41 / 51
第4章:勇者と魔王
第36話:レアンカルナシオン
しおりを挟む
もう、何が起こるか予想がつかない。
もはや僕が知っているシナリオなんて参考にならないぞ。
魔王は死ぬと肉体が塵と化して消えるのに、僕の腕の中で息絶えた彼の肉体は消えなかった。
それどころか、完全に死亡しているのに容姿が変化し始める。
え? 何?
まさかこのタイミングでファイナルバトル開始?!
容姿が変化するといえばラスボス2戦目だけど。
困惑する僕が抱く亡骸は、異形の怪物にはならなかった。
青年の体格から、僕よりも小柄で華奢な少年の身体に。
成人女性のような顔立ちから、あどけなさの残る少女のような顔に。
夜空より暗い漆黒の髪は、南国の海のような鮮やかな水色に。
地面に広がっていた血だまりや、サキと僕の身体に付いた血が消えていく。
変身が終わり、僕の腕の中でグッタリしているのは、ヨブ湖に浮いていたときと同じ少年のサキだった。
もしかして、今なら治癒の力が効くかも?
淡い期待を寄せて、僕はもう一度サキと唇を重ねて治癒の力を送り込んでみた。
ヨブ湖から助け上げた時は仮死状態で、キスをしたら蘇生できたけど。
今の彼は完全に息絶えていて、治癒の力は及ばなかった。
「サキ、闇から抜け出せたんだね」
優しい声に振り向くと、ファーが白い翼を羽ばたかせて空から舞い降りてくるのが見える。
ミカとウリも一緒に降りてきて、天使の姿に戻ったサキを見つめる。
「ヒロ、サキを天界へ連れて帰ろう。神様にその魂をお届けして、輪廻の流れに還してもらうんだ」
「サキは転生できるの?」
穏やかな声で言うウリを見上げて、僕は問いかけた。
【天使と珈琲を】には、転生システムというのがある。
これはシナリオ途中で死んでしまった攻略対象の救済措置で、そのキャラの好感度と記憶がリセットされる代わりに、似た容姿の別キャラとして生まれ変わるというもの。
「その姿に変わったということは、負の感情が消えて生まれ変われるってことさ」
ミカも穏やかに言う。
生まれ変われば、サキは過去を全て忘れる。
彼にとっては、それは救いだと思う。
「じゃあ、みんなで帰るか、天界へ」
「うん」
ケイに軽く肩を叩かれて、僕は振り向いて頷く。
サキを抱えて翼を広げ、空へ飛び立つ僕に大天使たちが続いた。
◇◆◇◆◇
天界の神殿・神の間。
きっと全て視ていたであろう神様は、サキを抱いて入ってきた僕を見て優しく微笑んだ。
「勇者よ、御苦労であった。水の大天使は転生させる故、安心するがいい」
「はい。ありがとうございます」
僕が差し出す亡骸を受け取った神様は、愛し子を抱く聖母のような慈愛に満ちた微笑みを浮かべる。
神様が口付けると、サキの身体は光の玉に変わり、僕の周囲を何度か回った後、神様の背後に立つ大木へと吸い込まれていった。
瑞々しい緑の葉を付けた大木の、あちこちに光が煌めいている。
その大木の名は、生命の樹。
天使たちは皆、そこから生まれる。
輪廻転生。
サキの転生者は、再び水の大天使として生まれてくるだろう。
記憶は無くても、その魂に水の大天使となる役割が刻まれているから。
サキ、どうか来世は幸せに。
忘れられてしまうのは寂しいけれど、サキが苦しい思いをするくらいなら、全て忘れてくれた方がいい。
来世では愛し合える人に出会って、幸せになってほしい。
生命の樹を見上げて、僕はそんなことを思っていた。
もはや僕が知っているシナリオなんて参考にならないぞ。
魔王は死ぬと肉体が塵と化して消えるのに、僕の腕の中で息絶えた彼の肉体は消えなかった。
それどころか、完全に死亡しているのに容姿が変化し始める。
え? 何?
