上 下
46 / 428
転生者モチ編

第45話:白紙の手紙(画像あり)

しおりを挟む
 夕飯後、俺は現世モチの記憶を参考に、イオを先に風呂へ入らせた。
 そうしないと彼は寝落ちて風呂に入り損ねるから。
 でも、今日は【いつも】と違うようだ。
 後から入浴を済ませた俺が子供部屋へ行くと、青い髪の子供は起きていた。
 机に向かっていて、白紙を前に羽根ペンを弄んでいる。

「あれ? 寝てなかったのか?」
「うん。眠れなくて」

 声をかけたら、彼が言うとは思えない台詞が返ってくる。
 布団に入ったら(入らなくても横になれば)3秒で寝落ちる奴の言葉とは思えない返事だ。
 現世モチの人格なら、具合でも悪いのかと心配するところだろう。

 寝つきの良い者が眠れない?
 つまりそれは、睡眠を妨げるほどの精神的ストレスがかかってるってことだろう。
 完全回避があるから健康を害することはないけどな。

「……ごめんな……俺だけが前世に戻って……」

 自然と、そんな言葉が出た。
 イオは何も言わず、少し困ったように微笑んだ。
 それはジャパニーズスマイルというやつで、本心を隠す仮面だと現世モチの記憶が告げる。
 俺は変身魔法を解除して6歳児の姿に戻り、イオの手を引いてベッドに入らせた。

「眠れなくても、横になって身体は休めた方がいいぞ」
「って、どうしてエカも入ってくるの?」
「どうせ俺は夜中にこっちへ来ちまうからな」
「それ、前世の癖だったのか」

 夜の生存確認後、イオに抱きついて寝てしまうのを、現世モチはトイレに起きた後に間違って入ったことにしていた。
 俺に夜尿症など無いけど、そのまま誤解させておこう。

 本当は、アズの最期の姿が心に焼き付いていて、不安でたまらないんだ。
 現世モチには途中までしか見せなかったあの夢は、アズの死に繋がっている。

 あの日、飛び出して行った不死鳥ルビイを追いかけて行った場所。
 そこは世界樹の根元で、既に事切れたアズがいたんだ。
 グッタリと喉を反らせた彼は、息子ルイの腕の中で静かに息を引き取っていた。
 怪我でもなく、病気でもなく、異世界転生させるために神様が魂を抜き取ったことによる命の終わり。
 神の力に不死鳥の力が敵うわけがなく、ルビイがどんなに力を使っても、アズが息を吹き返す事は無かった。

 20年経った今、アズの魂はあるのに、記憶と心を持たぬ転生者がそこにいる。

 ……アズ、どうして還らないんだ……?

 俺は転生者イオを抱き締めて、泣くことしかできなかった。

 両親や俺の哀しみは、イオにとっては重かったんだろう。
 その夜、彼は家を出ていってしまった。
 イオを抱き締めていた筈の腕の中が、急に空っぽになったのは、加速魔法を使ったのか。
 ピッタリくっついていた俺にすら気付かせずに、イオは消えた。
 「セレスト家の皆様へ」とだけ書いてある、本文は白紙の紙と羽根ペンを机に置いて……。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

幽子さんの謎解きレポート~しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー~

しんいち
キャラ文芸
オカルト好きの少年、「しんいち」は、小学生の時、彼が通う合気道の道場でお婆さんにつれられてきた不思議な少女と出会う。 のちに「幽子」と呼ばれる事になる少女との始めての出会いだった。 彼女には「霊感」と言われる、人の目には見えない物を感じ取る能力を秘めていた。しんいちはそんな彼女と友達になることを決意する。 そして高校生になった二人は、様々な怪奇でミステリアスな事件に関わっていくことになる。 事件を通じて出会う人々や経験は、彼らの成長を促し、友情を深めていく。 しかし、幽子にはしんいちにも秘密にしている一つの「想い」があった。 その想いとは一体何なのか?物語が進むにつれて、彼女の心の奥に秘められた真実が明らかになっていく。 友情と成長、そして幽子の隠された想いが交錯するミステリアスな物語。あなたも、しんいちと幽子の冒険に心を躍らせてみませんか?

箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~

白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。 日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。 ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。 目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ! 大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ! 箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。 【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

護国の鳥

凪子
ファンタジー
異世界×士官学校×サスペンス!! サイクロイド士官学校はエスペラント帝国北西にある、国内最高峰の名門校である。 周囲を海に囲われた孤島を学び舎とするのは、十五歳の選りすぐりの少年達だった。 首席の問題児と呼ばれる美貌の少年ルート、天真爛漫で無邪気な子供フィン、軽薄で余裕綽々のレッド、大貴族の令息ユリシス。 同じ班に編成された彼らは、教官のルベリエや医務官のラグランジュ達と共に、士官候補生としての苛酷な訓練生活を送っていた。 外の世界から厳重に隔離され、治外法権下に置かれているサイクロイドでは、生徒の死すら明るみに出ることはない。 ある日同級生の突然死を目の当たりにし、ユリシスは不審を抱く。 校内に潜む闇と秘められた事実に近づいた四人は、否応なしに事件に巻き込まれていく……!

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

前世の記憶で異世界を発展させます!~のんびり開発で世界最強~

櫻木零
ファンタジー
20XX年。特にこれといった長所もない主人公『朝比奈陽翔』は二人の幼なじみと充実した毎日をおくっていた。しかしある日、朝起きてみるとそこは異世界だった!?異世界アリストタパスでは陽翔はグランと名付けられ、生活をおくっていた。陽翔として住んでいた日本より生活水準が低く、人々は充実した生活をおくっていたが元の日本の暮らしを知っている陽翔は耐えられなかった。「生活水準が低いなら前世の知識で発展させよう!」グランは異世界にはなかったものをチートともいえる能力をつかい世に送り出していく。そんなこの物語はまあまあ地頭のいい少年グランの異世界建国?冒険譚である。小説家になろう様、カクヨム様、ノベマ様、ツギクル様でも掲載させていただいております。そちらもよろしくお願いします。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

Duo in Uno(デュオ・イン・ウノ)〜双子の勇者の冒険〜

とろろ
ファンタジー
世界各地に散らばったイザベル姫の「喜・怒・哀・楽」の魂を悪用する者から人々の感情を取り戻すために戦う者達がいた....。 【登場人物紹介】 アストリア: この物語の主人公で双子の弟セラフィスをもつ。正義感が強いが、多少自分本位で未熟な面もある。剣術の腕は超一流で、必死技は強力な雷撃を放つ「フルメン・デイ(神の雷)」。 セラフィス: 冷静沈着で知的なアストリアの弟。足が悪いため戦闘では指揮官的役割を担う。かつては自らの過ちから魂としてアストリアの中に存在することになってしまい、彼を導く役割を担っていた。「スキャニング」という敵を即座に解析する能力に優れ、敵の弱点を見抜くことに長けている。 マチルダ: 強気で行動力があるが、内面に大きなトラウマを抱えている女性戦士。かつてガルム帝国現帝王ゾグナスに両親、友人を殺されたため、ゾグナスとは因縁の相手。炎を操る技を得意とし、必殺技「サギッタ・アルデンス(燃え盛る矢)」で敵を圧倒する。 ローハン: いつも穏やかで皆のムードメーカー的存在のドワーフ。人知れず劣等感に苦しんでおり、弟との暗い過去を持つが、アストリア達との旅を通じて成長を遂げる。必殺技は大地の力を使いこなす「フロル・テルリス(大地の怒り)」。 ギルバート: 冷静で義理堅い魔導士。かつては世間に誤解され、社会から身を隠していた。現在はアストリア達と協力しながら戦っている。転送魔法などのサポート的立ち回りが得意。マチルダの父親とは親友だった。 ハウロン: 人間と魔獣の共存を目指す心優しきミノタウロス。自分と同族であるゾグナスがマチルダの心に深い傷を残したことに対し自責の念を感じている。 性格も能力も異なる仲間達は、時に対立しながらも、数々の強敵や困難に立ち向かっていく。 これは、過去の傷に囚われながらも新たな絆を築き、心の闇を乗り越えていく仲間達の成長の物語です。冒険と戦いの中で「人間らしさ」を問い直していきます。

処理中です...