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第1章 世田谷ビューティ=新妻夏子、大胆痛快の婚活バトル開始宣言! 第1話 世田谷ビューティ=新妻夏子、ついに決断の婚活、始めます!

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 "区"でありながら、人口は北九州市総人口に迫り、面積は大田区に次ぎ、23区内二位。


 市に準じるほどの地方自治権を有する特別区の域内で、下北沢・成城・玉川田園調布と並び都内住宅地好感度ランキング常連地区の三軒茶屋。


 その中心――首都高速3号渋谷線が頭上を走る国道246号線に世田谷通りが交わる三軒茶屋交差点近くに建つ――外壁=薄茶色の商用タワービル=キャロットタワー。


 つい30分ほど前――その交差点に直結した地下鉄東急世田谷線三軒茶屋駅から階段を上がって来た肉体派美人女優――新妻夏子は、既に、この人参色のビル周辺を意味もなく、二周ほど歩いていた。

 これが、並みの無名20代OLなら、誰の眼につくこともなく、誰からも振り向かれることもなく、灰色の群衆の一人――くすんだ地味女の一人として埋もれていたはずだ。

 だが、この女は、明らかに違っていた。

 1993年1月生まれ――26才。
 身長:非公表――9等身。
 体重:70㎏。
 トップ・バスト:94cm。
 アンダー・バスト:77cm。
 ブラカップ:Gカップ。
 ウェスト:78cm。
 ヒップ:100cm。

 今年、適齢期最後の年でも、スーツ姿の全身からゆらめくように匂い立つ野獣的で濃厚な女性フェロモンの濃度だけで、彼女が、並みの無名独身女などではない事実を周囲に放っている。
 身長は、非公表ながら、過去に出演した無数のグラビア写真やビデオ映像から見て、170以上の真正の9等身大型グラマー美女であることは疑いない。

 更に際立つのが、その9等身の上に載る――美しい小顔だ。
 深紅の口紅に彩られた上品な口許、いきり立つように硬く骨張った鼻梁――そして、強い意志を秘めた太い眉の下で、ギラギラとした肉食系女子の熱い欲望を放つエメラルド・グリーンの両眼。

 輝く黄金髪に包まれた――その相貌は、まさに"鋭角の美貌"と呼ぶにふさわしい。

 だが、今日のところは、全く違っていた。

 黄金髪肉体派美人女優という職業柄――常日頃から決して絶やさないその100万ドルの微笑みが、時折、消え、焦りとためらい――そして、何よりも絶対の自信家らしからないあからさまな迷いが浮かんでいた。

 いつものように都心に出るのなら、現住所の二子玉川ライズ タワー&レジデンス イースト棟の地下駐車場からお気に入りのオレンジのランボルギーニを駆ってくるところだが、わざわざ、田園都市線で来たのが、そのきりのない迷いの証拠だ。


 その理由は、このグラマー美女の頭上にあった。

 30分ほど前から、意味もなく、周囲を回っているキャロットタワー――その26階フロアには、美人婚活スクール株式会社 世田谷本社オフィスがあるのだ。

 名称から簡単に想像がつく通り、まさに『美人専門の婚活スクールだ。

 入会対象女性は、当然――衆目一致の最高級美女ということになる。

 そこが目的地なら――そして、自他共に認める肉体派美人女優なら、何のためらいもなく、エレベーターに乗り、受付カウンターで名乗り、さっさと入会申込書を書き終え、婚活を始めているはずだ。

 だが、新妻夏子は、迷っていた――。
 きりが無く、考え込んでいた。

 もちろん、女性美のエリート戦士》としての気持ちは、既に臨戦状態に入っている。

 当然、TPOなどわきまえない――露出過多のファッション・センスは、今日も健在。

 マンション自室のドアを出た時から、大きく開いたジャケットの胸元は、前ボタンを一気に外し易い特別縫製だから、片手で、常に全開可能だ。
 堂々たるFカップが、今までこの深い峡谷を覗き込んだ無数の不届き者ファンの両眼球を焼き尽くし、トラウマめいた心の傷跡を残してきた。


 ボトムスは、更に過激だ。


 図々しいまでに左右に太く張り出した二本の両太腿の限界まで引き上げた――スカート丈:2センチのマイクロ・ミニスカは、ストレッチ性があっても特殊繊維の光沢エナメル生地の上、シースルー仕様だから、視る角度によっては、これも全開だ。


 童貞レベルの青二才が、土下座して、顔をあげたら、窒息死しかねない女性フェロモン密度の高さをたっぷりと味わうことになる。

 自ずと1メートルの爆臀の振り方も自信に満ち満ちている。


 絵に描いたようなモンロー・ウォーク。
 左右に振り立てる分厚い安産体型のそれには羞恥のかけらも何のためらいもない。

 肩パッドで張り上げた両肩をそびやかすように闊歩し、美にとり憑かれ、大金を狙い、嫉妬に狂う大都会の牝豹――だ。

 まさに本人公式サイトに3D文字コラージュされた女優キャッチフレーズ通り、"美猛女"だった。

 時間にすれば、わずか30分余りなのに――早足で小気味よく闊歩する夏子の後ろ姿には、既にデジタル一眼やスマホカメラを手に持ち、距離を置いたまま、彼女の背中について来る数人の男女の姿が現れていた。

 いつもなら、遠慮なく、舌打ちするところだ。
 ――この無職のキモヲタどもがっ! 昼間っから肖像権の侵害なんだよ!――と。

 しかし、今は、そんなことを言っている場合ではなかった。

 ここで26階まで行けば――そこから婚活を始めたら……自分は、26才にもなって《特定の恋人がいないさびしい女》であることを「自白する」ことになってしまうのだ。

 八年前、女優デビュー以来、常に”恋多き女”――というパブリック・イメージを業界内外に振りまいてきたこのあたし――新妻夏子が、そんな屈辱ともいうべき情けない行為を受け入れるのか?

 受け入れられるのか?

 どこにでも転がっているような並みの無名女なら、"20代独身婚活"など取るに足らない事実かもしれないが、現在、会費月額1200円のファンクラブ男性会員数1200人という数は、伊達ではない。

 二年も使い倒した体臭付きの中古のハイヒールすら、熱烈男性ファンに五万で売りとばした女なのだ。

 使用済みの下着と生理用品など25万円だった。

 さすがにあれが売れた時は笑った。
 二子玉川レジデンスの自宅マンションの書斎の端末前で、マウスを見失うほど大笑いした。


 そんな誇り高い美女であり、今どきの女優業界で次世代トップを狙える位置にある夏子――日頃 から公私で"恋愛最強美女"を放言する彼女にとって、密かに"婚活を始めること" 自体が、耐えられない。

 この最強恋愛美女である――このあたしに恋人がいない?

 そんなことありえない。
 とてもこんな生き恥には、耐えられない。

 この事実が、公けになってしまうということだ 。

 並みの女なら、どうってことないかもしれないが、では許せない。

 美肌の露出なら、いくらでも許せる。

 それは、そもそも、出身地の世田谷区桜新町の実家から肉体派美人女優"としてのキャリアをスタートさせた――始まっていたのだ……。
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