まさかこのタイミングでファイナルバトル開始?!
容姿が変化するといえばラスボス2戦目だけど。
困惑する僕が抱く亡骸は、異形の怪物にはならなかった。
青年の体格から、僕よりも小柄で華奢な少年の身体に。
成人女性のような顔立ちから、あどけなさの残る少女のような顔に。
夜空より暗い漆黒の髪は、南国の海のような鮮やかな水色に。
地面に広がっていた血だまりや、サキと僕の身体に付いた血が消えていく。
変身が終わり、僕の腕の中でグッタリしているのは、ヨブ湖に浮いていたときと同じ少年のサキだった。
もしかして、今なら治癒の力が効くかも?
淡い期待を寄せて、僕はもう一度サキと唇を重ねて治癒の力を送り込んでみた。
ヨブ湖から助け上げた時は仮死状態で、キスをしたら蘇生できたけど。
今の彼は完全に息絶えていて、治癒の力は及ばなかった。
「サキ、闇から抜け出せたんだね」
優しい声に振り向くと、ファーが白い翼を羽ばたかせて空から舞い降りてくるのが見える。
ミカとウリも一緒に降りてきて、天使の姿に戻ったサキを見つめる。
「ヒロ、サキを天界へ連れて帰ろう。神様にその魂をお届けして、輪廻の流れに還してもらうんだ」
「サキは転生できるの?」
穏やかな声で言うウリを見上げて、僕は問いかけた。
【天使と珈琲を】には、転生システムというのがある。
これはシナリオ途中で死んでしまった攻略対象の救済措置で、そのキャラの好感度と記憶がリセットされる代わりに、似た容姿の別キャラとして生まれ変わるというもの。
「その姿に変わったということは、負の感情が消えて生まれ変われるってことさ」
ミカも穏やかに言う。
生まれ変われば、サキは過去を全て忘れる。
彼にとっては、それは救いだと思う。
「じゃあ、みんなで帰るか、天界へ」
「うん」
ケイに軽く肩を叩かれて、僕は振り向いて頷く。
サキを抱えて翼を広げ、空へ飛び立つ僕に大天使たちが続いた。
◇◆◇◆◇
天界の神殿・神の間。
きっと全て視ていたであろう神様は、サキを抱いて入ってきた僕を見て優しく微笑んだ。
「勇者よ、御苦労であった。水の大天使は転生させる故、安心するがいい」
「はい。ありがとうございます」
僕が差し出す亡骸を受け取った神様は、愛し子を抱く聖母のような慈愛に満ちた微笑みを浮かべる。
神様が口付けると、サキの身体は光の玉に変わり、僕の周囲を何度か回った後、神様の背後に立つ大木へと吸い込まれていった。
瑞々しい緑の葉を付けた大木の、あちこちに光が煌めいている。
その大木の名は、生命の樹。
天使たちは皆、そこから生まれる。
輪廻転生。
サキの転生者は、再び水の大天使として生まれてくるだろう。
記憶は無くても、その魂に水の大天使となる役割が刻まれているから。
サキ、どうか来世は幸せに。
忘れられてしまうのは寂しいけれど、サキが苦しい思いをするくらいなら、全て忘れてくれた方がいい。
来世では愛し合える人に出会って、幸せになってほしい。
生命の樹を見上げて、僕はそんなことを思っていた。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
早く惚れてよ、怖がりナツ
ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。
このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。
そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。
一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて…
那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。
ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩
《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》
産卵おじさんと大食いおじさんのなんでもない日常
丸井まー(旧:まー)
BL
余剰な魔力を卵として毎朝産むおじさんと大食らいのおじさんの二人のなんでもない日常。
飄々とした魔導具技師✕厳つい警邏学校の教官。
※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。全15話。
純白のレゾン
雨水林檎
BL
《日常系BL風味義理親子(もしくは兄弟)な物語》
この関係は出会った時からだと、数えてみればもう十年余。
親子のようにもしくは兄弟のようなささいな理由を含めて、少しの雑音を聴きながら今日も二人でただ生きています。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる