上 下
25 / 135
二年生 前期

25 婚活?

しおりを挟む

十二月十五日。
魔法学園の前期終業日であり、学期末ウィンターパーティーの日である。

女子寮は朝から大変な大騒ぎだった。
侍女がいる人はいいけど、いない人達は食堂に集まって友人同士で着替えを手伝ったり髪を整えたりする。

私も一緒に会場に行くクラスメイトの女子三人に囲まれて、散々髪をいじられた。
結果、後ろで軽く纏めてサイドの髪を多めにおろすことになった。

ドレスはお姉様のお下がりで、お義兄様の瞳の色である黄緑色のAラインのドレスだ。
レースのオフショルダーはお姉様の手作り。
仮縫いの時に胸元がパカパカだったから、急遽夜なべして作ってくれたらしい。

お姉様の優しさと自分の胸部の寂しさに涙が出そうだ。

「シェリル様とこんな風にお話し出来るようになるなんて、思っていませんでしたわ」

「いつも難しい本を読んでらして、成績も優秀だし、闇魔法の研究は国王陛下も期待していると聞きましたから、私達とは違う世界の方なんだと思っていたんですのよ」

「もっと早くお話ししてみたら良かったですわね」

クラスメイトの女子三人が口々に言う。
ふたりは伯爵家のご令嬢でひとりは子爵家のご令嬢。
この三人とは一年生の時から同じクラスだったのに、ほとんど話したことが無かった。

合同遠征実習の後、今世での人との付き合い方について私なりに考えた。

前世の記憶を思い出した当初は、前世の記憶を生かしてアイツにギャフンと言わせつつ、シェリル・マクウェンとしての新しい人生を楽しもうと考えていたはずだった。

でも、前世の人達の思い出が徐々に薄れていくことに、罪悪感を感じるようになっていた。

だから、前世の思い出を上書きされないように、なるべく人と関わならいようにして、楽しむことを拒否するようになった。

忘れたくないという気持ちが、忘れちゃいけないという鎖になって、私を縛り付けていたのだ。

でも、時と共に忘れてしまうのは仕方がないことなんだ。
それは楽しんでも楽しまなくても変わらない、自然な現象なんだと気が付いた。

だったら心許せる友達を作り、楽しく過ごしたほうがいいだろう。


「さあ、参りましょうか」

伯爵令嬢が明るい声をあげる。

「私、昨年度は三年生に婚約者がいたので、こうして女性だけでパーティーに参加するのは初めてですわ」

「成人後の社交界では、エスコートなしの女性だけでパーティーに参加するなんて出来ませんものね」

「学生の間だけの特権ですわ。私は婚約者が他校に通っているので、昨年も女性達で参加しましたけど、変に気を使わなくて気楽で楽しかったですわよ」

一年生の時の前期ウィンターパーティーも後期サマーパーティーも、私はひとりで参加して食べるだけ食べて帰った。
ご馳走が並んでいて美味しかった記憶しかない。

「シェリル様、気合いですわよ!」

伯爵令嬢のひとりが私を見て意気込んで言う。

「え?気合い?」

「シェリル様も婚約者はいらっしゃらなかったでしょう?学園で出会ってご結婚する方も多いですからね」

え?
学校行事でまさかの婚活?
まだ十四歳だよ?

「あら、シェリル様はエルダー様と親しくされているんじゃないんですの?」

とんでもない誤解を招いている!

「あれは男慣れしてない私をからかって遊んでいるだけですよ。そもそも、エルダー様はアマーリエ様の婚約者候補じゃないですか」

私がそう返すと、三人は顔を見合わせた。

「では、シェリル様はエルダー様のことは何とも思っていないのですか?」

「迷惑な人だとは思ってますよ」

「まあ!」

むくれて返すと三人は驚いた顔をして、揃って笑い出した。

「確かに、いつも迷惑そうにしていますわね」

「エルダー様はアマーリエ様の目の前で何をなさっているんでしょうか」

「シェリル様、お互いこのパーティーで素敵な人を見つけましょうね」

誤解が解けて良かった。
若干一名それどころじゃない人がいるようだけど、婚活はともかく今日はパーティーを楽しもう。

会場である講堂に着くと、すでに着飾った生徒で一杯だった。

他の女子達と合流して賑やかに話していると、レオナルド殿下が学園の一年生で婚約者のディアナ・バレンシア王女をエスコートして、アマーリエ様は自身の騎士であるライリー様にエスコートされて入場してきた。

