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目覚めたら暗闇 ※

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 決算が終わり、翌日からは穴が空いたように予定が減る。
 新人教育には関わっていないので、今日で追い込みも終わりだ!と肩に入っていた力が抜け、日付が変わった頃に家に帰ることができた。
 さすがに一週間近く湯船に入っていないのははまずいだろうと、眠気と戦いながら風呂に入ったのに。
 気がついたら、暗闇の中にいた。

「どこだ、ここ?」

 そう呟いた自分の声が周囲に反響している。
 冷たくて痛いな、と寝ていた上半身を起こして、腰をさすって気がついた。
 全裸だ、嘘だろ。

 加齢に従い、体は重力に逆らえなくなった。
 若いというのはそれだけですごいことだ、と今では思う。
 女性ほど顕著な変化ではないだろうし、垂れ下がるような贅肉はないけれど、人前に晒したい体でもない。
 運動不足の実年齢相応のたるんだ体でしかない。

 せめて下半身だけでも隠すものが欲しい、と何も見えない暗闇の中を手で怖々と探っていけば、周囲は石のようなもので作られた広い空間らしいことがわかった。
 自然にできた岩壁ではなく、つるりと平坦に削られている手触りだったので、人工物だと思う。

 最後の記憶が風呂に入っていた、だから、もしかしたら眠ってしまったとか?
 夢にしては、やけに現実的な気がする。
 とりあえずこの寒さをなんとかしたいが、周囲には下着や寝巻きに用意しておいたジャージの上下も見当たらない。
 周囲が鼻の先も見えない暗さとはいえ、全裸で股間をぶらつかせながら徘徊、とか夢でなかったら事件だな。

 とりあえず自分の倒れていた場所からすぐ近くが壁になっていたので、そこに片手をついて、ゆっくりと進んでいく。
 大型迷路で迷った時にとる最終手段だ。
 一番長い距離を歩く代わりに、絶対に出口にたどり着ける。

 裸足で歩きまわって怪我をしたら治療の手段がないし、そもそも何も見えないのでまっすぐ歩くのも無理だ。
 人間は確か、目を閉じて歩かせると大きく円を描くんだったよな?

 片手で壁を探り、足で冷たい床をこするように摺り足で進みながら、この暗闇はどこまで続いているんだろうかと思った。
 真っ暗闇の中にいるせいで時間の感覚がないのは仕方ないとしても、歩いても歩いてもどこにもたどり着かない。
 足元の磨かれた石畳の冷たさは変わらないし、手に触れる壁も石のような感触のままで、だんだん冷えて痺れてきた全身が震え始めた。

 ああ、寒すぎる。
 羽織るものだけでもいいから、何かないか。

 冷え切って粟立った二の腕をこすり、片腕を腹に巻きつけたとき、遠くの方で金属がこすれるような音が聞こえた。

「!、誰かいるのか?聞こえるか!閉じ込められているんだ!出してくれっ」

 出せる限りの大声で叫んでから思った。
 ここがどこかも分からないのに、居場所を教えるような真似はまずいのでは?と。
 助け以外が来るかもしれない、となぜか思ってしまった。

「っ、え?」

 カチャカチャと石を鳴らすような音に気が付いた直後に、すぐ近くで、ハッ、ハッ、と人が息を荒げているような呼気が聞こえた。
 そして。

「や、やめろっ」

 息を荒げる何かにその場に押し倒され、尻と腰を強く打ち付ける。
 この時には恐怖と混乱で痛みを感じなかったけれど、絶対に打ち身になっているはずだ。

 ハッハッと早い呼吸をしている何かが、冷たい床に尻餅をついた上にのしかかってくる。
 裸の肌に触れてくるそれが、硬い毛の塊であることに血の気が引く。
 何が起きているかは知らないが、獣の巣にでも入ってしまったのか、となると引き裂かれて食われる!?

「ひっ、や、やめっ」

 腕を掲げて体を守ろうとするが、ずしりと重たい毛の塊に押しつぶされて、無様に床の上に伸びてしまう。

 腹から内臓を引きずり出される?
 頭をかち割られる?
 怖い、怖い、痛いのは嫌だ。
 死にたくないっ。

 立ち上がろうと足に力を込めた耳元で、ガチン!と牙を噛み合わせるような音が聞こえ、気力が萎えて腰が抜けた。
 怯えて頭を抱え、悲鳴を噛み殺して体を丸めた上に重たい塊がのしかかる。

 死ぬ、殺されるっ!

