猫が繋ぐ縁

清杉悠樹

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番外編 同窓会 2

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 番外編 同窓会2

 二度電車を乗り継いで降りた駅から徒歩で寒さを噛みしめつつ歩き始めた彩華と美羽は、道沿いの街路樹やテナントショップ、一般のオフィスビルのエントランスもささやかながら、あらゆるところがイルミネーションに彩られていているのを見つけながら歩いていた。
 刻々と気温が下がってゆくのを身を持って体感している中、寒さを忘れる程に鮮やかなクリスマス仕様の輝くイルミネーションに二人のテンションは上がる一方だった。
 歩きながらうっとりと眺めている彩華にみうは少し残念そうに言った。
「こういうイルミネーションが綺麗な所は、彼氏とデートに来たい所だねえ」
「ほんと、そうだね」
 みうの言葉に彩華は頷いた。
 友達同士でわいわい言いながらのイルミネーション見物も良いのだけれど、やっぱり好きな人と並んで歩きたいと思うのは乙女心だろうか。寒さを共有し合って、一緒にこの景色を眺めたい。そう思った。

 師走に入りそろそろ冬至も近い為、時刻はまだ18時前だと言うのに空はとっぷり暮れてまるで深夜のようだ。
 彩華達が歩いている歩道には結構人通りが多くて、仕事帰りに見える人もいれば、カップルも仲睦まじそうに多く歩いている。その姿を羨ましいなと思いながらビルの夜景と街路樹のLEDイルミネーションをぼんやりと眺めていた。
「あっ、でも彩ちゃん同窓会の後、店長迎えに来てくれるでしょ?帰りに誘って一緒にデート出来るじゃん」
 みうからの提案に、なるほど!その手が有ったかと彩華は内心手を打った。
「そうだね、迎えに来てもらったら頼んでみようかな?」
 頼めばきっと一緒に歩いてくれると思う。予定外のデートが出来るかも知れないと思うと彩華の心は弾んだ。
「そうしなよ、今日は天気も大丈夫みたいだし。次は何時来れるかなんて分からないでしょ。っと、電話だ。誰だろ?」
 バッグの中にある携帯を探しながらみうは歩道の端に寄り立ち止ったので、彩華も倣った。
 掛かってきた相手はどうやら彼氏からだったようだ。
ディスプレイに表示されている名前までは見えなかったけれど、確認したとたんにぱっと広がった笑顔は恋をしている人のそれだった。
 何度か相槌を打ちながら会話をしていたが、最後に「じゃあ待ってるね」と言って電話を元のバッグへと仕舞いながら、零れんばかりの笑みで彩華に言った。
「やった!雪乃さん、早く仕事終れそうだから、帰り迎えに来てくれるって!私も一緒にイルミネーション見たいから帰りに頼んでみようかなー」
 ウキウキと話すみうは何時もより可愛いく見えた。うん、恋してるみうはやっぱり可愛い。時には落ち込んで逆な事もあるけれど、楽しそうにしている友達を眺めていられるのは彩華も嬉しかった。

 雪乃さんと言うのはみうの彼氏で、本名は朝倉(あさくら)雪乃丞(ゆきのじょう)といって少し古風な名前だ。彩華が浩介とクレマチスでルームシェアをする前からのお得意様でよくコーヒーを買って行ってくれているお客様だ。
 ちなみにお仕事は弁護士さん。
 黒い細身のスーツに、縁なし眼鏡をかけ切れ長の一重の鋭い瞳を持っていて、しっかりとした体格は弁護士だと彩華が初めて浩介から紹介してもらった時には、いかにもだなと納得したものだった。
 けれど、厳格そうな見た目とは裏腹に朝倉さんは元々大の猫好きだったらしいが、特にくろちゃんにはめっぽう弱いらしく、くろの姿を見るだけでめろめろになる所がどうもみうの好みのつぼに嵌ったらしく、みうがクレマチスで働き始めて暫くするとお付き合いが始まった人なのだ。
 みうは、名前が長すぎるといって雪乃さんと呼んでいるのだ。(余談:ゆっきーと呼びたかったらしいが却下されたそうだ)
「みうちゃん、良かったね」
「うん、お互いにね」
 二人はもう一度歩き始め、足取りも軽く会場へと向かったのだった。



 ホテルに着き、中へと入るとまず目に付いたのは大きなツリーだった。
 外もクリスマスを意識した飾りはあちこち沢山されていたが、ロビーは吹き抜けの天井が高いのも有ってか設置されているクリスマスツリーは非常に大きなものだった。ここでも、沢山のLEDが使われた飾り付けがされていて、大理石が使われているぴかぴかの床に反射してとても煌びやかだ。
 しかも、ツリーだけが飾られているのではなく、ロビー全体のかなりのスペースを割いて北欧の一室まるごとを意識した空間ディスプレイがされている。
 座り心地が良さそうなソファや小物などで配置されていて実際に座ってみたいと思ったが、入れないよう柵がされていて残念だった。仕方ないので、二人は写真を撮って済ませるに留めた。
 数枚お互いに写真を撮り合ってからようやく会場へ行き、受付を済ませてから既に来ていた人の中に懐かしい友人の姿を見つけて二人は駆け寄った。
「元気だったー?」
「久しぶりー!」
 そんな言葉を掛けながら、一気に話に花が咲いた。
 
