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第3章:翼の惑星
第22話:翼人の本能
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僕たちと話した残留思念は、カエルムという名の青年だった。
カエルムは、現在の惑星アーラに知的生命体が2系統いる事を教えてくれた。
過去アルビレオ号との交流があったのは、背中に白い鳥の翼を持つ翼人と呼ばれる種族。
翼人は穏やかで友好的な民族だった、とアルビレオのデータには残されている。
彼等を襲った吸血族は、元は翼人だった者が変異した種族。
翼人の女性を連れ去ったのは、自らの繁殖に使うつもりらしい。
卵は孵化させる際に最初に見た者を親として認識させる【刷り込み】を行い、抵抗せずに血を吸わせる者にする気だろうとの事だった。
カエルムの依頼を受けて、僕は吸血族の元から脱走中の翼人の子の保護に向かった。
宇宙船アルビレオ号
艦長トオヤ・ユージアライトの日記より
トオヤたちがカエルムの残留思念と会う以前。
白い翼の少年が、黒い翼の大人たちを避けるように壁際で震えていた。
衣服は身に着けておらず、髪や翼は羊水で濡れている。
部屋の中央には、少年がさっきまで入っていた大きな卵の殻が転がっていた。
大人たちが近付こうとすると、少年は意外に素早い動きで走って逃げ回る。
「刷り込みが効かんな」
「どういう事だ?」
男たちが顔をしかめる。
黒い翼は吸血族、元は同族である翼人を襲って血をすするようになり、白かった翼が黒く変色してしまった者たち。
彼等のうち1人は、卵から孵った少年に姿を見せて【刷り込み】をしようとしたが、全く効果が無く苛立っていた。
「こいつの母親はどうした?」
「美しいからコメスさんが自分の物にすると言って連れて行っちまったよ」
そんな会話を、少年は怯えながら聞いていた。
言葉はまだ話せないが、なんとなく話している事は分る。
翼人は早成性の鳥と同じで、ある程度成熟して生まれてくる。
孵化間もない彼は、赤ん坊ではなく自力歩行出来る子供の姿をしていた。
「駄目だな。ガスを使うか」
「その方が早そうだな」
黒い翼の大人たちが、全員部屋の外へ出てゆく。
気密性の高い扉が閉められた。
しばらくして、壁際に身を寄せていた少年は、何かが噴射され始めた音に気付く。
天井から吹き出す白い気体、密閉された空間でそれから逃れる術は無い。
気化した睡眠導入剤が室内に満ち、少年は意識を奪われた。
「運び出せ」
隣室のモニターで少年を観察していた男の1人が、傍らに控えていた機人と呼ばれるアンドロイドに似た物に命じる。
機人は翼の無い人型で、無表情のまま動いて少年が倒れている室内に入ってゆく。
少年は深い眠りに落とされていて、機人に触れられても全く動かない。
抱き上げられた身体には全く力が入らず、クタリと手足や頭が下がった。
機人は少年を抱いて部屋から出ると、廊下を進んでゆく。
薬で眠らされながら少年は屋外へ運び出され、そこに停車している輸送車の檻に入れられた。
森の中を進む、輸送車の中。
『……目を覚まして、私の可愛い坊や……』
檻の中で眠り続ける少年の精神に、優しい女性の【声】が流れ込む。
『あなたには生まれる前から真名がある。翼人の本能には縛られない』
その【声】に反応して、少年はぼんやりとしながら目を開けた。
起き上がって見ると、檻の中には少年と同じ年頃の子供たちが座っていた。
その子らの目は虚ろで、どこを見ているのか分からない感じがする。
『逃げるなら今よ。急いで!』
少年の前に、1枚の白い羽根が舞い落ちる。
それは実体ではなく、幻のような1枚。
白い羽根が淡く光を放ち、少年の近くの鉄格子が砂のように崩れて消えた。
