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四、生まれたままで
44 志野木
しおりを挟むこんなことをしないといけない、と情けなく思う気持ちよりも、東鬼を受け入れたい気持ちの方が強かった。
東鬼を鬼の姿のままで、受け入れてやりたい。
可能なはずだ。
成人男性の腕ほどもありそうなものを受け入れるため、具体的な方法を調べていくほど、男性同士のアナルセックス以上に危険な行為であり、体への負担が大きすぎることを知った。
健康な成人男性でも、尻に……人の拳ほどもありそうなものを入れるなんて簡単じゃない。
調べれば調べていくほど、やろうとしていることが健全ではないことに気がつく。
それでも、東鬼の性器を受け入れたい。
自分を痛めつけるためや、東鬼に痛めつけられたいからやるわけでは無い。
そんな性癖は持っていない。
俺が受け入れなければ、いけないんだ。
受け入れたいから、やるんだ。
復職の目処がつきそうだと、田貫所長に連絡をしたら「無理をしないようにしてほしい」と何度も言われた。
お互いに具体的なことは口にしないけれど、色々と察されているような気がするので、どうやら所長も人ではないようだ。
東鬼の態度や口調から考えても、妖の一種なのだろうという推測はできる。
体格や雰囲気の差異から、鬼ではないだろうけれど。
所長の人となりが、どうにも信用できないと感じていたのは、それが関係しているのか。
鬼の東鬼に対しては、そんな風に感じなかったから、ただの個人的な相性なのか。
所長が人でないのなら、東鬼と俺が何をしようとしているのか、知られているのかもしれない。
東鬼が鬼である事を知らなければ、あんなに何度も「急がないから、体を大事に」とは言われないと思うんだ。
もしかしたら、俺が男しか愛せない男だと、初めから見抜かれていたのかもしれない。
自分が勝手にうろたえて、一人で空回りしていた可能性に気がつくと、これまでの苦悩がひどく無駄なものに思えてくる。
仕事を失いたくない。
周囲から、変わったものを見るような目で見られたくない。
そう考えていた頃が、何年も前のような気がする。
所長の言葉では、東鬼の上司にあたる五鬼助さん(社長さん?)という方から、俺の代わり(としては頼りなさすぎるそうだが)の事務員をお借りして、急場をしのいでいるから、半年以内には戻ってきてほしいと言われた。
十一月の上旬……?に巻き込まれて、今は新年も明けている。
途中の時間経過がぷっつりと途切れているので、スマホの表示とカレンダーを信じるしかなくて、外に出ていないこともあり実感はないけれど、すでに二ヶ月が過ぎている。
半年も?……と思うと同時に、まだ自分に戻る場所があることに安堵する。
戻ってほしいと願う価値が、俺にあると考えてもらえたことが、嬉しい。
無断欠勤で一ヶ月が過ぎていたと知った時に、職を失う覚悟をしたのに、電話口に出てくれた首長さんは第一声で「志野木くんなの?大丈夫なの?」と言ってくれた。
胡散臭い口調で「今まで何をしていたのかな?」と所長に詰られる覚悟を決めて連絡をしたのに、所長にまで「声を聞けてよかった」と言われたことで、驚いて声が出なくなると同時に、ひどく安心した。
その言葉のおかげで、所長や首長さんが、人ではない可能性に気がついたのだけれど。
母にも東鬼のことを伝えなくてはいけない。
電話口じゃ言いにくいな。
それでも俺があいつを婿にすると、言った。
決めたんだから。
色々と考えをまとめて動こうと思っても、事務所の全員に色々と知られたのかと思うと、戻る勇気が出ない。
首長さんや先輩方に、今後も見守られるのかと思うと……居心地悪そうだな、と思ってしまう。
そこに善意しか感じなくても。
復職を言葉だけで終わらせないために、何箇所も肛門括約筋を拡張する行為に関するサイトを見た。
自分のプレイを公開している人のブログを読んで、会員制のページに登録しようとしたところで、正気に戻った。
俺はマゾじゃない!
おかしな道具は必要ない!
痛みもいらない!
