209 / 428
前世編
第87話:完全回避が及ぶもの
しおりを挟む
アサケ王国から北方の大陸、雪と氷に閉ざされた国アマギ。
3つ目の魔王の心臓は、樹氷と雪に覆われた森の奥にあった。
大きな岩と岩の隙間に隠されていた黒水晶。
コッコが事前調査をして場所を突き止め、アズとロコが雑魚を一掃し、心臓がある場所に着いたらアズの魔道具に呼ばれたエカが転送されて爆裂魔法を使う。
「爆破消滅!」
現れた分身はアズによってあっさり片付けられ、エカの爆裂魔法が黒水晶を粉砕した。
「次、探してくるね」
魔王の心臓はあと3つ、コッコはすぐ次の探索へ向かう。
いつ睡眠や食事をとってるのか心配になるところだけど、隠密科の生徒は異空間に身をひそめる特殊スキルがあるそうで、休憩はそこでとってるらしい。
「俺もアズと一緒に魔族殲滅出来たらいいのに」
「エカがいたら魔族みんな俺を無視してそっちへ行っちゃうよ」
「猫人に変身しとけばバレないんじゃないか?」
「魔法を使ったら即バレるよ。魔力が猫人レベルじゃないし」
前線に出たいエカの言葉は、アズの苦笑で返された。
膨れっ面のエカの頭を撫でるアズが、双子の弟というより年上のお兄さんぽく感じるのはなんでだろう?
エカと同じ年頃の子供に見えるけど、アズは時間の流れが違う修行空間で、どれほどの時を過ごしたんだろうか。
そんなアズに宥められて、エカは渋々アサケ王城へ帰った。
ボクとベノワは念話を繋いだままにして、何かあればすぐ対応出来るように備えてる。
瞬時に移動出来る魔道具を持っていても、起きた事に気付かなかったら何も出来ないからね。
「やっと半分片付いたってところね」
「クゥン」
ロコに相槌を打つように、ルルがアズの懐から顔を出して鳴いた。
世界樹の使徒としてアマギ王家から最大限のもてなしを受けるアズとロコは、コッコが魔王の心臓を見つけるまでアマギ王城の離宮を提供されている。
「ルルはいいわね、世界一安全な場所を確保出来て」
「ワンッ」
なんだか、ロコとルルで会話が成立してるような?
ルルはアズのペットという扱いで、仔犬姿を維持してる。
異世界人の創作の産物と言われるケモミミ姿になってしまうと、説明が面倒だからね。
「ねぇアズ、貴方の完全回避の有効範囲ってどうなってるの?」
ロコはアズにも話を振った。
「着てる服や手に触れてるもので、俺が敵と認識していないものなら効果が及ぶと思います」
「ふぅん」
アズは少し考えて答える。
魔王や魔族など敵対者には無効らしい。
敵対しているものにまで効果が及んだら倒せなくなるものね。
その答えを聞いて何か考える様子のロコ。
「ちょっと試してみていい?」
そう言うと、ロコはお茶のおかわりを淹れてくれている侍女に頼んで、シーツを1枚持って来てもらった。
受け取ったシーツを庭園の植え込みに被せると、ロコは手招きでアズを呼ぶ。
アズが近くへ行くと、ロコはシーツの端を手渡した。
「これ持っててね」
「はい」
アズが素直に従い、シーツの端を持ったまま立っていると、ロコはシーツの上にお茶の入ったカップを投げる。
見ていた侍女がギョッとするが、アズは動じない。
投げられたカップのお茶は空中に放たれるけど、シーツにかかる前に落下が止まり、反転してカップに戻ってゆく。
お茶が戻ったカップもシーツを避けるように反転して、ロコの手に戻っていった。
「ふぅん、こうなるのね」
興味深そうにカップを見つめるロコ。
侍女は理解しきれない現象に呆然としていた。
「このシーツ、しばらく借りてもいいかしら?」
「は、はい。使徒様になら陛下は何枚でも許可される筈です」
ロコに微笑みかけられて、侍女は困惑しつつも答える。
「ありがとう。アズ、これは貴方の異空間倉庫で保管しておきなさい」
「はい」
ロコにシーツを渡されたアズと、ベノワとボクは、なんとなく意図が分かった。
端を持つだけで完全回避の効果が及ぶ、大きな1枚布。
それはいざという時、仲間を護る防壁代わりになるだろうね。
3つ目の魔王の心臓は、樹氷と雪に覆われた森の奥にあった。
大きな岩と岩の隙間に隠されていた黒水晶。
コッコが事前調査をして場所を突き止め、アズとロコが雑魚を一掃し、心臓がある場所に着いたらアズの魔道具に呼ばれたエカが転送されて爆裂魔法を使う。
「爆破消滅!」
現れた分身はアズによってあっさり片付けられ、エカの爆裂魔法が黒水晶を粉砕した。
「次、探してくるね」
魔王の心臓はあと3つ、コッコはすぐ次の探索へ向かう。
いつ睡眠や食事をとってるのか心配になるところだけど、隠密科の生徒は異空間に身をひそめる特殊スキルがあるそうで、休憩はそこでとってるらしい。
「俺もアズと一緒に魔族殲滅出来たらいいのに」
「エカがいたら魔族みんな俺を無視してそっちへ行っちゃうよ」
「猫人に変身しとけばバレないんじゃないか?」
「魔法を使ったら即バレるよ。魔力が猫人レベルじゃないし」
前線に出たいエカの言葉は、アズの苦笑で返された。
膨れっ面のエカの頭を撫でるアズが、双子の弟というより年上のお兄さんぽく感じるのはなんでだろう?