学園長先生の挨拶が終わり、ウィンターパーティーが始まる。

最初はパートナーがいる人達がダンスを踊る。

アマーリエ様は瞳の紅に合わせたのか、ライリー様の赤い髪に合わせたのか、大人びた深紅のマーメイドドレスで楽しそうにライリー様と踊っていた。


「マクウェン嬢」

女子達と豪華ビュッフェを堪能していたら、後ろから声をかけられた。

振り向くとユラン様が立っていた。
落ち着いた青いフロックコートが、スラリと背の高いユラン様を引き立てている。

「踊って頂けませんか?」

「うぐっ」

驚いて頬張っていたローストボアを喉に詰まらせてしまった。

「大丈夫ですか?」

ユラン様は心配そうな顔をしながら私に近づき囁いた。

「妹の件でお話しがあります」

「踊ってらして、シェリル様!チャンスよ!チャンス!!」

一緒に来た婚活中の伯爵令嬢が、鼻息荒く私をせっつく。
他の人達もキャアキャア興奮している。

「ヨ…ヨロコンデ」

マナーの授業で習った通りにそう言って手を差し出すと、ユラン様がさっとその手を取り、ホールの中央までエスコートしてくれる。

曲に合わせてステップを踏みながら、ユラン様の足は踏まないように慎重に体を動かす。

「ダンスは苦手ですか?」

「あまり踊る機会がないですから」

正直苦手だ。

「ステップは覚えているようですし、動きも悪くありません。あとはそんな風に固くならなければ、かなり上手になりますよ」

「あ…ありがとうございます」

と、グイッと手を持ち上げられ、その場でくるんと回らされた。

「や!止めてください!」

ステップ!ステップがわからなくなっちゃう!
慌てる私をなんだか楽しそうに見ているユラン様。

「妹が貴女に会えることをとても楽しみにしているんです。出来れば冬休み中に会ってもらえませんか?」

なんとか体勢を取り戻しステップを踏み始めた私に、普通に話しかけてくるユラン様。

鬼!鬼だよこの人!

「風の日ならバイトが休みなので行けますよ」

私もなるべく何事も無かったように普通に話す。

「では、冬休み最後の風の日でもいいですか?」

「大丈夫です」

寮の前まで公爵家の馬車で迎えに来るというのを固辞し、曲が終わる直前にもうひと回りくるんとさせられ、ユラン様とのダンスが終了した。

なんだか疲れた。
ご飯を食べてさっさと帰ろう。

気持ちを切り替えビュッフェに向かう私の背中に、今一番聞きたくない人の声が響いた。

「シェリル!なんで僕より先にユランと踊っちゃったの!」


うんざりしながら振り向くと、黒いタキシードの胸元に紫のチーフを覗かせた、エルダー様がそこにいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

裏切りの公爵令嬢は処刑台で笑う

千 遊雲
恋愛
公爵家令嬢のセルディナ・マクバーレンは咎人である。 彼女は奴隷の魔物に唆され、国を裏切った。投獄された彼女は牢獄の中でも奴隷の男の名を呼んでいたが、処刑台に立たされた彼女を助けようとする者は居なかった。 哀れな彼女はそれでも笑った。英雄とも裏切り者とも呼ばれる彼女の笑みの理由とは? 【現在更新中の「毒殺未遂三昧だった私が王子様の婚約者? 申し訳ありませんが、その令嬢はもう死にました」の元ネタのようなものです】

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!

アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。 「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」 王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。 背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。 受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ! そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた! すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!? ※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。 ※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。 ※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。

前世を思い出したのでクッキーを焼きました。〔ざまぁ〕

ラララキヲ
恋愛
 侯爵令嬢ルイーゼ・ロッチは第一王子ジャスティン・パルキアディオの婚約者だった。  しかしそれは義妹カミラがジャスティンと親しくなるまでの事。  カミラとジャスティンの仲が深まった事によりルイーゼの婚約は無くなった。  ショックからルイーゼは高熱を出して寝込んだ。  高熱に浮かされたルイーゼは夢を見る。  前世の夢を……  そして前世を思い出したルイーゼは暇になった時間でお菓子作りを始めた。前世で大好きだった味を楽しむ為に。  しかしそのクッキーすら義妹カミラは盗っていく。 「これはわたくしが作った物よ!」  そう言ってカミラはルイーゼの作ったクッキーを自分が作った物としてジャスティンに出した…………──  そして、ルイーゼは幸せになる。 〈※死人が出るのでR15に〉 〈※深く考えずに上辺だけサラッと読んでいただきたい話です(;^∀^)w〉 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げました。 ※女性向けHOTランキング14位入り、ありがとうございます!!

処理中です...