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本編
30 甘い一言にご用心?
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「気が早いとは思うのですが、式場のパンフレットを集めてみました」
食後のコーヒーを飲んでいると、宗司さんはどこから取り出したのか何冊ものパンフレットをテーブルへと広げた。
「えっ?これって何?式場って書いてある。えっと・・・式場って結婚式場?」
表紙を見れば一目瞭然のチャペルや自然の写真に環菜は狼狽えた。
2人の父親と宗司さんのお兄さんは目を丸くし、榊はコーヒーで咽ていた。そんな中、母二人は目を輝かせていた。
「せっかく環菜さんのご家族に来て頂けていることですし、自分がどれだけ環菜さんの事を本気で考えているのかを知っていただけるいい機会だと思いまして。私としては今すぐにでも入籍をしたい程なのですが、環菜さんの心の準備もあるでしょうからそれは追々として、まずは資料だけでもご覧になるのもいいかと思いまして準備しました」
コンペを思わせるかのような仕事の一環みたいな流れるように説明が始まった。
「今の時点で秋まで予約がそれなり入って埋まっているそうですが、全くないというわけではないそうです。私的にはここがいいなと思ったんたですが」
そういって私にも見やすいように見せてくれたのは、チャペルで挙式が行われて自然な明るい光の中幸せそうに微笑みあっているカップルと外には海と空が見える素敵なパンフレットだった。
「わ、素敵・・・」
「仕事が出来るとは環菜から聞いていたけれど早いのね、流石ね。あら、まあ、素敵。このホテルなんていいんじゃない?海も傍にあって凄く素敵」
環菜母は広げられたパンフレットに目が釘付けだ。青い空と海が式場から見える表紙を見てうっとりとしている。
「小高い丘の上から碧く美しい海と空を臨むチャペル・ダイアモンドオーシャン。360度ガラスで囲まれたチャペルの中は、まさに輝く宝石のよう。ですって、綺麗だわ」
宗司母も嬉しそうに環菜母が見ているパンフレットに目を向けキャッチコピーを読み上げた。
(初顔合わせって、文字通りに顔合わせだけじゃないの?)
「ねえ、お母さん。今日って親睦の為の顔合わせなんだよね?式の場所や日取りまで決めるものなの?」
両親に彼氏を紹介したのだし、結婚するつもりももちろんあるのだが、環菜はいつ(・・・)かだと思っていたのだ。
「別に今すぐ決めなくちゃならないってことはないけど、こういうものはタイミングも大事よ?環菜がもう少しゆっくりと決めたいというなら宗司さんと話し合ってゆっくりと決めればいいわ」
環菜達が先週帰って行った後、母は父と娘の結婚について相談したのだが、初めて家に訪れ挨拶をしてくれた宗司の執着心ともいえる恋心を目の当たりに見て、交際期間が短くても環菜の両親はこの人なら娘の事を大切にしてくれるだろう、幸せにしてくれるだろうと思ったのは二人の共通した印象だった。
同じ会社で尚且つ同じ部署で上司と部下として働いているのなら、生半可な気持ちで付き合ってはいないだろうし、なにより我が娘が連れて来た相手に向けている顔を見ればどう思っているのかなんて一目瞭然な程に分かりやすい表情と態度を取っていた。
年上でしっかりとした態度と環菜に向ける愛情は、両親から見てこの人ならばと頷けるものがあった。そして母は宗司の見た目にもすっかり惚れこんでしまったというのもあったりする。あんな素敵な息子が出来るのなら喜んで!という大変なはしゃぎっぷりで、父はそんな母にしょげていた。
「うーん」
自分が考えていたより話の進み方が早くて戸惑っているだけで、決して嫌なわけじゃない。
「ごめん、勝手に話し進めて。こんな大事なことを環菜の事を蔑ろにして勝手に決めたりしないから。環菜がもう少しゆっくりと決めたいというならそれでいいんだ。ここにある中から選ばなきゃいけないということもないし」
渋い顔をして悩んでいる私を見て、焦ったのかな?宗司さんは二人きりでいる時みたいな口調に戻っていた。
「環菜と俺のことをご両親に認めてもらったのが嬉しくてちょっと舞い上がってたんだ。狭隘だと自分でも分かってはいるんだけどね。本音を言わせてもらえるなら、今日にでも籍を入れたいと思ってるよ。それぐらい俺は君に夢中になってるんだ」
「む、むむむ、夢中って」
実際にこんなセリフを言う人がいるとは思わなかった。それも自分が!歌の歌詞に使われていそうな甘い台詞にキュンとなったが、それ以上に耐性がない私には威力が強すぎだ。
2人きりでもそうとう恥ずかしい台詞を身内がそろっている中堂々と言われ、恥ずかしさに何も言えなくなった環菜は下を向いたきり顔を真っ赤にして膝に置いた手をぎゅっと握りしめた。
環菜の母はきゃーっっっと年甲斐もなくはしゃいでいる。父は気持ちを落ち着かせるためか、ぎこちなくコーヒーを飲み始めた。宗司の両親は苦笑に留め、宗司の兄は呆れた風だ。
榊は、口を付けていたコーヒーカップをソーサーへと置くと「甘すぎる。俺より年上のこの人が義弟・・・。どうしよう、俺ついていけないかも・・・」とあらぬ方向をみて呟いていた。
この一言がきっかけで籍を入れるのは環菜の誕生日である8月に。挙式は宗司が気に入ったと見せてくれた結婚式場へ直接行って日取りを決めようということで纏まった。
