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第一部 一章 転移編
和真の秘密と結衣の想い。
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「刻の精霊王って言ったら、神話の精霊王の1人じゃないですか!?」
「えっ、神話!?」
精霊王と言う言葉に驚いていた梨花だけど、神話に出てくると言う話を聞いて更に驚いている。私はと言うと、2人が驚いてくれたお陰で、意外と冷静で居られてる。和真も、こう言う反応をされると分かっていたのか、無反応で次の言葉を紡ぐ。
「何時如何なる時も主の事を護り、主の支えになると誓う」
私は、この先自分が何を言えば良いのかが不思議と分かっていた。
「我は、諷乃結衣。我が精霊であるミトロジーア・クロノスと永遠の契約を交わさん」
小さく息を吸って続ける。
「何時如何なる時も苦楽を分かち合い、我が精霊を裏切らないと誓う」
ここまで言うと、足元に金色の魔術陣が現れ、風が巻き起こる。
「主の武器となり、盾ともなる」
「人生を共に歩む友であり、付き従う従者となる」
瞳を見合い、呼吸を合わせて頷き、同時に続ける。
「互いに尊重し合い、其れを制約とす。我らは生ける刻も死する刻も共に付き従う。契りを誇りと思い、歩む」
風が一度落ち着いて、周りに懐中時計の形をした魔術陣が浮かび上がる。
「お嬢様、今まで有難う御座いました。貴女は最高のお嬢様であり、これからも良き主です」
手を離し、私の右手をそっと壊れ物でも扱うかの様に持ち上げると、手の甲に静かにキスをした。
「私のお嬢様としても、そして__私の生きている長い長い時間の中で、唯一の想い人として。愛しております、お嬢様」
和真の姿が消えかかる。言葉の意味はきっと告白。今までずっと、片思いだと思っていた気持ちが本当は両思いだった何て。恐らく、和真は知らない。私が抱え続けて来た恋心を。それなら、今伝えるべきだ。
覚悟を決めて、和真の燕尾服の襟を掴む。そのまま__唇にキスをした。至近距離で見た和真の顔はとても驚きに満ちていて、でも嬉しいと言う感情が滲み出た瞳をしていた。
「私も、私もよ__和真。貴方は絶望しか無かった私の人生に希望をくれた。貴方が居たから私は今まで生きてきたわ。大好き、愛してる!」
「私は……何と素晴らしい人生を歩めるのでしょうね、お嬢様。両思いの方と一生を共に行ける何て……。お嬢様__いえ、結衣様。これからも、宜しく御願いします」
「こちらこそ、よろしく。私の執事と恋人の和真!」
その言葉と共に和真は消えて、魔術陣と共に光の結晶となり、私の胸の辺りに消えていった。
すると、和真の記憶が流れ込んできた。
まだ精霊王に成り立てだった和真__ミトロジーア・クロノスは1人の人間の精霊として、全の精霊王に任命された。だが、人間がどんな生き物なのか分からなかったクロノスは、自分の主と成りうる人間を視察しに行った。屋敷に住まう貴族と話を聞いていたので、執事をして忍び込み、場合によっては全の精霊王に事情を話し、自分の主に相応しいと思えたら頃合いを見て契約する予定でいた。
屋敷に行くと、自分の主と思わしき人間__諷乃結衣を見つけた。気が強そうだけど、どこか弱々しい雰囲気を放っている娘を見て、心惹かれた。それから、暫く一緒にいる内に段々と自分の心に芽生えつつある恋心に気付き始めた。
当初の予定だと、直ぐに契約する筈だったのだが、二度と会話が出来ない……そう考えると中々決心が付かないでいた。彼女の酷い扱いも段々とエスカレートしていくのを見ていると心が痛んだが、彼女が自分の事だけを心の拠り所にしてくれている、と言うのを感じていると、不謹慎だが心踊る気持ちになった。
ある日、彼女が屋敷を追い出された。自分もついて行こうとしたが、奥様の命令により、動けなかった。だが、奥様の留守中を狙い、何とかお嬢様を連絡を取った。すると、一週間後にやっと外に出られるらしいと返事が返ってきて、安堵に胸を撫で下ろした。それを期に、屋敷で働くのを辞め、彼女の支援の為にも金銭を貯める事に時間を費やした。それこそが、執事である私の務めだから。
