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第五話 ツルシギ 【鳥言葉:一方通行の思い】

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 ええーー!?


 松永さんに促されて窓の外に目をやると、ベランダいっぱいに鳥が来ていた。


 ピンポーン ピンポーン

 ドンドンドンドンッ ピンポンピンポンピンポーン


 何なんだいったい。いいところなのに。
 松永さんに押されて仕方なくインターホンを見ると、管理人が来ていた。

「よしみさん、ここ、ペット不可なの知ってますよね?ご近所から抗議の連絡来てるんです。鳥に餌付けしないでください」
「してません」
「じゃあ、なんであんなにベランダに鳥が来てるんですか」
「それが、俺もさっき見てびっくりして」
「とりあえず、困りますから。餌付けしたらダメですよ、ちゃんと追い払ってくださいね」
「はぁ」

 寝室に戻ると、すでに下着を身に着けてしまった松永さんが申し訳なさそうにベッドに座っていた。

「すみません、僕のせいで」
「この鳥、どうにかなりませんか?」
「いつもは何か食べ物をあげると一旦離れてくれるんですけど」
「餌付けはするなって言われたけど、そもそも餌付けしなくても集まってきちゃうしなぁ」
「ほんと、すみません」
「鳥って何をあげればいいの?」
「パンが一番喜ぶみたいです」
「じゃあ、パンでもちぎってやりますか。朝飯は…ま、なんか別のもの考えます」


 鳥たちが部屋に入らないよう気を付けながら、ベランダでパンをちぎって与えていると、群れは少しずつ散開していった。

「自宅でもこんな状態なの?」
「いや、こんなにたくさんは。…あの」
「なに?」
「ああいうことをすると良く来るかな」
「ああいうことって?」

 顔を真っ赤にしてるの、かわいいな。って、さっきのあれか?

「カーテン開いてたから?」
「だと思う」
「カーテン閉めれば大丈夫?」
「だ、大丈夫だと…。その、実は僕、ほとんどそういうことしたことなくて」
「ひとりでってことだよね?」
「す、すみません」
「俺とするのは嫌じゃない?」

 かわいらしく縮こまって頷くのを隠すようにうつむいてしまったけど、耳まで真っ赤だ。
 本当に慣れてないようだけど、嫌なわけではないんだよな?

「僕、こういうのよくわからないんですけど」
「ん?」
「お付き合いしたその日に、その、するものなの?」

 付き合うことはいいのか。

「人それぞれじゃないかな?付き合う前にする人もいれば付き合って随分経ってからする人もいるよ」
「そっか。なら、いいか」

 恥ずかしがってた割に随分と軽いな。よく今までこんな天然記念物みたいな人が守られてきたもんだ。
 目尻に少しだけ皺を寄せて微笑んだ松永さんがかわいらしかった。

 分厚い前髪でわからなかったけど、髪を上げると筋の通った鼻の付け根から見えるつぶらな瞳が印象的で、その色素の薄い目でジッと見つめられると、心をつかまれたように鼓動が高鳴る。
 頬を赤く染めてそんな顔で見つめられては、どんな奴でも落ちそうだが。

「ほんとに、今まで誰とも付き合ったことないんだ?」
「うん」

 かわいらしい笑顔で頷いた松永さんにまた釘付けになった。
 何だろう。松永さんを見る度に湧き上がるこの感情は。何となく初恋のそれに似ている。


「さて、飯にするか。苦手なものは?」
「鶏肉以外なら」
「ははっ了解」


 朝飯というには遅い時間、パスタを作って出した。サーモンとキャベツのカッペリーニ。レモンを絞ってさっぱり仕上げた。

「兆壬さん、料理も上手なんですね」

 俺が貸した、彼には少し大きいサイズのスウェットを着て嬉しそうに頬張る姿もかわいらしかった。
 風呂上がりでいい香りがするのもあるが、髪が乾いていないのもそそる。
年上の、それも30オーバーの男をかわいいと思うなんて。
 そう考えたらその唇も、指先も、飲み込むときに動くのどぼとけさえ色っぽく見え始めた。

 別に女に困ってたわけじゃないのに、この俺がわざわざ男に手を出すとは。だけど、今まで会ったどんな女よりエロティックでかわいらしい。

「兆壬さん、食べないんですか?」
「できれば、松永さんをたべたいかな」

 冗談交じりに、本音を口に出していた。盛り過ぎだな、俺。

「あ、つい。美味そうに食べてる姿が可愛くて」

 また顔を真っ赤にした。

「よしみさんは、」
「付き合うんだしそのよしみさん、ってやめない?俺の名前は絋輔(こうすけ)。松永さんのことも祐樹って呼んでいい?」
「うん」
「俺の名前も呼んでみて?」
「こ、こうすけ、くん」
「そうそう。良くできました」



「洗濯終わったら送ってくよ」
「いろいろ、ありがとう。僕がお礼する予定だったのに、結局たくさんお世話になっちゃったし」
「それはもういいよ。それより、今度は自分でウチに来てくれると嬉しいかな?」
「迷惑じゃない?」
「恋人が来るのに迷惑はないでしょ」
「こいびと」
「そ、恋人」

 鼻の頭に指を置くと、一瞬目が寄ってから俺を見上げた。
 だめだ。カワイイ。何だこれ。俺の理性、遠出しすぎだろ。
 ちょっとした仕草が事あるごとに腰に衝撃を与えてくる。
 思わず抱き寄せて、唇を重ねた。

「あ、あー、ごめん。どうも祐樹の顔に弱い。俺、こんなに堪え性なかったかな」
「恋人なら、する?」
「まぁ、そうだね」
「なら、大丈夫」

 この人、恋人ならって条件付けたら何でも許してしまいそうな勢いだな。

「ほかの人とするのは駄目だから。わかってる?」
「兆壬さんとが初めてだし、僕にこんなことする人、他にいないよ」
「名前、戻ってる」
「あ。はは、慣れないね」

 ピー、ピー、ピー、ピー。

 洗濯物も乾いたようだ。

「送るよ」



 祐樹を車で送ってマンション前で降ろすと、しばらくして一室の窓に鳥が集まり始めた。あそこが祐樹の部屋なんだな。

 直ぐに散開して行ったが、なんであんなに鳥に好かれるんだろうか。いや、多分鳥だけじゃない。さっきマンションの入り口へ歩いている途中に後ろから猫が寄って行ってた。付いてくる猫に祐樹が気づいて頭を撫でたら、マンションには入って行かなかったが、おそらくこれが彼の日常なのだろう。



 週明け、また同じところで昼飯を取っていると、例の後輩君が訪れた。


「週末、先輩を家に車で送って来ましたよね?」
ん?なんで知ってるんだ?裕樹が話したんだろうか。

「ああ、うん。飲みつぶれちゃって俺の家に泊まったから」
「何もしなかったでしょうね?」
「何も、とは?」
「っ!っっ!なんでもありません!」

 後輩君はそう叫んで走って行ってしまった。

 あの後輩君、あの様子だと多分、裕樹が寝てる間に何かしてるな。
 俺も寝込みを襲ったクチだから人のこと言えないけど、あの姿を見てなんとも思わないやつは少ないだろう。
 祐樹も少し後輩君に警戒してくれるといいんだが。



 なんて。俺にもそんな余裕綽綽よゆうしゃくしゃくで構えていた時がありました。



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※野生の鳥に餌を上げてはいけません。
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