上 下
6 / 51
第1章:ヒロとケイ

第4話:ログイン

しおりを挟む
 フルダイブ型のゲームは、プレイヤーの意識をゲームサーバーにログインさせて遊ぶゲームだ。
 ログイン中は、意識がゲームキャラとリンクしていて、現実世界では眠っているような状態になる。
 通常ならそのリンクはプレイヤーが自由にOFFできて、現実世界に戻れるんだけど。
 ケイは何故戻れないんだろう?

「ケイ、今からそちらへ行くよ」

 病院の消灯時刻になり、僕はパジャマに着替えると、ケイのベッドに潜り込んだ。
 声をかけてみたけれど、ケイの返事は無い。
 口付けても、ケイの唇は全く動かなかった。
 でも、重ねた唇も、抱き締めた身体も、温かい。
 微かに開いた唇から、吐息も漏れてくる。
 胸に耳を当てれば、心臓の音も聞こえた。

 ケイは間違いなく生きている。

 僕は2つの指輪の片方をケイの指に、もう片方を自分の指に装着すると、目を閉じて「ログイン」と念じた。
 脳からの信号を指輪が受信し、僕の意識はログインフィールドに向かう。

【天使と珈琲を】のログインフィールドは、青い空と白い雲が広がり、ゲームスタート前のプレイヤーはまだ白い光の玉で肉体は無い。
 これから作成する身体が、自分のキャラクターとなる。

『性別を選んで下さい』

 ガイド音声は、僕の声だ。
 主人公は台詞が少ないので、僕はゲームのガイド音声も担当している。

 性別は自由に選択できるけれど、女性や無性別を選ぶと、その時点で全ての攻略ルートからはずれる。
 この場合プレイヤーキャラクターはボイス無し、NPCの声だけを聞くことができる。
 なんでそんな選択肢があるのかっていうと、このゲームのターゲットは御腐人のみなさんだからだ。
 自分がBLの当事者にならず、NPCたちの恋愛を後押しして楽しみたいプレイヤーもいるらしい。
 僕はルウを攻略するから、性別は男性を選択した。

『容姿を選択して下さい』

 主人公は基本的に攻略対象に愛されるように設定されているので、容姿の選択肢は美形が多い。
 僕は色白の中性的な顔立ちと細身の身体を選び、髪と瞳の色は空色を選んだ。
 顔と身体は、開発チー厶が主人公のCVを担当した僕の容姿をモデルにしたもの。
 髪と瞳は、ケイが好きな色だ。

『メインストーリーでの年齢を設定して下さい』

 このゲームはチュートリアルではみんな子供で、メインストーリーが始まると設定した年齢に変わる。
 年齢は幅広く、10歳から100歳まであるよ。
 僕は自分の年齢よりも若い、15歳を選択した。
 これで僕の容姿は、3年前の自分に似たものになった。
 15歳は、ケイに想いを打ち明けた歳だ。

 ケイは僕と暮らし始めた日から、「愛してる」と言ってくれていた。
 それは多分、家族としての愛だったんだろう。
 僕も最初はケイを慕う気持ちを保護者への愛情だと思っていた。
 それが恋人への愛情に変わったのは、中学生になった頃のこと。


「ヒロ、そろそろ彼女できたか? できたら紹介しろよ」

 僕の15歳の誕生日。
 ケイは何気なく聞いた感じだった。

 僕は、死ぬまでずっとケイと2人で暮らしたいって思っていた。
 誰か他の人を愛して、その人と暮らすなんて絶対嫌だ。

「彼女なんていらない。僕はずっとアニキと一緒にいたい」

 だからそう答えた。
 ケイはキョトンとした後、凄く嬉しそうな顔になって、それからちょっと僕の気持ちを探るように聞いた。

「それは、恋愛なんかしたくないのか、俺の恋人になりたいのか、どっちだ?」

 子供のままで甘えていたいのか、恋人として愛したいのか。
 ケイに問われて、考えて、自分の気持ちに気付いた。

「僕は、恋人になりたい」
「なら、キスできるか?」

 答えたら、すぐにまた聞かれた。
 もしかしたらケイは、僕の答えを分かっていたのかもしれない。

 照れは少しあった。
 でも、迷いは無かった。
 僕はケイの唇にファーストキスを捧げて、以来ずっと恋人として寄り添っている。

 せっかく幸せだったのに、ケイを失ってたまるか。
 必ずケイを助けて帰る!

 キャラクター作成を終えた僕は、強い思いを抱きながら、チュートリアルフィールドへ移動した。


 翌朝にはログアウトして現実世界に戻るつもりだけど、念のため病室のテーブルに書き置きを残しておいたよ。


 病院スタッフのみなさんへ
 ケイの状態について調べたいことがあるので、試作品のゲームにログインしています。
 昏睡ではないので、心配しないで下さい。


 まあ、大体こんな感じで書いておけば分かってくれるだろう。

 フルダイブ型のゲームは今ではもう珍しくはない。
 過去には、ゲームサーバーの不具合でプレイヤーが現実世界に戻れなくなる事態もあった。
 病院関係者なら、この書き置きで僕の状態を把握する筈。
 同時に、ケイがもしかしたら他の人が見ていない時にゲームにログインしたのかもって考えるだろう。

 とはいえ、ケイがゲーム世界に入った経緯は異常だ。
 本人の意思とは無関係、ログインアイテムを使わずに【天使と珈琲を】の世界に入っている。
 本来ならログインすれば主人公(プレイヤーキャラクター)の中に入るのに、攻略対象(ノンプレイヤーキャラクター)の中に入っている。
 しかも、ログアウトができないという。

 ケイの意志ではないなら、誰の仕業?
 ゲームの中にケイを閉じ込めて、何がしたいのか?
 それもルウを攻略していれば、分かるのかもしれない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。 このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。 そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。 一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて… 那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。 ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩 《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》

産卵おじさんと大食いおじさんのなんでもない日常

丸井まー(旧:まー)
BL
余剰な魔力を卵として毎朝産むおじさんと大食らいのおじさんの二人のなんでもない日常。 飄々とした魔導具技師✕厳つい警邏学校の教官。 ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。全15話。

「優秀で美青年な友人の精液を飲むと頭が良くなってイケメンになれるらしい」ので、友人にお願いしてみた。

和泉奏
BL
頭も良くて美青年な完璧男な友人から液を搾取する話。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

風そよぐ

chatetlune
BL
工藤と良太、「花を追い」のあとになります。 ようやく『田園』の撮影も始まったが、『大いなる旅人』の映画化も決まり、今度は京都がメイン舞台だが、工藤は相変わらずあちこち飛び回っているし、良太もドラマの立ち合いや、ドキュメンタリー番組制作の立ち合いや打ち合わせの手配などで忙しい。そこにまた、小林千雪のドラマが秋に放映予定ということになり、打ち合わせに現れた千雪も良太も疲労困憊状態で………。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...