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襲われる ※注意!タイトル通り

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 あれ以来、イヌが部屋に顔を出すようになった。
 頻度は二日おきが多く、二つ三つのキノコを渡してきて、食べ終えるのを確認すると部屋を出ていく。
 初めこそいつ襲われるかと身構えて怯えていたが、幾度も同じことが続くうちに、これが監視でも餌付けでもないと感じはじめた。

 食事内容は改善されつつあるものの、生肉が小さくちぎられているとか、葉っぱが食べられそうな若葉になったという程度だ。
 方向は間違っているが、気遣われているのは理解できた。
 食べられないせいなのか体が重くて、このままでは本当にまずいと思い、葉っぱだけは口に詰め込むようにしているが、腹が痛いし吐き戻してしまうので逆に弱っている。

 名前も分からない葉は、硬くて筋だらけで苦くてえぐい。
 イタチが来なくなってから用意された大用の壷?があるからいいものの、キノコ生活の時のように尿瓶しかなかったら、部屋中が汚染されていただろう。
 そういえば、ベッドと同じで壷があるのも不思議だ、原始的なのに所々で文明的なものが出てくる。
 水だけはどれだけ飲んでも問題なさそうなのが救いだ。

 このままじゃ飢え死にだな、とえぐれてきてしまった腹に手を当てる。
 暗闇にいた時にハンストはしないでおこうと思ったのに、望まず同じような状況になっている。

 足の綱がなくなったので室内を物色してみたが、この部屋にも何もない。
 つなぎ目のない石の壁と天井、床には毛足の長い絨毯。
 室内にあるのはベッドと大用の壷と尿瓶、あとはシカが毎朝持ってくる水瓶だけ。

 石をくりぬいたような大きな窓から外を見ることができたが、自力で逃げ出すのは無理だと諦めるしかなかった。
 とんでもなく高い崖の途中に、この部屋はあるらしい。
 窓に格子がないのは、逃げられないからだろう。

 ほぼ空っぽの部屋での生活は余りにも暇だが、飢えた体がいうことをきかず、一日のほとんどをベッドの上で過ごしている。

 イタチが来なくなって困っていることの一つが、体のかゆみだ。
 これまではなんらかの方法で体を清潔に保ってくれていたらしく、イタチが来なくなってから自分の体臭が気になって仕方ない。
 首輪をつけている部分を無意識に掻き毟るせいで傷になっているのか、触るだけでピリピリと痛む上に頭や股間もかゆい。

 解決できない空腹やかゆみを、寝て忘れようとベッドの上で微睡んでいると、爪と石が当たって鳴る音がした。
 今朝方来たはずなのにまたイヌが来たのか?と空腹で重たい瞼を持ち上げると、そこには見たことのない顔が浮かんでいた。

 え、ネズミか?いや、でもなんか違うような、なんだこの生き物。
 見たことのない生き物の登場に呆然としていると、それの細い腕が腹に回されて体が持ち上げられた。
 謎の生き物の腕には、びらびらとした布のようなものが垂れ下がっている。

「え、おい、やめろっ」

 声を出すのも辛いってのに、腹に体重がかかって痛い。
 いくら痩せてしまったといっても、男一人を簡単に抱えるとか、この世界の動物たちはどうなってるんだ。

「    !!」

 唸るように何か言われて、頬に鋭い爪が添えられた。
 聞き取れないけれど分かった、黙ってないと刺すぞ!的な感じが伝わってきた。

 シカかイヌが来ることにかけて叫んでもいいけれど、もし来なかったら?
 というか、なんでいきなり攫われそうになってるんだ?
 パニックで動けないまま、ネズミ?に抱えられて窓の外に、って窓は無理!!
 上半身を引きずり出された窓の外の壁面に、同じ顔をしたネズミがたくさん……って、外は崖だ!!
 やめろぉぉぉぉお!!

