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34 臼と杵 ※ 後背座位(続き

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 気持ちいい。
 どこが、気持ちいいのか。

「エレン、すまんな」
「なに、が?」

 ブレーが片手で私のお腹をさすりながら、反対の手で陰茎を揉んだ。
 とても気持ち良いのに、まだ柔らかさを保っている陰茎を。

「男が尻だけで気持ちよくなれるように、なるとな」
「ん」
「陰茎の固さや反応が鈍くなるらしい」
「えっ?」

 ……それ、加齢とは違うのか?

 いや、実はけっこうかなり前から、なんとなく勃起がいまいちになってきたな、とは思っていた。
 固くはなるけど芯が無くて、太さとか長さとか、なんか若い頃より縮んだ気がするな、と。

 陰茎への刺激で達するのが苦手になった事も重なり、歳をとるとはそういうものか、と思ってた。
 自分で触れても快感も遠くて反応が悪いから、加齢だろうと。

 この前ブレーに陰茎での絶頂を強いられた時も、すごく辛かったから、私も年を取ったな……と。
 違ったのか?
 え、本当に?

「エレンが可愛いくてやりすぎた」
「……」

 その暴露に私は何を求められている?!

「すまん」
「……」
「悪いとは思っとるが」
「……」
「やめられん」

 返事に困って、少し考えて、なにも問題ない、と気づく。

 ブレーは里の家族と世界樹に、私の伴侶だと認められている。
 そう、私の伴侶、唯一、死ぬまで一緒に過ごしたい相手。

 驚いたのは間違いないけれど、私の陰茎ががちがちのびんびん、である事に価値はない。
 使わないんだから。
 私にがちがちのびんびんは必要ない。
 ふにゃふにゃで構わない。

 私だって男だ。
 人種族の艶本で、陰茎が大きい方が好ましいという描写は読んだ。
 同意はしかねるが。

 大切なのは、好意だ。
 繁殖行為を行う相手への好意があれば、多少の大きさや硬さや技術も許容できるのではないだろうか。
 時間をかけて歩み寄れば良い。

「…………やめなくて、いい」
「エレンがそうやって無自覚にあおってくるから、やめられんのだ」
「なんだそ、……ひぁっ!?……なに、っ、す……あ、ぁああ゛っ!」

 回されていた固い手が、下腹部で組まれた。
 そこを支点にして、ゆさゆさと体が揺さぶられる。

「うっ……ふぅ……っう」
「あぁっ、や……ん゛っっ、あっ」

 寝台が私とブレーの体を支えて、密着している肌がさらに押し付けられる。
 組まれた手が上下に揺れる陰茎に触れて、気持ちいい。
 肌同士が当たるたびに、開いた私の足とブレーの間に挟まれている睾丸が押しつぶされて、痛みと快感の両方が背筋を走っていく。

 ブレーが床に触れているつま先に力を込めて、筋肉で体を支えている。
 下腹部をしっかりと抱え込まれているから、杖を握る両手に力を入れても体重が後ろにかかってしまう。

 尻の穴をこねられるように体が前後左右に揺さぶられて、逃げ場がない。
 腰がブレーの胸から腹に密着して、じわ、じわと快感が意識を焼いていく。

「きもちいぃなあ、エレン?」
「やっ、あ゛ぁ……っっう゛、あぁっ」

 ぐちゃぐちゅと音が聞こえる。
 尻の穴が広がってしまいそうで怖い。 
 睾丸がつぶれてしまいそうで怖いのに、気持ちいい。
 太ももの上で揺れる力ない陰茎が、当たると気持ちよくて。