 暖かく濡れたものが首に触れた。
 そこから先は恐怖で失神したらしく、覚えていない。



 次に気がついた時、周囲は変わらずに真っ暗だった。
 あれ、生きてる?と思いながら体を動かそうとしたら、全身が筋肉痛のように軋んだ。

「い、てぇ」

 思わずあげた声も病み上がりのように掠れていて、喉まで痛い。
 何があったんだよ、と熱を持って痛む腕をゆっくりと動かしてみる。
 すると自分が毛皮の上に寝ていたことがわかった、というか、寝かされている?

 思い出そうとしても、毛の塊にのしかかられたところで記憶が途切れているので、そこから何があったのかは分からない。
 しかし、全身の痛みから分かることもある。
 受け身も取れずに転んだからなのか背中から尻が痛い、腕が痛いのは手をついた時に変なひねり方でもしたか?
 足が痛いのは逃げようとして暴れた、とか?
 膝は転んで擦りむいているのかもしれない。
 見えないけれど、触ると痛む場所は痣になっているのだろう。

 でもな、なんでか知らないが、ありえない場所まで痛い。
 なんで、よりによって股関節や尻の穴が痛いんだ?
 尻から腰までがやけに重くて怠い上に違和感があるが、辛すぎるものは食べた記憶がないし、下痢便を漏らしたなら匂いがするはずだ。

 毛皮の上に横たわっていた体を痛みに呻きながら起こしたけれど、周囲から自分が粗相したような匂いはしないし、他に誰かがいるようでもない。
 相変わらず真っ暗闇の中で、全裸だ。

「……ほんとどこだよ、ここ」

 風邪をひいたように掠れる声で呟いて、周囲を手で探るけれど何もない。
 床の上に敷かれているのも、大きな毛皮だけ。
 寒くて、その毛皮をめくり上げると膝を抱えて体に巻きつけた。
 そのまま膝を抱えて座ろうかと思ったけれど、体重をかけると尻の穴が痛くて座れなかったので、ごろりと横に倒れる。

 仕事はどうなっているのか。
 夢にしては長く続きすぎている、としたらこれは現実なのか?
 ここがどこだか知らないが、いくら暇な時期になったとはいえ、無断欠勤であるのは違いない。
 もしも風呂の中で溺れ死んでいるとしたら、見つけてもらえるのは二日か三日後になるのだろうか。
 ……ってことはここは地獄か?
 普通に生きてきたつもりなのに、地獄に落ちるようなことをしたってことか。
 そうだとしても地獄なら他の奴らがいてもおかしくないだろうに、一人ってのはどうなんだ。

 そんなことをぼんやりと考えていると、どんどんと憂鬱なことばかりを思い出してしまう。
 片親で育ててくれた父はいつも忙しくて、保育園に母親が迎えに来てくれる子が心底羨ましかった。
 風邪をひいて保育園を休み、一人で静まりかえった家で寝ていた時の寂しさ。
 小学校に入ってからは、仕事を優先する父の邪魔をしないように、行事案内のプリントはいつも捨てていた。
 運動は得意ではなかったし努力しても身にならなくて、勉強で点を取ってみたけれど父の関心は引けなくて、いつのまにか何もかも諦めてしまった。
 楽しそうにしていたり、真剣に何かに打ち込む同級生の姿を見るたびに、すごく苦しくなったのを思い出してしまう。
 自分からは一切動かなかったくせに、羨ましくてたまらなかった。

 暗闇で一人でいるせいか、碌でもないことしか考えられなかった。
 時間がどれだけ経ったのか、ぼんやりとした意識の片隅で音が聞こえた。
 遠くで響く金属のこすれるような音に覚えがある……と思ったらなぜか全身が震え始めた。
 自分の意思とは無関係に震える体に驚いていると、突然何かに勢いよく抱きつかれて、そのまま動けなくなる。

 膝を抱えて横倒しのまま転がっていた体の上に、何かが乗ってきた。
 身動きがとれないくらい重くて大きい何かに、文句を言ってやろうと口を開くけれど、喉の奥から出てくるのはひゅうひゅうと空気が漏れるような音だけだ。

 ——そして、唐突に、思い出した。
 何があったのかを。
 毛の塊にのしかかられた後、男として許容できない扱いを受けたことを。

「ひっ」

 思い出したことで、勝手に震える体の意味がわかった。
 記憶は飛んでしまっていても、体は痛みと恐怖を覚えていたらしい。
 食われるよりいいのか、と思った直後に、これも食われてるのと変わらねえよ、と残っていたらしい冷静な部分が反論を入れてきた。

 悲鳴をあげられないまま、喉の奥を引きつらせて固まっていると、鋭く細い何かが太ももに置かれ、横倒しのままで足を押しひろげてきた。
 思い出したくない記憶のせいで足に力を入れるけれど、鋭く尖ったそれが内股に食い込む恐怖で力が抜け、あっさりと全開にされた股関節が鈍く痛んだ。