 色気のない絶叫が崖に響いた……かもしれない。



 近頃は気絶ばかりしている。
 崖を落ちる途中で意識を失ったが、目を覚ましたということは生きている。
 ころっと気絶するとか、どこの深窓のご令嬢だよ!と近頃の情けない黒歴史の量産に頭を抱えたい気持ちのまま、ゆっくりと目を開くと暗闇だった。

 また暗闇か、と思えば荒く鳴っていた心臓がわずかに落ち着いた。
 誰にも愛されず、誰かを愛したこともない惨めな人生だという自覚はあったけれど、それでも一人で自立していると思っていたのに、この扱いはなんなんだ。

 周囲が暗いのは顔に何か被せられているかららしく、息苦しくて臭い。
 頬に貼りつくような感触がする。
 後ろに曲げられている腕は縛られているのか、動かせない。
 頭に被せられているもの以外は多分、全裸。
 ベッドの毛皮ごと連れてきてくれよ、人間には毛皮がないし羞恥心ってものもある。

 ネズミ?に誘拐されたのはいいが、このまま放置されたら死んでしまうのではないか、と思ったのは、眠たくなってきたからだ。
 石の床の上にいるのか、体が冷え過ぎていた。
 明らかに疲労からの眠気ではない。
 この状況を打破したくても、考えがまとまらない。
 寒すぎて体が痺れたように動かない。
 寒いのには慣れたはずだが、眠いのはやばいんじゃないだろうか。
 本当に、死ぬかもしれない。

「   」
「……う"ぁっ!?」

 冷え過ぎて動けないでいる体が、突然何かに引きずられた。
 床に触れていた部分から、岩にでもぶつかったようなおかしな音がして、ジンジンとした痺れが走る。

 引っ張られて全体重がかかった腕の骨にヒビでも入ったのか、前腕と肩がひどく痛むが、声を出さないように耐えた。
 この扱いからして、反抗したらひどい目にあうのは間違いない。
 大人しくしている方がまだ扱いが良くなると、イタチとの付き合いで学んだ。

「      」

 低すぎて歪んだ声が、何を言っているのか分からないが、きつい口調からして命令しているようだ。
 自分に言っているのだとしたら、動ける気がしない、悪いな。

 冷え切った体に鋭い爪が触れて痛みが走るとうつ伏せにされ、腰だけを持ち上げた体勢にされる。
 嘘だろ、おい、やめてくれ。

「あ、がっ」

 不意に首元に息ができないほどの重みがかかり、おかしな声が出る。
 耳のそばでガチガチと音がした後、グルルルと獣が唸るような声がしたせいで、ただでさえ動かせない体が恐怖でさらに強張った。

 首輪ごと首を締めつけられ、腰の左右に置かれた爪らしきものが、ぶつりと音がして肌に深く刺さったようだが、痛みを感じなかった。
 一息で体内に捻じ込まれた激痛に、叫んでいたせいで。

「ぁぎゃあああっ!?ぃいたい、やめ、いたいっ」

 あまりの痛みに、息が苦しいのも忘れて、全力で叫んだ。
 尻に捻じこまれたものの正確な大きさは分からないが、明らかに中に入るものではない。
 力づくで押し込まれた箇所が裂けているのは間違いなく、それがゴリゴリと動くたびに、内臓が外に引きずり出されるような激痛に悲鳴をあげてしまう。

「い、いだっ、いぃ、や、めろっ、ぉぐぅっ!!」

 後ろの何かが動くたびに、棘の生えた棒で腹の中を無茶苦茶に捏ねくりまわされているような激痛で、呼吸も満足にできない。
 首が締められているせいで、悲鳴が喉に詰まる。
 イタチとの行為で、こんなに痛かったことはなかった。
 無理やりである以上は痛かったし辛かったけれど、事後に裂けていたことはなかった、と思う。

「    !            !!」

 喉の締めつけが無くなると、腹に響くような低い声が、首の辺りで唸りながら怒鳴り散らしているのが聞こえるが、動けるはずがない。
 もう、痛みしか感じない。
 痛くて寒くて、動けない。
 助けてくれ、誰か。
 なんで、こんな目に逢うんだ、何も悪いことなんてしてないのに。
 誰でもいいから、助けて。

