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本編

08 兄のおっぱい(?)を吸うおれ ※

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おっぱいおっぱい言ってます
この辺りから、どんどん本性が出てポンコツになっていきますが、大丈夫なのか……

月光さんでランキングに入らせて頂きました
両方お読みの方はいないと思いますが、感謝を捧げさせて頂きます!!
m(_ _)m
お読みいただき、ありがとうございます





   ◆
 

 兄に正面から抱えるように腕を回されていると、とても落ち着くことに気がついた。

 国王との対面が、精神的な疲労になっていたようだ。
 兄の腕の温もりに安心してしまって、一気に眠たくなってくる。

 うと、うとと眠りかけていると、少し開いていた口元に何かが触れた。

 本能的なものだと思うんだけれど、体が幼いから勝手に動く。
 おっぱいを探してる動きを、甘えたい時にしてしまうんだ。
 う゛く、う゛く、とのどが鳴る。

「くふふっ」

 つんつん、と口元をつつかれた。
 ちょうだい、と口がはくはく動いてしまう。
 甘えたがりの赤ん坊みたいでいやなのに、体が止まらない。

 兄の手が体から離された。
 やだ、離れないでとおれの手が追いかける。

 わたわたと手を振り回して、ようやく見つけた温かい体に抱きつく。

 あれー?
 なんか、いつもよりも細い気がする。
 細い胴体が二本?

 兄が服を着てない気がする。
 風呂に入れてくれるのかな。
 今日、風呂の日じゃないけど。

 んー、眠い。
 口寂しい。
 むにむにと口元が動く。

 口に何かが触れたので反射的に咥える。
 細くて。
 温かくて。
 やわらかい。
 ちょっとしょっぱい?
 これ、きっと、おっぱいだ。

 本当のおっぱいをくわえていた頃の記憶はないけど、たぶん、おっぱいだ。
 生き物の体温がある。

 うとうととまどろみながら、吸った。
 自然と舌がおっぱいをしごくように動く。

 おいしい味がしない。
 もうちょっと吸ってみよう。
 う゛く、う゛く、と自分の喉が鳴る音をどこか遠くに聞きながら、そのまま眠りに落ちていった。

「ぁ、はあ、んっ、スノシティっ」

 眠りに落ちる前に、兄が名前を呼んでくれたような、気がした。





 三歳の日々は過ぎていく。
 前の時にはなかった国王との出会いは、悪くない結果になった。

 兄が呼び出される時に、おれの名前も追加されるようになったのだ。
 おれだけが呼び出されたことはない。

 これで大手を振って兄を守れる。
 本当ならば牽制として爪を研いでおきたいけれど、兄を傷つけないようにおれの爪は丸くて短い。

 いざという時のために戦う手段が必要だ。
 身体能力だけでは、護衛たちを全員倒せないことは経験済みだ。
 いくら鋭い爪と牙があっても、数には負ける。

 もう少し大きくなったら、強くなるためになんかしたい。
 今は、兄が剣術の訓練をしているのを、見守ってるだけで我慢してる。


 三歳の誕生日以降。
 兄が、眠たい時におっぱいを吸わせてくれるようになった。

 誕生日より前に同じことがあったのかは、覚えてない。
 兄の周りには護衛がいっぱいだからと安心しきって、一度寝ると朝までぐっすり寝てしまうようになったのは最近だ。

 ちょっと、たるみ過ぎかな。
 でも、三歳って眠いんだ。
 二歳も眠かったけど、三歳はもっと眠い。

 動き回れるようになったからかな。
 兄と一緒に、庭をたくさん走るからかな。
 玉転がしして遊ぶからかも。

 体が育ってるのはおれだけじゃないのかも。
 最初は兄におっぱいが生えたのかな、と思ったんだ。
 おれの爪が伸びるのと同じように、おっぱいって生えてくるものなのかって。

 でも風呂で見ても、兄の体におっぱいらしい突起はない。
 食事量が増えても、まだまだ細い。

 夜のあれって、おっぱい、だよな?

 赤ん坊がおっぱいを吸うことは知っていても、おっぱいがどこに生えているのか、おれは知らない。
 前の時に、護衛がおっぱいの話をしているのを聞いて覚えたから、本物を見たこともない。

 ゆめうつつで、夢中になってなめて吸っていると、かたくしこってくるおっぱい。
 間違いなく兄のおっぱいだと思うんだよ。
 兄の匂いと体温を感じるから、体のどこかに隠してると思うんだけど、見つけられない。

 風呂で恥ずかしがる兄の全身をぺたぺたして確かめたから、間違いない。

 いくら眠たい時でも、護衛や使用人なら臭いが違うからわかる。
 あれは、絶対に兄のおっぱいだ。

 そんな日々が続いて、おれは口の中に入れられる温かさと匂いに夢中になっていた。

 舌を丸めるようにして、おっぱいを包んでしごくと、口いっぱいに兄の匂いがするんだ。
 眠たくて目が開かない。
 でも、匂いは間違いなく兄。
 しょっぱい。
 あと、声も。

