上 下
16 / 30

アルフレッド家会議

しおりを挟む
王立騎士団総団長アルフレッド・マーベリックの家は侯爵で王族と並んで歴史の古い名家。
3つの代表貴族のうちの一つでもあり、王国の東一帯が領地である。


*****

「ケイコ、来月は一族会議だ。本邸へ帰るぞ。集まるのはアルフレッド家の義務だからお前も一緒だ。」

伝統あるアルフレッド家では、代々、3年に1度、一族代表が本邸に集まり一族会議が行われるのだ。

えっ!本邸?!出来れば行きたくないわ。
だって、マーベリックの長男モォーズイがいるから気まずい。だけど、、、

「ユイーナに一言お詫びをする機会ができたわね。」

ユイーナはマーベリックの長女で私達の結婚のせいで許嫁から破談にされてしまった。
長男のモォーズイは、縁談が破談になりかけの時、回避する為にマーベリックと別れてくれと頼んで来た。マーベリックから勝手な事をしたと謹慎をくらったのだった。

「ユイーナの事は気にしなくても大丈夫だが、お前の気が済むなら詫びよう。その時は一緒だぞ。」

そう言いながらケイコの髪に手を添える。

「ええ。ありがとう。」

私はニッコリと微笑みマーベリックの気遣いに感謝した。

「お前は俺の隣に座っているだけでいいぞ。社交もしなくていい。
ただ、一族会議に向けてクッキーを出来るだけ沢山焼いてくれ。お茶席用と土産用だ。
お前の得意な事でアピールしろ。」

悪戯っ子のようニヤリと笑った。


*****

本邸に着くと管理を任されているモォーズイが召使達を従えホールに出迎えた。

「父上、お帰りなさいませ。長旅でお疲れでしょう。会議の段取りは全て整っています。それまでごゆっくりなさって下さい。」

マーベリックがジーと無言でモォーズイを見つめている。

「お前、ケイコへの挨拶は無いのか?」

モォーズイは、一瞬、動きが止まったが直ぐに明らかな完璧な作り笑いで挨拶をする。

「ご無沙汰しております。ご健勝そうで何よりです。」

「ええ。貴方も。滞在中はお世話になりますね。」

本来なら、「母上」と頭に告げるのにやはり私の事は義母ははとは呼ばないのね。

私達は、それ以上話を繋げなかった。
マーベリックは、私達の空気にため息を吐きながら辺りを見回している。

「ユイーナは?どこだ?」

「サロンで最終チェックをしています。」

「ケイコ、逢いに行くぞ。こっちだ。」

マーベリックがグイッと私の手を握りしめ引いて行く。

サロンの扉は開いていて、一目で目を引く清楚な美人!赤毛ロングヘアーの少女が床に置かれた大きな花瓶の位置を指示していた。

コンコンコン

「ユイーナ、帰ったぞ。」

「お父様!」

笑顔で駆け寄り胸に手を置き頭を下げる貴族の挨拶をする。

「お帰りなさいませ。出迎えが出来ず申し訳ありません。
お元気そうですね。そちらが?」

と、私に視線を送り紹介を促す。

「そうだ。ケイコだ。
ケイコ、ユイーナだ。美しいだろう?
でも、見た目に騙されるなよ。弓の名手だ。」

ワハッハッと笑いユイーナがあーあと言う顔をする。

「初対面で言うなんて。お父様の意地悪!」

マーベリックはニヤニヤして彼女の頭を撫ぜる。

「良いでは無いか。皆んなお前の大人しい見た目に騙されるからな。家族にはちゃんと知らせておかないとな。」

たしかに。刺繍と読書がお似合いの少女にしか見えない。
マーベリックがジッーとユイーナを見つめ話を切り出す。

「ユイーナ、アイツと破談になった事、すまなかったな。まだあの家に未練があるのか?」

私も慌ててユイーナにお詫びを告げた。

「私達の結婚で破談になってしまって。
申し訳ありませんでした。」

「そうね。身分と不動産的には惜しいわ。」

何故かあっけらかんとして値踏みをしている。
ニヤリとして勝ち誇った顔でマーベリックに詰め寄る。

「お父様。破談にされた不名誉を被ったのです。今度のお相手は私が選びます。違存はありませんよね?」

マーベリックの片眉が上がったが、ふぅーとため息を一つ付き、

「わかった。許可する。
ただし!生活力のない奴は論外だ。」

「お父様ありがとう!」

満面の笑顔で抱きついてくる。
私がキョトンとしていると、ユイーナが私の手を取り微笑んでいる。

「貴族の義務では無く、私の好きな人と結婚するわ!フフフッ
貴方、凄いわね。この父が異世界まで追いかけたのでしょ?」

「俺はチャンスは逃さないさ。」

マーベリックは、娘相手にウインクをしてシレッと言う。

「流石はお父様。私も負けないわよ。」

そう言うと上機嫌で鼻歌を歌いながら花瓶の指示に戻っていった。
私の世界の親子では中々ない会話だわ。
私は貴方のせいでと罵られる覚悟だったのに。
婚約破棄されたばかりなのにこの明るさに戸惑っていると、マーベリックが耳元でささやく。