エカと同じ年頃の子供に見えるけど、アズは時間の流れが違う修行空間で、どれほどの時を過ごしたんだろうか。
そんなアズに宥められて、エカは渋々アサケ王城へ帰った。
ボクとベノワは念話を繋いだままにして、何かあればすぐ対応出来るように備えてる。
瞬時に移動出来る魔道具を持っていても、起きた事に気付かなかったら何も出来ないからね。
「やっと半分片付いたってところね」
「クゥン」
ロコに相槌を打つように、ルルがアズの懐から顔を出して鳴いた。
世界樹の使徒としてアマギ王家から最大限のもてなしを受けるアズとロコは、コッコが魔王の心臓を見つけるまでアマギ王城の離宮を提供されている。
「ルルはいいわね、世界一安全な場所を確保出来て」
「ワンッ」
なんだか、ロコとルルで会話が成立してるような?
ルルはアズのペットという扱いで、仔犬姿を維持してる。
異世界人の創作の産物と言われるケモミミ姿になってしまうと、説明が面倒だからね。
「ねぇアズ、貴方の完全回避の有効範囲ってどうなってるの?」
ロコはアズにも話を振った。
「着てる服や手に触れてるもので、俺が敵と認識していないものなら効果が及ぶと思います」
「ふぅん」
アズは少し考えて答える。
魔王や魔族など敵対者には無効らしい。
敵対しているものにまで効果が及んだら倒せなくなるものね。
その答えを聞いて何か考える様子のロコ。
「ちょっと試してみていい?」
そう言うと、ロコはお茶のおかわりを淹れてくれている侍女に頼んで、シーツを1枚持って来てもらった。
受け取ったシーツを庭園の植え込みに被せると、ロコは手招きでアズを呼ぶ。
アズが近くへ行くと、ロコはシーツの端を手渡した。
「これ持っててね」
「はい」
アズが素直に従い、シーツの端を持ったまま立っていると、ロコはシーツの上にお茶の入ったカップを投げる。
見ていた侍女がギョッとするが、アズは動じない。
投げられたカップのお茶は空中に放たれるけど、シーツにかかる前に落下が止まり、反転してカップに戻ってゆく。
お茶が戻ったカップもシーツを避けるように反転して、ロコの手に戻っていった。
「ふぅん、こうなるのね」
興味深そうにカップを見つめるロコ。
侍女は理解しきれない現象に呆然としていた。
「このシーツ、しばらく借りてもいいかしら?」
「は、はい。使徒様になら陛下は何枚でも許可される筈です」
ロコに微笑みかけられて、侍女は困惑しつつも答える。
「ありがとう。アズ、これは貴方の異空間倉庫で保管しておきなさい」
「はい」
ロコにシーツを渡されたアズと、ベノワとボクは、なんとなく意図が分かった。
端を持つだけで完全回避の効果が及ぶ、大きな1枚布。
それはいざという時、仲間を護る防壁代わりになるだろうね。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―
物部妖狐
ファンタジー
小さな村にある小さな丘の上に住む治癒術師
そんな彼が出会った一人の女性
日々を平穏に暮らしていたい彼の生活に起こる変化の物語。
小説家になろう様、カクヨム様、ノベルピア様へも投稿しています。
表紙画像はAIで作成した主人公です。
キャラクターイラストも、執筆用のイメージを作る為にAIで作成しています。
更新頻度:月、水、金更新予定、投稿までの間に『箱庭幻想譚』と『氷翼の天使』及び、【魔王様のやり直し】を読んで頂けると嬉しいです。
喰らう度強くなるボクと姉属性の女神様と異世界と。〜食べた者のスキルを奪うボクが異世界で自由気ままに冒険する!!〜
田所浩一郎
ファンタジー
中学でいじめられていた少年冥矢は女神のミスによりできた空間の歪みに巻き込まれ命を落としてしまう。
謝罪代わりに与えられたスキル、《喰らう者》は食べた存在のスキルを使い更にレベルアップすることのできるチートスキルだった!
異世界に転生させてもらうはずだったがなんと女神様もついてくる事態に!?
地球にはない自然や生き物に魔物。それにまだ見ぬ珍味達。
冥矢は心を踊らせ好奇心を満たす冒険へと出るのだった。これからずっと側に居ることを約束した女神様と共に……
俺、貞操逆転世界へイケメン転生
やまいし
ファンタジー
俺はモテなかった…。
勉強や運動は人並み以上に出来るのに…。じゃあ何故かって?――――顔が悪かったからだ。
――そんなのどうしようも無いだろう。そう思ってた。
――しかし俺は、男女比1:30の貞操が逆転した世界にイケメンとなって転生した。
これは、そんな俺が今度こそモテるために頑張る。そんな話。
########
この作品は「小説家になろう様 カクヨム様」にも掲載しています。
【コピペ】を授かった俺は異世界で最強。必要な物はコピペで好きなだけ増やし、敵の攻撃はカットで防ぐ。え?倒した相手のスキルももらえるんですか?
黄舞
ファンタジー
パソコンが出来ない上司のせいでコピーアンドペースト(コピペ)を教える毎日だった俺は、トラックに跳ねられて死んでしまった。
「いつになったらコピペ使えるようになるんだ―!!」
が俺の最後の言葉だった。
「あなたの願い叶えました。それでは次の人生を楽しんでください」
そういう女神が俺に与えたスキルは【コピペ(カット機能付き)】
思わぬ事態に最初は戸惑っていた俺だが、そのスキルの有用性に気付き、いつのまにやら異世界で最強の存在になっていた。
人生負け組のスローライフ
雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした!
俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!!
ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。
じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。
ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。
――――――――――――――――――――――
第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました!
皆様の応援ありがとうございます!
――――――――――――――――――――――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる