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第10話 彼女への最高のラブ・レター! しかし、人生とは、出会いと別れだ!

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彼女の体型に変化が起きていることは、わかっていた。

だが、それが、彼女の心の中にどんな波紋や荒波をかきてているのかまでは、わからなかった。


まあ、こんな体型の彼女が、急に変化するなんて、誰にもわからないだろう。

まして、おれは、女じゃないんだから。





まあ、振り返れば、その前兆はあったのかもしれない。



しかし、ここまでとは、さすがにわからなかった。

彼女は、ダイエットに走り、自分を追い詰めていったようだ。


おれは彼女を支えようとしたが、どんなに言葉をかけても通じない。

真紀子の心は、自分に向けられた嫌悪感に飲み込まれていった。


高校卒業が近づくにつれ、おれたちの関係は破綻していった。


もう、最後は、これだった。

これが、現実なのだ。
受け止めるしかない。

おれは、離れてゆく彼女の気持ちを引き留める"最後の手段"として、おれに残された――唯一の特技を使って、最後の勝負に出ることにした。

つまり、卓越した精密な写実画とリアリティあふれるシャープな描線の描き出す才能だ。
関係をやり直したいのとなら、何よりも二人の未来をビジュアルで示すと必要があった。
画のタイトルは、〈おれと君の輝かしい未来〉――。

ベタな題名だが、この時期の二人の心象風景には、これが合っていると、今でも思う。

ロケーションは、超高層ビルの屋上――快晴の東京市街を望む特別な場所。

あふれるほどの若い野望と大志――そして、未来の向けて、熱く滾る愛情。

これしかなかった。




久しぶりのワコムの24インチ高精細液晶ペンタブレット――Cintiqの出番だった。

時を忘れて、描きまくり、彼女のメールアドレスにそのまま送った。

自分には、これしかない。
この才能で、君を幸福にしたい――そういうつもりだった。


失意の風が吹く昼も、落胆の雨が降る夜も、君のことを思っているる





この胸に戻ってきてほしい。

そういうつもりだった。










作画の気合は、十分、まさにこれが21世紀の新時代フルカラー劇画――というはずだったが、なかかな彼女の変心には、結びつかなかったようだ。

そこで、がらりっとタッチを変えてみた。


この切り換えの速さが、未来の商業作家としての柔軟性なんだ。
そう、言外に込めたつもりだった。

反応は、まあまあだった。

じゃあ、次は、3D‐CGアプリを取り出して、素早く仕上げてみた。


これも、ほどほど。

それでは、本気の油彩ではどうか?




彼女の反応は、眼に見えて変わった。
返信文面には、明らかに棘があった。

つもり、こういうことだ。
おそらく、彼女の体型に関する基準は、このあたりにあるのだ。


おれは、どうしても、彼女のハートを射止めたかった。




夏の江ノ島にも行った。横須賀の断崖の上にも行った。

だが、どこへ行っても、"答え"は、結局、自分の中にしかないのだ



再び、俺は、自室の液晶ペン・タブに向かい、二人にとって、あるべき姿を描いた。



ここまではいいのだ。


だが、ここまで描いてしまうと彼女の逆鱗に触れてしまう。


なぜだ?

まったく、思春期の女心は、難しいよ。

真紀子は、自分を追い込む中で、おれから離れることを選んだのだろう。
おれは、なすすべもなく、ただ彼女を見送るしかなかった。

彼女の心身の大変化に立ち会いながら、おれは無力であることを思い知った。

女を愛することがどれほど難しいことか、その真実を。
そして、おれたちの物語は、静かに終わりを告げた。


しかし、おれは、こんなゴールにたどり着きたかった。


世界中から、銃口を突きつけられても、二人の幸福を実現したい。


決然と自らの主張と、自己のかけがえのない人生の愛情と幸福を周囲に見せたい。

そして、だれかを祝福し、誰かから祝福されたい。




そして、いつか、超高層ビルの屋上で、こんな――すべてが吹っ切れた表情と笑顔で"何か"を叫びたい!

そして、都立目黒第一高校を卒業する日がやってきた。

おれは何も言わず、ただ真紀子が去るのを見送った。
街の喧騒が二人を引き裂く音がした瞬間、おれは初めて寂しさを感じた。

そして、卒業の日が訪れた。
おれは目黒第一高校の門前で、真紀子の去る姿を見送った。

それでもおれは感謝している。

真紀子が差し向けてくれた日々の輝き、そして彼女が与えてくれた清潔で乾いた感傷。
それらがおれの心に深く刻まれ、一生忘れることのできない思い出となった。
その思い出の中で煌めく真紀子の姿は、おれにとって永遠の光だ。

これらの思い出が、おれの中で輝き続け、真紀子との時間がおれを豊かにしてくれたことを知っている。

人生は、何が起きるかわからない。
この先に、どんな出会いが待っているのか――誰にもわからない。

でも、だからこそ、面白いんだろう。

どこか遠くで、真紀子が新たな舞台で輝いていることを願いつつ、おれは、次のステージへと足を踏み出した。
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