 ブレーの先端が、内側から私の腹の中をこねて、じん、じんっと快感が降り積もっていく。
 逃げられない。
 快感から。

 ブレーの固い髭が背中に押しつけられたのと同時に、腹の中のブレーの角度が変わって、ごり、と気持ちよくなってしまう場所を押し潰された。

「好きだ、エレンっ」
「あ゛ぁすき、すきっ、わたしもっぁああ゛ぁっ」

 杖に縋って、快感に真っ白に染め上げられながら、私は叫んだ。

 初めて、きちんと、ブレーに好きだと。
 こんな短い言葉一つで、心から満たされる事を、私は知った。



   ◆



 ドワーフの窟がある峻険の山裾から、徒歩と乗合馬車を乗り継いで約一月。
 城から転移で逃走してからは約二月。

 私たちは順調に道程を消化した。

 見たことのない景色も、訪れたことのない場所も。
 ブレーと一緒だと光り輝いていた。

 人種族の本だと付き合い始めた恋人たちの描写で、同じような事が書かれていたのを読んだ。
 私がエルフだから、違うのだろう。
 そう納得した。

 宿に泊まることはやめて、天幕と各種忌避魔法道具を使い、毎晩のように繁殖……いいや、愛を交わした。
 グリョン・ロの時期ではなくなったが、痛い時は言うと約束しておけば、これまでと同じように乳油で十分だった。

 立ち寄った場の全てで人種族の男に声をかけられた事だけは、どうしようもなく不愉快だったけれど。
 そういう日は、夜になるとブレーがたっぷり抱きしめてくれた。

 私は、ブレーのブレーで達する事ができる。
 それを毎回確認してしまう事が、今更なのに恥ずかしい。
 恥ずかしいのに、慣れていく。
 ブレーの腕の中にいられる幸福を、当たり前だと思わないように気をつけよう。

 魔物素材を売っている露店があり、それを見たブレーが、「材料を手に入れて、ブレー君四号を作ろうな」と言った。

 私は告げた。
 しっかり「あれは練習道具だから、もう必要ない」と。

 ブレーに抱かれながら達する事ができる今の私に、魔法道具は必要ない。
 けれどブレーは、そうなのか、と落ち込んだように見えた。
 悲しませたくなくて「ブレーが作ってくれたら嬉しい」と頼んだら笑顔になったので、返事を間違えずに済んだのだろう。

 今回の旅で私は、色々な事を学ぶ事になった。
 人種族には、言いすぎるほどしっかり言い聞かせておかなくては、いけない事を知り。
 コボルト、ドワーフたちとの出会いは、常識が普遍ではない事を体験した。

 人種族とは分かりあえないと思っていたけれど、妖精族が相手でも、きちんと意思疎通は必要だ。

 人種族へ薬草酒を卸す量は、これまで同様にしておこう。
 もう少しと頼まれる度に、必要ならばと考えはするけれど、それを求めている相手が権力者だと知れば、最低限にしておくという方針を変える気にはなれない。

 必要としている者に、必要としている時に、必要としている分だけ。
 とはいえ、同族ではない人種族に私の方針を強要することはできない。

 私は困窮者の命を失わせないために、薬草酒を作れる事を明かした。
 効能の高い傷薬や飲み薬の製法は秘めたままだ。
 エルフの薬師である事は、これから先も明かす事はないだろう。
 国が滅びるような事態に陥らなければ。

 冒険者組合には、これからも無償で薬草酒を提供するつもりだ。
 エルフからの支援ではなく、私個人の贈り物として。


 初めての景色を楽しみながら。
 愛する人と過ごす幸せを噛み締めながら。
 私たちはホーヴェスタッドへと戻ってきた。

「エレデティ様、シュモクロス様!」

 ブレーと共にホーヴェスタッドの出入門をくぐってすぐ、衛兵たちに囲まれた。

「……なにか?」

 私はエルフの王族、役を、する。
 ……うへぇ、分かっていてもやっぱり面倒臭い、あー王子役やりたくないなぁ。

「お初にお目にかかる」

 衛兵の囲みの外。
 鎧姿の人種族たちを大勢引き連れて、引きずる長さの外套を肩にかけた普人族の男性が、きらきらしい髪の毛を陽の光に輝かせながら。
 私に視線を向けて声をかけた。

 ブレーには用がないのか?
 衛兵はブレーも呼んだのに。
 名乗りは?
 こいつは何者だろう?

 私が先に名乗らなくてはいけないのだろうか、と考えていると、鎧男たちと衛兵たちと男性の間をすり抜けるように、一人のエルフが姿を現した。

【やほー、はろはろ、初めましてぇエレデティの里の王子さまぁ】

 なんだこいつ。

 疑いようもないほどに〝山エルフ〟である事を訴える濃金の髪を腰まで伸ばし、鬱陶しいほど機嫌の良さそうな振る舞いを見せているが。
 目が、隠せていなかった。

 
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