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30.紫陽花の季節に

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イザナギ王国に現れた貴人がコウライ国王家に嫁ぐ。
両国が友好関係で王達が親友であったから実現したのだろう。
イザナギ王国から出された条件をコウライ国が殆ど飲む事で婚姻が結ばれた。

玲奈がコウライ国リュウキ王子に嫁いだ翌年、イザナギ王国との約束の一つである霊獣ルナの鎮魂の儀式に訪問する時期が来た。
紫陽花の咲く季節が巡って来たのだ。

イザナギ王国との国境で玲奈の護衛が交代された。

「くれぐれも後は任せたぞ。」

「はい。お任せ下さい。我々も心待ちにしておりました。この命に代えてもお守り致します。」

その声を聞いて玲奈が馬車から顔を出して叫んだ。

「トールさん!」

トールは駆け寄り膝を吐き挨拶をした。

「玲奈貴人、ご無沙汰しております。すっかり明るくなられましたね。」

イザナギ王国の護衛は、以前、玲奈貴人の専属騎士隊長であったトール達だった。ニッコリと微笑むトールと目があった玲奈は久しぶりに会えた嬉しさから涙が流れた。

「ええ。リュウキのお陰よ。トールさんに護衛してもらえるなんて嬉しいです。宜しくお願いします。」

「はい。私も光栄です。貴方は謙虚ならところはお変わりないですね。貴方らしさが失われず安心しました。さあ、参りましょう。城で歓迎式典が用意されています。」


*****
久しぶりの王城は、あいも変わらず貴族達の好奇の視線だらけだった。
玲奈は、その中を進みでて国王の前に膝をついた。

「結婚式ぶりだな。コウライ王はご健勝か?」

「はい。お変わりございません。近いうちに一緒に酒を飲もうと伝言でございます。」

「うむ。玲奈貴人をこの国に滞在する事を許可をする。歓迎しよう。両国で婚儀の時に、取り決めた通り祭事を取り行うように。」

王との謁見は、相変わらず淡々としたもので形だけで終わった。
終了するとそそくさと冷笑を浮かべ退席する貴族達とは対照的にジェイクウッド王子が玲奈の手を取った。

「元気そうだね。玲奈王子妃と呼ばないといけないかな。コウライでの生活はどうだ?リュウキ殿は良くしてくれるかい?」

「ええ。良くしてくれるわ。ジェイクは婚約をしたと聞いたわ。おめでとうございます。」

「ああ。いつまでも逃げてられないからね。さあ、案内しよう。ルナの所に行きたいだろう?」


*****
ジェイクに先導をされて、玲奈は、ジェイクと初めて会った場所に来ていた。

小道の先の突き当たりにはルナが葬られている。玲奈はそこに立ち石壁に手を当ててじっと目を閉じる。

あの時、小道の美しさから猫の可愛いさから追いかけなければ、ここに居る事も無かったのに。

(お母さん、お父さん心配かけてごめんなさい。
いつか、、いつか帰るから。待ってて。)

持ってきた花束を置くと手を合わせ長い祈りを行った。

遠くで鐘の音が響いている。
それを合図にジェイクが声をかけた。

「さあ行こうか。神殿での祈りの時間だよ。」

玲奈は頷くと踵を返して決してその場を振り返る事なく歩き出した。

「やはりアチラの世界の扉は開かなかったようだね。玲奈には辛い思いばかりさせて、、申し訳ないと思っている。」

玲奈は表情を変える事なく返事を返した。

「もう謝らないで。私はコウライ国で新しい人生を送る事に決めたの。だから今日もここには祈りを捧げる為に来たの。さあ、行きましょう。」

玲奈は異世界からやってきた貴人として、この世界の国々の期待を受けて今日も見知らぬ神に祈りを捧げる。
貴人がいると国が豊かになる。
そんなあやふやな迷信でも自分を必要としてくれる人がいる。
その人達が前を向いて生きられるように、少しでも道標になればと。

そして、、いつか、いつか帰してもらうために。

(完)
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