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第3章:天界と魔界
第28話:絶望の向こう側
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もう遅いって、何?
サキは何故あんな姿になったの?
僕もファーも捜索隊のメンバーも、思考がマトモに働かなかった。
その場に敵が1人いるってことを、一瞬忘れてしまうほどに。
ポンッと軽く背中を叩かれたと感じた直後、僕は急に呼吸ができなくなった。
「ボクの存在を忘れるなんて酷いな。ボクはそんなに影が薄いかい?」
「ヒロ!」
背後から聞こえる声も、慌てるファーの声も、やけに遠く感じる。
僕は、水の球体に閉じ込められていた。
口を開けても入ってくるのは水ばかり、肺を水が満たしていく。
何故?!
この水どっから湧いた?!
「こいつは貰っていくよ」
そんな声が聞こえる。
球体の外側の風景がいきなり変わった。
もがいても抜け出せない水の中、苦しさと酸素不足で頭がボウッとしてくる。
「君の弱点はサキ様から聞いたよ。直接ダメージを与えなければ反撃系は発動しないらしいね」
聞こえる声が、更に遠くなる。
サキが僕の弱点を敵に教えた?
何故?
ゴボッと吐いた泡が最後、僕の呼吸は完全に停止した。
肺の中はもう水でいっぱいだ。
身体の力が抜けて水の中を浮遊しながら、僕の意識は遠のいていった。
◇◆◇◆◇
公式ガイドにもアフレコ台本にも、フェイオは風魔法の使い手で、水を操るとは書いてない。
なのに、僕を捕らえたフェイオは、高度な水魔法を使った。
水といえば、サキが司るものだ。
ボンヤリと意識が戻ったとき、僕は誰かに唇を重ねられ、息を吹き込まれているところだった。
この唇は、ケイでもルウでもないと分かる。
ミカでもない。
でも、この唇の感触を、僕は知っている。
この世界で僕とキスをしたことがあるのは、あと2人。
エミルはチュートリアルフィールドから出られないから、もう1人の方。
僕が必死で探していた相手だ。
「もう意識が戻ったのか。治癒の力を使ってないのに回復が早いな」
「?!」
この声は、サキ?!
驚いて目を開けると、黒髪黒い瞳のサキがいた。
肺を満たしていた水は無くなっていて、呼吸ができる。
起き上がろうとしたら、胸に痛みを感じる。
背中の下には、バスタオルっぽい物が敷いてあるみたいだ。
服や靴は全部脱がされ、僕は床に仰向けで横たえられていた。
「動かないで。心臓マッサージしたばかりだから」
サキは僕を床からベッドまで抱き上げて寝かせた後、微笑みながらキスをしてくる。
僕は抵抗せずに、それを受け入れた。
「なんで……心臓マッサージ……?」
「君の心臓が止まってたから。死なないのは知ってるけど、治療したくて」
「キスで治せる……よね……?」
「もうできないよ。天使じゃないから」
まだ息が整わず、途切れがちに聞く僕に、サキは優しく頬を撫でながら答える。
天使じゃないと答えたときには、一瞬僕から目を逸らしたりした。
サキ、天使じゃないってどういうこと?
「レビヤタを倒してくれてありがとう。あいつがこの世から消え去ったと聞いてスッキリしたよ」
「サキ……さん?」
「『さん』は要らないよ。レビヤタを倒してくれた御褒美に、呼び捨てで敬語も使わなくていい」
声も顔も少年姿のサキだけど、違和感がある。
それは多分、喋り方の違いか。
サキ、オネエ言葉どこいった?!
