上 下
207 / 428
前世編

第85話:副会長とダンジョン探索

しおりを挟む
「エカもアズと一緒に戦いたいのね」

 アズからの連絡を待ちながら、部屋のソファで待機するエカに寄り添いつつ、ソナが言う。

「うん。小さい時から一緒で、父さん母さんから魔王と戦う相棒だって言われてたから」

 ソナの頭に頬を寄せて、エカが応える。

 里に生まれる筈だったソナの魂を攫い、異世界のニホンに落として苦しめた魔王。
 エカは絶対に許すもんかって思っていて、魔王軍との戦いとなれば全員ブッ飛ばすつもりでいたんだ。
 でも、いざ戦いが始まったら、前線に出るのは双子の弟のアズだけ、自分は安全なところで待って魔王の心臓を破壊するのみ。
 好戦的な性格ではないけれど、エカはもどかしさを感じていた。


 しばらくして、ベノワの念話で送られてくる、アズたちのダンジョン攻略の様子。
 砦の時みたいに兵士もいるのかと思ったら、同行しているのはロコと、副会長のコッコだけ。
 コッコはサビといわれる毛色で、黒と茶と白が混ざり合う三毛の一種だけど、色が錆びた鉄のようなので違う毛色に見える。
 所属は体育学部の隠密科で、トップの成績だった筈。
 ダンジョンで魔物に見付からず、罠も発動させずに進める隠密科は、調査技術に特化してるらしいよ。
 このダンジョンで魔王の心臓を見つけたのはコッコで、アズたちはダンジョンを占領している魔族の討伐に来ている。


 アカツキ王国からアサケ王国も飛び越えた西方、海の向こうの大陸。
 アスカ王国のダンジョンを、アズ、ロコ、コッコの3人が歩いていた。

「そこ、矢が飛び出てくるから」
「はーい」

 コッコに言われた場所に進んで行くアズ。
 トラップが発動して矢が飛んでくるけど、もちろん当たらない。
 矢は全てはずれて岩壁に突き刺さり、発動した罠は無害なものになった。

「そこ、落とし穴ね」
「はーい」

 コッコに教えられてまた進んで行くアズ。
 地面に穴が開き、底には鋭い槍が並んでるけど、みんなアズを避けるように曲がってしまった。
 アズは無傷で底に降り立ち、軽々と跳躍して穴から出て来た。

「あなたを見ていると、罠がとても無意味なものに感じるわ」

 ロコが苦笑した。

 やがて前方に、黒い異形の群れが現れた。
 この洞窟の魔物ではなく、魔物を食い尽くして居座っている魔族だ。

「あなたに構わず範囲を撃つけど、いいわね?」
「もちろんです」

 ロコが杖を出現させ、アズは背負っていた剣を抜いた。

 四神の支援魔法を全てロコとコッコにかけ、自分には風神の息吹ルドラのみかけて、アズが駈け出す。
 時間が止まったように動かない敵の群れを、容赦なく斬り捨てて進む。
 後ろから無数の氷の矢が飛んでくるけど、アズには一切当たらない。
 氷の矢は、敵だけを貫いて凍らせた後、粉々に砕いてゆく。

 通路の行き止まりには、本来の主である終点ボスを捕食している大柄な魔族がいた。
 途中にいた雑魚よりも大きく、強そうな感じがする。

 アズは自分に、一撃のダメージUP効果がある火神の激怒イグニスをかけた。
 手にした剣が赤く発光して、鍛冶屋の炉で加熱した鉄のように見える。
 大柄な魔族はロコが放った氷の槍の凍結効果に抵抗して、それを引き抜いた。
 そこへアズの斬撃が入り、魔族を斜めに切り裂く。
 しぶとい生命力でもがく敵に、コッコの投げナイフがトドメの一撃となる。

 絶命した魔族は、砕けて黒い粒子と化して消えた。
 その後ろに見えたのは、大きな黒い水晶……魔王の心臓だ。

『エカ、出番だよ』
『OK』

 アズの念話に応じて、エカは魔道具の転送陣を起動した。
 互いの居場所へ転送する、王様から渡された魔道具だ。
 その魔道具によってエカはすぐアズの隣へ行けるし、アズもエカの隣に行く事が出来る。
 魔王の分身に襲われないように、今回ソナには自室で待機してもらった。

 エカの接近に反応して現れた分身は、行動する隙を与えずアズの剣に貫かれた。
 魔王の分身は体格や顔立ちに違いがあるものの、みんな人型だ。
 今回現れた者は小柄で、暗殺向きの体格だったのかもしれない。
 でもその小さい身体が不利となり、剣で串刺しにされたらもう動けなくなった。
 アズが容赦なく振り払うと、分身は砕けて消え去る。

 エカは分身には構わず、魔王の心臓に向けて爆裂魔法を放つ。

爆破消滅エクスプロジオン

 起動言語と共に放たれた魔法は、黒水晶を粉々に砕いて消し去った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

幽子さんの謎解きレポート~しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー~

しんいち
キャラ文芸
オカルト好きの少年、「しんいち」は、小学生の時、彼が通う合気道の道場でお婆さんにつれられてきた不思議な少女と出会う。 のちに「幽子」と呼ばれる事になる少女との始めての出会いだった。 彼女には「霊感」と言われる、人の目には見えない物を感じ取る能力を秘めていた。しんいちはそんな彼女と友達になることを決意する。 そして高校生になった二人は、様々な怪奇でミステリアスな事件に関わっていくことになる。 事件を通じて出会う人々や経験は、彼らの成長を促し、友情を深めていく。 しかし、幽子にはしんいちにも秘密にしている一つの「想い」があった。 その想いとは一体何なのか?物語が進むにつれて、彼女の心の奥に秘められた真実が明らかになっていく。 友情と成長、そして幽子の隠された想いが交錯するミステリアスな物語。あなたも、しんいちと幽子の冒険に心を躍らせてみませんか?