目的と手段を間違えそうになる程、周りが見えなくなっていることに、視野が狭まっていることに驚く。
必死になるな!と自分に言い聞かせる。
肛門を拡張するのは、東鬼を抱きしめて、抱きしめてもらいたいからだ。
俺が痛い思いをして、血まみれになる姿を見せないためだ。
こうなったら自分の尺度でやるしかない。
無理がないように。
それに使うという諸々の道具を買うのはやめて、東鬼が用意していた男根の形の模型や、コンドームを使うことにする。
東鬼だって、見たことがないものが置いてあれば、気にするだろう。
仕事が忙しいらしい東鬼は、俺がマットレスの上にあるものを勝手に片付けても、気にしていない。
気がついていないだけかもしれない。
やっと職場に復帰した東鬼に、気を使わせたくない。
拡張をしていると知られた時の暴走が怖いので、一緒に過ごす時間を減らしたい。
定時で帰ってくる東鬼に、文句を言いたい気持ちはある。
これまでの分も働いてこい!と追い出すのは簡単だけれど、必要以上の負担も迷惑もかけたくない。
初めて、自分で細い模型を突っ込んだ時には、指を初めて突っ込んだ時のことを思い出した。
ものすごく虚しくて、情けない気持ちになったなと。
あの頃と違い、今では偽物だと分かっていても、入口の近くをこねるように模型を動かすことが快感に繋がると、体が知っている。
自分でそれをするのは怖いから、快感は得ないように気をつけた。
この行為が病みつきになったら困る。
目的と手段を間違えない。
落ち着いて、ゆっくりやれば良い。
入って少しのところにある、痺れるような場所には触らないように気をつけて、入れるものを少しずつ太いものに変えていく。
疲れる。
すごくしんどい。
苦しい。
体を慣らすためだと分かっていても、下着が汚れるのが嫌だ。
ローションなしでは、痛くてできないから使うしかないけれど、尻の中からも何か分泌しているようだ。
下痢をしているようでもないし、洗った時の水が残っているようでもない。
まさか、女性のように濡れるようになったとか言わないよな?
仕方なく、股の部分に布のない下着を探す。
明らかにジョークや卑猥な形のものは避けて……なんだこれ、という形のものに出会った。
ワンショルダー?
とりあえずこれなら、履いたままでも拡張ができるのではないか。
勃たなくなってしまったことは……受け入れているつもりだけれど、常に萎れたままの自身を見るたびに、情けない気持ちになるのは止められない。
履いて固定していれば、力なく揺れているのを見ないで済むよな。
それくらいの気持ちで、下着に見えない輪っか型の布を買った。
使ってみると思っていた以上に快適だったので、東鬼に知られないように買い足した。
履いていても履いていないようで、落ち着かないことには慣れてきたけれど、こんな姿を見られないようにしないといけないな。
それから紆余曲折して色々あったけれど、人の姿の東鬼のものよりも細い模型を二本、入れられるようになった。
苦しいけれど、入っている。
入ってしまった。
こんなに入るようになるなんて……と恐怖を覚える。
同時に、これなら東鬼を受け入れられるのでは?とも思う。
鬼の時の大きさを、具体的に測っておくべきだったかもしれない。
東鬼の言葉を聞いて、覚悟を決めた俺は……下着が原因で、東鬼に殺されそうになった。
本当は、履き替えるつもりだったけれど、寝る前に手洗いで抜いて下着を替える前だったんだよ。
◆
寝込んでから三日、前の拡張から時間が経っているので、ちょうど良いと思う。
覚悟を決めて、マットレスの横であぐらをかいている赤鬼へと目を向けた。
「さてと、やろうか東鬼」
「……何をだ?」
そんなの、一つしかないだろう、と金色の瞳を見上げた。
心底わからないと言いたそうな赤鬼がこちらを見ていて、俺はいつの間にか、鬼の姿の東鬼にまでときめくようになっていることを知った。
凛々しい眉。
彫りの深い顔。
唇からはみ出た牙。
朱塗りの椀みたいな肌の色。
盛り上がった筋肉しかないように見える体。
簡単に俺を殺せるのに、俺に触れることを怖がる臆病な鬼。
愛おしさで、息が詰まった。
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