 日常的に運動する習慣はないし、格闘技の一つさえ習ったことのない男の股関節なのだから硬いのが当たり前だ。
 のしかかられた重みで股関節が痛くて呻くが、喉の奥で暴れる悲鳴は必死で噛み殺した。
 尖った何かが尻に食い込み、広げられている方の足の内側に毛の感触を感じ、足首に尖った細いものが食い込む痛みを覚えると同時に、ぬるりと濡れた熱いものが尻に押し付けられる。
 毛皮から落ちてしまい、床に押し付けられている半身が冷え過ぎて、痺れるように痛い。

「や、やめ、頼む、やめてっ」

 頼れる人がいないからこそ、自分の身を守るために毅然と断れる日本人のつもりだったのに、無様に懇願することしかできない。
 ぬちゃぬちゃと音を立てながら、尻臀を広げるように押し付けられる棒状の熱とぬめりへの恐怖で、過呼吸気味になって目の前にチカチカと星が見える。

 不意に腹の中がじわりと熱くなり、それが何かわからないまま泣きそうになった。
 のしかかってきた何かがハァハァと荒げていた呼気が、フゥフゥとさらに獣じみたものになり、カチカチと耳のすぐそばで牙の鳴る音が聞こえた。
 声をあげれば食いつかれるのではないかと思うと、萎縮することしかできない。

「ぅぐぁっ」

 毛の塊に体重をかけられて、熱い肉の塊が体内に捻じ込まれると、噛み殺せなかった苦鳴がこぼれる。
 痛い、痛い、痛い!
 やめてくれ、こんな目にあわされるようなことは、何もしてない!

 耳元に吹き付けられる息から、あまり嗅いだ覚えのない生臭さがして、恐怖で身がすくむ。
 自分の体温よりも熱いものが尻の穴を出入りし、腹の中を無遠慮に掻きまわされる不快感と、下痢をしている時の排泄物が腹の中を動いているような強烈な異物感が、これは現実だと突きつけてくる。

 腹の奥に幾度も馴染みのない熱を感じながら、延々と突かれる痛みと絶望にひたすら耐えて、涙も声も枯れはてた頃、ようやく毛の塊が身を離した。
 熱が引き抜かれた後も、腹の奥に熱が残っているのを感じる。
 こんな目にあうのなら殺された方が良かったのかもしれない、現状を受け入れられない。

 毛の塊から解放されたことに安堵して、痛いほど力が入っていた体から力を抜いたその時、横倒しになっていた体がうつ伏せに押されて腰が持ち上げられる。
 鋭い何かがいくつも腰に食い込む痛みを感じて、恐怖で目の前が暗くなった。
 右頬と両膝が下に敷かれている毛皮に押し付けられ、尻を高く突き出した姿勢にされたのを理解したと同時に、萎えた様子のない熱い肉が緩んでいた後孔に押し込まれた。

「ぐ、ぅうぁっ」

 先ほどまで感じていた痛みと恥辱が再び繰り返される、と思うと勝手に声が出た。
 逃れようと腕を動かしても、床に敷かれている毛皮を引っ掻くだけで、腰を押さえられた体は微動だにしない。

 重たい毛の塊が背後で動くたびに、じゅぶじゅぷと日常では耳馴染みのない音がして、尻からあふれたらしい生ぬるいものが腿をつたっていく。 
 気持ち良いなんて感覚は一欠片もない。
 こんな行為で快感に喘ぐなんて無理だ、ひどい異物感と内臓を押し上げられて生じる吐き気、一点にかけられる重さからの苦痛に絶望だけを覚えた。

 姿を見ることができない、毛皮に包まれているこいつが獣かどうかさえ分からないのに、どうやら雌だと思われているようだと悟った。
 暗闇のせいで、突っ込んでるところが違うって気がついてないのかもしれない。

 これって、しばらくして子供ができなかったら、餌に格下げされて食われたりするのか?
 その前に、子供ができるまで種付けをされ続けるのか?
 無理、もう無理。
 人に心を開くということが理解できず、恋人がいたこともない真性の独身貴族には敷居が高すぎる。
 少なくとも、陵辱系の作品はもう楽しめそうにない。

「あ、ああっ、ぅうっ、あ、ぐっ、いた、い、も、もぅやめ、ぇ」

 はじめこそ声を我慢していたけれど、何度も中を穿たれ続け、数え切れない回数の熱を放たれるうちに、痛みと疲労で意識が朦朧としてきて、悲鳴をあげた気がする。
 叫んで泣いて、やめてくれと頼んだのだと思う。


  ◆  ◆


 ウレシイ、ボク、オヨメサン、ウレシイッ、ダイジスル、イッパイ、イッパイ、ダキシメルッ!
 
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