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前世編

第78話:エカの爆裂魔法

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「エカには生まれつき持ちながら、一度も使った事が無い魔法があるニャ?」
「爆裂系魔法ですね」

 世界樹の森を歩きながら、三毛猫人の王様と赤い髪の少年に戻ったエカが話す。
 エカの隣を歩くソナが、じっと聞き入っていた。

 爆裂系魔法は、エカが生まれる時に神様が授けた魔王を倒す力。
 最上位の各属性魔法よりも高い攻撃力がある。

「命を削る魔法だから、魔王との戦い以外では使うなと両親に言われています」
「エカが死んじゃうのは嫌……」

 エカの話を聞いてギョッとしたソナが、半泣きで訴える。

「大丈夫、死なない為に不死鳥フラムがついてるんだよ」

 微笑むエカの言葉に合わせて、ボクはその手の中から抜け出て実体化してみせた。

 不死鳥フェニックスの真の力は、主の肉体が消滅しても復活させる、死なせない力。
 エカはボクがついてる限り、老衰以外で死ぬ事は無い。


「さあ、ここニャ」

 やがて、1本の木の前で王様は立ち止まった。

「この水晶は、爆裂系魔法の使い手のために創造神かみさまが創った神具ニャ」

 その木の根元には、大きな水晶の塊が埋まっていた。

「エカにはここで修行してもらうニャン」
「わかりました」

 幼い頃から教育されてきたから、エカに躊躇いは無い。
 王様の言葉に従い、水晶に触れる。
 エカと一緒に、ボクも水晶の中に引き込まれた。

『純粋なる破壊の力を持つ者、其方の為の修行空間エスパスを解放しよう』

 創造神かみさまの【声】がする。
 何も無い空間に、片手に乗るような大きさの黒い球体が現れた。

『爆裂魔法を使い、それを破壊しなさい』
「はい」

 エカは今まで使った事が無い、無属性の攻撃魔法を組み上げる。
 黒い球体に向けた指先の周囲に、無色透明な泡のようなものが舞う。
 エカはそれに、魔法の名前キーワードをつけた。

爆破消滅エクスプロジオン

 それが起動言語となり、指先の周囲を舞っていた泡が消えると同時に、黒い球体が粉々に砕け散った。

『問題無く発動出来るようだね』
「はい」

 創造神かみさまの【声】に答えたエカは平然としてるけど、召喚獣のボクには主の生命力が少し減ったことが分る。
 この魔法は、魔力ではなく生命力を消費するんだ。
 生命力が高い世界樹の民ならともかく、猫人が使ったら即死だと思う。

『では、対象を増やそう。繰り返し発動しなさい』
「はい」

 指示を受けて、エカは次々に現れる黒い球体に爆破消滅エクスプロジオンを使い続けた。
 生命力がどんどん減り続けて、さすがにエカ本人も疲労を感じ始める。

 そろそろ危ないんじゃないかな? とボクが思った直後……

爆破消滅エクスプロジオン……ッ!」

 …黒い球体が砕けると共に、エカの身体に異変が起きた。

 ソナがこの場に居なくて良かった。
 彼女は王様に付き添われて水晶の近くで待ってるけど、時間が止まってるのかな? 
 水晶を抱き締めるソナも、傍らに座っている王様も、動く気配が無い。
 もしもこんな姿を見たら、ソナは間違いなく号泣してパニックになると思うよ。

 全身の力が抜けて修行空間エスパスを浮遊するエカ。
 その生命力は、完全に尽きていた。
 閉じた瞼、顔色は蒼白で、息をしていない。
 心臓も止まっていて、エカは身動き一つしなくなった。

 ボクはエカの手から抜け出して、不死鳥フェニックスの姿に戻った。
 グッタリして動かない主人マスターを両翼で抱くように包み、完全復活の力を発動する。

 赤と金の炎がエカを包み、身体の中へ入り込んで生命力を満たしてゆく。
 すぐに心臓は動き始め、呼吸もし始める。
 意識を保てるくらいに生命力が満ちると、エカは目を開けた。

『……フラム……? ありがとう……』
『エカを蘇生するのは初めてだね』

 まだ少しボンヤリしているエカが、念話で話しかけてくる。

『フラムの力ってこんなに温かくて気持ち良いんだね』
『熱くなかった?』
『うん、いい湯加減だよ』
『って、お風呂じゃないから』

 なんか気が抜ける会話だけど、もう元気そうだ。


『本来ならここまで使わせる事は無いが、不死鳥がついているゆえ、少し無理をしてもらったよ』

 創造神かみさまの【声】が言う。

「はい、苦痛は無いですし、フラムの力があれば何回心臓が止まっても平気です」
『それ、ソナの前では言っちゃダメだからね?』

 平然と答えるエカには、ボクが忠告しておいたよ。

 ソナの事は凄く心配するくせに、エカは自分の健康にはちょっと無頓着だね。
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