「ギァアアァア!!」

 動物が吠えるような声が聞こえて、尻からずるりと痛みの元が引き抜かれる。
 腹の中を引っかきまわされたせいなのか、抜かれる時まで痛かったが、直接的な激痛からは解放された。
 それでも、バクバクと鳴り響く鼓動と合わせて、疼くように痛み続けるし、腕までズキズキと痛みだして動くことができない。
 ただひたすら痛みに耐えていると、硬い毛の塊にきつく抱きしめられて体を起こされた。

「ぅあ"あっ、ぐぁぅっ」

 動かされたことで全身を走った激痛に苦鳴がこぼれ、頭に被せられていた何かを引き剥がされる。
 いつの間にか流れていた涙で霞む目を開いてみてみれば、そこには間抜けだと思った時の顔とは全く違う、牙をむき出しにした獰猛そのもののツートンイタチの顔があった。
 至近距離で見ると、思っていた以上に牙が鋭い。
 肉食獣そのものの表情は怖いはずなのに、なぜか怖いと思わなかった。

「     !!」

 周囲をぐるりと見回してから、威嚇するように吠えたイタチは、こちらを見るなり剥き出していた牙をしまうように口を閉じ、執拗に匂いを嗅ぎながら頬ずりをしてくる。
 まだ痛くてたまらないのに、抱きしめられて安心している自分がいることに、気がついてしまった。

「……たすけ、てくれ、たのか?」

 裂けてしまっていること確実の尻は痛いし、突っ込まれていた中までおかしなほど熱くてじくじくと痛い。
 勝手に震え始めた体をイタチに預け、このままこの暖かい毛皮に抱かれて死ぬのも悪くないかな、と感傷的に思ってしまった。
 身も心も弱りきっていたのだと、後になれば思えるのだが、この時は本当に限界だった。

 イタチの頬へ顔を寄せて、暖かい鼻筋へ唇で触れた。

「ありがとう」

 体が動かない状況で、言葉が通じないのにお礼の気持ちを伝える方法が、他に思いつかなくて。
 こいつも強姦犯だなんて認識は、極限状態でぶっ飛んでしまっていた。

「……っかりしろ、今すぐ神殿へ連絡して薬師を呼べ!」

 もう疲れた、と目を閉じるとひどく慌てているような男性の声がして、大袈裟だなとおかしくなった。


  ◆


 いつのまにか眠っていたらしい。
 目を開けて、うつ伏せでベッドに寝ているのだと気がついて、珍しいなと思う。
 最近は寒さから胎児のポーズが多かったが、普段は足を伸ばして右を下にして寝て、目が覚めた時もそのままが多かった。

「ぅ、いたたっ」

 ベッドを抜け出すために体を動かそうとして、久々の痛みに呻いた。
 部屋が変わってからイタチに襲われることがなかったので、全身のアザがようやく消えてきたのに……あれ、この部屋に連れ込まれてから、してないよな?
 それなら……なんで全身が痛いんだ?

 ゆっくりと痛みをごまかしながら動き、体に被せられていた毛皮をどかしてみると、腹から股関節にかけて蔦のようなものがぐるぐると巻きつけれているのがかろうじて見えた。
 行為で無理をさせられて骨盤を脱臼でもしたか?
 ギプスで固定するかのような、厳重な蔦の巻き方にちょっと引いてしまう。

 そういえば、と視線を動かせば、動かせない左腕の肩から手首にかけても同じように、蔦のようなもので固定されていて動かせない。
 動かそうと力を入れると激痛が走るので、痛めているのだろう。

 困ったことに、なぜこんなことに、こんな姿に?なっているのかが全く思い出せない。
 昨夜は……普通に草かじって腹痛になって、下痢してヘロヘロになって寝たよな?

