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29.玲奈の思いは

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コウライ国での玲奈のお見舞い視察は、順調で民に希望を与え復興の指揮が上がった。

「貴人様だ!貴人様がお越しだ。これで救われたぞ。」

「こんな遠くに良く来て下さった。これからはドンドン良くなぞ!悪運はこれまでだ。」

疲れ切った民が歓喜と歓迎の言葉を上げた。
そんな様子に玲奈は戸惑いしか無い。

「あのねリュウキ、私は手を振ってるだけよ。なのに何故に皆さんは喜ぶの?私が何か、、その魔法とか使える訳じゃないわ。」

「イザナギ王国で教えてもらっただろう?貴人がここに立つ。その事に意味があるんだ。」

「何も出来ないのに?」

「いやしているよ。吉兆のシンボルなんだ。これから良い方に流れが変わって行くと言うね。さあ、手を振って。民を励ましてくれ。」

そう言うとリュウキは玲奈の手を握り共に大衆の前に進ませた。
急に手を繋がれあっと思った瞬間には大衆の直ぐ前に立っていた。
間近で見ると皆んな顔が綻んで手を合わせている人もいる。
子供が近づいて来て手作りの飾りを手渡された。

「まあ!私に?ありがとう。嬉しいわ。」

「少ない材料で工夫して作ってある。歓迎の気持ちを伝えたいんだ。」


玲奈は、イザナギ王国とは違う民との距離が近い事に驚かされた。
イザナギ王国では、城から出る事が許されず外出は貴族の家ばかりだったから貴人として民と接した事は無かったのだ。

「リュウキ、人を励ますって自分も励まされるのね。」

人々の反応がイザナギ王国で傷ついた心が癒される。ここでは自分が求められ、存在意味を気が付かされる。

「ああそうだな。私も落ち込んだ時など民から力をもらっている。」

「リュウキでも落ち込むの?冷静で完璧に見えるわよ。」

「当然だよ。私も次期王として冷静である努力はしているが、、今も、玲奈といるとほら。」

玲奈の手を自分の手首に触れさせた。

ドキドキ ドキドキ

早い鼓動の音が伝わってきた。

「民を励まし見守る。これが本来の貴人の役割だ。この国では、神殿に祈りも捧げてもらう。王族も同じだよ。どうだ?共に歩んでみないか?」

「リュウキ、、」

玲奈もドキドキとしてどちらのドキドキかわからない。
結婚をしてこの地に留まり共に歩む。迷い込んだ世界で帰れなくなった今、どうやって生きて行くか?悩む玲奈だった。

*****
玲奈がイザナギ王国へ帰る前の日の夕食後、玲奈はリュウキの執務室を訪ねた。

「あの、、私、、。」

玲奈が言葉に詰まるとリュウキが切り出した。

「私は貴方の事が心配なんだ。」

そう言うと、玲奈の手を握った。

「えっ?心配?私を?」

玲奈は驚いた顔をしている。

「ああ、心配で堪らない。貴方の様子を報告を受けるたびに堪らなくなる。」

「私の事を見張っていたの?」

「初めは我が国に来て欲しいので動向を探っていただけだった。実在の貴方を見ると戸惑い泣きそうな顔をしていた。だが話をすると我が国に興味を持ち輝く瞳で見つめられると忘れられなくなった。イザナギ王国の待遇に怒りを覚えて貴方を側で守りたいと思ったんだ。」

「リュウキ、、貴方は好きよ。だけどね、愛しては無いわ。」

「構わないわよ。私は貴方が好きだ。孤独を支えさせてくれないか?少しずつで良いから家族になってくれないか?」

「うっ、、、。
ズルいです。私が一番欲しい事を言うのだから。断る理由が、、見つからないです。」

リュウキの神妙だった顔がパァと明るくなった。

「では、玲奈貴人、受けてくれるのか?」

「はい、、宜しくお願いします。」

「ハァー!」

いつも冷静なリュウキが大きな声を出して玲奈に抱きついた。

「ありがとう!大切にする。ありがとう。」

玲奈はキツく抱きしめられた腕の中から真っ赤になった顔で見上げれると照れて赤くなったリュウキと目があった。彼は恥ずかしそうに玲奈の頭を胸に押しつけて玲奈の視線を遮ってしまった。
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