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第1章 探偵事務所の日常
第5話 スイマー 倉橋 沙耶香
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倉橋沙耶香は、2007年5月7日に大阪府吹田市で生まれた。父は高校サッカー選手権で全国大会に出場し、国体にも出場したことのあるサッカー選手で、母は水泳で国体に出場した名スイマーというアスリートの家系ですくすくと育った。彼女がスポーツに興味を持ち始めたのは4歳の頃、2011FIFA女子W杯を観たのがきっかけだった。当時のサッカー女子日本代表には、澤穂希・丸山桂里奈・川澄奈穂美など名だたるプレイヤーが揃っていた。決勝で日本がアメリカに勝利をおさめた時、父親と一緒にテレビの前で叫んだ。
「やったー!!!世界一やー!!!!」
「すごーい!!!」
サッカー経験者の父は、目を輝かせて、子どものようにはしゃいでいた。
「沙耶香、これはスゴいことやで。世界一や。」
「すごいの?」
「あぁ。あのお姉ちゃんらな、世界一強いねんで。」
「わぁー、すごーい!!!」
父の影響を受け、この頃はサッカーをやり始めた。小学生になると、沙耶香は男勝りな体格と元気で男子に交じってサッカーをし、よく遊んだりした。
小学4年生になり、沙耶香は2次性徴が始まった。その頃、水泳の楽しさに気づき、母親のツテでスイミングスクールに通わせてもらった。本格的な競泳水着を身に纏い、大きなプールを目の当たりにし、沙耶香の目は好奇心でキラキラと輝いた。
「わぁ…。スゴい…。」
沙耶香にとっては、本格的なスクールで泳ぐのは初めてである。勢いよく飛び込み、全力で泳いだ。
(あぁ…。スゴい…。気持ちいい…。)
アドレナリン全開で25mを泳ぎ、往復して計50mを泳ぎきった。タイムは10秒、一同が驚いた。
「持ってるな、この娘…。」
当時のスイミングスクール顧問は、この瞬間に彼女の才能を見抜いた。水泳に熱中し、来る日も来る日も練習に励み、小学5年生の頃には身長が144㎝・体重は38㎏と身体が鍛えられて大きくなった。この年の夏に、小学生の水泳大会があり、沙耶香は猛特訓に励んだ。
小学5年生の頃には、周りの男女より身体が大きく、クラスでは姉貴分として慕われた。男子とも仲良しで、姉さんと言われていた。
「姉さん、相変わらず可愛いな…。」
「何、その姉さんって言い方?」
特に仲良しの男子が二人いて、一人は黒田正継という坊主の大柄な子で、もう一人は片山博明というガリ勉の細身の子。正継とはスイミングスクールの同期で、お互いに切磋琢磨する仲であった。6月のある日、二人でいつものように朝早くから、グラウンドでトレーニングをしようとしていた時のことだった。
「今日はグラウンド5周走るで。」
「えー、嘘やろ!沙耶香!キツいで、それは。」
「トレーニングはキツいことしてナンボやで。」
他愛もない話をしながら、初夏の風に吹かれて学校に向かっていると、突然「ドン!」という音がして、緊急地震速報の不協和音が鳴り響いた。そして、大きく地面が揺れ、二人はバランスを崩して転倒した。
「地震や!!」
「沙耶香!俺にしがみつけ!」
幸い周辺に壁はなく、田んぼがあった。沙耶香は正継にしがみつき、正継は畦道にしがみついた。しばらくすると、揺れが治まり、二人は安堵して座り込む。
「ハァ~、怖かった~!!」
恐怖と安堵で、沙耶香は正継にしがみついたまま涙を流して泣いた。
「大丈夫やで、沙耶香。って鼻水つけんなや!!!」
この出来事は、大阪北部地震としてニュースで取り上げられた。地震の影響を受け、学校は臨時休校となり、余震を警戒しながら不安な午後を過ごした。状況が落ち着いた夕方に、沙耶香はスマホで父親に電話した。
「もしもし、お父ちゃん。大丈夫?」
「あぁ…。大丈夫やで。お父ちゃんは大丈夫やけど阪急電車が止まってしもうてな、梅田駅でお母ちゃんに車で迎えに来てもらうとこや。」
「そうなんや、良かった…。お父ちゃんとお母ちゃん無事で…。うぅ…。良かったぁ…。」
嬉しさのあまり、涙がこぼれた。
「大丈夫やからな。怖かったやろな…。心配せんでええよ。」
その後、夏の水泳大会で上位に入賞し、小学校最後の大会で優勝と沙耶香は水泳の才能を開花させた。中学校では水泳部に入部し、メキメキと力をつけていった。中3の夏、進路を決める時に、沙耶香は中学校と同じ北摂エリアのある高校に進学することにした。そこは、沙耶香が小学生の頃に、スイミングスクール顧問と一緒に観た凄腕のスイマー 楠木亜梨沙が通っていた高校である。
「ここか。倉橋は高校でも水泳を続けたいって言うてたな。」
「はい。」
進路指導の先生も、楠木亜梨沙のことを知っていた。
「彼女は、今プロのスイマーや。倉橋もプロスイマー目指しとるんか?」
「はい。私は楠木亜梨沙さんに憧れています。」
「会ったことあるんか?」
「あれは、私が小学生の頃でした…。」
2018年6月23日、この日、スイミングスクール顧問が実力の抜きん出ていた沙耶香と正継を、より一層レベルアップさせるための一環として、当時の高校水泳で大阪府トップクラスのスイマー 楠木亜梨沙が出場する大会を観戦する、ということになった。時刻は13:00、阪急南茨木駅に集合し、顧問の車で門真市のラクタブドームへ行き、前列の席に着いて、彼女の出番を今か今かと待っていた。そして、楠木亜梨沙が登場した。
「お、二人共、楠木亜梨沙ってあの子か?」
「そうそう。」
長い黒髪を束ねてキャップを被り、可愛い顔とは裏腹にガタイのある身体つきで、競泳水着が様になっている。スタートの合図で、彼女は飛び込むと、得意のバタフライであれよあれよと他の選手を引き離し、その泳ぎはまるでイルカのようであった。
(スゴイ、ウチもあれぐらい強くなりたい。)
沙耶香は食い入るように、亜梨沙の泳ぎを見つめて目に焼き付けた。沙耶香の中で、ある決心をした。
「先生、沙耶香は亜梨沙さんのようなスイマーになる!いつかプロのスイマーになる!」
「お、俺も最強のスイマーになる!」
「あんたはプールの水飲むやろ?」
「誰がクロちゃんや!」
何はともあれ、二人が何かを感じて学んだということに、顧問は胸が熱くなった。
(俺ももっとこの子らの才能を引き出していかなな。俺自身、お前らに学ばせてもらったよ。)
こうして、沙耶香は高校受験に合格し、亜梨沙の通っていた高校に進学することができた。高校では、小学生時代の同級生である正継と再会した。
「正継、久しぶりやね。またデカなったな。」
「沙耶香も、グラビアアイドルみたいになっとるな。」
沙耶香は胸も尻も大きくなり、グラビアアイドルさながらのスタイルとなった。部活は水泳部に入部した。当時は3年生が7人(男子3人 女子4人)、2年生が6人(男子3人 女子3人)いて、1年生は沙耶香を入れて5人(男子2人 女子3人)が入った。初練習の日、1年生は水着に着替えて、改めて上級生の前で自己紹介。
「改めて入部してくれてありがとう。今日から水泳部の一員や。みんなの前で自己紹介をしよう。」
キャプテンに促され、男子から自己紹介をする。
「吹田市から来ました黒田正継です。クロちゃんです!ワワワワワ~!よろしくお願いします。」
一同の笑いを誘い、正継は満足した。
「摂津市から来ました。田村翔です。よろしくお願いします。」
細身のクールな感じの男の子。さっきとは打って変わった雰囲気となる。ここからは女子の自己紹介となる。沙耶香は他の女子に目をやる。一人は茶髪ロングの大人しい雰囲気の子、もう一人は黒髪ロングのツンツンした感じの子と対照的である。茶髪ロングの子から始まる。
「えっと…。吹田市から来ました植村雅(みやび)と申します…。よろしくお願いします…。」
緊張した面持ちで話した。続いて沙耶香の出番。
「吹田市から来ました。倉橋沙耶香です。ウチは楠木亜梨沙さんに憧れて、この水泳部に入部しました。よろしくお願いします!」
ハキハキした口調で話した。沙耶香の名を聞いて上級生は少しざわついた。
「沙耶香って、あの…。」
「スゴいのが来たな…。」
最後は、ツンツンした感じの子が話す。
「大阪ミナミから来ました。冴島有希です。よろしくお願いします。」
こうして沙耶香は、晴れて水泳部の一員となった。この年の夏の新人戦、この5人は上位に入賞した。個性豊かなメンバーと共に、沙耶香は充実した水泳人生を送っていた。
「やったー!!!世界一やー!!!!」
「すごーい!!!」
サッカー経験者の父は、目を輝かせて、子どものようにはしゃいでいた。
「沙耶香、これはスゴいことやで。世界一や。」
「すごいの?」
「あぁ。あのお姉ちゃんらな、世界一強いねんで。」
「わぁー、すごーい!!!」
父の影響を受け、この頃はサッカーをやり始めた。小学生になると、沙耶香は男勝りな体格と元気で男子に交じってサッカーをし、よく遊んだりした。
小学4年生になり、沙耶香は2次性徴が始まった。その頃、水泳の楽しさに気づき、母親のツテでスイミングスクールに通わせてもらった。本格的な競泳水着を身に纏い、大きなプールを目の当たりにし、沙耶香の目は好奇心でキラキラと輝いた。
「わぁ…。スゴい…。」
沙耶香にとっては、本格的なスクールで泳ぐのは初めてである。勢いよく飛び込み、全力で泳いだ。
(あぁ…。スゴい…。気持ちいい…。)
アドレナリン全開で25mを泳ぎ、往復して計50mを泳ぎきった。タイムは10秒、一同が驚いた。
「持ってるな、この娘…。」
当時のスイミングスクール顧問は、この瞬間に彼女の才能を見抜いた。水泳に熱中し、来る日も来る日も練習に励み、小学5年生の頃には身長が144㎝・体重は38㎏と身体が鍛えられて大きくなった。この年の夏に、小学生の水泳大会があり、沙耶香は猛特訓に励んだ。
小学5年生の頃には、周りの男女より身体が大きく、クラスでは姉貴分として慕われた。男子とも仲良しで、姉さんと言われていた。
「姉さん、相変わらず可愛いな…。」
「何、その姉さんって言い方?」
特に仲良しの男子が二人いて、一人は黒田正継という坊主の大柄な子で、もう一人は片山博明というガリ勉の細身の子。正継とはスイミングスクールの同期で、お互いに切磋琢磨する仲であった。6月のある日、二人でいつものように朝早くから、グラウンドでトレーニングをしようとしていた時のことだった。
「今日はグラウンド5周走るで。」
「えー、嘘やろ!沙耶香!キツいで、それは。」
「トレーニングはキツいことしてナンボやで。」
他愛もない話をしながら、初夏の風に吹かれて学校に向かっていると、突然「ドン!」という音がして、緊急地震速報の不協和音が鳴り響いた。そして、大きく地面が揺れ、二人はバランスを崩して転倒した。
「地震や!!」
「沙耶香!俺にしがみつけ!」
幸い周辺に壁はなく、田んぼがあった。沙耶香は正継にしがみつき、正継は畦道にしがみついた。しばらくすると、揺れが治まり、二人は安堵して座り込む。
「ハァ~、怖かった~!!」
恐怖と安堵で、沙耶香は正継にしがみついたまま涙を流して泣いた。
「大丈夫やで、沙耶香。って鼻水つけんなや!!!」
この出来事は、大阪北部地震としてニュースで取り上げられた。地震の影響を受け、学校は臨時休校となり、余震を警戒しながら不安な午後を過ごした。状況が落ち着いた夕方に、沙耶香はスマホで父親に電話した。
「もしもし、お父ちゃん。大丈夫?」
「あぁ…。大丈夫やで。お父ちゃんは大丈夫やけど阪急電車が止まってしもうてな、梅田駅でお母ちゃんに車で迎えに来てもらうとこや。」
「そうなんや、良かった…。お父ちゃんとお母ちゃん無事で…。うぅ…。良かったぁ…。」
嬉しさのあまり、涙がこぼれた。
「大丈夫やからな。怖かったやろな…。心配せんでええよ。」
その後、夏の水泳大会で上位に入賞し、小学校最後の大会で優勝と沙耶香は水泳の才能を開花させた。中学校では水泳部に入部し、メキメキと力をつけていった。中3の夏、進路を決める時に、沙耶香は中学校と同じ北摂エリアのある高校に進学することにした。そこは、沙耶香が小学生の頃に、スイミングスクール顧問と一緒に観た凄腕のスイマー 楠木亜梨沙が通っていた高校である。
「ここか。倉橋は高校でも水泳を続けたいって言うてたな。」
「はい。」
進路指導の先生も、楠木亜梨沙のことを知っていた。
「彼女は、今プロのスイマーや。倉橋もプロスイマー目指しとるんか?」
「はい。私は楠木亜梨沙さんに憧れています。」
「会ったことあるんか?」
「あれは、私が小学生の頃でした…。」
2018年6月23日、この日、スイミングスクール顧問が実力の抜きん出ていた沙耶香と正継を、より一層レベルアップさせるための一環として、当時の高校水泳で大阪府トップクラスのスイマー 楠木亜梨沙が出場する大会を観戦する、ということになった。時刻は13:00、阪急南茨木駅に集合し、顧問の車で門真市のラクタブドームへ行き、前列の席に着いて、彼女の出番を今か今かと待っていた。そして、楠木亜梨沙が登場した。
「お、二人共、楠木亜梨沙ってあの子か?」
「そうそう。」
長い黒髪を束ねてキャップを被り、可愛い顔とは裏腹にガタイのある身体つきで、競泳水着が様になっている。スタートの合図で、彼女は飛び込むと、得意のバタフライであれよあれよと他の選手を引き離し、その泳ぎはまるでイルカのようであった。
(スゴイ、ウチもあれぐらい強くなりたい。)
沙耶香は食い入るように、亜梨沙の泳ぎを見つめて目に焼き付けた。沙耶香の中で、ある決心をした。
「先生、沙耶香は亜梨沙さんのようなスイマーになる!いつかプロのスイマーになる!」
「お、俺も最強のスイマーになる!」
「あんたはプールの水飲むやろ?」
「誰がクロちゃんや!」
何はともあれ、二人が何かを感じて学んだということに、顧問は胸が熱くなった。
(俺ももっとこの子らの才能を引き出していかなな。俺自身、お前らに学ばせてもらったよ。)
こうして、沙耶香は高校受験に合格し、亜梨沙の通っていた高校に進学することができた。高校では、小学生時代の同級生である正継と再会した。
「正継、久しぶりやね。またデカなったな。」
「沙耶香も、グラビアアイドルみたいになっとるな。」
沙耶香は胸も尻も大きくなり、グラビアアイドルさながらのスタイルとなった。部活は水泳部に入部した。当時は3年生が7人(男子3人 女子4人)、2年生が6人(男子3人 女子3人)いて、1年生は沙耶香を入れて5人(男子2人 女子3人)が入った。初練習の日、1年生は水着に着替えて、改めて上級生の前で自己紹介。
「改めて入部してくれてありがとう。今日から水泳部の一員や。みんなの前で自己紹介をしよう。」
キャプテンに促され、男子から自己紹介をする。
「吹田市から来ました黒田正継です。クロちゃんです!ワワワワワ~!よろしくお願いします。」
一同の笑いを誘い、正継は満足した。
「摂津市から来ました。田村翔です。よろしくお願いします。」
細身のクールな感じの男の子。さっきとは打って変わった雰囲気となる。ここからは女子の自己紹介となる。沙耶香は他の女子に目をやる。一人は茶髪ロングの大人しい雰囲気の子、もう一人は黒髪ロングのツンツンした感じの子と対照的である。茶髪ロングの子から始まる。
「えっと…。吹田市から来ました植村雅(みやび)と申します…。よろしくお願いします…。」
緊張した面持ちで話した。続いて沙耶香の出番。
「吹田市から来ました。倉橋沙耶香です。ウチは楠木亜梨沙さんに憧れて、この水泳部に入部しました。よろしくお願いします!」
ハキハキした口調で話した。沙耶香の名を聞いて上級生は少しざわついた。
「沙耶香って、あの…。」
「スゴいのが来たな…。」
最後は、ツンツンした感じの子が話す。
「大阪ミナミから来ました。冴島有希です。よろしくお願いします。」
こうして沙耶香は、晴れて水泳部の一員となった。この年の夏の新人戦、この5人は上位に入賞した。個性豊かなメンバーと共に、沙耶香は充実した水泳人生を送っていた。
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