『行きなさい。あなたを助けてくれる人がいるわ』
その言葉に後押しされたように、少年は翼を広げ、勢いよく空へ飛び立った。
カエルムは、現在の惑星アーラに知的生命体が2系統いる事を教えてくれた。
過去アルビレオ号との交流があったのは、背中に白い鳥の翼を持つ翼人と呼ばれる種族。
翼人は穏やかで友好的な民族だった、とアルビレオのデータには残されている。
彼等を襲った吸血族は、元は翼人だった者が変異した種族。
翼人の女性を連れ去ったのは、自らの繁殖に使うつもりらしい。
卵は孵化させる際に最初に見た者を親として認識させる【刷り込み】を行い、抵抗せずに血を吸わせる者にする気だろうとの事だった。
カエルムの依頼を受けて、僕は吸血族の元から脱走中の翼人の子の保護に向かった。
宇宙船アルビレオ号
艦長トオヤ・ユージアライトの日記より
トオヤたちがカエルムの残留思念と会う以前。
白い翼の少年が、黒い翼の大人たちを避けるように壁際で震えていた。
衣服は身に着けておらず、髪や翼は羊水で濡れている。
部屋の中央には、少年がさっきまで入っていた大きな卵の殻が転がっていた。
大人たちが近付こうとすると、少年は意外に素早い動きで走って逃げ回る。
「刷り込みが効かんな」
「どういう事だ?」
男たちが顔をしかめる。
黒い翼は吸血族、元は同族である翼人を襲って血をすするようになり、白かった翼が黒く変色してしまった者たち。
彼等のうち1人は、卵から孵った少年に姿を見せて【刷り込み】をしようとしたが、全く効果が無く苛立っていた。
「こいつの母親はどうした?」
「美しいからコメスさんが自分の物にすると言って連れて行っちまったよ」
そんな会話を、少年は怯えながら聞いていた。
言葉はまだ話せないが、なんとなく話している事は分る。
翼人は早成性の鳥と同じで、ある程度成熟して生まれてくる。
孵化間もない彼は、赤ん坊ではなく自力歩行出来る子供の姿をしていた。
「駄目だな。ガスを使うか」
「その方が早そうだな」
黒い翼の大人たちが、全員部屋の外へ出てゆく。
気密性の高い扉が閉められた。
しばらくして、壁際に身を寄せていた少年は、何かが噴射され始めた音に気付く。
天井から吹き出す白い気体、密閉された空間でそれから逃れる術は無い。
気化した睡眠導入剤が室内に満ち、少年は意識を奪われた。
「運び出せ」
隣室のモニターで少年を観察していた男の1人が、傍らに控えていた機人と呼ばれるアンドロイドに似た物に命じる。
機人は翼の無い人型で、無表情のまま動いて少年が倒れている室内に入ってゆく。
少年は深い眠りに落とされていて、機人に触れられても全く動かない。
抱き上げられた身体には全く力が入らず、クタリと手足や頭が下がった。
機人は少年を抱いて部屋から出ると、廊下を進んでゆく。
薬で眠らされながら少年は屋外へ運び出され、そこに停車している輸送車の檻に入れられた。
森の中を進む、輸送車の中。
『……目を覚まして、私の可愛い坊や……』
檻の中で眠り続ける少年の精神に、優しい女性の【声】が流れ込む。
『あなたには生まれる前から真名がある。翼人の本能には縛られない』
その【声】に反応して、少年はぼんやりとしながら目を開けた。
起き上がって見ると、檻の中には少年と同じ年頃の子供たちが座っていた。
その子らの目は虚ろで、どこを見ているのか分からない感じがする。
『逃げるなら今よ。急いで!』
少年の前に、1枚の白い羽根が舞い落ちる。
それは実体ではなく、幻のような1枚。
白い羽根が淡く光を放ち、少年の近くの鉄格子が砂のように崩れて消えた。
『行きなさい。あなたを助けてくれる人がいるわ』
その言葉に後押しされたように、少年は翼を広げ、勢いよく空へ飛び立った。
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