【R18】I've got a crush on ogre

Cleyera

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四、生まれたままで

44 志野木

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 こんなこと肛門の拡張をしないといけない、と情けなく思う気持ちよりも、東鬼シノギを受け入れたい気持ちの方が強かった。
 東鬼を鬼の姿のままで、受け入れてやりたい。
 可能なはずだ。

 成人男性の腕ほどもありそうなものを受け入れるため、具体的な方法を調べていくほど、男性同士のアナルセックス以上に危険な行為であり、体への負担が大きすぎることを知った。

 健康な成人男性でも、尻に……人の拳ほどもありそうなものを入れるなんて簡単じゃない。
 調べれば調べていくほど、やろうとしていることが健全ではないことに気がつく。

 それでも、東鬼の性器を受け入れたい。
 自分を痛めつけるためや、東鬼に痛めつけられたいからやるわけでは無い。
 そんな性癖は持っていない。

 俺が受け入れなければ、いけないんだ。
 受け入れたいから、やるんだ。



 復職の目処がつきそうだと、田貫タヌキ所長に連絡をしたら「無理をしないようにしてほしい」と何度も言われた。

 お互いに具体的なことは口にしないけれど、色々と察されているような気がするので、どうやら所長も人ではないようだ。
 東鬼の態度や口調から考えても、妖の一種なのだろうという推測はできる。
 体格や雰囲気の差異から、鬼ではないだろうけれど。

 所長の人となりが、どうにも信用できないと感じていたのは、それが関係しているのか。
 鬼の東鬼に対しては、そんな風に感じなかったから、ただの個人的な相性なのか。

 所長が人でないのなら、東鬼と俺が何をしようとしているのか、知られているのかもしれない。
 東鬼が鬼である事を知らなければ、あんなに何度も「急がないから、体を大事に」とは言われないと思うんだ。

 もしかしたら、俺が男しか愛せない男だと、初めから見抜かれていたのかもしれない。

 自分が勝手にうろたえて、一人で空回りしていた可能性に気がつくと、これまでの苦悩がひどく無駄なものに思えてくる。
 仕事を失いたくない。
 周囲から、変わったものを見るような目で見られたくない。
 そう考えていた頃が、何年も前のような気がする。

 所長の言葉では、東鬼の上司にあたる五鬼助ゴキジョさん(社長さん?)という方から、俺の代わり(としては頼りなさすぎるそうだが)の事務員をお借りして、急場をしのいでいるから、半年ゴールデンウ以内ィーク明けまでには戻ってきてほしいと言われた。

 十一月の上旬……?に巻き込まれて、今は新年も明けている。
 途中の時間経過がぷっつりと途切れているので、スマホの表示とカレンダーを信じるしかなくて、外に出ていないこともあり実感はないけれど、すでに二ヶ月が過ぎている。

 半年も?……と思うと同時に、まだ自分に戻る場所があることに安堵する。
 戻ってほしいと願う価値が、俺にあると考えてもらえたことが、嬉しい。

 無断欠勤で一ヶ月が過ぎていたと知った時に、職を失う覚悟をしたのに、電話口に出てくれた首長シュナガさんは第一声で「志野木くんなの?大丈夫なの?」と言ってくれた。

 胡散臭い口調で「今まで何をしていたのかな?」と所長に詰られる覚悟を決めて連絡をしたのに、所長にまで「声を聞けてよかった」と言われたことで、驚いて声が出なくなると同時に、ひどく安心した。
 その言葉のおかげで、所長や首長さんが、人ではない可能性に気がついたのだけれど。

 母にも東鬼のことを伝えなくてはいけない。
 電話口じゃ言いにくいな。
 それでも俺があいつを婿にすると、言った。
 決めたんだから。

 色々と考えをまとめて動こうと思っても、事務所の全員に色々と知られたのかと思うと、戻る勇気が出ない。
 首長さんや先輩方に、今後も見守られるのかと思うと……居心地悪そうだな、と思ってしまう。
 そこに善意しか感じなくても。



 復職を言葉だけで終わらせないために、何箇所も肛門括約筋を拡張する行為に関するサイトを見た。
 自分のプレイを公開している人のブログを読んで、会員制のページに登録しようとしたところで、正気に戻った。

 俺はマゾじゃない!
 おかしな道具は必要ない!
 痛みもいらない!
 目的と手段を間違えそうになる程、周りが見えなくなっていることに、視野が狭まっていることに驚く。