環菜が三田環菜から木槌環菜になるまで、あと少し。
食後のコーヒーを飲んでいると、宗司さんはどこから取り出したのか何冊ものパンフレットをテーブルへと広げた。
「えっ?これって何?式場って書いてある。えっと・・・式場って結婚式場?」
表紙を見れば一目瞭然のチャペルや自然の写真に環菜は狼狽えた。
2人の父親と宗司さんのお兄さんは目を丸くし、榊はコーヒーで咽ていた。そんな中、母二人は目を輝かせていた。
「せっかく環菜さんのご家族に来て頂けていることですし、自分がどれだけ環菜さんの事を本気で考えているのかを知っていただけるいい機会だと思いまして。私としては今すぐにでも入籍をしたい程なのですが、環菜さんの心の準備もあるでしょうからそれは追々として、まずは資料だけでもご覧になるのもいいかと思いまして準備しました」
コンペを思わせるかのような仕事の一環みたいな流れるように説明が始まった。
「今の時点で秋まで予約がそれなり入って埋まっているそうですが、全くないというわけではないそうです。私的にはここがいいなと思ったんたですが」
そういって私にも見やすいように見せてくれたのは、チャペルで挙式が行われて自然な明るい光の中幸せそうに微笑みあっているカップルと外には海と空が見える素敵なパンフレットだった。
「わ、素敵・・・」
「仕事が出来るとは環菜から聞いていたけれど早いのね、流石ね。あら、まあ、素敵。このホテルなんていいんじゃない?海も傍にあって凄く素敵」
環菜母は広げられたパンフレットに目が釘付けだ。青い空と海が式場から見える表紙を見てうっとりとしている。
「小高い丘の上から碧く美しい海と空を臨むチャペル・ダイアモンドオーシャン。360度ガラスで囲まれたチャペルの中は、まさに輝く宝石のよう。ですって、綺麗だわ」
宗司母も嬉しそうに環菜母が見ているパンフレットに目を向けキャッチコピーを読み上げた。
(初顔合わせって、文字通りに顔合わせだけじゃないの?)
「ねえ、お母さん。今日って親睦の為の顔合わせなんだよね?式の場所や日取りまで決めるものなの?」
両親に彼氏を紹介したのだし、結婚するつもりももちろんあるのだが、環菜はいつ(・・・)かだと思っていたのだ。
「別に今すぐ決めなくちゃならないってことはないけど、こういうものはタイミングも大事よ?環菜がもう少しゆっくりと決めたいというなら宗司さんと話し合ってゆっくりと決めればいいわ」
環菜達が先週帰って行った後、母は父と娘の結婚について相談したのだが、初めて家に訪れ挨拶をしてくれた宗司の執着心ともいえる恋心を目の当たりに見て、交際期間が短くても環菜の両親はこの人なら娘の事を大切にしてくれるだろう、幸せにしてくれるだろうと思ったのは二人の共通した印象だった。
同じ会社で尚且つ同じ部署で上司と部下として働いているのなら、生半可な気持ちで付き合ってはいないだろうし、なにより我が娘が連れて来た相手に向けている顔を見ればどう思っているのかなんて一目瞭然な程に分かりやすい表情と態度を取っていた。
年上でしっかりとした態度と環菜に向ける愛情は、両親から見てこの人ならばと頷けるものがあった。そして母は宗司の見た目にもすっかり惚れこんでしまったというのもあったりする。あんな素敵な息子が出来るのなら喜んで!という大変なはしゃぎっぷりで、父はそんな母にしょげていた。
「うーん」
自分が考えていたより話の進み方が早くて戸惑っているだけで、決して嫌なわけじゃない。
「ごめん、勝手に話し進めて。こんな大事なことを環菜の事を蔑ろにして勝手に決めたりしないから。環菜がもう少しゆっくりと決めたいというならそれでいいんだ。ここにある中から選ばなきゃいけないということもないし」
渋い顔をして悩んでいる私を見て、焦ったのかな?宗司さんは二人きりでいる時みたいな口調に戻っていた。
「環菜と俺のことをご両親に認めてもらったのが嬉しくてちょっと舞い上がってたんだ。狭隘だと自分でも分かってはいるんだけどね。本音を言わせてもらえるなら、今日にでも籍を入れたいと思ってるよ。それぐらい俺は君に夢中になってるんだ」
「む、むむむ、夢中って」
実際にこんなセリフを言う人がいるとは思わなかった。それも自分が!歌の歌詞に使われていそうな甘い台詞にキュンとなったが、それ以上に耐性がない私には威力が強すぎだ。
2人きりでもそうとう恥ずかしい台詞を身内がそろっている中堂々と言われ、恥ずかしさに何も言えなくなった環菜は下を向いたきり顔を真っ赤にして膝に置いた手をぎゅっと握りしめた。
環菜の母はきゃーっっっと年甲斐もなくはしゃいでいる。父は気持ちを落ち着かせるためか、ぎこちなくコーヒーを飲み始めた。宗司の両親は苦笑に留め、宗司の兄は呆れた風だ。
榊は、口を付けていたコーヒーカップをソーサーへと置くと「甘すぎる。俺より年上のこの人が義弟・・・。どうしよう、俺ついていけないかも・・・」とあらぬ方向をみて呟いていた。
この一言がきっかけで籍を入れるのは環菜の誕生日である8月に。挙式は宗司が気に入ったと見せてくれた結婚式場へ直接行って日取りを決めようということで纏まった。
環菜が三田環菜から木槌環菜になるまで、あと少し。
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