星の海、月の船

BIRD

文字の大きさ
上 下
97 / 99
第9章:世代交代

第85話:滅びた文明

しおりを挟む
メンタル的な問題で喋れないまま大人になってしまったアニムス。
意図せずに罪もない人々の命を奪ってしまった記憶は、消えない心の傷となって彼の声を封じている。
アルビレオからの報告では、大人になってからは夜中に悪夢を見て苦しんだりはしていないそうだけど。
失語症があるうちは、まだ精神的に苦しんでいるのかもしれない。

 宇宙船アルビレオ号
 艦長トオヤ・ユージアライトの日記より



その惑星ほしの文明は、既に滅びていた。
砂漠と化した大地、干上がった海。
生き物の姿は無く、都市の残骸と思われる瓦礫があるのみ。

かつて、地球人も犯した過ち。
知的生命体が放った大きすぎる力によって、壊滅的なダメージを受けたその星は死の世界となってしまっている。

「まるで、【核の冬】の地球みたいだね」

生命反応が1つも無い惑星。
その上空を飛行するアルビレオ号、その艦長室を展望モードに切り替えて地上を見下ろしながら、トオヤは呟く。
他の乗組員たちも白鳥型の宇宙船の胸元にある展望デッキに集まり、広がる砂漠を見つめていた。


砂漠の惑星。
かつて栄えた文明の民から【エバネセ】と呼ばれた星。
探索チームのカール、チアルム、アニムスの3名は、アルビレオによる環境適応化オプティマイズを受けて、生物が滅びて久しい場所に降下した。

「アニムスが気配を感じたというのは、この辺り?」
『うん』
「生命反応は感じないから、生き物ではないのかもしれないね」

3人はそんな会話を交わしながら、果てが見えない砂漠の上空を飛行していた。
白い翼をはばたかせるチアルムがカールを抱えて飛び、念動力による浮遊移動レビテーションが使えるアニムスが並ぶ。

異なる星に生まれた少年たちは大人になり、移民団の惑星調査メンバーになった。
防壁と気配探知を担うのが、アクウァ星人のカール。
メンバーの運搬と回復を担うのが、アーラ星人のチアルム。
強力なサイキックによって、メンバーに害なすものを片付けるのがアニムス。
3人は統制のとれたチームとして、トオヤ艦長から信頼を寄せられている。

『あ、見つけた。あそこだよ』

未だアニムスは音声会話が出来ず、精神感応テレパシーによる会話に頼っていた。
その原因はメンタル的なもので、肉体に障害があるわけではない。

「遺跡……塔かな?」
「降りてみよう。念のため防壁は展開しておくよ」

青年たちは地上へ降りて、古い建造物に近付いてみた。
円筒形の建築物が、斜めに傾いた状態で砂漠の砂に半ば埋もれている。
彼らが地球人であったなら、ピサの斜塔を連想したかもしれない。

『あっちに誰かいるよ』
「気を付けて。僕には探知出来ないものみたいだ」

気配探知を続けるカールには発見出来ない何かを、アニムスは感じ取っている。
防壁に護られながら建物内を進む3人の前方に、高度な文明を思わせる設備が見えてきた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

片翅の火蝶 ▽半端者と蔑まれていた蝶が、蝋燭頭の旦那様に溺愛されるようです▽

偽月
キャラ文芸
  「――きっと、姉様の代わりにお役目を果たします」  大火々本帝国《だいかがほんていこく》。通称、火ノ本。  八千年の歴史を誇る、この国では火山を神として崇め、火を祀っている。国に伝わる火の神の伝承では、神の怒り……噴火を鎮めるため一人の女が火口に身を投じたと言う。  人々は蝶の痣を背負った一族の女を【火蝶《かちょう》】と呼び、火の神の巫女になった女の功績を讃え、祀る事にした。再び火山が噴火する日に備えて。  火縄八重《ひなわ やえ》は片翅分の痣しか持たない半端者。日々、お蚕様の世話に心血を注ぎ、絹糸を紡いできた十八歳の生娘。全ては自身に向けられる差別的な視線に耐える為に。  八重は火蝶の本家である火焚家の長男・火焚太蝋《ほたき たろう》に嫁ぐ日を迎えた。  火蝶の巫女となった姉・千重の代わりに。  蝶の翅の痣を背負う女と蝋燭頭の軍人が織りなす大正ロマンスファンタジー。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

AV研は今日もハレンチ

楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo? AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて―― 薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

処理中です...