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侍女(男)は自覚した ※

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 優しい口調は、ボクだけに向けられている。

「エスがぼくの初めてだ」

 なんの初めてだろう、と思いながら、苦しくなった胸を押さえる。
 侍女を辞めるって言い出しにくい。

「エス」
「はい」
「大好きだよ」

 薬なしで受け入れるのは怖い。
 薬がないと勃たない。

 経験だけは多いけど、自分の意思で男性に突っ込んだことも突っ込まれたこともない。
 でも、発情の負荷で熱を出してるのに、脂汗を流しながら衝動に耐える剣聖さまの姿を見て、これまでこだわってた気持ちは消えた。
 汚いボクでも、剣聖さまのお役に立てるかもしれない。

「ボクも好きです、ラーダさま」

 涙でぐちゃぐちゃの顔でなんとか笑うと、金属がぶつかるような音がして、顔が布に覆われた。
 ふかふかしてるのに汗で湿った感触は、剣聖さまの鎧下の綿入れキルト地。
 着脱が簡単になる魔術がかけられてるのか、聖鎧は一瞬で脱ぎ捨てられて、ボクは燃えるような熱を持つ腕と胸にしっかりと包まれてた。

 背中の敷布シーツはいつの間にか、二人の体温で温まってる。
 ボクを包む腕は、硬い筋肉に覆われてる。
 発熱してる体が熱くて、じっとりと湿った鎧下が、剣聖さまが必死で衝動に耐えてることを教えてくれる。

 ボクは大きな体が、全身鎧の中に秘されてると知ってた。
 筋肉質で太い腕に包まれると、怖いほどに胸が高鳴る。
 守られてるって、感じて。

 するすると頬を滑ってく柔らかい唇の感触が鮮明で、泣き言が口から出そうになる。
 色々なことが頭をよぎる。

 ボクの涙で鎧下が汚れてしまう。
 領主さまの館の客間でこんなことをして良いのか。
 師匠が見てるんじゃないのか。
 本当にボクで良いのか。
 どうして、剣聖さまはボクを望んでくれるんだろう。

「エス、きみの瞳はぼくに故郷を思いださせる」
「ん、ぁっ、んんっ」

 ボクの考えを見抜いたように、溶けるように甘い口付けの合間に、柔らかく教えられる。

「あの日知ったきみの瞳の水の色が、木々の色、大地の色が、辛いことも悲しいことも全部忘れさせてくれる。
 今では奪うことしかできないぼくに、愛しいものを慕う素直な心持ちを思いださせてくれる」

 確かにボクは変わった瞳の色をしてる。
 瞳の色は父さん譲りだ。
 水色と緑と薄茶色が混ざった、何色とも言えないような色。
 でもそれを、こんなふうに好意的に受け止められたのは初めてだった。
 これまでは色が混ざりすぎて気持ち悪いとか、変な目って言われるだけだった

「ぼくはきみに出会って、初めて発情した」

 至近距離から真紅の瞳に見つめられたまま「本能と理性の両方で、抱きたいと思ってた」と囁かれて、体が勝手にびくんと動いた。
 こんなふうになるのは初めてだ。
 甘く囁かれるだけで、おかしくなる。

 ひどい目に遭ってきた子供に無体を強いて怖がらせてはいけない、と思った。
 居場所を知ったら追ってしまう、と目を逸らして耳を背けた。
 ボクが学院に通えるように、名前を出さずにお金を送り続けた。
 学院を辞めたと聞いて、すごく心配した。
 領主の館に招かれてすぐに、女装してるボクに気がついた。
 女性の格好をしてたから、女の子として扱おうと振る舞って。
 過去のことを覚えてると言わない方が良いと、耐えてた……って。

 じくじくと傷が痛むように胸が苦しい。

「エス、良いかい」
「は、いっ」

 苦しい呼吸の中で返した返事は、さらに深くなった口付けで途切れてしまう。
 歯をなぞられて、歯茎を柔らかく押されるとゾクゾクする。
 これまでボクに口付けしたのは剣聖さまだけだから、こんなふうになるって知らなかった。

 宣言と同時に服を脱がそうとしてくる手に、手を添える。

「まだ、仕事中だから、服は……」

 どこかで師匠が見てるんじゃないか、と思うと、恥ずかしい。
 見せ物として扱われた経験はあるけど、あの時は正気じゃなかったからなんとも思わなかった。
 見られてなくても、もしも誰かが来たらと思うと……。

「分かった、でも、次はエスの全部を見たい」
「ん、はい」

 口説き文句なのか、真正面から言われては断れない。

 靴を脱いで、侍女服の前掛けエプロンをめくりあげる。
 ふわふわの下衣スカートと足の形を見せないためのかご状下着パニエを身につけたまま、下着に手をかける。
 周囲に怪しまれないように、服は全部女の子用のものを使ってるけど、下着ドロワーズだけ脱ぐのは恥ずかしい。

「あんまり、見ないで」

 膝上丈のたっぷりと布を使った下着ドロワーズの下には、太ももまでの靴下ストッキング吊り帯ガーターベルトを着けてる。
 肌を見せるのは下品だからって、顔と手以外は隠すのが、客人や領主さまの前に出る使用人の格好だ。

「……すごく可愛いな」
「ふぐっ」

 好きでこんな格好してるんじゃないやい、と叫びそうになったのを堪える。
 下着ドロワーズを下げる途中で引っかかった。
 ……あれ?
 嘘だ、ボク、勃ってる。

 中途半端に止まったボクを見て、剣聖さまが目を瞬いた。

「エス、ぼくがやっても良い?」
「……え、あの、う、でも」

 興奮剤なしで勃ったのは、初めてだ。
 解放されて治療院にいた間も、魔術学院にいた頃や、領主さまの館で働きだしてからも、一度もこんなふうになったことなかったのに、なんで。

