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転移者イオ編

第12話:増えた魔族(画像あり)

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 薄い本の後半を読み進めた。
 本の主人公は、1回死にかけたのに懲りずにまた敵地へ向かう。
 そうしないと大地が枯れ果てるから、しょうがないんだろうな。
 滅びかけている世界を救うために、異世界転移させられたわけだし。

 こちらの世界も最近は魔族が増えてきて、エカたちが討伐に出かけている。
 俺がギルマスから「勇者アズールの剣技を蘇らせてほしい」と頼まれるのも、そうした背景があるみたいだ。




「私が転生しなくても、魔族は増えてしまうのね」

 読書タイムと修行タイムと狩りを終えてアサギリ島の自宅に帰ると、ルルの霊がそんな事を言う。
 彼女が黒い果実、つまり魔王だという話は聞いた。

 以前アチャラ様が言っていた俺やエカの容姿を固定したという魔王は、ルルとは違うらしい。
 当代の魔王はルルが死んだ時に胎内にいた子の転生者で、日本人だから魔族とは繋がらずに済んでいる。
 我が社のATP事業部スタッフ765名一斉異世界転移をさせた当代魔王は、とてつもない力を持っていそうだけどアサケ国王や学園長やタマ曰く「人畜無害」だそうだ。

 魔王が生まれると魔族の動きが活発化して、猫人たちの暮らしを脅かす。
 その魔王に死を与えるのが【爆裂の勇者】と呼ばれる爆裂魔法の使い手、つまり当代はエカ。
 爆裂の勇者を護り、敵の矛先を自らに向けさせて戦うのが【回避の勇者】と呼ばれる完全回避のユニークスキルを持つ者、つまり当代は俺だ。
 でも今はルルが転生をやめているので、エカも俺も勇者の仕事は開店休業中だ。

「魔王が生まれていないのに、魔族が増えるって変じゃない?」
「変だと思うわ。それに彼等、私が知る魔族とは何かが違うの」

 俺はルルに問いかける。
 ルルは最近増えている魔族が何か違うようだと感じているらしい。
 でも具体的に何が違うかは分からないまま、家の中に入りかけたところでSETAホンが鳴った。

「イオさん! 加勢お願い!」

 言葉はそれで充分。
 俺は魔道具を起動して、エカの傍に転移した。

 移動してすぐ、頭で考えるより早く身体が動いた。
 パーティ全員に加速魔法【風神の息吹ルドラ】をかける。
 俺は背負っていた剣を抜き、エカに迫っていた岩の槍を全て叩き落し、異空間倉庫ストレージからキングサイズのシーツを取り出して、全員を覆った。

 前世の遺品の中にあったシーツは、寝具として使うのではなく、完全回避の効果範囲を広げるためのものだ。
 俺が触れている物には、完全回避の効果がつく。
 俺が触れているシーツに覆われれば、パーティメンバーに敵の攻撃は一切当たらない。

「今のうちに回復して」
「はい」

 俺が指示すると、回復役ヒーラーの猫人が、メンバーを回復させた。
 エカたちが回復してもらっている間に、俺はメンバー全員に身体強化魔法をかける。
 自分にも火力UPと必中の身体強化をかけてから、攻撃スキル発動。

白き翼エルブランシュ!」

 周囲にいる、時が止まったみたいになってる魔族は、俺の範囲攻撃スキルで殲滅してやった。
 ダメージUPの【火神の激怒イグニス】と絶対成功効果の【水神の必中ティアマト】は、攻撃スキルにも効果が及ぶ。
 ナイフのように白い羽が刺さると、魔族たちは全員即死で黒い粒子と化して消滅した。

「イオ、将軍クラスがいる。雑魚はお前とクロネとユウナに任せていいか?」
「いいよ。エカは命大事に」
「おう。4回目は勘弁だからな」

 そんな会話を交わすエカと俺。
 パーティメンバーが「4回目って何だろう?」と言いた気に首を傾げた。

「エカ以外は、前と同じでいいよ」
「「「「はい」」」」

 簡単に指示すると、前回と同じく俺は敵陣に突っ込む。
 群れの中に入り込んだ直後、強化つき白き翼エルブランシュをお見舞いする。
 クロネが飛ばすレーザーみたいな光属性攻撃は、エカが現世の記憶からヒントを得て創った攻撃魔法だ。
 ユウナの矢を3本つがえて同時に放つ攻撃も、エカが現世のゲームの記憶を伝えて開発させた。

「そいつに構うな! 後ろの連中を狙え!」

 下級魔族を瞬殺しながら群れの奥へ進むと、他とは明らかに雰囲気の違う魔族がいた。
 加速魔法をかけている俺の目に、普通に動いて見えるって事は行動速度の速い将軍クラスだ。
 白き翼エルブランシュの無差別攻撃で雑魚は即死するけど、そいつは手にした槍を回転させて防いでいる。
 そこへ俺がダッシュからの斬撃を入れると、回転していた槍が2つに切断されて、驚いた将軍魔族の動きが一瞬止まる。

爆破消滅エクスプロジオン!」

 俺の隣に転移したエカが爆裂魔法を放つと、将軍魔族は爆散する。
 戦闘中は念話をONにしていたから、タイミングはバッチリだ。
 今回はエカが倒れる事は無く、世界樹の花の砂糖漬けを自分で口に放り込んで生命力を回復している。
 さすがにもう蘇生薬や完全回復薬の口移しは嫌だったようだ。
 残った雑魚を片付けた後、俺は自宅に帰り、エカとパーティは街へ帰還した。

 俺は加勢に入っただけなので、ギルド報告はエカたちにお任せだ。
 アサギリ島の自宅に帰り、ルルに今日見た将軍魔族の事を話したら、ルルが今まで見た事が無い者らしい。

「新種の魔族が沸き始めたのかしら……」

 魔王だったルルが知らない将軍クラスは、一体いつからいたんだろう?
 生かしておいて尋問すれば良かったな。
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