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16 おれの中の虚 ※ 前戯
しおりを挟む可愛い姿を見ていたら、素直になれる気がした。
「エト・インプレタ・エスト・コル・メウム」
「なんだ?」
「おれに、子種をちょうだい」
「……無垢は罪だのう」
死んだような目になってしまったエト・インプレタ・エスト・コル・メウムを見ながら、そっと顔を近づける。
黒い虹の瞳。
劣化品のおれとは違う、本物の龍の瞳だ。
ぐつぐつと煮込まれたような熱。
透き通る宝石のように色を変え、溶けるほどの熱を込めた視線に耐えられるだろうか。
「貴方《アナタ》が恋しい」
「やめんか、止められんようになる」
「やめない」
「強情っぱりめ」
「うん」
おれはちぐはぐだ。
体は正しく成長した姿になった。
本当の自分の姿をエト・インプレタ・エスト・コル・メウムに与えられた。
心は外から足せない。
知識も足りないはずだ。
おれの中の穴を、空洞を、初めから空っぽだった虚ろを埋めてほしい。
おれは恋に落ちたことを知って、満たされることを知った。
ドキドキしてワクワクして不安になって、あふれそうなのに足りなくて嬉しいのに悲しくて切なくて。
ひとつずつ知るたびに、空っぽが埋められていく。
この空っぽが、魂の傷なのか。
きっと、他に足りていないものも、知ることができる。
エト・インプレタ・エスト・コル・メウムが教えてくれる。
自分で知ることができないなら、与えて欲しいとねだっても、良いよな?
「後悔するでないぞ」
「しないよ」
緊張で強張っている顔だ、と自分で思ったまま頷く。
後悔だけはしない。
きっと。
終わらない口付けを、与えられた。
息が続かなくて目の前が暗くなると、胸の先端を押しつぶされてつままれて、体が跳ねる。
くすぐったいとしか思えなかったのに、気持ち良いと感じ始めたら、あっという間だった。
下穿きを足から抜き取られ、寝巻きに腕を通しただけの姿で、仰向けに転がされた。
陰茎には触ってくれないのに、その下の袋を優しく揉みしだかれる。
「んっ、んんっっ?」
足を曲げて腹に寄せ、膝の裏を支えるように言われ、なんだこの体勢と思っていたら、高く持ち上げられた尻の下に何かを押し込まれて動けなくなる。
高く天井を向く尻を、さらに左右に押し開かれた。
股間が、丸見えだ。
そんなことしたら、尻の穴が見える。
そんなところ、見られたくない。
目の前にあるのが自分の陰茎とか、いやだ。
焦るおれが動かないように、と添えられた細い手に動きを止められる。
すりすり、と尻の穴を細い指先が撫でる。
成人したばかりのおれの股間には体毛が生え揃っていないので、本当に丸見えだ。
やめてくれ。
自分で見えるのは、反応に困る。
「其方のここが、女人の膣穴の代わりになる」
「え……本気なのかよ」
「うむ」
驚きすぎて声が震えた。
まさか、そんな方法があるなんて。
「おれが、こ、子供を、尻から産むのか?」
「そうなるのう」
「し、死なないか?」
「死なんよ、作り替えるからのう」
あまりにも自信たっぷりに返事されたので、そうなのかと納得してしまった。
「ただ、女人の初めてが交合で痛みを伴うことが多いように、男も受け入れることに慣れるまでは痛い」
「痛いのか?」
「いいや」
「どっちなんだよ!」
すりすりと尻の穴を優しく撫でられ続けていると、それが奇妙に気持ち良くて、半泣きになってくる。
もっとして欲しいとか、言い出してしまいそうで怖い。
「痛くないように準備をするのだ、心配せずとも良い」
「……ふ、うん」
何をするのか、理解はした。
何をされるのかは、まだ分からない。
黒い虹色の瞳が、おれを見つめてきらめいた。
日差しが高くなる頃。
おれは、息も絶え絶えになっていた。
半分に折られたような体勢が苦しいから、だけではない。
「ふぁあっ……けほっ」
「喉が渇いたか?」
「ん、う、んんっ」
甘えるような声を、もう止めることができない。