 必死になるな!と自分に言い聞かせる。

 肛門を拡張するのは、東鬼を抱きしめて、抱きしめてもらいたいからだ。
 俺が痛い思いをして、血まみれになる姿を見せないためだ。
 こうなったら自分の尺度でやるしかない。
 無理がないように。

 それに使うという諸々の道具を買うのはやめて、東鬼が用意していた男根の形の模型や、コンドームを使うことにする。
 東鬼だって、見たことがないものが置いてあれば、気にするだろう。
 仕事が忙しいらしい東鬼は、俺がマットレスの上にあるものを勝手に片付けても、気にしていない。
 気がついていないだけかもしれない。

 やっと職場に復帰した東鬼に、気を使わせたくない。
 拡張をしていると知られた時の暴走が怖いので、一緒に過ごす時間を減らしたい。

 定時で帰ってくる東鬼に、文句を言いたい気持ちはある。
 これまでの分も働いてこい!と追い出すのは簡単だけれど、必要以上の負担も迷惑もかけたくない。


 初めて、自分で細い模型を突っ込んだ時には、指を初めて突っ込んだ時のことを思い出した。
 ものすごく虚しくて、情けない気持ちになったなと。
 あの頃と違い、今では偽物だと分かっていても、入口の近くをこねるように模型を動かすことが快感に繋がると、体が知っている。

 自分でそれをするのは怖いから、快感は得ないように気をつけた。
 この行為が病みつきになったら困る。

 目的と手段を間違えない。
 落ち着いて、ゆっくりやれば良い。

 入って少しのところにある、痺れるような場所には触らないように気をつけて、入れるものを少しずつ太いものに変えていく。

 疲れる。
 すごくしんどい。
 苦しい。

 体を慣らすためだと分かっていても、下着が汚れるのが嫌だ。
 ローションなしでは、痛くてできないから使うしかないけれど、尻の中からも何か分泌しているようだ。
 下痢をしているようでもないし、洗った時の水が残っているようでもない。
 まさか、女性のように濡れるようになったとか言わないよな?
 仕方なく、股の部分に布のない下着を探す。

 明らかにジョークや卑猥な形のものは避けて……なんだこれ、という形のものに出会った。
 ワンショルダー?
 とりあえずこれなら、履いたままでも拡張ができるのではないか。

 勃たなくなってしまったことは……受け入れているつもりだけれど、常に萎れたままの自身を見るたびに、情けない気持ちになるのは止められない。

 履いて固定していれば、力なく揺れているのを見ないで済むよな。
 それくらいの気持ちで、下着に見えない輪っか型の布を買った。

 使ってみると思っていた以上に快適だったので、東鬼に知られないように買い足した。
 履いていても履いていないようで、落ち着かないことには慣れてきたけれど、こんな姿を見られないようにしないといけないな。

 それから紆余曲折して色々あったけれど、人の姿の東鬼のものよりも細い模型を二本、入れられるようになった。
 苦しいけれど、入っている。
 入ってしまった。

 こんなに入るようになるなんて……と恐怖を覚える。
 同時に、これなら東鬼を受け入れられるのでは?とも思う。
 鬼の時の大きさを、具体的に測っておくべきだったかもしれない。

 東鬼の言葉を聞いて、覚悟を決めた俺は……下着が原因で、東鬼に殺されそうになった。
 本当は、履き替えるつもりだったけれど、寝る前に手洗いで抜いて下着を替える前だったんだよ。


  ◆


 寝込んでから三日、前の拡張から時間が経っているので、ちょうど良いと思う。
 覚悟を決めて、マットレスの横であぐらをかいている赤鬼へと目を向けた。

「さてと、やろうか東鬼」
「……何をだ?」

 そんなの、一つしかないだろう、と金色の瞳を見上げた。
 心底わからないと言いたそうな赤鬼がこちらを見ていて、俺はいつの間にか、鬼の姿の東鬼にまでときめくようになっていることを知った。

 凛々しい眉。
 彫りの深い顔。
 唇からはみ出た牙。
 朱塗りの椀みたいな肌の色。
 盛り上がった筋肉しかないように見える体。

 簡単に俺を殺せるのに、俺に触れることを怖がる臆病な鬼。
 愛おしさで、息が詰まった。
 
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