して魔力が倍増するの』
母ちゃんゆうれいが教えてくれた。
魔力ってやつは、全部使い切ると、脳を守ろうとする力がはたらいて最大値が増えるらしい。
『リッカは多くの魔術を記憶しているけれど、魔力が足りなくて使えないものが多いの。だから、魔力を増やしたいのでしょうね』
ってことだけど。
気持ちは分かるが、この雪まつりは、やりすぎじゃないか?
「うわっ! なんだこれ?!」
「だれだよ、氷のムダ使いをしたのは……」
ほら、練習に来た人がビックリしているじゃないか。
運がいいのか悪いのか、大雪原みたいになっている魔術練習場に来たのはデカイにぃにぃたちだ。
「この魔力、リッカだな。氷まで使えるようになったのか」
カズマにぃにぃが、つもった雪に手でふれて言った。
あーあ、もうバレたぞ、リッカ。
まあでもおこられる感じはしないからいいのか。
しかしこの雪と氷、片づけるのは大変そうだ。
大きいにぃにぃたちは風の魔術で雪をどかし始めた。
『ナナミがついててくれて本当に良かった。リッカ1人だったら、この雪にうもれて凍え死んでしまうわ』
ゆうれい母ちゃんはリッカの心配しかしないようだ。
まあたしかに魔力切れでこの雪の中にたおれていたら、体が冷たくなって死んじゃうよな。
『ところで、母ちゃんはリッカについてなくていいのか?』
『ナナミがいるから、私が入っていなくても、リッカはもうだいじょうぶなの』
『そうなのか』
『わたしは、体が弱いリッカに生きる力を送り続けていたのだけど、今はナナミが力を送ってくれるから』
ゆうれい母ちゃんは、リッカが病気で死なないように守っていたらしい。
いつのまにか、七海がその代わりになっていたようだ。
『ナナミの魂は、わたしよりも強いの。そこからずっと力が注がれているから、リッカは以前よりも体の調子がいいみたい』
『ふむ。気づかなかった。ちょっと見てみるか』
オイラは雪まつり会場……じゃなかった、魔術練習場を出て、七海の部屋へ向かった。
ゆうれい母ちゃんもついてくる。
七海とリッカはそれぞれの部屋をいっしょに使っていて、ねる部屋は日がわりだ。
女官たちにとっては、ゆっくりそうじができて良いらしい。
今日は七海の部屋を使う日だから、七海は気絶したリッカを自分の部屋に運んだはず。
七海の部屋へ行ってみたら、予想通りベッドで仲良くくっついてねているふたりがいる。
リッカの顔色は良くなってきていて、気持ちよさそうにねむっていた。
七海はさっきひるねしたばかりなのに、リッカに付き合っていっしょにねている。
オイラはじ~っと目をこらして、ふたりの魂の光を見てみた。
リッカの光は、雪のように白い。
七海の光は、沖縄の海のように明るい青色。
光の強さは、リッカの方がかなり弱くて、七海の強い光がリッカの胸の辺りから体の中へ流れこんでいる。
『リッカがねむりから覚めたときに調子がいいのは、ナナミのおかげなの』
幸せそうな顔でねむる子供たちを見つめて、ゆうれい母ちゃんが優しくほほえんだ。
力を注いでいることを、七海は気づいていないだろう。
これは本人の気持ちに関係なくできてしまうことか?
『もうひとりのナナミは、力を注いでくれなかったのか?』
『ええ。もうひとりのナナミは、リッカに近付こうとはしなかったから』
聞いてみたら、そんな答えが返ってきた。
近付けば七海でもナナミでもリッカに魂の光が注がれるのかもしれない。
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