「だから言っただろ。ユイーナは大丈夫だと。これの夫になる奴は苦労するぞ。」

なる程、本当に私の心配し過ぎだったと妙に納得してしまった。


*****

本邸の一族会議は、分家の夫妻が揃って参加をする。
何せ3年ぶりだ。話し合う事が多い。
領地内の事から分家同士の揉め事まで、あらゆる事が家長マーベリックの下、ポンポンと判断され話が進められる。
アルフレッド家は、歴史がある一族なのに型にはまらない一風変わった家風が特徴だ。
だから家長の許しが出れば好きな仕事や身分違いの結婚も希望がかなう。

今回も分家の令息が2人やって来て家長へ直々に訴えた。熱弁を奮い、家具職人と宝石デザイナーになる事が許された。

そしてやはり家長の嫁取りについて批判や中傷の声があがる。
この国の人間は、この国の者以外と結婚はしない。だから異世界人の嫁なんてありえない。
家長マーベリックは、ぶっ飛んだ婚姻を結んだ。

「いくら自分が家長とはいえ、やり過ぎではないか?まだ隣国の町人を娶る方がマシなのでは?」

「家長の再婚のせいで長女のユイーナ嬢の縁談が破談になったと聞いたわ。我が家の年頃の子供達の婚姻に影響が出たらどうするの?」

「そうよ。何も持たない身分の者などご遠慮して欲しいわ。」

夫人が扇をパチンと鳴らすと、それを合図にあちこちから批判の声が聞こえてくる。
そんな声達にマーベリックは、

「つまらん。だからなんだ。
後継問題が出る訳でもないし。他の家から文句を言われる筋合いは無い。
次の議題!」

と全く相手にしない。
メンタルが強いわ。
私はここに座っていて既に心が折れそうで、とうとう下を向いてしまった。
そんな私を見てマーベリックが指示する。

「一息入れよう。お茶の用意を。」

飲み物と菓子が振る舞われる。

「これは?初めて見るな。」

「どれどれ。おい、サクサクしてこれは美味いぞ!」

「ちょっと!もしかして、、これって"クッキー"じゃない?」

流行に詳しい夫人が叫び声をあげる。

「えっ?あの噂の王都でも手に入りにくいと言う菓子?それがこんなに沢山!」

ソレが何なのかわると皆が夢中だ。
満を期してマーベリックが発言する。

「そうだ。これはクッキーだ。
ケイコの国のお菓子で彼女が作った物だ。」

マーベリックはニヤリとする。
その瞬間、先程からケイコを批判していた夫人達がバツの悪い顔で擦り寄ってくる。

「コホン。コホン。先程は失礼しました。
ホホホッ、こちらに来てお話しをしましょうよ!」

「貴方!良く言うわね。さぁ、こちらにいらして。
ねぇ、クッキーのお店は王都で一流ですってね。貴方が経営されているの?」

下心が見え見えだわ。
皆んな何とかクッキーのツテを作ろうと必死なのね。

イエ、私が先よ!私がと、揉め合いになる。

「えっ!ちょ、ちょっと待って。
貴方、胸元のピンは?
もしかして男爵のピンでは?」

この様な集まりには、身分を示すピンを身につけるのが慣しだ。
先程、私の事を何も持たない者と罵っていたご婦人が目ざとく見つけて青ざめている。

マーベリックが話しに割り込んできた。

「そうだ、男爵だ。国への貢献により陛下から賜った。言ってた無かったな。」

再び意地悪くニヤリとする。

「陛下からケイコは我が国にとって貴重な人材だから他国から絶対に守れ、手放すなと御言葉も頂いている。
自慢の嫁だ。離す事は無いぞ。
皆、よーく覚えておけ。」

「まぁ!そ、それは、、失礼しました。」

先程、散々、批判していた夫人達がお詫びの言葉をのべてくる。
貴族社会は身分が大事なのだ。
男爵のお陰で何とか認めてもらえたのかしら。

ドンドン!机を叩く音がする。

「ご婦人方!座ってくれ。会議を再開する!」

マーベリックが満足気に皆を着席させた。

会議は後半もサッサとテンポ良く決裁がおり議題は滞りなく終了をした。
後は夫婦で部屋の出口で見送りお土産のクッキーを渡すだけだ。

「本日はお疲れ様でございました。」

私はニッコリ微笑んでお土産のクッキーを1組づつに渡す。

「まぁ!まぁ!お土産もクッキーなの?ゴーシャスよ。ねぇ~もう一つ貰えるかしら?」

夫人達の目がギラついている。
すっかりさっきの批判は無かった事にしてずうずうしい。

男性陣からは、ねぎらいの言葉がかかる。

「いや~、流石はマーベリックだ。
今回も無事に終わったな。それに良い嫁を娶った。」

「陛下直々に御言葉を頂くとは、流石は本邸の嫁だ。」

先程、私の事をけなしていた夫人達の夫はフォローに必死だ。マーベリックに睨まれれば次回の会議で辛口の判断をされてはかなわない。

(本当に男も女も変わり身が早い!)

「ケイコ、良かったじゃないか。皆んなに頂いて。男爵殿。」

マーベリックがニヤリと笑っている。
アルフレッド家の人達が食べ物に弱い事がよーくわかった1日だった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

W-score

フロイライン
恋愛
男に負けじと人生を仕事に捧げてきた山本 香菜子は、ゆとり世代の代表格のような新入社員である新開 優斗とペアを組まされる。 優斗のあまりのだらしなさと考えの甘さに、閉口する香菜子だったが…

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

処理中です...