……でも、時間が経っても彼女を苦しめている原因が自分にある事に対する罪悪感は消える事は無かった。それどころか、時間が経ち、彼女が精神的に傷付いている姿を見る度に痛みは広がって行く。
そこまで記憶を見ると、世界が真っ暗に染まった。
「私は最低な精霊です。主よりも自分の幸せの為に動くなど……。全の精霊王様から刻の精霊王の地位を頂きましたが、精霊王として失格です」
和真の姿が私の前に浮かび、悔しげな声で囁く。
「いいえ、そんな事無いわ。もしも貴方が私に宿っていたとしたら__確かに、愛されて幸せな人生を送れていたかもしれない」
それを聞いて和真は唇を噛み、俯いた。
「けれど、私はあの家の力しか見ない眼に染まる所だったわ。ありがとう、和真」
「え……」
「それに、貴方が宿っていたら梨花達にも会えなかったし。だから、そんな顔しないで?」
「はい…有難う、御座います」
まるで、和真の心を表している様に世界が光に包まれた。
*
目が覚めた。どうやら意識が飛んでいたのは1秒位で、思ったよりも短かった。和真の【タイムコントロール】も解けかけていて、ぱりぱりと音をたてながら崩れていく所だった。
「結衣……大丈夫?」
「それより、今は目の前の敵の事を見たら?」
【タイムコントロール】が解けて、盗賊達は私達が急に違う場所にいる事と、和真が居ない事に気付いて驚いていたけど、私達の姿を見ると直ぐに飛び付いて来た。
「【フリージング・ブルーム】」
そう唱えると、私を中心に梨花達は避けて盗賊だけを凍らせた。暫くすると凍っている筈の地面から氷で出来た様々な花が咲いた。
「この花は貴女達の命で咲いているわ。つまり、全ての花が咲いたら__分かるわね?」
盗賊達は全員が恐れを抱いた表情になって、必死に逃げようとする。
「もう私達に手を出さないと誓うなら解放してあげるわ。どうする?」
「も、勿論手出ししない!お願いだ!解放してくれ!」
「……分かったわ」
和真との魔力の繋がりを断ち切る。すると氷は溶けて、花は枯れて行った。盗賊達は走って逃げていったから、騎士団に連れて行けないのは心残りだけど解放すると言ったのだからもう攻撃は出来ない。
諦めるしか無いわね…私達には手を出して来ないだろうし。
*
辺り一面__いや、私達の周り以外が全て凍っている光景を見て、私こと梨花は驚く事しか出来なかった。しかも、そこから氷の花がぽつぽつと生えてきたんだから、驚く他無い。
「この花は貴女達の命で咲いているわ。つまり、全ての花が咲いたら__分かるわね?」
その時の結衣の剣幕は本当にさっきまで見ていた結衣本人かと目を疑う程だった。
「もう私達に手を出さないと誓うなら解放してあげるわ。どうする?」
「も、勿論手出ししない!お願いだ!解放してくれ!」
「……分かったわ」
そんな会話を経て盗賊達は逃げて言った。結衣があれだけ脅したんだから、盗賊達はもう来ないと考えて良いだろう。
「あ……梨花さん。さっき受けた傷の回復をしますね」
「うん、ありがと。よっぽど重症じゃないと先代勇者の加護も発動しないみたいだし」
「光よ、傷付いた彼の身を癒せ【カシオン】」
いつも通り、奏斗の治癒技術は流石の物で、一瞬で腕の傷が治った。そして、奏斗の詠唱を聞いて思い出した。
「あっ、そうだ!結衣のあれ、詠唱無かったけど……魔術なの?」
聞いた時にはいつもの結衣に戻っていて、安心した。
「ちゃんと魔術よ。…2人とも、詠唱の必要性って知ってる?」
私は全く知りもしないから、奏斗に助けを求める。すると、奏斗は少し悩んでから思い出した様に話し始めた。
「えっと……確か、精霊と魔力と魂を同調させる為の言葉…でしたよね」
「正解よ。詠唱をしないと精霊との魔力の繋がりが作れないから、詠唱をしないといけないの」
「じゃあ、何で結衣は詠唱が要らないの?」
結衣の言っている事とさっきやっていた事が矛盾してるって事に気付いて、疑問に思った私は聞いてみる。
「それはね、和真と一緒に居た時間の問題よ。魔術師は魔術を使う時にしか精霊と過ごしてないけれど、私は12年間片時も離れなかったから、魂と魔力の波長が同じ物になったのよ」
「へ、へぇー………」
「もう、分かって無いでしょ?」
図星を突かれてぎくっとなる。またアイコンタクトで奏斗に助けを求めたら呆れた様に肩を竦めていた。
えっ……今の理解したの?