「っん、っ……、ん……はっ」

 なんか、苦しそうだ。
 子供がおっぱいを吸わせるって、苦しいのかな。
 でも、おれは最高の気分なんだよね。

 こう、おれ甘えてるな~って幸せな気持ちがドバドバ出てくる。

 兄がおれを受け入れてくれて嬉しい。
 兄に抱きついて眠れて嬉しい。
 兄を守ることができて嬉しい。

 今は嬉しいことばっかりだ。
 前のおれの孤独も、愚かさも、兄を守ることで消せるといいな。

 ぽわぽわと幸せな気持ちに浸りながら、う゛く、う゛く、と喉を鳴らしながらおっぱいを吸い、おっぱいの周りをむにむにしながら眠りに落ちるのが幸せすぎる。


 けれど、やっぱり過ぎた幸せは長く続かない。
 子供の兄が、幼児のおれにおっぱいを吸わせ続けるのは無理だったようで、四歳になる前に終わってしまった。

 個人的には、うとうとしながらちゅっちゅするの、すごく落ち着いたんだけど。
 兄の負担が大きいなら、無理は言えない。

 おっぱいがなくなったきっかけは、おれにしっかりとした牙が生えてきたからだろう。
 うとうとして噛んでしまったら、兄のおっぱいがちぎれてしまう。

 おれが兄を傷つけるなんて、絶対に嫌だ。
 もう少し上手く話せるようになったら、兄に「起きてる時で良いから、ちょっとだけおっぱい吸わせて」って頼んでみたい。





 兄と一緒に過ごしていると、一年はあっという間だった。

 美味しいものを、もりもり食べてまん丸になる、美味しい時期を超え。
 何ヶ月もうとうとしながら過ごす、寒い時期を過ごし。

 おれは確実に大きくなっていった。
 毛玉として。

 寒いから手足を引っ込めて丸くなっていると、頭がどこか分からないらしくて、この前、兄がおれのお尻に話しかけてきたんだ。
 なあに?と首を伸ばしたら、兄が「え……そっち?」って言って固まってた。

 おかしい。
 前はもう少しシュッとしてたはずなのに。

 使用人の女たちだけでなく、男たちまで、おれの毛に手を突っ込みたいと考えているのか、ちらちら視線を感じる。
 おれがびびってしがみつくもんだから、兄はいつもおれがいる左側の腕を少し上げていてくれる。

 歩きにくそうだけどやめられなくて、いつもごめん、って思ってる。

 手を繋いで歩くのは、卒業した、んだ。
 その代わり、脇下にやわらかい布を通して背中で結ばれて、そこに繋いだひもの先を兄が持ってくれている。

 だって、兄の教師のうちの一人がさ「いつも手を繋いでおられて、赤子のようで大変お可愛らしいですね」って言うんだ。

 あれ、絶対に嫌いって気持ちの言葉だった。
 なんでだよ、おれ、兄の勉強の邪魔、してないのに。

 机の上の紙とか本とかバラバラにするのが楽しかったから、何度もやったけど。
 椅子の足をかじったら、教師が座ったとたんに足が折れて転がったから、めちゃくちゃ笑ったよ。
 インク壺をひっくりかえして、足跡を部屋中に押しまくったりしたよ。

 あとは兄をムチで叩こうとした教師には、歯をむいてうなったり、腹にパンチしたけどさ。
 手加減してやったよ。
 叩かれたら痛いんだぞ、叩くなよって、教えてやっただけだよ。

 全部、勉強してない時だったろ。
 勉強中は、兄の横に長椅子を用意してもらって、昼寝して待ってたのに。

 おれ、赤ちゃんじゃないっての。
 もう四歳になるのに。
 ……違う、十八歳だった。

 んー、ちっさい体に引き摺られてるのか、前以上に考えるのが苦手になってる気がする。
 本当は兄と一緒に勉強したいのに、いつも眠くなるんだ。

 あ、あの教師が、眠くなる声なのかもしれない。
 教師を変えてくれないかな、眠くならない声の教師がいいな。
 あと、兄を叩こうとする教師も変えてほしい。

 そんなこんなでこの一年、おれが苦手にしているという建前で、国王からの呼び出しは減った。
 時々、ちらっと顔を出して「おじちゃんかおこわーい」して終わり。

 食事はうまい、兄は優しい、布団はふかふか。
 ブラッシングは気持ちいい。
 体を揉まれると伸びてしまう。

 危機感が足りない。
 でもなんか、知らない間に護衛がいっぱい増えてるから、大丈夫じゃないかな。

 兄を狙ってた護衛は、知らない間に来なくなった。
 おれに触ろうとする使用人も次第に減って、おれは好きなだけ兄に甘えてる。

 
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