376 / 428
翔が書いた物語
第27話:ファルスの里
しおりを挟む
白夜の太陽光と巨大な地割れに守られる聖域の外。
青空だけが唯一の救いに過ぎない、広大な砂漠が広がっている。
「見て」
リオの肩に触れている妖精の少女が、眼下を指差した。
「水の妖精が清められたから、大地が潤い始めているわ」
言われて目をこらすと、砂色の地表にポツポツと小さな染みの様な若緑色をした部分が見える。
更に南へ進むと、彼方に枯れ草の茂みに似た茶色の塊が見えてきた。
「あれが……ファルスの森……です……」
骨張った手でそれを指し示し、金茶色の髪をした少年が途切れ途切れに言う。
茶色の長衣を纏った身体は、未だ死人のように冷たい。
(……治癒の力が効かない……何故?)
落ちないように抱き締めている少年に視線を向け、リオは眉を寄せた。
青ざめた顔や関節の浮き出た手足が痛々しくて、先刻から何度も癒しの力を使っている。
けれど、衰弱した身体は一向に回復しない。
「大丈夫? どこか痛かったり苦しかったりしてない?」
「大丈夫です。こうして抱いてもらっていると温かくて気持ちいいです」
リオが心配して問いかけると、少年は微笑んで答えた。
さりげなく手首の脈を調べると、不規則で弱々しく、時折フッと途切れたりしてヒヤリとした。
呼吸は、眠っている者よりずっと遅い。
息を吸ってから吐くまでが遅すぎて、本当に息をしているのかと心配になる。
体温に関してはよく判らない。
鷹の状態で飛翔してきた直後からずっと冷たいままなので、健康な時は温かいのかどうかは不明。
エルティシアに来てから日数が経ち、自分の中にある【力】を自由に使えるようになったリオだが、鷹から変化したこの少年を全く癒す事が出来なかった。
頼みの綱であるリュシアの意識も、何やら思案しているらしく、表面に出てこない。
(この子を回復させられないのに、僕が何の助けになるっていうんだ?)
伏し目がちな黒い瞳が、微かに揺れる。
オルジェ達の前では強気なふりをしたが、実際のところ自信は無かった。
育った環境の違いか、リオは前世ほど強い意思をもっていない。
ただ、助けを求められれば精一杯の事をしようという気持ちは共通だ。
だから今、彼はファルスの里を目指している。
「……あそこへ……降りて……」
前方に見えてきた茶色の塊が、荒野に在る立ち枯れの森だと分かる所まで近付くと、リオに抱かれた少年が、また途切れがちに言って、その中央部を指差した。
「分かった」
妖精の友である少年が頷くと、風は向きを変え、地上へと下降し始める。
密集した枯れ木が次第に近付き、乾いた枝先が僅かな風にパラパラと砕け散る。
やがて、森の中央に在る石造りの家々が、少年たちの視界に姿を現した。
青空だけが唯一の救いに過ぎない、広大な砂漠が広がっている。
「見て」
リオの肩に触れている妖精の少女が、眼下を指差した。
「水の妖精が清められたから、大地が潤い始めているわ」
言われて目をこらすと、砂色の地表にポツポツと小さな染みの様な若緑色をした部分が見える。
更に南へ進むと、彼方に枯れ草の茂みに似た茶色の塊が見えてきた。
「あれが……ファルスの森……です……」
骨張った手でそれを指し示し、金茶色の髪をした少年が途切れ途切れに言う。
茶色の長衣を纏った身体は、未だ死人のように冷たい。
(……治癒の力が効かない……何故?)
落ちないように抱き締めている少年に視線を向け、リオは眉を寄せた。
青ざめた顔や関節の浮き出た手足が痛々しくて、先刻から何度も癒しの力を使っている。
けれど、衰弱した身体は一向に回復しない。
「大丈夫? どこか痛かったり苦しかったりしてない?」
「大丈夫です。こうして抱いてもらっていると温かくて気持ちいいです」
リオが心配して問いかけると、少年は微笑んで答えた。
さりげなく手首の脈を調べると、不規則で弱々しく、時折フッと途切れたりしてヒヤリとした。
呼吸は、眠っている者よりずっと遅い。
息を吸ってから吐くまでが遅すぎて、本当に息をしているのかと心配になる。
体温に関してはよく判らない。
鷹の状態で飛翔してきた直後からずっと冷たいままなので、健康な時は温かいのかどうかは不明。
エルティシアに来てから日数が経ち、自分の中にある【力】を自由に使えるようになったリオだが、鷹から変化したこの少年を全く癒す事が出来なかった。
頼みの綱であるリュシアの意識も、何やら思案しているらしく、表面に出てこない。
(この子を回復させられないのに、僕が何の助けになるっていうんだ?)
伏し目がちな黒い瞳が、微かに揺れる。
オルジェ達の前では強気なふりをしたが、実際のところ自信は無かった。
育った環境の違いか、リオは前世ほど強い意思をもっていない。
ただ、助けを求められれば精一杯の事をしようという気持ちは共通だ。
だから今、彼はファルスの里を目指している。
「……あそこへ……降りて……」
前方に見えてきた茶色の塊が、荒野に在る立ち枯れの森だと分かる所まで近付くと、リオに抱かれた少年が、また途切れがちに言って、その中央部を指差した。
「分かった」
妖精の友である少年が頷くと、風は向きを変え、地上へと下降し始める。
密集した枯れ木が次第に近付き、乾いた枝先が僅かな風にパラパラと砕け散る。
やがて、森の中央に在る石造りの家々が、少年たちの視界に姿を現した。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
REN~性悪王子と夏色の推理室(アトリエ)~
天那 光汰
キャラ文芸
主人公の佐藤梨香は友人に連れられて行った美術展で一枚の絵に一目惚れする。その絵を描いた画家のRENは、日本人である以外は性別も年齢も非公開という謎の人物だった。
謎の天才画家に思いを馳せる中、ある日梨香は同じ学年のイケメン速水蓮太郎と廊下でぶつかってしまう。しかしこの速水、顔こそいいものの性格が最悪なとんでもない男で……そんな速水から、なぜか梨香は「お前、美しいな」と猛烈アプローチを受けるのだった。
「――脱げ」
「へ?」
なし崩し的に部屋に連れ込まれた梨香は、そこで速水の意外な一面を知ることになる。
性悪イケメンの速水と平凡な女子高生の梨香が送る、青春ドタバタ学園事変。お暇つぶしどうぞお読みください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
→賛否分かれる面白いショートストーリー(1分以内で読了限定)
ノアキ光
大衆娯楽
(▶アプリ無しでも読めます。 目次の下から読めます)
見ていただきありがとうございます。
1分前後で読めるショートストーリーを投稿しています。
不思議なことに賛否分かれる作品で、意外なオチのラストです。
ジャンルはほとんど現代で、ほのぼの、感動、恋愛、日常、サスペンス、意外なオチ、皮肉、オカルト、ヒネリのある展開などです。
日ごとに違うジャンルを書いていきますので、そのときごとに、何が出るか楽しみにしていただければ嬉しいです。
(作品のもくじの並びは、上から順番に下っています。最新話は下になります。読んだところでしおりを挟めば、一番下までスクロールする手間が省けます)
また、好みのジャンルだけ読みたい方は、各タイトル横にジャンル名を入れますので、参考にしていただければ、と思います。
短いながら、よくできた作品のみ投稿していきますので、よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる