依り代に選ばれた子

七々虹海

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保健室

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 保健室には養護教諭をしてる樹さんがいるから、寝かせてもらうにはうってつけだ。横になっても少し楽になるだけで良くはならない。僕の血を補給するまでは。
 どれ、行ってくるしかないか…。
「悠太、久耶のとこ行ってくるから。五限間に合わなかったら先生に適当言っといてよ」
「はいよー」
 悠太は振り向きもせずに手を振っていた。


「久耶いるか?」
 保健室を開けると、案の定樹さんが丸椅子に座って、昼飯を食べていた。メインはトマトジュースだ。
「月希。またこいつと喧嘩したんだろ。顔色最悪。早いとこ飲まさないと土色になってきてんぞ」
「ですよね」
「今回はなんで喧嘩したんだ?」

「あの、部活中に……」
 くだらない理由だって分かってるから、あんまり樹さんに言いたくなかった。
「部活中に顧問の先生がみんなに差し入れでシュークリームを買ってきてくれたんです。久耶は折角だからすぐにみんなと食べたいって言って、僕は…試合形式で練習してて、もうすぐ終わる時間だから、終わってから頂こうって言って……」

 僕と久耶は一緒に部活見学をして、緩く楽しめそうなバスケットボール部に入ってた。僕と久耶のパス回しは息があってて、名コンビだなんて言われてた。

「それで、どっちも譲らなくて他の部員もどうしていいやら困ってしまったってわけか」
「はい………」

「なんだかなぁ。気が合ってるかと思いきや些細なことで喧嘩するんだよなお前らは」
「そうなんですよね…喧嘩するような事じゃない。僕が折れればいい話って頭では分かってるんですけどね」

「まっ、先は長いから。保健室の鍵、かけとくから飲ませてやって」
「そのつもりで来たんで」

 樹さんは僕の頭に手をポンっと乗せて通り過ぎると、かったるそうに伸びをしてから、保健室を出て鍵を閉めていった。

 久耶はカーテンの閉まってるベッドで横になってるはず。
「久耶~。久~?」

「久耶ごめんよ。そっち行くね」
カーテンを開けると、白い布団にミノムシのようにくるまって小さくなってる久耶がいた。僕より大きい体格してる癖にこんな小さく丸まっちゃて。

「なにヘソ曲げてんの?」
「違う……。俺が子供みたいだから反省してるんだ。月希が言ったように、練習終わってからみんなでシュークリーム食べれば何も問題なかったんだ。俺がお腹空いた今食べたいって騒いだから……」

「僕も、終わってからじゃなきゃダメだって強い口調で譲らなかったしね。意地張っちゃったんだよね。二人とも子供だったんだよ。久耶なんて何年生きてるか分からないほどなのに、ずっと子供。お腹空いたから今シュークリーム食べるって言い出すし。お前のメインは僕の血でしょ?おかしな奴だよ久耶って吸血鬼は」

「だってあの時は、部活のみんなと同じ物を早く食べてみたかったんだ。………呆れた?」

「別に。それが久耶でしょ。分かってたのに譲らなかった僕も悪かったよ」

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