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前世編

第72話:仔犬と少年

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 翌日、午後のダンジョン実習。
 パーティメンバーは、アズとソナの中級ダンジョン攻略サポートで、青空洞窟に来ていた。

 エカたちが初めて攻略した時は、その回避の高さに苦戦したリロデル。
 アズには水の神様から貰ったあの魔法があるから全く苦労しなかった。

水神の必中ティアマト!」

 起動言語キーワードに合わせて発動するのは、1回だけ行動を成功させるという支援魔法。
 アズがそれをソナにかけて、ソナが範囲魔法を使えば、一網打尽だ。
 そのまま中ボスの鳥型魔物ハウカに挑めば、火球1発で焼き鳥と化した。

「私たちが苦労したのが嘘みたいな楽勝ね」

 クロエが苦笑した。

 青空洞窟はアズにとって最も相性がいいダンジョンかもしれない。
 高速で体当たりしてくる魔物はアズの敵ではなく、水神の必中ティアマトを使えば倒すのは容易、勢いに乗って終点ボスまで攻略してしまった。

 終点ボスはイエラキという鳥型魔物で、超高速の急降下攻撃が危険と言われているんだけど……

「俺、何もしてないのに逝ってしまった」

 ……アズの完全回避に対しては、単なる自滅技だ。

 急降下の勢いそのままに地面に激突して、ピクピク痙攣してるイエラキが気の毒に思えたよ。


 予定より早くダンジョンクリアした一行は、夏夜の夢洞窟で休憩しようと向かう途中で奇妙な光景に遭遇した。

 夏の森に1人で来ている、異世界人ぽい黒髪の少年。
 少年の向かい側には、唸りながらジリジリ後退る黒い仔犬。

「ルル?!」

 アズが驚きつつ呼びかける。
 黒い仔犬が、ハッと気付いて振り向き、アズの方へ駈け出そうとした。

「逃げるな!」

 途端に少年が怒鳴り、黒い炎の玉を仔犬に放つ。
 直撃したと思ったけど、仔犬はそこにいなかった。

「危ないから勝手にあちこち行くなって言ったろ?」

 アズが仔犬を抱いて、少年の背後に回ってる。

「?!」

 声に驚いた少年が振り返った。

 アズ、いつの間に移動したの?
 全然見えなかったよ?

「そいつを返せ、僕の物だ」
「は? 何言ってんの? ルルは俺の子だよ」

 少年とアズが、それぞれ仔犬の所有権を主張してる。

 っていうか仔犬、いつの間に元の姿に戻ったんだろう?
 飼育棟に預けられていた筈なのに、何故ここにいるんだろう?

「返せ!」

 少年が怒鳴り、また黒い炎の玉を放つ。
 彼以外みんな予想してたけど、当然ながらアズには当たらない。

「! ……そうか、お前は……」

 少年は驚いて目を見開き、続いて何かに気付いたようにハッとした。

「ルルの保護者だよ。この子を虐めたらブッ飛ばすからね?」

 仔犬を庇うように抱き締めて、アズが少年を睨む。

「保護者? お前、そいつが何か分ってないな?」

 少年の意味深な言葉に、アズの腕の中で仔犬がビクッとしたのが見えた。

 その瞬間、既に一度遭遇しているエカとソナは、少年の次の言葉が予想出来た。

「そいつは魔族だ。雪狼に転生してるけどな」

 少年の言葉に、クロエたち猫人がギョッとした。
 エカとソナは沈黙して、アズの反応を待つ。

「クゥン」

 仔犬が、不安そうな声を漏らしてアズを見上げる。

「それが何か?」 

 仔犬を安心させる為に撫でて、アズは言う。

「ルルはいい子で俺の大事な子。魔族とか転生とかはどうでもいい」

 魔族という単語に、彼は動じなかった。
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