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本編

10 さらに兄を尊敬したおれ ※

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この話以降、ちんこ、発言が増えます
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   ◆
 

 ぬいぐるみみたいに、足ぷらぷら抱っこをされたまま、兄の寝室に連れてこられた。

 あれ、なんか。
 兄の腕が以前よりもしっかりしてる。

 こんな時に気がつくなんておかしいかもしれないけれど、兄の腕が筋肉質になっていた。
 食事量が増えても、細いのは、変わらず細い。

 でも、前は子供らしい柔らかさのある腕だったのに、おれを抱えているからなのか、服の下に硬い筋肉の存在を感じる。

 おれの体も前より大きくなって、重たくなっているのに。
 抱っこされても、落とされそうって感じない、ぜんぜん怖くない。

 そういえば、処刑された時の兄は、剣術の練習をそんなにたくさんしてなかった。
 今の兄は、すごくたくさん剣を振ってる。


 部屋に入るなり、兄が声を荒げた。

「スノシティ!」
「ふゅいっ」

 兄に、初めて怒鳴られた。
 すぐに目の前がにじんで、揺れ始める。

 おれ、なんかだめなことしたの?

 床に下ろされて、兄の手が離れていく。
 寒いのやだ。
 一人、やだ。
 やだ、やだよ。
 謝るから、ごめんなさいするから。

「水を飲みなさい、早く、たくさん飲んで吐くんだっ」

 兄のグラスと一緒に用意されるようになった、おれ専用の両手持ちカップに水をたっぷり入れて、ランプが乗った寝台脇の棚に置かれた。

 いつもなら、寝ながら飲み食いするのはだめって言うのに、抱き上げられて寝台の上に座らされた。

 これ以上、兄に叱られたくなくて、しょんぼりしたまま水を飲んだ。
 全部飲んだら、もう一杯飲みなさい、と足された。
 そんなに飲めないよ。

「なんで、お茶を飲んだりしたんだ、あれはよくないものなのに」
「ごめ、んなさいっ、だ、だって、おちゃなくなったらおちゃかいおわるよ、あにうえかえれるもん」
「……スノシティ」

 ぴりぴりしていた兄の雰囲気が、ふいにふんわりと緩んだ。

「ごめんなしゃい」

 鼻をぐずぐず鳴らしながら謝ると、兄がおれをぎゅうっと抱きしめた。

「ぼくの説明が足りなかった、スノシティ、ごめん、本当にごめんよ」

 さっきまでの声とは違って、優しい兄の声。
 苦しそうな声。

 兄がもう怒ってないと分かったら、涙が止まらなくなった。
 わんわん泣きに泣いて。

 ようやく落ち着いたおれに、兄が水を大量に飲むように促し、風呂場で吐かされた。
 「体の中に入ったお茶を、少しでも減らすためだよ」と優しく言われたけど、自分の腹の中がどうなってるのかなんて分かんないから、うまくできたのか。

 それを繰り返して、ひどく疲れた。
 吐くって、大変だ。
 知らなかったけど、すごく体力を使うんだな。



 無事ではないけどお茶会が終わって、ホッとして。
 泣いたからなのか、吐いたからなのか。

 おれは、眠たくてうとうとしていた。
 外の明るさから、夕食まではだいぶ時間があるようだ。
 今日の兄は、勉強、しなくて良いのかな。

 あれー、なんだか指先がぴりぴりする。
 あと、体が熱っぽい。

「あにうえ、あつい」
「スノシティ心配いらないよ、薬の効果がきれるまで、ずっといっしょにいるからね」
「くすり?」
「なんでもないよ、おいで、ぎゅっとしてあげる」
「うん」

 寝台の上で兄にぎゅーっとしがみつく。

 熱いのに、気持ちいい。
 でも、なんかもやもやする。
 うずうずする。

 指先ちくちく、ぴりぴり。
 かゆい。
 むずむずするのが、気持ち悪い。

「あにうえ、むずむずやだ」
「うん、そうだね」
「あにうえ」
「うん」
「あにうぇえ……」

 なんだか、涙が出てきた。
 さっきまでいっぱい泣いてたのに、まだ出るのか。

 こんな風に気持ち悪くなるのは初めてで、どうしたら楽になるのか分からない。

 頭がふわふわして、高熱が出ている時のよう。
 ちくちく、ぴりぴり、むずむずして、全身がかゆい。
 少しでも楽になりたくて、腹や股間をかこうとすると、兄がおれの手を掴んだ。