喉を痛めないようにと、時折口付けで水を飲ませてくれるけれど、勝手に出てしまう甲高い声が側妃たちのようでいやだった。
あれから、今までの人生が吹っ飛ぶくらい未知の体験を繰り返した。
体の中を洗われた。
それも、魔法?、かもしれないもので。
洗われているのは分かる、けれど、おれの腹には何も触れていなかった。
尻の穴に触れている指は優しく撫でる以外、動かされなかった。
それでも体内を洗われたのだ。
そして、どろっとしたなにかが尻の中に注ぎ込まれた。
たぶんこれも魔法?、かもしれないものだ。
手になにも持っていないのに、生暖かいものが腹の中に入ってくる感覚におれが叫んでいる間に、ひどく手際良く進められたので、何が起きたのかわからない。
おれがひいひい言っている間に、下準備らしきものは終わっていた。
ほっとして、寝台の上に脱力して伸びそうになった、高々と持ち上げられたおれの尻に手をかけたまま、エト・インプレタ・エスト・コル・メウムが笑った。
「さ、これでまずはほぐす準備ができたぞ」
これで終わりではないのか、とおれは言葉にできなかった。
そしてそれからの方が、ひどかった。
それからずっと、ほぐされている。
どこを、なんて一つしかないだろう。
尻の穴だ。
ほっそりとした指の一本から始まり、どれだけ時間が経ったのかわからない今、おれの尻の穴にはエト・インプレタ・エスト・コル・メウムの細い指が四本突っ込まれている。
まさか両手を使うなんて聞いてない。
尻の穴周辺がてらてらと濡れたように光っているのは、注ぎ込まれたなにかだろう。
陰嚢を揉まれて、塗り込まれて、柔らかいままの陰茎まで垂れてきたそれが腹に滴り落ちても、気にする余裕がない。
穴の周辺は、初めこそ違和感が酷かったのに、今では痺れて、熱を持って、よくわからない。
くぱ、と穴を広げるのをやめてくれ。
自分の尻の穴に、指が何本も突っ込めるようになっていく過程を見せられても、どんな反応をすれば良いんだ。
尻の穴を見るのだって初めてなのに。
指を動かされるたびに、王が女を抱く時にさせていた、聞き苦しい粘ついた音が聞こえるので耳を塞ぎたいのに「膝裏から手を離すでない」と言われて動けない。
いつのまにか部屋の中に差しこんでいた朝日はなくなり、水晶窓の外は完全に昼の晴天だ。
後悔しないと思ったけれど、割ともう後悔してる。
せめてなにをするか、きちんと聞いてからにするべきだった。
体を縮めて気配を消す生活だったので、窮屈な姿勢でいるのは耐えられる。
息が苦しい。
勝手に変な声が出るから喉が渇くし、痛い。
尻の穴をほぐして、ゆるんで広げられていく過程が、ずっと見えているのは、ちょっと無理だ。
見たくない。
目の前にある自分の股間を。
注ぎ込まれた何かでてらてらと光って、新しい指を受け入れる時は広げられて、腹の中の赤くぬかるんだ肉が見える。
指が引き抜かれる時は、まるですがりつくように縁が盛り上がって、指に絡み付こうとしているようだ。
まさか、自分のしょぼくれた陰茎や、抜かれた指を追いかけるようにひくひく動く、尻の穴を見つめ続ける日が来るなんて。
尻が痺れて、じんじんする。
抜かれた指が戻ってこないことに気がついて、ぼんやりと視線を動かせば、エト・インプレタ・エスト・コル・メウムがおれを見つめて、真剣な口調で言った。
「仮の姿で睦みあうのであればこのままで良かろうが、子を望むのであれば本性にならねばならぬ」
その言葉を聞いて、常世の寝床で見た龍の巨体を思い出す。
龍の姿の時には陰茎を見た覚えがないけれど、小さいはずがない。
あの巨体の大きさにあわせるなら、おれの胴体より太くて、身長くらい長さがあってもおかしくない。
そんなもん入るかよ、と叫びそうになって、おれを見る瞳の色に気がつく。
虹の色がより一層深くなって、青みが増していた。
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