「ん? 何か聞きたそうな顔だね。聞いてごらん、答えてあげるから」
「君は、誰?」
「名前を呼んだくせに何聞いてるの」
聞いてごらんと言うから疑問を投げかけると、クスクスと笑われてしまった。
笑った後、黒髪の少年は着ていたローブを脱いでベッドの隅に落とすと、白い裸体を全て晒して肌を重ね合わせてくる。
滑らかで温かい肌がピッタリとくっついてくるのが心地よい。
「ほら、これで分かる?」
問われて、僕は無言で頷いた。
スキル習得の修行(?)で何度も見て、触れ合った相手だ。
その肌触りや体温も、体つきや重さも、僕が知っている少年のサキと同じ。
「まだ身体が冷えているね。温めてあげるから、少し眠るといいよ」
僕に覆い被さっていたサキが隣へ移動して、優しく抱き締めながら頭や背中を撫でてくる。
慈しみが感じられる抱擁に身を任せながら、僕は眠りに落ちた。
仮眠と同じ短い眠りの後。
目覚めると、サキは同じ体勢で僕を抱き締めていた。
「やっぱり、君は回復が早いね」
目が合うと、サキは優しい笑みを浮かべる。
僕の呼吸は整っていて、胸を圧迫された痛みも消えていた。
「喋り方が違うし、髪や瞳の色が違うけど、君はサキなんだね?」
「こっちが本来の喋り方なんだよ。愛する人だけに話す喋り方ね。分かったなら、抱いて」
「唐突に話題をベッドシーンにもっていくところは、変わらないね」
「そりゃあ、大事だもの。特に今は早くヒロに抱かれたい。約束したよね? 今度は最後までしてくれるって。君の力をいっぱい注いで、この身体を満たしてほしい」
サキの眼差しは真剣で、必死な感じがする。
僕は最初に目覚めた時から服を脱がされた状態だし、サキも服を脱いでいる。
所謂スタンバイOKな状態だ。
サキは僕に【初めて】をくれると言った。
その相手は僕ではなくレビヤタになってしまったけど。
心を閉ざすほどの精神的ダメージを受けたサキは、僕に癒やしを求めているように見える。
レビヤタに犯された心の傷を治してほしいのかもしれない。
でも、僕には分かる。
「サキ、君は死ぬつもりだね?」
「!」
僕に見抜かれたことに、サキは驚いたように目を見開く。
今のサキは堕天使。
僕は人間でありながら、天使長の力が体内に満ちているので、力の質は天使と同じだ。
天使と堕天使は相反する存在であり、何度も交われば力を注がれた側が死ぬ。
天使だったサキが堕天使のレビヤタに繰り返し力を注がれて仮死状態になったように、堕天使になったサキに僕がもつ天使の力を注ぎ続ければサキは仮死状態となり、治癒の力も効かないので死に至る。
「残念。騙されてはくれないか」
「天使に戻ってくれたら、約束通り最後までするよ」
「無理。一度堕天したら、もう戻れない」
サキは僕から目を逸らし、目を伏せて寂しそうに笑う。
もう生きる気力が無いのだろうか?
僕と結ばれなくても、ウリと結ばれる未来があるのに。
未来を諦めて死を選ぶほど、サキは絶望してしまったらしい。
サキは何故あんな姿になったの?
僕もファーも捜索隊のメンバーも、思考がマトモに働かなかった。
その場に敵が1人いるってことを、一瞬忘れてしまうほどに。
ポンッと軽く背中を叩かれたと感じた直後、僕は急に呼吸ができなくなった。
「ボクの存在を忘れるなんて酷いな。ボクはそんなに影が薄いかい?」
「ヒロ!」
背後から聞こえる声も、慌てるファーの声も、やけに遠く感じる。
僕は、水の球体に閉じ込められていた。
口を開けても入ってくるのは水ばかり、肺を水が満たしていく。
何故?!
この水どっから湧いた?!
「こいつは貰っていくよ」
そんな声が聞こえる。
球体の外側の風景がいきなり変わった。
もがいても抜け出せない水の中、苦しさと酸素不足で頭がボウッとしてくる。
「君の弱点はサキ様から聞いたよ。直接ダメージを与えなければ反撃系は発動しないらしいね」
聞こえる声が、更に遠くなる。
サキが僕の弱点を敵に教えた?
何故?
ゴボッと吐いた泡が最後、僕の呼吸は完全に停止した。
肺の中はもう水でいっぱいだ。
身体の力が抜けて水の中を浮遊しながら、僕の意識は遠のいていった。
◇◆◇◆◇
公式ガイドにもアフレコ台本にも、フェイオは風魔法の使い手で、水を操るとは書いてない。
なのに、僕を捕らえたフェイオは、高度な水魔法を使った。
水といえば、サキが司るものだ。
ボンヤリと意識が戻ったとき、僕は誰かに唇を重ねられ、息を吹き込まれているところだった。
この唇は、ケイでもルウでもないと分かる。
ミカでもない。
でも、この唇の感触を、僕は知っている。
この世界で僕とキスをしたことがあるのは、あと2人。
エミルはチュートリアルフィールドから出られないから、もう1人の方。
僕が必死で探していた相手だ。
「もう意識が戻ったのか。治癒の力を使ってないのに回復が早いな」
「?!」
この声は、サキ?!