「傷になるからがまんしようね」
「やだ、かゆい」
「だめだよ」
「かゆいのやだー」

 全身をかきむしりたい。
 むずむずが少しでも減るように。

 全身の肌の下を、小さな虫が這いまわっているような気持ち悪さと、おかしな熱っぽさ。
 どこもかしこもうずくのに、どこがかゆいのか分からない。

「ごめんよスノシティ……ここには、まだ触れたくなかったけど、仕方ないかな」

 兄が何か言ってる。
 むずむずして、言葉が理解できない。

 びくん、と体が動いた。

「あ、あにうえっ」

 そこ、おしっこでちゃう。
 むずむずする。

「ここにいるよ」

 ふわふわと霞んだ視界で、兄がおれの股間に手を伸ばしているのが見えた。
 尻尾穴の開けてある、被毛でまんまるに膨らんだパンツを脱がされて、兄が気持ちいいってほめてくれる、自慢の腹毛をかきわけて。

 ぴこん、と腹毛の中で主張するちんこ。
 ちんちくりんの五歳サイズのちんこを、兄がそっと指先で撫でた。

 それに、触られたくない。
 嫌なのに、触れられるとうずきがひどくなるのに、同時に楽になる。
 こんな風になるのは初めてだから、逃げて良いのか悩む。

「ひゃうっ、あにうえっ」

 びく、びくと体を震わせながら、兄にすがった。

 逃げても、兄以外に頼れる人はいない。
 助けて。
 つらいよう。

 痛いのは我慢できる。
 叩かれるのも蹴られるのも、ひどいことを言われるのも。

 でも、これは無理だと思った。

 前のおれは自分の股間に性的に触れたことがなかった。
 兄が父母や護衛、使用人にひどい扱いを受ける姿を見てしまえば、触れたいと思えるはずもない。
 だれかに触れられたこともない。

 おかしくなる。
 兄がなでてくれるちんこに、チクチクするトゲがささっているようで、やさしくなでられても体ががびくびくとふるえる。

 ……でも、もう、いやじゃない。

 あにだから、あになら、いやじゃないよ。
 だから、そんなかお、しないで。

「あに、ぃえぇ、ごめ、なしゃい」

 あにうえ、だいすきだよ。
 おねがいだから。
 わらって。

「ひぃうっ」

 びりびりと、いたいほどのなにかを、かんじた。





 目を覚まして、自己嫌悪に落ち込んだ。

 そうか、あれが薬ってやつの効果なんだ。
 腹が痛いよりいいやって簡単に考えて、お茶を飲むべきじゃなかった。

 前の兄が諦めたのもわかる気がする。
 めちゃくちゃつらかった。

 全身がかゆくてたまらないのに、かいたらだめって止められるのは、殴られるよりつらい。

 腹が痛いのも地獄だと思ったけど、かゆいのもだめだな。
 ちんこなんて掻きむしったら、どうなるか……うひぃ。

 殴られたり、蹴られたりなら、相手が疲れたり飽きてしまえば終わるから、ひたすら耐えていれば良い。
 でもかゆいのは無理だ。
 いつ終わるか分からないって、すっごいつらかった。

 あんな状況で、兄はよく乗っかってくる王妃を蹴飛ばして暴れなかったな。

 やっぱり兄はすごい。
 優しい上に格好良くて、かゆいを我慢する根性もあるなんて、本当に兄はすごい。
 おれだけだったら、間違いなく部屋中に全身を擦り付けながら、かゆい~って暴れてたはずだ。

 とりあえずお茶の匂いは覚えたから、同じものは二度と飲まないぞ。
 あー、思い出しただけでかゆくなってくる気がする。

 股間をぼりぼりとかこうとした手が、途中で何かに止められた。

「スノシティ、起きたの?」
「あにぅえ?」
「よかった、気がついたんだね」

 そっと鼻先を撫でられる。
 兄の唇がおれの鼻先に落とされる。
 怯えるように、触れたら壊れてしまうと恐れるように。

 震える指先を知って、おれが兄を不安にさせてしまった、と後悔した。

「ごめんよ、僕が先に話しておくべきだったんだ。
 王妃の出すものは、食べたり飲んだりしてはいけないよ」
「うー、ごめなしゃい」

 あれ、舌がうまく回らない。
 五歳になって、牙が生えて、やっと兄とたくさん話せるようになってきたのに。

「次は気をつけるんだよ」
「うんっ」

 くやしい。
 おれが兄を守るはずだったのに。
 兄に守られていたら前と同じままだ。

 次は頑張ろう。
 絶対に、兄には嫌われたくないんだ。

 
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