「まあ……知らなくても大丈夫でしょ!」
「それで良いんでしょうか……」
「そろそろ行きましょうよ…日が暮れるわ」
そう言った直後、結衣の目の前が光って、そこから懐中時計と……和真さんのレイピア?
「これ……和真が使ってた懐中時計じゃないの…。こっちのレイピアも…」
「やっぱり…この飾り、和真さんのレイピアに彫られてた気がする」
手を伸ばして剣の鍔に触れる。時計の様な不思議な模様が彫られているのはあのレストランで触りまくった時に覚えてた。
全員で何だろう、と悩んでいると、頭上から聞き覚えのある声が聞こえた。
『お嬢様、私から……最初で最後のプレゼントで御座います。要らなければ捨ててしまっても構いませんが、受け取って頂けると…幸いです』
「捨てる訳無いわよ……受け取るに決まってるじゃないの…」
『有難う御座います…』
光は完全に消えて、和真さんの気配も同じく消えた。
「ね、結衣…。えっと……この雰囲気に聞く事では無いんだけどさ、レイピアって使えるの?ナイフ使ってたのボロボロだった覚えが……」
「確かに……凄く遅かったですよね。【バリア】の詠唱をする時間は有りましたし」
「恥ずかしいのだけれど……一応、レイピアなら使えるわ。ただ……単純な身体能力が足りないのよ。だから、梨花や和真みたいに前衛で暴れるって言うのは無理よ」
「そっか……じゃあ、奏斗の護衛係兼、遠距離攻撃担当って感じかな?」
どっちかって言うと中衛って立場かな?やろうと思えば前衛にもなれるし、基本は後衛だから……。
「僕は攻撃手段が無いですから……護衛が居ると安心出来ます」
「そう……じゃあ、私はそうさせて貰うわね」
結衣は小さく微笑んでから、懐中時計を胸ポケットにしまって、レイピアを腰のベルトに付ける。
「装備は……このままで良いかしら。着慣れたし」
ピンク色のミニスカートを翻して、外に向かって行ってしまった。
……そういえば、日本に帰るって言う目標…忘れてたな。もう……帰らなくても良いんじゃ…。
「えっ、神話!?」
精霊王と言う言葉に驚いていた梨花だけど、神話に出てくると言う話を聞いて更に驚いている。私はと言うと、2人が驚いてくれたお陰で、意外と冷静で居られてる。和真も、こう言う反応をされると分かっていたのか、無反応で次の言葉を紡ぐ。
「何時如何なる時も主の事を護り、主の支えになると誓う」
私は、この先自分が何を言えば良いのかが不思議と分かっていた。
「我は、諷乃結衣。我が精霊であるミトロジーア・クロノスと永遠の契約を交わさん」
小さく息を吸って続ける。
「何時如何なる時も苦楽を分かち合い、我が精霊を裏切らないと誓う」
ここまで言うと、足元に金色の魔術陣が現れ、風が巻き起こる。
「主の武器となり、盾ともなる」
「人生を共に歩む友であり、付き従う従者となる」
瞳を見合い、呼吸を合わせて頷き、同時に続ける。
「互いに尊重し合い、其れを制約とす。我らは生ける刻も死する刻も共に付き従う。契りを誇りと思い、歩む」
風が一度落ち着いて、周りに懐中時計の形をした魔術陣が浮かび上がる。
「お嬢様、今まで有難う御座いました。貴女は最高のお嬢様であり、これからも良き主です」
手を離し、私の右手をそっと壊れ物でも扱うかの様に持ち上げると、手の甲に静かにキスをした。
「私のお嬢様としても、そして__私の生きている長い長い時間の中で、唯一の想い人として。愛しております、お嬢様」
和真の姿が消えかかる。言葉の意味はきっと告白。今までずっと、片思いだと思っていた気持ちが本当は両思いだった何て。恐らく、和真は知らない。私が抱え続けて来た恋心を。それなら、今伝えるべきだ。
覚悟を決めて、和真の燕尾服の襟を掴む。そのまま__唇にキスをした。至近距離で見た和真の顔はとても驚きに満ちていて、でも嬉しいと言う感情が滲み出た瞳をしていた。
「私も、私もよ__和真。貴方は絶望しか無かった私の人生に希望をくれた。貴方が居たから私は今まで生きてきたわ。大好き、愛してる!」
