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第4章 六凶編 VS 百鬼夜行之衆・猛毒獣大陸

第101話 再会の2人

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    お盆休みが終わり、8月もあと僅かになった頃、皆は猛暑に負けず、探偵業に勤しんでいた。高校野球選手権大会が終わり、夏の終わりの気配がして来た。8月最後の土曜日に、大阪でなにわ淀川花火大会を控え、雅文は、ひょっとしたら、これに関連した依頼が来るのではないのか、と構えていた。

    なにわ淀川花火大会まで、あと5日という日の午後、この日は美夜子が休みで、所長と陳は、依頼で外に出ていた。事務作業が終わり、雫・雅文・玲奈は昼休憩をとっていた。
「高校野球終わったら、もう夏も終わりやね…。」
「そうですね、雫さん。」
「この夏は、色々あったな。」
雅文は、沁々と夏を振り返る。反社会的勢力のGolden Tigerと髑髏城を撃破し、7月に陳青鴻が、事務所に入った。高校最後の夏休みには、人魚を探しに、美夜子と玲奈と共に沖縄に赴き、そこで依頼人の探し人に起きた事件を解決し、人魚を狙っている殺し屋との戦いに勝利した。
「人魚に会えたのは、ホンマにロマンチックやったな…。」
雅文は、弁当箱を開け、お手製のおにぎりを食べる。おかずは、ほぼ残り物だが、それでもイケた。同じく昼食にありつく雫と玲奈。沖縄での調査とお盆休みの話が弾んだ。
「人魚見れたんは、素敵やな。」
「はい。ロマンチックでした。」
お盆休みは、それぞれ色々な体験をしたようだ。雅文は、福岡で再会した由梨を招待して、1泊2日の大阪観光。玲奈は、「金魚的楽園」のSMクラブ「金魚鉢」で出会った女王様と、1泊2日の熱海で女子旅。雫は、京都でのんびり過ごしていた。
「由梨ちゃんに、また会うたんや。良かったやん。」
「由梨ちゃんに、大阪を楽しんでもらえて良かったです。」
大阪観光では、鶴橋で焼き肉に舌鼓を打ち、天王寺で大阪市立美術館で阿部房次郎のコレクションを鑑賞し、新世界でスパプールで遊んだ。玲奈は、熱海秘宝館で働いている元ご主人と熱海へ行き、彼女とゆかりある芸術家兼緊縛師の河原万之丞の邸宅に遊びに行き、SMプレイを楽しんだ。
「夏の恋は、熱いで。」
雅文と玲奈は赤面した。

 その頃、所長と陳はそれぞれ調査のため、午前中から外に出ていた。所長は、不倫調査のため、神戸市東灘区に行っていた。ターゲットが来るのを待ち、ラブホテル前で張り込む。昼食を軽く済ませ、食後のレモンティーを飲み干した。
「もうすぐか、来た!」
ちょうどターゲットが来たので、そっと尾行し、盗聴器を部屋の中にこっそりと仕掛けた。
(これを、後で回収しなきゃな…。)
陳は、素行調査でポートアイランドに行っていた。日本での探偵活動は、3ヶ月だが台湾と香港で約10年探偵をやっており、経験豊富な彼は、そつなく調査を進める。
(ほう、そんな一面が…。)
ターゲットにバレることなく、証拠を集め、満足げな様子で引き上げた。

    昼休憩が終わり、仕事に戻る。依頼が無い日は、これまでのデータを色々と整理している。しばらくすると、事務所に1人の男性が訪ねてきた。
「すいません、ちょっとよろしいでしょうか…。」
黒髪で茶色いサングラスを胸元にかけ、チェックのシャツを着た小太りのオジサンが来た。芸能関係の仕事をしているような雰囲気が漂う。席につかせ、話を聞く。
「こんにちは。中村探偵事務所の音無玲奈と申します。」
「こんにちは。私はこういう者です。」
彼は、懐から名刺を差し出して、自己紹介した。
「私は、芸能事務所 Love Marine関西支社のプロデューサーをしております黒田雅也と申します。」
Love Marineとは、2013年に東京 秋葉原に設立された芸能事務所でグラビアアイドル・アイドルグループ・AV女優などを担当している。支社は、東海支社(愛知県名古屋市中区栄)と関西支社(大阪府大阪市中央区難波千日前)にある。関西支社のアイドルグループは5グループあり、彼はその支社のアイドルグループ部門を統括している。
「依頼は、どういったものでしょうか?」
「私の担当しているグループなんですがね…。」

 彼の担当している5グループの中に、2人組のグループがいる。これは、かつてのWinkや推定少女をイメージしたものである。そのグループ名は「蜜壺姫」と何とも官能的な名前である。メンバーは、深澤葉月(21)と矢嶋瑠奈(21)。葉月は、黒髪ロングでおっとりした娘で、瑠奈は、黒髪ショートで勝気な感じの娘。2人は、Love Marineが各支社で開催されたオーディションをクリアし、「サバイバル3days」と呼ばれるサバイバル合宿を通過し、アイドルになった。デビューしてから、精力的に活動し、関西のローカル番組などで着々とTV出演を重ね、デビュー3年目となる今年の夏に、写真集が発売されるなど、人気急上昇中の2人である。5日後に行われる大阪なにわ淀川花火大会で、ライブを行うことも決まっている。ライブを控え、レッスンに励む2人の元に、元カレと名乗る者から、不気味な手紙が来た。黒い背景に、赤い字でこう書いてあった。

「オレを忘れたとは言わせない。
オレはお前らとヤッた男や。お前らはオレの愛を受け取ってくれへんかった。
オレがこれ程、お前らを思ってるのに、どうして分かろうとしない。
オレは今や反社会的勢力の下っ端 チンピラに成り下がった。
ヤクの売人してる。こうなったのもお前らのせいや。
なにわ淀川花火大会で、ライブをやるらしいな。
お前らをそこで、血祭りにしてやる。
オレと一緒に逝こうぜ。」

「全くタチの悪いイタズラや。」
憤るプロデューサー、だが、葉月はその男に心当たりがあった。
「アイツや…。」
瑠奈は、葉月がその男にされたことを知っており、何とか葉月を守ろうとした。
「大丈夫や、葉月。瑠奈がおるから。」
ライブは開催するが、当日、殺害予告を送った男も来るかもしれないので、それを見つけて阻止してほしいというものである。

 話を聞いた玲奈は、事務所に戻ってきた所長に、ここまでの経緯を話し、雅文と調査することになった。ひとまずLove Marine関西支社に向かい、依頼人の担当するグループに会いに行くことにした。車で、神戸市から大阪市へ行き、御堂筋を通り、難波へ到着した。賑やかな道頓堀や戎橋などを通過し、千日前の小さな建物に着いた。中に入り、レッスン場では多くのアイドル達が練習に励んでいた。
「戻ったぞ。」
黒田は、雅文と玲奈の元に、葉月と瑠奈を呼んだ。
「初めまして、「「蜜壺姫」」の深澤葉月です。」
「同じく、矢嶋瑠奈です。」
「改めまして、私は中村探偵事務所の神田雅文と申します。」
「同じく、音無玲奈です。」
2人は、玲奈の名前を聞き、思わず声を挙げた。
「玲奈さん、お久しぶりです!」
「お久しぶりです!ご主人様!」
「久しぶりやな!色っぽくなったなぁ!」
再会してはしゃぐ3人。雅文と黒田は、このことを初めて知ったようだ。
「知り合い?」
その後、調査手続き・調査料の交渉を兼ねて、難波駅近くの喫茶店に立ち寄った。
「まさか、玲奈さんに会えるなんて…。」
「ご主人様、懐かしいです。」
玲奈を懐かしむ2人に、黒田も喜ぶ。
「良かったな。それにしても、どんな関係やったんですか?」
「私も気になる。ティータイムにちょうどいい小話として、2人の出会いから聞きたいな。」
葉月と瑠奈の出会い、玲奈との濃厚で甘美な日々、芸能界入りのきっかけまで、濃厚な甘いストーリーが語られる…。
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