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30 似ていても嬉しくない
しおりを挟む私とブレーが話し合って互いに礼と謝罪をして、伴侶として周囲に周知してもらうと今後の方針を決めた頃、ちょうどよく両親が戻ってきた。
おそらく、父が『耳』を用意していたのだろう。
そうとしか思えない。
【肉を持ってきたよ!】
「肉だよ」
エルフの多くが苦手な身体強化魔法を使い、大量の獣を担いだ母が豪快にわはわはと笑っている姿に、ブレーが困惑している。
言葉が聞き取れなくなったんだが?、と囁かれて気が付く。
補助系統の魔法が苦手な母は、通訳魔法が面倒になったのだろう。
父がいれば、困らないはずだ、多分。
頼みの綱の父はいつも通り、無表情でブレーにどの獣が欲しいかと聞いた。
「お、おお、凄いな、凄いですね」
私が大型の獣を狩らないのは、ブレー一人で肉を加工して消費するのが大変だからだよ。
ブレーが望むなら私だって山盛り狩ってくるから!
【エレン、捌くの手伝いな】
当然のように、私も獣を捌く手として扱われている。
父は、血生臭い事は管轄外、と早々に離脱を決め込んだ。
「ブレー、枝肉まで解体したら呼ぶから、料理を頼めるか」
「そいつはありがたい、もちろん料理はするとも」
「かまどの用意を手伝う」
「おう、ヌーとうさま、ありがとうございます」
薬草を干すための蔓を抱えた父が通りすがりにブレーに声をかけて、二人で魔法道具を取り出し、薪を用意してと仲良くしている。
ちゃっかり、ヌー父様呼びさせてるし!
【エレン、水出しな】
「……はい」
私もブレーと一緒に料理の準備したい。
いつも一人で獣の解体していても、そんな事は思わないのに。
父にブレーを取られたような気がして、落ち着かなかった。
【お前はヌーに似てきたねぇ】
【どういう意味?】
毛皮を剥ぎながら、母がぼそりと呟いた。
つられてエルフの言葉になってしまう。
【あの人、生まれたてのお前に乳やってたら「ナポスを取られた」って拗ねちゃったのさ。
赤子相手にばかな事言ってんじゃないよって引っ叩いといたけど、落ち着くまでは大変だったねぇ】
【……】
父に似てきたと言われて、これほど嬉しくない気持ちになるなんて!!
しかも否定しきれない事を自覚しているので辛い。
反論できず、母の言いなりになりながら解体した結果、大型の獣、中型の獣三頭、小型の獣五頭があっという間に枝肉になった。
【内臓と毛皮はコボルトとの交渉に使うからもらっとくよ】
【ああ、そういえば】
母の口から出た言葉で思い出した。
ポルトネゲネラン国のベルストーナと呼ばれていた街に、今は二足歩行で獣型の家付き種コボルトが住んでいると。
両親が里から遠く離れた地のコボルトたちを知っているとは思えないけれど、万が一を考えて聞いてみる。
【どのへんだい?】
【大陸図だと……】
里を出てから情報を書き足しながら使っている地図を取り出し、ベルストーナ跡地を示す。
【この辺りは草原だろう?、ピクシーの縄張りじゃないかね】
【ピクシー?】
コボルトやゴブリンよりも更に体が小さくて、いたずら妖精の名を欲しいままにしている妖精族だと言う事は知っている。
会ってないな。
コボルトとピクシーの生息域は重なるものだろうか?