「私は……何と素晴らしい人生を歩めるのでしょうね、お嬢様。両思いの方と一生を共に行ける何て……。お嬢様__いえ、結衣様。これからも、宜しく御願いします」
「こちらこそ、よろしく。私の執事と恋人の和真!」
その言葉と共に和真は消えて、魔術陣と共に光の結晶となり、私の胸の辺りに消えていった。
すると、和真の記憶が流れ込んできた。
まだ精霊王に成り立てだった和真__ミトロジーア・クロノスは1人の人間の精霊として、全の精霊王に任命された。だが、人間がどんな生き物なのか分からなかったクロノスは、自分の主と成りうる人間を視察しに行った。屋敷に住まう貴族と話を聞いていたので、執事をして忍び込み、場合によっては全の精霊王に事情を話し、自分の主に相応しいと思えたら頃合いを見て契約する予定でいた。
屋敷に行くと、自分の主と思わしき人間__諷乃結衣を見つけた。気が強そうだけど、どこか弱々しい雰囲気を放っている娘を見て、心惹かれた。それから、暫く一緒にいる内に段々と自分の心に芽生えつつある恋心に気付き始めた。
当初の予定だと、直ぐに契約する筈だったのだが、二度と会話が出来ない……そう考えると中々決心が付かないでいた。彼女の酷い扱いも段々とエスカレートしていくのを見ていると心が痛んだが、彼女が自分の事だけを心の拠り所にしてくれている、と言うのを感じていると、不謹慎だが心踊る気持ちになった。
ある日、彼女が屋敷を追い出された。自分もついて行こうとしたが、奥様の命令により、動けなかった。だが、奥様の留守中を狙い、何とかお嬢様を連絡を取った。すると、一週間後にやっと外に出られるらしいと返事が返ってきて、安堵に胸を撫で下ろした。それを期に、屋敷で働くのを辞め、彼女の支援の為にも金銭を貯める事に時間を費やした。それこそが、執事である私の務めだから。
……でも、時間が経っても彼女を苦しめている原因が自分にある事に対する罪悪感は消える事は無かった。それどころか、時間が経ち、彼女が精神的に傷付いている姿を見る度に痛みは広がって行く。
そこまで記憶を見ると、世界が真っ暗に染まった。
「私は最低な精霊です。主よりも自分の幸せの為に動くなど……。全の精霊王様から刻の精霊王の地位を頂きましたが、精霊王として失格です」
和真の姿が私の前に浮かび、悔しげな声で囁く。
「いいえ、そんな事無いわ。もしも貴方が私に宿っていたとしたら__確かに、愛されて幸せな人生を送れていたかもしれない」
それを聞いて和真は唇を噛み、俯いた。
「けれど、私はあの家の力しか見ない眼に染まる所だったわ。ありがとう、和真」
「え……」
「それに、貴方が宿っていたら梨花達にも会えなかったし。だから、そんな顔しないで?」
「はい…有難う、御座います」
まるで、和真の心を表している様に世界が光に包まれた。
*
目が覚めた。どうやら意識が飛んでいたのは1秒位で、思ったよりも短かった。和真の【タイムコントロール】も解けかけていて、ぱりぱりと音をたてながら崩れていく所だった。
「結衣……大丈夫?」
「それより、今は目の前の敵の事を見たら?」
【タイムコントロール】が解けて、盗賊達は私達が急に違う場所にいる事と、和真が居ない事に気付いて驚いていたけど、私達の姿を見ると直ぐに飛び付いて来た。
「【フリージング・ブルーム】」
そう唱えると、私を中心に梨花達は避けて盗賊だけを凍らせた。暫くすると凍っている筈の地面から氷で出来た様々な花が咲いた。
「この花は貴女達の命で咲いているわ。つまり、全ての花が咲いたら__分かるわね?」
盗賊達は全員が恐れを抱いた表情になって、必死に逃げようとする。
「もう私達に手を出さないと誓うなら解放してあげるわ。どうする?」
「も、勿論手出ししない!お願いだ!解放してくれ!」
「……分かったわ」
和真との魔力の繋がりを断ち切る。すると氷は溶けて、花は枯れて行った。盗賊達は走って逃げていったから、騎士団に連れて行けないのは心残りだけど解放すると言ったのだからもう攻撃は出来ない。
諦めるしか無いわね…私達には手を出して来ないだろうし。
*
