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13.ライアン、故郷へ帰る。

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花祭りの最終日は、予定通り無事に聖女ナオちゃんの御披露目と舞で幕を閉じた。
多くの観光客で混み合っていた町も落ち着くとライアンから晩御飯のお誘いがグッと多くなった。
私の心の内に溜まっているモノを熱心に聞いて慰めてくれる。それだけでいつの間にか彼と会わない日は寂しく物足りない日となってしまった。
とうとう昨日、タクシー代わりの馬車の中でキスされたわ!
次に会った時、心踊る私と相反して今日の彼は口数がとても少ない。どうしたんだろう?

「ねえもしかして具合が悪いの?」

「イヤ、大丈夫だよ。」

そうは言うが無理矢理に笑顔を作り明らかに様子がおかしい。

「そうは見えないんだけど、どうかした?」

作り笑いを崩してジィーと見つめると神妙な顔で話し始めた。

「マーシャが、、、妹が具合が悪化して苦しがっていると手紙が来たんだ。もう、、、どうしてやる事も出来ない。」

「そんなに悪いなんて、、、お薬は?」

「無い。聖女に直接祝福を受けるか病を払う祝福のお守りを身につけるしかないんだ。でも、、、凄く高額でしかも貴族で無いと買えないんだ。クソッ。」

悔しさで馬車の座席を拳で叩きドンと大きな音がした。
聖女の祝福にそんな力があったとは知らなかったわ。でも祝福ってたしかこの前、ナオちゃんが来た時にやっていた事よね?

「あのね。今、店に祝福を受けた商品があるの。試してみる?」

「本当に?今から見せてくれないか?頼む!」

彼は身を乗り出して私の手をキツく握り頼んできた。

「勿論よ。直ぐに馬車を引き返させましょう。」


まだそんなに遠くに行ってなかったから店には直ぐに着いた。
ドアを開けるとライアンは「どれだ?」と次々に商品を手に取りだした。

「ここでコレを手に取ってナオちゃんが祝福を授けていたわ。」

「それじゃ、聖女がここにきたのか?!」

「ええ。花祭りの最終日の前の日よ。」

「そうか!でかしたぞ!コレらを全部もらっても?」

「勿論よ。早く妹さんに渡してあげて。」

「ああ。ありがとう!本当にありがとう!この足で妹へ持って行くよ。」

箱にいっぱいに店内の折り紙を詰めて彼は満面の笑顔でタクシー馬車に乗り彼の故郷の隣国のオルラント王国へ旅立った。

これで妹さんの病気が治ると思うと本当に良かったわ。迷惑に思ったナオちゃんの訪問がこんな形で役立つとは思っても見なかったわ。

*****
ライアンが旅立って早2週間。
今日は雨なので店はひっそりとしていた。
こんな時は彼の事を思い出しながら折り紙を折ってしまう。
彼の妹は元気になったのかな?
早く会いたいな。
帰ってきたら何処へ行こう?
ふふっ、感謝されて結婚を申し込まれちゃったりして~。

「随分と上機嫌だな。お前、男が出来たらしいな。愛してるのか?」

ビックリした!
また赤髪のルドヴィカ総団長が前触れも無く声をかけて来た。
彼と会うのは彼が一階の店舗のソファーで寝起き始めた日以来だわ。あれから1度も顔を合わせてない。余りにも会わないので彼の存在をスッカリと忘れていた。

「またいきなりなの!いつの間に来たのよ?」

「相変わらず隙だらけだな。色ボケも加わってタチが悪い。」

「アナタね、どうして呼び鈴を鳴らさないの?ビックリするじゃないの。」

「で、その男の何処がいいんだ?」

ハァー、また一方的に話してくるわ。

「とっても優しいの。誰かさんと違って話も良く聞いてくれるの。それより、丁度良かったわ。話があるの。」

「何だ?」

「コホン。ねえ、そろそろ出て行ってくれない?彼氏が出来たんだからわかるでしょ?」

「問題無い。俺が寝るのは1階だからな。」

ハァ?何ですって?イヤイヤ、違うでしょう。

「アナタって鈍感なのね。大人の男女が付き合うのよ。ここに遊びに来るでしょ?アナタがこの家に居たらおかしいでしょ?」

「随分と惚れっぽいんだな。だから旅人嬢ちゃんは甘いと言われるんだ。男がこの家に引っ越して来たら出てってやる。その時までずっと同居だ。」

「約束よ。忘れないでよ。」

「ああ。お前こそ忘れるなよ。そうと決まれば俺も忙しくなるな。またな!」

珍しく問いかけに素直に答えて笑顔で片手を上げて店を出て行った。

念を押したけど、本当にわかっているの?やけに機嫌が良いのが不気味なんだけど。ま、マイペースなのはいつもの事だわ。気にしないわ。




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