ゴブリンやコボルトはどこにでも集落を作るけれど、大きな群れは作らないはずだ。
ピクシーは大規模集落を作ると聞いたことがある。
全く出会わないなんて事があるだろうか。
とはいえ、森の中も街の中も探索と言うほど歩き回っていないので、いないとは言い切れない。
【地図見た限り、近くにエルフの里もないし、高山がなけりゃドワーフもいないだろうね。
人と関わり合いになる事の方が難しいんじゃないかえ?】
【私が買った、出所の分からない精霊石の話は?】
【報告は受けたけど、燃えていなくなったんじゃ調べらんないさ】
ブレーの工房が燃えた時に、寝台でしかない精霊石そのものは焼失したと考えられる。
事前に暴発しないように頼んだ事で、精霊はどこかに行ったのだろう。
大惨事にならなくて良かった。
確実に精霊石が燃えた場は見ていないと話しながら、精霊石を人種族に流す可能性がある者が妖精族以外に存在するか聞いてみる。
精霊石は鉱石のように発掘できない。
そこらに転がっている訳でもない。
精霊の存在を感知できなければ、精霊の寝台である精霊石も見つけられない。
妖精族ならば簡単に見つけられる精霊石を、人種族が見つけることは難しい。
くず魔石と精霊石もどきは見た目から見分けられても、魔術しか使えない人種族が精霊を見る事は難しいだろう。
この森にも精霊石はあるだろう。
人の立ち入らない奥地まで入り込んで探せば、きっと見つけられる。
私は精霊石の見つけ方を知らないので、探そうと思ったこともないけれど。
話では聞く。
木の葉の裏に張り付いていたり。
果実の中に種のように入っていたり。
川の中に沈んでいたり。
土を掘ったら埋まっていたり。
鳥の巣に転がっていたり。
どこにあるかは、作った精霊次第だ。
もしかしたら、コボルトやピクシーが、人種族に精霊石を渡したのかと考えたけれど、証拠もない。
下手に流通に乗せて街が吹っ飛びでもしたら、また人種族が滅びそうになるかもしれない。
【はぁ】
思わずため息をついたら、母がからからと笑った。
うちの母はエルフらしからぬ笑い方をする。
【とりあえず王子としての初仕事だよ、精霊石の流出元を追いかけておくれ】
【その前に世界樹にブレーを紹介したい】
【おやおや、やっとなのかい】
呆れたように言われて、両親がどれだけ私に甘かったのかを思い知る。
二百年間、関係が続いている特定の伴侶がいながら両親に顔合わせもせず、世界樹への披露目もしない。
両親に心配させていた自覚はあったけれど、きちんと慣習に則った動きもするべきだったと、初めて反省した。
【ごめん】
【みんな心配しとったから、顔合わせたら礼を言いなよ】
【そうする】
とりあえず、明日中に里に帰ることになった。
父と母がいるので、四人で里まで転移できるそうだ。
うーん、魔法の使い込みが違いすぎる。
ほとんど里の外に出ないのに、大陸半分を跳べることに意味があるのか。
◆
山のような量の肉を保存食に加工して、さらに夕食後。
ホーヴェスタッド支部長に再び手紙を飛ばし、エルフは怒っていない事、母が宣言した以上は援助の打ち切りが覆せない事、ドワーフからも数日中に連絡があるだろう事を知らせておく。
私がどこの組合にも所属していないので、他に送れる相手がいないとはいえ。
また、支部長が倒れてしまいそうだ。
追伸で精霊石の流れを追うことになった、と書いておいたので、その辺りも調べてくれたら嬉しいが。
代々冒険者組合の支部長はちゃっかりしているので、有料だ、と言い出すかもしれない。
魔術道具組合宛の手紙を同封しておいたので、勝手にそっちで話をつけてくれたら、大変に助かる。
「エレン」
そんな事を考えていたら、ブレーが声をかけてきた。
「なに?」
「皆がエレンに会いたいと言うてな」
「エルフが珍しいから?」
「恐らくな」
植物が少ない場所では体調を崩すと聞いとったで断ったんだが、山裾まで出るから会わせろと言うてきかん、と困りきった様子だ。
「良いよ、里の後で良い?」
「おう、助かる」
「私は嬉しいよ、ブレーの伴侶だとブレーの家族に認めてもらえるなら、それはとても嬉しい」
「わしもだ」
これまで、ドワーフとエルフだから。
接点がないからと、積極的に動かなかった。
けれど私は、自分だけが満足していた状況から一歩を進めなくてはいけない。
ブレーへの愛情を疑わせはしない。
勘違いすることはあるだろう、拗ねることもあるだろう。
でも、それは愛していないからじゃない。
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