「ああ、勃っちゃったんだね」
「ひぅっ」

 下着ドロワーズの上から優しく撫でられて、腰が逃げそうになる。
 背中が寝台に押し付けられてるから、逃げられないけど。

 どうしよう。
 興奮剤を使わないと体は反応しないと思ってたから、どうしたら良い?
 勃ってしまったのをどうしよう、どうしたら良いんだろう、と考えている間に、両足が伸ばされて下着ドロワーズが爪先から抜かれていく。

 抱かれる側になるなら反応してない方が良いのに、見られたらきっと剣聖さまががっかりしてしまう。

「み、やう、見ないで、やだぁ」

 真紅の宝石の瞳に浮かぶ落胆の感情を見たくなくて、両手で顔を覆った。

 女の子の格好してるのに、勃たせるなって思う?
 子供みたいな体なのに、勃つのはおかしいって思われる?

「そんな可愛い反応したら、あおってるとしか思えないよ」
「~~~~っ!」

 熱い。
 とろりと濡れた熱が、ボクの勃ったものを包んだ。

 顔を下に向けても、見えるのは膨らむ下衣スカートだけで、でもその中で何をされてるか分かってしまう。
 剣聖さまが、咥えてる。
 ボクの勃った陰茎を咥えながら、指で睾丸を揉んでる。

 薬で朦朧としてた時は、舐めるのも咥えるのもさせられたけど、まともに考えられる時は抵抗した。
 気持ち悪い、やりたくない!って暴れて、鞭で打たれるのなんてしょっちゅうだった。
 排泄に使う場所を咥えるなんて汚い、って思ってた。
 今も、思ってる。

「だめ、汚いからだめっ」
「ん、んんっ、ん~」

 何て言ってるか分かんないよ!
 あと、咥えたまま話さないで、これ、やだ、すごい。
 気持ち良い。
 咥えられるのがこんなに快感だなんて、知らなかった。

 服を着てるのに、股間だけ剥きだしで咥えられてる。
 誰かに見られたら絶対にまずいことになるのに、やめてほしくない。

 熱い舌がじゅるじゅると音を立てながら、ぬるぬるとボクの股間を這いまわる想像ができてしまう。
 上から下に舐め上げられて、体が勝手に動きそうになる。

 体の向きを変えれば良いんだ、うつ伏せになれば咥えられない。
 気持ちよくて震える手に力を入れて、上半身を捻る。
 膨らんだ服が邪魔だ。

 あ、あ、なんかくる、なにこれ。
 腰が、違う、お腹、なにこれ、変だよ。

「あ、っあ~っっ」

 陰茎がジンジンする。
 なにが起きたの?

「……エス、もしかして精通してない?」
「ない、だって、体、おかしいからっ」

 男性が気持ちよくなると、子種を陰茎から放つのを知ってる。
 何度も飲まされたしかけられたし、お腹が痛くなるから嫌なのに中で出されたこともある。
 でも、ボクの陰茎から出たことはない。
 体が成長してないから。

「もう少し、って感じかな」
「ぁ、はぁ、ん、な?」

 ジンジンする気持ちよさが、ゆっくりとおさまっていく。
 未知の感覚が消えてくことにホッとしてたら、服の上に剣聖さまの頭が出てきた。
 ふわふわの下衣スカートを間に挟んで覗きこまれるのって、なんだかすごく恥ずかしいことのような気がしてきた。

「きれいにしようか」
「んっ」

 にゅるん、とお尻の中に何かが入れられる。
 これ知ってる、たぶん洗浄剤だ。
 魔術を使用した、性交に使う低刺激の粘液状の薬剤で、高価なものだから存在は知っていても、ボクは使ったことがなかった。

「中に塗るから、力を抜いて」

 言葉と同時に、また剣聖さまの頭が服の中に埋もれていく。

「ひうっ」

 陰茎がまた、熱に包まれて。
 同時にお尻の中にも熱が入ってくる。
 咥えられて、指も突っ込まれてる!?

 しまった、さっきの間にうつ伏せになっておくべきだったのに。
 剣聖さまとボクは体格が違うだけでなく、腕力も握力も比べ物にならない。
 うええ、仰向けから逃げられない。

 熱い手にお尻を持ち上げられて、ぬちゃぬちゃと音がする。
 お尻の穴を広げる感覚は慣れてても、誰かにされたことなんてない。
 三年ぶりだから違和感がひどい。
 貧民窟スラムにはこんなふうに丁寧にしてくれる客なんていなかった。

 怪我しても客の数は減らないから、男が客なら臭い獣脂を使って自分で広げて、あとは突っこまれるだけにしておく。
 女が客なら興奮剤で勃たせて、臭い股間を舐めさせられて突っこむだけ。
 誰が相手でも媚薬を飲ませられてたのは、ボクが暴れるから。
 こんなふうに優しくされたことなんて、なかった。

「う、っう、っ」

 涙が出てくる。
 なんの涙なのか自分でも分からない。
 好きだ。
 剣聖さまが、好きだ。

 優しくお尻の中に塗りひろげられる滑りが、快感を伴ってくる。
 体がこの行為を覚えてる。
 硬い指先が痺れる場所をかすめて、腰が勝手に動く。
 いつの間にか増やされた指がばらばらに動くと、擦られる場所がびくびく動いてしまう。

 耳に届く自分の荒い呼吸と甲高い声、剣聖さまがじゅぽじゅぽとボクの陰茎を咥えてすする音。
 ボクのお尻から聞こえる、粘液の音。
 指でかき回されてるだけですごく、すごく……。

 
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