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6号休憩所
しおりを挟む一昨年、一度だけ登った山。
ジョージと会った、休憩小屋。6号館。
ジョージはいないけど、この空間にいれば、あの時の幸せな時間を思い出せる気がした。
ジョージに会いたい。
茂った葉が色づき始めた以前と違って、今はまだ肌寒さが残る季節。
目に移る植物たちは新しい芽を細く伸びた枝から芽吹かせていた。
季節は違っても、ジョージと会ったあの小屋は今もそこに変わらず鎮座していた。
休憩小屋を開けると、あの時と変わらない空間がそこにあった。
僕は、冷えた体を温めようとコーヒーを淹れた。
あの時も、何を話せばいいかわからなくてコーヒー淹れたなぁ。
一緒に飲んで……そういえばジョージは初め、カタコトの英語で喋ってたっけ。
僕が奴らに騙された話をしたら、抱きしめて、慰めてくれたなぁ。
最初はびっくりしたけど、ジョージの腹筋が凄くて。つい触っちゃったりしたんだよね。
いつ鍛えてるのか知らないけど、いつも筋肉モリモリで、全然緩んでるところがなくて。
何度見ても凄くかっこよくて。
会社でいつも会ってるのに、どうしてこんなに遠く感じるんだろう。
会いたいなぁ。
はは、なんか、思い出してたら涙腺緩くなっちゃったな。
うう。どうしよう、止まんないよ。
ジョージ、ジョージ、ジョージぃ。
僕、ジョージに会いたいよう。
涙が溢れて、止められなくなって、鼻水まで垂れてきたと思ったら、小屋のドアが無造作に開いた。
わっ、誰か来た。
こんな姿、見られたら恥ずかしい。
急いで顔を拭いて鼻を噛むと、努めて笑顔を作って、訪問者に言葉をかけた。
「先にお邪魔してます。どう……ぞ」
「讓治、なぜここに?」
「ジョージさんこそ」
「私は、その」
「僕はジョージさんを思い出したくて。ずっと連絡貰えなかったから」
「────讓治はなぜ、私に一度も連絡くれなかったんだ?」
「?」
「いつも私が誘うばかりで、讓治から誘われたことは一度もない。てっきり讓治にとって、私はセックスフレンドでしかないのかと」
「そんなわけ、ないです」
ジョージが僕を、そう思ってたんじゃないの?
僕はそれでいいいって思ってた。
一緒にいてくれるだけで。
「しかし」
「たしかに、ジョージとの、その、セックスはすごく気持ちいいし、いつでもしたいです、けど、それ以上に喋ったり、一緒にご飯食べたりするのも楽しいし」
「では君は、私のことをなんだと思っていたんだ?」
「何って」
「私はずっと君と恋人になったつもりでいた。でも、君にとって私はなんだったんだ?」
「課長?」
ジョージが僕を恋人と思ってくれなければ、何者でもない気がする。
「それが答えか?」
「ジョージさんが相手してくれるだけで充分だったから、僕は」
「何も望まないと?」
「……」
「言われたことをするだけか?」
「望んで良いんですか?」
「讓治?」
「だって、僕が我が儘言ったら、ジョージさん、僕のこと誘ってくれなくなるかもしれないし」
「何故」
「僕はいつも諦めてきたんです。裏切られたって、蔑ろにされたって、いいやって」
「……」
「僕はわがままを言っちゃいけないんだ、望んじゃいけないんだって。だけど」
「だけど?」
「僕、僕ジョージさんとずっと一緒にいたい。たくさんおしゃべりして、一緒にコーヒー飲んで、もっとジョージさんのことを知りたい。ジョージさんと、離れたくない」
「讓治」
僕、何言ってるんだろ。
そんなのジョージさん、嫌に決まってる。
嫌だから連絡しなくなったんじゃないか。
僕なんかといたらつまらないって。
こんなこと言ったら嫌われちゃう。うざいって思われちゃう。
僕はいつも、みんなに何考えてるかわからないって言われるんだ。
だから一生懸命僕のことを話そうとすると、今度はうざいって言われるんだ。
どのみち文句を言われるならと、何も言わないようになった。
言われたことに応えるだけのイエスマンに徹した。
その方がトラブルも少なかったし、みんなも相手をしてくれた。
結局裏切られてみんな去っていったけど、でも、僕は今までそうやってしか人との関係を築けなかったんだ。
だからジョージに求められたことは本当に幸せだった。その目的が身体だけだとしても良かった。
何より僕がしたかったし、一緒の時間が持てるなら、それで充分だった。
でも、本当の願いはそんなことじゃないんだ。
ダメだ。考えれば考えるほど、涙が溢れちゃう。止められないよ。
何この気持ち。どうしたら良いの?
うええぇん。
「じ、讓治?」
「僕、ジョージさんに愛されたいよぅ」
涙が溢れて止まらない。
なんでこんなに苦しいの? なんでこんなに悲しいの? 僕、凄い我儘言ってる。
ダメだよ。嫌われちゃう。
うわぁあぁぁあん。
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