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26.病み上がりの毒

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赤髪のルドヴィカ総団長のスイータの別邸。ここも凄く豪華で快適に療養させてもらっている。

驚いた事に毎日、赤髪が花を一輪持って部屋まで訪ねて来ている。
折り紙屋をしていた時は、全く顔を合わせ無かったので新鮮だった。

「どうだ調子は?」

決まってそう言うと、花を一輪差し出した。今日は黄色の花弁の多い花だった。

「昨日よりマシよ。毎日、自分で花を選んでくれてると聞いたわ。ありがとう。何だか、、くすぐったいわ。」

「歩けるようになったら、温室に案内してやる。それまではこれで我慢しろ。
何か不便があれば言ってくれ。遠慮はいらん。」

「ふふふ。昨日も一昨日もその前も同じ事を言ってたわよ。」

「そうか?そうかもしれん。
侍女長から聞いたが侍女に頼み事をしないと嘆いていたぞ。もっと人を使え。」

「これ以上?」

歩く時は介添をしてもらっているし、毎日湿布と包帯はかえてもらっている。
他にもお風呂だって腕が不便だから体や髪を洗ってくれ拭いて乾かしてくれ着替え迄してくれる。

「そうだ。でなければ仕事の無い侍女は辞める事になる。」

「そんな、、困るわ。どうすればいいの?」

「好きな菓子を買いに行かせたり本を朗読させたり。困ったら一緒にカードゲームや散歩をしろ。仕事を与えるだ。いいな?」

「ええ。わかった。」

「また明日来る。じゃあな訓練に行って来る。」

「はいはい。行ってらっしゃい。忙しいんだからもう来なくていいからね。」

以前の噛み合わない会話が嘘のように和やかな会話をすると仕事に出向いた。毎日、同じ事を言って送り出しているのに懲りずに来るのよね。

私にも変化があった。今日はどんな花だろう?と楽しみになっていた。
そのせいか赤髪にくってかかる事も無くなった。


1週間が過ぎると捻挫していた足が動く様になった。左肩と手の打撲はまだかかりそうだけど。

「廊下を散歩されてみてはいかがですか?」

侍女に進められて気晴らしに廊下に飾られている美術品を見て回っていると、ふと、暖かい風に乗って騎士達の声が聞こえてきた。

「ふーん、中庭から?」

たしか建物の端2階にバルコニーがあると聞いたわ。何か見えるかもしれないわ。

体力が落ちているから休み休み行くとバルコニーから訓練の様子が良く見えた。

赤髪は帽子をかぶっていないから直ぐに見つけた。相変わらずのボサボサ髪を無造作に束ねて顔も髭がだらしないわ。
アレでも侯爵で騎士総団長なのよね。服装規定に違反しないのかしら?

ああ、また私の世界の物差しで見てしまった。

「へぇー、ちゃんと訓練をやってるんだ。」

壁の影から目立たない様に見下ろして観察していると自然と赤髪に目が行ってしまう。
隊列の先頭に立ち騎士に労いの言葉をかけて回っている。
やがて組手が始まった。指導して回る姿を追って行くが、強い。自分より若い隊員達相手に薙ぎ倒している。

「意外ね。あっ、でも総団長だわ。」

引き続き剣術の組手が始まる。
その堂々とした立ち振る舞いは、見事であんな残念な風貌でも迫力があり心を打つものがあった。思わず声が漏れてしまった。

「カッコイイじゃないの。」

ヤダわ。どうしよう。あの赤髪なのに。
他の騎士を見れば気の迷いだとわかるはずよ。

ダメだわ。見れば見る程、彼の凄さがわかってしまう。
ホラ、まただ。見事な太刀さばきにカッコいいと思ってしまう。

別に見た目なんて大した事ないし臭いわけじゃない。だけどあの赤髪よ!
私、どうしたの?

「病み上がりには毒だわ。」

私は平常じゃないんだから冷静な判断が出来ないんだから。もう見ない方がいい。

そなとき、一際大きな声がした。
解散を告げる礼だ。
気がつくと彼がこちらを見ながら足早に走ってくるのが見える。

えっ?隠れて見ていたのにバレたの?
今更、逃げる訳にもいかず手を振ってみた。

「エリコ!そこに居ろ。足は大丈夫なのか?」

「うん!私の事は気にせず仕事に戻って。」

そう叫んだけれど、ああ、建物の中に姿は消えてあっという間にここに現れた。

「ごめんなさい。ちょっと見るだけのつもりだったの。呼び寄せるつもりじゃ無かったのよ。」

「かまわん。歩いて大丈夫なのか?」

「うん、もう平気。」

「どうした?顔が少し赤いぞ。どれ。」

「うわぁ、大丈夫だから。」

いきなり首に手を当てるのでとっさに身を引き両手で彼を突っぱねてしまった。

「駄目だ。ジッとしろ。」

今度は首と肩まで掴まれてしまった。
ああ、最悪。恥ずかしくって消えてしまいたい。

「熱は無いな。」

チラチラと顔を見るとジッと観察をされているのがわかった。
本当にもうお願い、そっとしておいて。

「うん?お前、、、はは。イヤいい。ここにいろ。」

彼は顔を手で覆うと弾んだ声を出した。

「ううん、私も帰るところだから。じ、じゃあね。」

足早にこの場を去ろうとしたら、後から手を掴まれた。

「何処へ行くんだ?ここにいろと言っただろ?」

ううっ。顔に出したらダメよ。頑張れ私!

「帰るのか遅くなったわ。侍女に心配かけてるから急いで帰る。じゃあね。」

「ふーん。急いでいるか。なら仕方がないな。」

ニヤリとしたその瞬間、あっという間に抱き抱えられてしまった。

「ちょっと!何すんのよ!降ろして!」

「しっかりと捕まらないと落ちるぞ。そうだ、もっと腕を首に回せ。」

うっ、彼が歩くと揺れるのでしっかりと首に手を絡め顔を肩に預けるようにしないと不安定になる。
ああ、目の前に首や柔らかそうな耳たぶまでが見える。

「あ、あの、ね、、皆んなが見てるから降ろして。」

「平気だ。この方が早いし足も手も楽だろう?」

でも、アナタには見えないけど、すれ違う使用人や騎士達が振り返って驚いて見ているわ。目が合う私の身にもなってよ。

「は、恥ずかしいの、、ね、お願い。」

一瞬、立ち止まってくれたけどグッと力が入りスピードを上げて歩き出した。
そのまま母家の階段も3階まで登り部屋の居間に着くと、やっとソファーに降ろしてくれた。

部屋付きの侍女達は、驚いた顔をして、その後は妙に暖かい視線を送って来た。何だか誤解をさせてしまっているような、、、。

それにしても赤髪は何て体力なんだろう。私を抱いて階段も駆け上がるなんて。

「エリコ、体調が良ければ明日も観に来い。待ってるぞ。」

「い、行かないわ。」

プイッとソッポを向いたけど、明るい言葉が返って来た。

「また明日、会おう。」
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