驚いて目を開けると、黒髪黒い瞳のサキがいた。
肺を満たしていた水は無くなっていて、呼吸ができる。
起き上がろうとしたら、胸に痛みを感じる。
背中の下には、バスタオルっぽい物が敷いてあるみたいだ。
服や靴は全部脱がされ、僕は床に仰向けで横たえられていた。
「動かないで。心臓マッサージしたばかりだから」
サキは僕を床からベッドまで抱き上げて寝かせた後、微笑みながらキスをしてくる。
僕は抵抗せずに、それを受け入れた。
「なんで……心臓マッサージ……?」
「君の心臓が止まってたから。死なないのは知ってるけど、治療したくて」
「キスで治せる……よね……?」
「もうできないよ。天使じゃないから」
まだ息が整わず、途切れがちに聞く僕に、サキは優しく頬を撫でながら答える。
天使じゃないと答えたときには、一瞬僕から目を逸らしたりした。
サキ、天使じゃないってどういうこと?
「レビヤタを倒してくれてありがとう。あいつがこの世から消え去ったと聞いてスッキリしたよ」
「サキ……さん?」
「『さん』は要らないよ。レビヤタを倒してくれた御褒美に、呼び捨てで敬語も使わなくていい」
声も顔も少年姿のサキだけど、違和感がある。
それは多分、喋り方の違いか。
サキ、オネエ言葉どこいった?!
「ん? 何か聞きたそうな顔だね。聞いてごらん、答えてあげるから」
「君は、誰?」
「名前を呼んだくせに何聞いてるの」
聞いてごらんと言うから疑問を投げかけると、クスクスと笑われてしまった。
笑った後、黒髪の少年は着ていたローブを脱いでベッドの隅に落とすと、白い裸体を全て晒して肌を重ね合わせてくる。
滑らかで温かい肌がピッタリとくっついてくるのが心地よい。
「ほら、これで分かる?」
問われて、僕は無言で頷いた。
スキル習得の修行(?)で何度も見て、触れ合った相手だ。
その肌触りや体温も、体つきや重さも、僕が知っている少年のサキと同じ。
「まだ身体が冷えているね。温めてあげるから、少し眠るといいよ」
僕に覆い被さっていたサキが隣へ移動して、優しく抱き締めながら頭や背中を撫でてくる。
慈しみが感じられる抱擁に身を任せながら、僕は眠りに落ちた。
仮眠と同じ短い眠りの後。
目覚めると、サキは同じ体勢で僕を抱き締めていた。
「やっぱり、君は回復が早いね」
目が合うと、サキは優しい笑みを浮かべる。
僕の呼吸は整っていて、胸を圧迫された痛みも消えていた。
「喋り方が違うし、髪や瞳の色が違うけど、君はサキなんだね?」
「こっちが本来の喋り方なんだよ。愛する人だけに話す喋り方ね。分かったなら、抱いて」
「唐突に話題をベッドシーンにもっていくところは、変わらないね」
「そりゃあ、大事だもの。特に今は早くヒロに抱かれたい。約束したよね? 今度は最後までしてくれるって。君の力をいっぱい注いで、この身体を満たしてほしい」
サキの眼差しは真剣で、必死な感じがする。
僕は最初に目覚めた時から服を脱がされた状態だし、サキも服を脱いでいる。
所謂スタンバイOKな状態だ。
サキは僕に【初めて】をくれると言った。
その相手は僕ではなくレビヤタになってしまったけど。
心を閉ざすほどの精神的ダメージを受けたサキは、僕に癒やしを求めているように見える。
レビヤタに犯された心の傷を治してほしいのかもしれない。
でも、僕には分かる。
「サキ、君は死ぬつもりだね?」
「!」
僕に見抜かれたことに、サキは驚いたように目を見開く。
今のサキは堕天使。
僕は人間でありながら、天使長の力が体内に満ちているので、力の質は天使と同じだ。
天使と堕天使は相反する存在であり、何度も交われば力を注がれた側が死ぬ。
天使だったサキが堕天使のレビヤタに繰り返し力を注がれて仮死状態になったように、堕天使になったサキに僕がもつ天使の力を注ぎ続ければサキは仮死状態となり、治癒の力も効かないので死に至る。
「残念。騙されてはくれないか」
「天使に戻ってくれたら、約束通り最後までするよ」
「無理。一度堕天したら、もう戻れない」
サキは僕から目を逸らし、目を伏せて寂しそうに笑う。
もう生きる気力が無いのだろうか?
僕と結ばれなくても、ウリと結ばれる未来があるのに。
未来を諦めて死を選ぶほど、サキは絶望してしまったらしい。
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