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

冷酷魔法騎士と見習い学士

枝浬菰
ファンタジー
一人の少年がドラゴンを従え国では最少年でトップクラスになった。 ドラゴンは決して人には馴れないと伝えられていて、住処は「絶海」と呼ばれる無の世界にあった。 だが、周りからの視線は冷たく貴族は彼のことを認めなかった。 それからも国を救うが称賛の声は上がらずいまや冷酷魔法騎士と呼ばれるようになってしまった。 そんなある日、女神のお遊びで冷酷魔法騎士は少女の姿になってしまった。 そんな姿を皆はどう感じるのか…。 そして暗黒世界との闘いの終末は訪れるのか…。 ※こちらの内容はpixiv、フォレストページにて展開している小説になります。 画像の二次加工、保存はご遠慮ください。

前世の記憶で異世界を発展させます!~のんびり開発で世界最強~

櫻木零
ファンタジー
20XX年。特にこれといった長所もない主人公『朝比奈陽翔』は二人の幼なじみと充実した毎日をおくっていた。しかしある日、朝起きてみるとそこは異世界だった!?異世界アリストタパスでは陽翔はグランと名付けられ、生活をおくっていた。陽翔として住んでいた日本より生活水準が低く、人々は充実した生活をおくっていたが元の日本の暮らしを知っている陽翔は耐えられなかった。「生活水準が低いなら前世の知識で発展させよう!」グランは異世界にはなかったものをチートともいえる能力をつかい世に送り出していく。そんなこの物語はまあまあ地頭のいい少年グランの異世界建国?冒険譚である。小説家になろう様、カクヨム様、ノベマ様、ツギクル様でも掲載させていただいております。そちらもよろしくお願いします。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

俺、貞操逆転世界へイケメン転生

やまいし
ファンタジー
俺はモテなかった…。 勉強や運動は人並み以上に出来るのに…。じゃあ何故かって?――――顔が悪かったからだ。 ――そんなのどうしようも無いだろう。そう思ってた。 ――しかし俺は、男女比1:30の貞操が逆転した世界にイケメンとなって転生した。 これは、そんな俺が今度こそモテるために頑張る。そんな話。 ######## この作品は「小説家になろう様 カクヨム様」にも掲載しています。

「専門職に劣るからいらない」とパーティから追放された万能勇者、教育係として新人と組んだらヤベェ奴らだった。俺を追放した連中は自滅してるもよう

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「近接は戦士に劣って、魔法は魔法使いに劣って、回復は回復術師に劣る勇者とか、居ても邪魔なだけだ」  パーティを組んでBランク冒険者になったアンリ。  彼は世界でも稀有なる才能である、全てのスキルを使う事が出来るユニークスキル「オールラウンダー」の持ち主である。  彼は「オールラウンダー」を持つ者だけがなれる、全てのスキルに適性を持つ「勇者」職についていた。  あらゆるスキルを使いこなしていた彼だが、専門職に劣っているという理由でパーティを追放されてしまう。  元パーティメンバーから装備を奪われ、「アイツはパーティの金を盗んだ」と悪評を流された事により、誰も彼を受け入れてくれなかった。  孤児であるアンリは帰る場所などなく、途方にくれているとギルド職員から新人の教官になる提案をされる。 「誰も組んでくれないなら、新人を育て上げてパーティを組んだ方が良いかもな」  アンリには夢があった。かつて災害で家族を失い、自らも死ぬ寸前の所を助けてくれた冒険者に礼を言うという夢。  しかし助けてくれた冒険者が居る場所は、Sランク冒険者しか踏み入ることが許されない危険な土地。夢を叶えるためにはSランクになる必要があった。  誰もパーティを組んでくれないのなら、多少遠回りになるが、育て上げた新人とパーティを組みSランクを目指そう。  そう思い提案を受け、新人とパーティを組み心機一転を図るアンリ。だが彼の元に来た新人は。  モンスターに追いかけ回されて泣き出すタンク。  拳に攻撃魔法を乗せて戦う殴りマジシャン。  ケガに対して、気合いで治せと無茶振りをする体育会系ヒーラー。  どいつもこいつも一癖も二癖もある問題児に頭を抱えるアンリだが、彼は持ち前の万能っぷりで次々と問題を解決し、仲間たちとSランクを目指してランクを上げていった。  彼が新人教育に頭を抱える一方で、彼を追放したパーティは段々とパーティ崩壊の道を辿ることになる。彼らは気付いていなかった、アンリが近接、遠距離、補助、“それ以外”の全てを1人でこなしてくれていた事に。 ※ 人間、エルフ、獣人等の複数ヒロインのハーレム物です。 ※ 小説家になろうさんでも投稿しております。面白いと感じたらそちらもブクマや評価をしていただけると励みになります。 ※ イラストはどろねみ先生に描いて頂きました。

処理中です...