辺り一面__いや、私達の周り以外が全て凍っている光景を見て、私こと梨花は驚く事しか出来なかった。しかも、そこから氷の花がぽつぽつと生えてきたんだから、驚く他無い。
「この花は貴女達の命で咲いているわ。つまり、全ての花が咲いたら__分かるわね?」
その時の結衣の剣幕は本当にさっきまで見ていた結衣本人かと目を疑う程だった。
「もう私達に手を出さないと誓うなら解放してあげるわ。どうする?」
「も、勿論手出ししない!お願いだ!解放してくれ!」
「……分かったわ」
そんな会話を経て盗賊達は逃げて言った。結衣があれだけ脅したんだから、盗賊達はもう来ないと考えて良いだろう。
「あ……梨花さん。さっき受けた傷の回復をしますね」
「うん、ありがと。よっぽど重症じゃないと先代勇者の加護も発動しないみたいだし」
「光よ、傷付いた彼の身を癒せ【カシオン】」
いつも通り、奏斗の治癒技術は流石の物で、一瞬で腕の傷が治った。そして、奏斗の詠唱を聞いて思い出した。
「あっ、そうだ!結衣のあれ、詠唱無かったけど……魔術なの?」
聞いた時にはいつもの結衣に戻っていて、安心した。
「ちゃんと魔術よ。…2人とも、詠唱の必要性って知ってる?」
私は全く知りもしないから、奏斗に助けを求める。すると、奏斗は少し悩んでから思い出した様に話し始めた。
「えっと……確か、精霊と魔力と魂を同調させる為の言葉…でしたよね」
「正解よ。詠唱をしないと精霊との魔力の繋がりが作れないから、詠唱をしないといけないの」
「じゃあ、何で結衣は詠唱が要らないの?」
結衣の言っている事とさっきやっていた事が矛盾してるって事に気付いて、疑問に思った私は聞いてみる。
「それはね、和真と一緒に居た時間の問題よ。魔術師は魔術を使う時にしか精霊と過ごしてないけれど、私は12年間片時も離れなかったから、魂と魔力の波長が同じ物になったのよ」
「へ、へぇー………」
「もう、分かって無いでしょ?」
図星を突かれてぎくっとなる。またアイコンタクトで奏斗に助けを求めたら呆れた様に肩を竦めていた。
えっ……今の理解したの?
「まあ……知らなくても大丈夫でしょ!」
「それで良いんでしょうか……」
「そろそろ行きましょうよ…日が暮れるわ」
そう言った直後、結衣の目の前が光って、そこから懐中時計と……和真さんのレイピア?
「これ……和真が使ってた懐中時計じゃないの…。こっちのレイピアも…」
「やっぱり…この飾り、和真さんのレイピアに彫られてた気がする」
手を伸ばして剣の鍔に触れる。時計の様な不思議な模様が彫られているのはあのレストランで触りまくった時に覚えてた。
全員で何だろう、と悩んでいると、頭上から聞き覚えのある声が聞こえた。
『お嬢様、私から……最初で最後のプレゼントで御座います。要らなければ捨ててしまっても構いませんが、受け取って頂けると…幸いです』
「捨てる訳無いわよ……受け取るに決まってるじゃないの…」
『有難う御座います…』
光は完全に消えて、和真さんの気配も同じく消えた。
「ね、結衣…。えっと……この雰囲気に聞く事では無いんだけどさ、レイピアって使えるの?ナイフ使ってたのボロボロだった覚えが……」
「確かに……凄く遅かったですよね。【バリア】の詠唱をする時間は有りましたし」
「恥ずかしいのだけれど……一応、レイピアなら使えるわ。ただ……単純な身体能力が足りないのよ。だから、梨花や和真みたいに前衛で暴れるって言うのは無理よ」
「そっか……じゃあ、奏斗の護衛係兼、遠距離攻撃担当って感じかな?」
どっちかって言うと中衛って立場かな?やろうと思えば前衛にもなれるし、基本は後衛だから……。
「僕は攻撃手段が無いですから……護衛が居ると安心出来ます」
「そう……じゃあ、私はそうさせて貰うわね」
結衣は小さく微笑んでから、懐中時計を胸ポケットにしまって、レイピアを腰のベルトに付ける。
「装備は……このままで良いかしら。着慣れたし」
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