 思い出せないことが気持ち悪いので、しばらく考えてみたけれど、何があったのかどうしても思い出せなかった。
 ストレスのせいか?と息をついて、痛みに震える羽目になった。
 身動きを諦めて、大人しくベッドの上で死体のように転がっていたら、ゴンゴンと石を叩くような音がした。

 カチャカチャと複数の足音がして、しばらくするとうつ伏せで狭い視界にイタチとイヌが入ってきた。

「起きたのか!よかった、心配してたんだ」
「気が付かれたようですね、峠は越しましたので、あとは安静になさってください」
「……はぁ!?」
「なんだ、どうした、どこが痛い、教えてくれ、今すぐ神殿に行って薬師を連れくるから!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、なんで言葉がわかるんだ?」

 何を話しているか全くわからなかったはずの、イタチとイヌの言葉が聞き取れていることにうろたえていると、イヌがオロオロとうろつくイタチの頭を思い切り張った。
 見事な張り手の角度を見て、プロか?と思ったほどだ。

「落ちついてください、殿下が慌てておられては落ちついて話せません、出ていかれますか?」
「やだ!離れない!二度と離れないからな!」

 巨大イタチの話し方が子供のようで、正面から見ると間抜けな顔に妙に似合っていることに笑いそうになった。
 そんなことよりもイヌはイタチをなんて呼んだ?

「でんか?」
「こちらにおられるのはデグルトクス王の第三子、ギルクロプトル王子殿下です。
 私は宰相のゴトルゲルクと申します」
「ご、ご丁寧にどうも、五十イソ修也シュウヤです」

 イタチは王子で、イヌは宰相らしい。
 宰相って王様の補佐みたいなやつだったか?
 王子に的確なツッコミを入れるような仕事でないとは思う。

 目の前で披露されたコントについては言及しないことにして、言葉が通じるようになったってことは、どうしてこのイタチ王子様が四十越えのおっさんを強姦したのか云々を、全部説明してもらえるんだろうか。
 というか、今のギプス?固定姿の理由も知りたい。

「イソスーヤか、愛らしい名前だ!」
「五十、修也、五十が名字で修也が名前」
「うむ、イソスーヤ、そなたの見た目にぴったりの可愛らしい名だ」
「……何か盛大にすれ違っている気がするが、詳しい話は誰に聞くべきなんだ」

 うつ伏せでくぐもった声のまま、ゴトルゲルクと名乗った宰相イヌには丁寧に返したものの、イタチに対してはとてもですます、を使う気になれない。
 これまでにされた扱いを思い出しても、あからさまなまでの格下扱いをしたいところだ。
 たとえ王子様でも、な。
 というかギルクロ……とにかく口の中で何度か繰り返す。
 名刺を受け取っていない相手の名前を一度で覚えられるほど若くない。

「イソスーヤ様をこの地にお呼びしたのは、殿下の奥方になっていただくためです」
「おっ?!奥方?」

 イヌの口から語られた衝撃の事実に驚いてしまい、しばらく言葉が出せなかった。

「…………なんというか、その、奥方というのは男でもなれるものなのですか?」
「オトコというのは雄のことでしょうか?
 子を成せる年齢の雌をお呼びしたはずなのですが、イソスーヤ様が来られました」
「間違いでここに来たと?」
「いいえ、殿下を見る限りイソスーヤ様で間違いありません」

 嫁になる雌を呼んだはずなのに雄、というか男が現れた。
 でもそれを間違いじゃない、と言い切れるってことは、このイタチ王子様は同性愛者ってことか?
 初対面で強姦してくるような獣の嫁になれと言われても、こっちは恋だの愛だの初心者すぎて、異性愛者か同性愛者かすら自認していないのに、押し付けられても困るしどうしろって?
 それ以前の問題として、呼んだとか言われても、こっちの意思の確認はどうなってる。


  ◆  ◆


 僕のお嫁さんに手を出したってことは、死にたいってことだよな、ガルクリエンコス兄上?

 ああ!どうして殺してはいけないんだっ、ガルクリエンコスは僕のお嫁さんを盗もうとしたのに!
 父上は何もわかってない!……殺してはいけないのなら、二度と雌を抱けないようにするくらいは良いよな?
 そうだ、立てなくなるまで痛めつければ良いんだ!

 お嫁さんの名前、イソスーヤだって
 すっごい可愛い名前だなぁ、うるうるの瞳、柔らかい毛皮、柔らかくて甘い匂いのするお嫁さんにぴったりで、ムラムラする
 もっとチグルルム神殿長のカバに雄同士の交合の話を聞いて、イソスーヤをたくさん抱きしめてあげないと!
 
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