 その後も数人の友人達が次々と彩華達を見つけてやって来ては、何回も久しぶりとの声を掛け合った後、近況報告が始まったのだが、もちろん彩華の結婚も話題になった。
 手芸の部活が同じだった子には連絡していたけど、それ以外の知らなかった子ももちろんいて、結婚の報告を聞いては皆は驚いていた。
「うそーっ、いつ結婚したのっ!?」
「おめでとーっ!ねっ、旦那さんはどんな人?写真無いの?見せて、見せてっ」
「あっ、私も見たい」
「かっこいい?イケメン?」
「じゃあ名前も変わったんだ。橘から何さんになったの?」
 こんな調子に質問攻めにされまくって、その一つ一つに答えようと彩華が口を開く前に、何故かみうが代わりに答えていた。
「みんな、落ち着きたまえ。結婚したのは今年の5月、彩華の誕生日に結婚。相手は、中崎浩介さん、現在29才で、もちろんイケメン。コーヒーショップの店長で、私の上司!」
 どうだ、と片手を腰にあて、胸を張って携帯の画面に彩華と浩介の結婚式の写真が表示させ威張っていた。
「「「おおーっ!」」」
 その写真に釘づけになった友達からは同時に感嘆の声が湧きあがった。
 もちろんその後は皆、彩華達の慣れ染めを聞きたがってきたが、丁度その時幹事役の挨拶とそろそろ始まりますとマイクからお知らせが入り、一旦それぞれにあてがわれているテーブルへと戻って行った。

「ふぅ」
 結婚した事を聞かれるとは思っていたが、友達の予想以上の盛りで少し疲れた。
 丸いテーブルの上に置かれた自分の名前が書かれた紙がある席へと、彩華は座った。 どういう基準で決めた席なのか分からなかったが、同じテーブルにみうもいたので嬉しかった。
 テーブルには男女合わせて10名が座っている。とても大きなテーブルだ。顔を順に見てみるが、みう以外には知っている顔は男女ともに1人ずつだけだった。
 女の人は確か、幹さんだったハズ。高校時代からとても綺麗でモテテいたのは覚えていたけれど、今はもっと綺麗さに磨きがかかっていて思わずほぅとため息が出た。
 眼福だー。
 彩華は幹さんを見てるだけで幸せでほわほわした。
 もう一人の男の人は同じクラスだったけど、名前は何だったっけ?という具合。
(うーん、卒業アルバム見ておくべきだったかなぁ)
 そんな今さらな感想しか出なかった。
 会場全体を見渡せば、同じテーブルが15程あり、6クラスあった全体の人数からすると半分以上は出席しているみたいだった。その中の一つは先生達を集めたテーブルももちろんあった。
 壇上の方からは幹事、生徒会長をしていた男の人、先生の挨拶が順に続いた後は歓談自由となった。もちろん、それを待ち望んでいた友人達はあっという間に彩華のいるテーブルへとやって来て周りを囲むと、にこぉと笑って言い放った。
「さあさあ、旦那さんとの慣れ染めを話してもらうわよぉー。話してもらうまで放さないからねぇ」
 私には、友人達の笑顔が、「にこぉ」ではなく「にたり」と笑って見えて口が引きつってしまった。
「・・・わ、分かったから。ほら、同じテーブルの人達に迷惑かけてるからちょっと落ち着こう?ね?ね?」
 ぐいぐい迫って来る友達を落ち着かせようと思って言ったが、横からは意外な人から言葉がかけられた。
「貴方、確か橘さんだったわよね?もう結婚したの?」
 声をかけてきたのは、さっき彩華が見惚れていた幹さんだった。
 長いさらさらな髪を後ろへと手で流す彼女の仕草は、女性の私から見てもドキリとする程女らしくて見惚れてしまった。同じテーブルについている男たちも、彩華の慣れ染めについて聞きに来た友達も同じように皆が幹さんにぼうっと見惚れていた。
「あ、はい。今年の5月に結婚したんです」
「ふーん。随分早いのね。子供でも出来た?」
 幹の目線は彩華のワンピースの真ん中あたりに当てられていた。カジュアルなワンピースは確かにくびれが殆ど無い体型を隠すには都合のいいものだけれど、私にはまだ新しい命は宿っていない。
「違います」
「あら、そう。ふーん、それは失礼」
 幹はそう言って立ち上がると肩にかけていたストールを座っていた背もたれに掛け、胸元が露わとなったドレス姿を惜しむことなく他のテーブルへと去っていった。
 幹は何気なくその一言を言ったかもしれないのだろうが、彩華は何だかむっとした。
 上から目線で、冷やかに笑われたような気がしたのだ。そう感じたのは彩華だけでは無かったらしい。
「なにあれ、やな感じ。それにモデルしてるからってあの服はちょっとやりすぎじゃない?ねえ」
 確かに周りの男たちを見ると視線は引き続き幹に向けられたままだった。 視線の先は、若干先程よりはやや下の方に向いても居たみたいだが。
「だよねぇ。ノースリーブの赤のミニなんてさ。胸なんてぽろっと零れ出そうな服を着られたらそりゃあ視線集めるわよねぇ。確かにスタイルが良くなきゃ似合わないしそもそも入らないし、着られもしない私の僻みですけどねっ。ええ。ねえ、ねえ、それより幹さんの最近出来た彼氏って同じモデル事務所の人でしょ?この間雑誌に書かれてたの見たわよ」
「私も見た見た!でも、その彼氏って今迄、他の女優なんかと色々噂出てた人でしょう?そのうち、彼女もその中の一人になるんじゃないの?」
 周りに聞こえない様にひそひそと喋ってはいたが、結構辛辣な会話だった。
 そうか、幹さんはモデルだったのか。
 全く知らなかった彩華は友達の棘棘しい会話を聞きながら、いつの間にか彩華の事に話が移行してきたので、遠慮が無い彼女たちの勢いに押されぎみになった彩華は、みうに救いを思わず求めてしまったのだった。
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